2009年11月08日
[第142話 農、食] 島バナナはどこで買うか
バナナはバショウ科。芭蕉布の原料になるバショウはバナナの親戚だ。でも「バナナ布」では、あの枯れた布の感じが全く出ない。俳人松尾芭蕉も「松尾バナナ」では、ちょっと。
バナナの3文字には、どこか茫洋としたイメージがつきまとう。だが、沖縄在来の島バナナは、そんなイメージを見事にくつがえす。小さくて、酸っぱくて、鋭利な熱帯果樹の香りー。その島バナナがどこで買えるか、が今回のテーマだ。

島バナナを食べて、その香り高さと心地よい酸味に、打ちのめされる人が多い。これほどおいしいのだから、生産量と流通量がもっと増えてもよさそうなものだが、なかなか増えない。なぜだろうか。
まず、島バナナは、収量が低い。フィリピンや台湾の普通のバナナに比べると、島バナナは小さく、収量は半分ほど。普通に考えれば2倍の価格になる。普通のバナナとは比べものにならない味と香りなのだから、2倍でもいいと思うが、市場にはまだそこまでの思い入れはないのかもしれない。
もう一つは、食べごろが短いこと。緑色のうちに収穫して、1週間ほどで追熟が進み、黄色くなって黒いシュガースポットが出たら食べごろなのだが、きれいなのはせいぜい2、3日。それを過ぎたら、真っ黒になっておよそ売り物にならない。かなり黒くなっても十分食べられるが、商品としては厳しいだろう。流通業者としては取り扱いが難しい果物といえる。
さらに言えば、沖縄は台風が多く、そもそもバナナ類を栽培するのは簡単ではない。バナナは「木」とは言うが、実際は、大型の草。強風が吹けば簡単に倒れてしまうし、葉も櫛のように切れ目が入ってダメージを受ける。風よけハウスに入れる方法をとっている生産者もいるが、それをやれば当然ながらコストがかかる。

というわけで、島バナナは、あまり生産されていない。その結果、沖縄県外はもちろん、県内ですら、通常の農産物流通のルートには乗っていない。例えば、県民がよく買い物をするサンエー、かねひで、ユニオン、りうぼうなどのスーパーにはほとんど置かれていない。
だが、こんなにうまいものなら、なんとしても食べたい。島バナナ、いったどこに行けば買えるのだろうか。それも、なるべく安く。というのも、東京あたりでは1本500円みたいな、べらぼうな値段がつくらしいし、沖縄県内でも、観光客が出入りする那覇の公設市場周辺などではかなり高い。
万鐘の地元うるま市で島バナナを生産している名嘉真勉さんを訪ねた。名嘉真さんの畑には、島バナナを中心にバナナが200本ほど植えられ、木の足元にはカンダバーがたくさん生えていて、雑草の発生を抑えながら、土にうるおいを与えていた。

名嘉真さんは、収穫した島バナナを、JAおきなわが運営している沖縄市のファーマーズマーケット「ちゃんぷるー市場」に自分で持ち込んでいる。言われてみれば、確かに、こうした農家直販市には島バナナが置かれていることが多い。価格は1kg700円ほど。
同じくJAおきなわがやっている糸満のファーマーズマーケット「うまんちゅ市場」にも置かれていることが多い。南城市大里の「軽便駅かりゆし市」など、JA以外の農家直販市でもしばしば見かける。これら農家直販市が、まずはお勧めの島バナナ購入場所だ。
もう一つ、島バナナが手頃な価格で手に入るのは那覇の農連市場。市場内には、島バナナを扱っている店がある。値段は農家直販市とほぼ同じ水準だ。

那覇・国際通りから入る市場周辺でも、いろいろな店が島バナナを店先にぶら下げている。ただ、ここは観光客向けなので、総じて高い。安く買いたいなら、牧志からぐーっと奥に進んで、開南の農連市場まで行ってしまった方がいい。
島バナナの選び方のコツを少々。名嘉真さんの話では、あの鮮烈な酸味と香りは、木であまり熟させると弱くなる。実が太り始め、皮の角がとれて丸みをおびたかな、という頃に収穫するのが理想。もちろん色はまだ完全に緑色だ。
そのまま木にならせておくと、実はパンパンに膨らんでくるが、ここまでいくと、酸味と香りが弱まってしまう。つまり、パンパンに膨らんだ感じの島バナナは避けた方がいい、ということ。下の写真は、膨らみすぎて、皮が割れてしまった島バナナ。

バナナは、さまざまな品種が世界中の熱帯地域で栽培されている。野生のバナナには小豆大の種がたくさんあったが、5000年以上前に熱帯アジアで品種改良されて種がなくなった、というエピソードが、中尾佐助の古典的名著『栽培植物と農耕の起源』(岩波新書)で紹介されている。沖縄の島バナナは小笠原種という品種で、その昔、小笠原諸島から入ってきたらしい。
島バナナを置いていることが多い場所の情報は次の通り。
・JAちゃんぷるー市場 沖縄市登川2699 098-894-2215
・JAうまんちゅ市場 糸満市西崎町4-20 098-992-6510
・軽便駅かりゆし市 南城市大里字高平877-1 098-882-0078
・農連市場 那覇市樋川2-2-4 098-832-2747(市場事務所)
最後になったが、沖縄県外在住の方に。島バナナは通販でも販売されている。「島バナナ」で検索すると、いくつか出てくるので、沖縄に来る予定がない方はこれでお試しを。
バナナの3文字には、どこか茫洋としたイメージがつきまとう。だが、沖縄在来の島バナナは、そんなイメージを見事にくつがえす。小さくて、酸っぱくて、鋭利な熱帯果樹の香りー。その島バナナがどこで買えるか、が今回のテーマだ。

島バナナを食べて、その香り高さと心地よい酸味に、打ちのめされる人が多い。これほどおいしいのだから、生産量と流通量がもっと増えてもよさそうなものだが、なかなか増えない。なぜだろうか。
まず、島バナナは、収量が低い。フィリピンや台湾の普通のバナナに比べると、島バナナは小さく、収量は半分ほど。普通に考えれば2倍の価格になる。普通のバナナとは比べものにならない味と香りなのだから、2倍でもいいと思うが、市場にはまだそこまでの思い入れはないのかもしれない。
もう一つは、食べごろが短いこと。緑色のうちに収穫して、1週間ほどで追熟が進み、黄色くなって黒いシュガースポットが出たら食べごろなのだが、きれいなのはせいぜい2、3日。それを過ぎたら、真っ黒になっておよそ売り物にならない。かなり黒くなっても十分食べられるが、商品としては厳しいだろう。流通業者としては取り扱いが難しい果物といえる。
さらに言えば、沖縄は台風が多く、そもそもバナナ類を栽培するのは簡単ではない。バナナは「木」とは言うが、実際は、大型の草。強風が吹けば簡単に倒れてしまうし、葉も櫛のように切れ目が入ってダメージを受ける。風よけハウスに入れる方法をとっている生産者もいるが、それをやれば当然ながらコストがかかる。

というわけで、島バナナは、あまり生産されていない。その結果、沖縄県外はもちろん、県内ですら、通常の農産物流通のルートには乗っていない。例えば、県民がよく買い物をするサンエー、かねひで、ユニオン、りうぼうなどのスーパーにはほとんど置かれていない。
だが、こんなにうまいものなら、なんとしても食べたい。島バナナ、いったどこに行けば買えるのだろうか。それも、なるべく安く。というのも、東京あたりでは1本500円みたいな、べらぼうな値段がつくらしいし、沖縄県内でも、観光客が出入りする那覇の公設市場周辺などではかなり高い。
万鐘の地元うるま市で島バナナを生産している名嘉真勉さんを訪ねた。名嘉真さんの畑には、島バナナを中心にバナナが200本ほど植えられ、木の足元にはカンダバーがたくさん生えていて、雑草の発生を抑えながら、土にうるおいを与えていた。

名嘉真さんは、収穫した島バナナを、JAおきなわが運営している沖縄市のファーマーズマーケット「ちゃんぷるー市場」に自分で持ち込んでいる。言われてみれば、確かに、こうした農家直販市には島バナナが置かれていることが多い。価格は1kg700円ほど。
同じくJAおきなわがやっている糸満のファーマーズマーケット「うまんちゅ市場」にも置かれていることが多い。南城市大里の「軽便駅かりゆし市」など、JA以外の農家直販市でもしばしば見かける。これら農家直販市が、まずはお勧めの島バナナ購入場所だ。
もう一つ、島バナナが手頃な価格で手に入るのは那覇の農連市場。市場内には、島バナナを扱っている店がある。値段は農家直販市とほぼ同じ水準だ。

那覇・国際通りから入る市場周辺でも、いろいろな店が島バナナを店先にぶら下げている。ただ、ここは観光客向けなので、総じて高い。安く買いたいなら、牧志からぐーっと奥に進んで、開南の農連市場まで行ってしまった方がいい。
島バナナの選び方のコツを少々。名嘉真さんの話では、あの鮮烈な酸味と香りは、木であまり熟させると弱くなる。実が太り始め、皮の角がとれて丸みをおびたかな、という頃に収穫するのが理想。もちろん色はまだ完全に緑色だ。
そのまま木にならせておくと、実はパンパンに膨らんでくるが、ここまでいくと、酸味と香りが弱まってしまう。つまり、パンパンに膨らんだ感じの島バナナは避けた方がいい、ということ。下の写真は、膨らみすぎて、皮が割れてしまった島バナナ。

バナナは、さまざまな品種が世界中の熱帯地域で栽培されている。野生のバナナには小豆大の種がたくさんあったが、5000年以上前に熱帯アジアで品種改良されて種がなくなった、というエピソードが、中尾佐助の古典的名著『栽培植物と農耕の起源』(岩波新書)で紹介されている。沖縄の島バナナは小笠原種という品種で、その昔、小笠原諸島から入ってきたらしい。
島バナナを置いていることが多い場所の情報は次の通り。
・JAちゃんぷるー市場 沖縄市登川2699 098-894-2215
・JAうまんちゅ市場 糸満市西崎町4-20 098-992-6510
・軽便駅かりゆし市 南城市大里字高平877-1 098-882-0078
・農連市場 那覇市樋川2-2-4 098-832-2747(市場事務所)
最後になったが、沖縄県外在住の方に。島バナナは通販でも販売されている。「島バナナ」で検索すると、いくつか出てくるので、沖縄に来る予定がない方はこれでお試しを。
2009年11月01日
[第141話 食] 深い深ーいシャコガイの味わい
濃厚な貝の味が好き、という人に、万鐘が絶対の自信をもってお勧めするのがシャコガイ。これからの涼しい季節が旬で、それはそれは深い味わいに、会話がしばし止まってしまう。シャコガイを目的に沖縄への旅を企画する人もいるほど。

シャコガイは、南太平洋やインド洋など、熱帯、亜熱帯のの珊瑚礁に生息している二枚貝。沖縄ではほぼ全域にいる。殻の合わせ目の部分が波の形をしている。
最も大きいオオジャコは直径が2mを超すものもあり、世界最大の二枚貝。沖縄近海にはもういないが、昔はいたらしく、今でも貝殻が上がることがある。
そのオオジャコには、人食い貝の異名が。実際に人が食べられたという情報はないようで、あくまで想像上の話。とはいえ、シャコガイに限らず、貝のはさむ力はとても強いから、大きさが2mもある貝に本当に人がはさまったらさぞかしひどいことになるだろうなあ、とつい想像してしまう。
すっかり物騒な話になったが、食用にするものは、オオジャコよりもずっとずっと小さいサイズのもの。特に、てのひらに乗るサイズのヒメジャコが味がよいとされる。

ヒメジャコは、成長するにしたがって岩の中に徐々に潜り込んで大きくなっていく。最終的には、貝殻はすべて岩の中に埋まった形で、殻の合わせ目だけが岩の上部で少し開いた状態になる。
潜り込むのは、岩の上に大木が育つのと似た仕組み。木が根から酸を出しながら岩を少しずつ溶かしては養分を吸収して育つように、ヒメジャコも自分で岩を溶かす物質を少しずつ分泌しては岩に潜っていく。
岩に潜っているヒメジャコを獲るには、コツがある。合わせ目の両端の部分の岩をハンマーで砕き、そこにバールのようなものを突っ込んで、テコをきかせて貝を岩から取り出すのだ。シャコガイを専門に獲るウミンチュ(漁師)がいる。

乱獲による減少が心配されており、各漁協は禁漁期間を設けて生産管理を実施している。それでも追いつかないので、今は稚貝を育てて海に戻す養殖が、沖縄県水産海洋研究センターなどによって推進されている。
シャコガイは比較的短時間のうちに味が落ちるので、収穫したてを素早く食べる方がいい。冒頭の写真と下の写真は万鐘本店第63話で紹介した和食のあらやで出てきたシャコガイ。わさびはもちろんいけるが、シークワサーなどのかんきつをかけて食べるのもお勧め。

貝柱はさっぱりしているが、身の味はひたすら深い。赤貝やミルガイなどより、ずーっと深い。東京からのお客さんに出したら、「んー、これは・・・・」と言ったまま、黙り込んでしまった。貝の好きな人にはこたえられない味だろう。泡盛によく合う。寿司ネタとしても最高。
シャコガイを買いたい場合は、那覇・泊の「泊いゆまち」に行けば、だいたいどこかの店にある。貝の取り扱いに慣れていない人は、身のはずし方をお店で教えてもらおう。居酒屋や割烹などは、ある日とない日があるので、事前に電話で確認を。

シャコガイは、南太平洋やインド洋など、熱帯、亜熱帯のの珊瑚礁に生息している二枚貝。沖縄ではほぼ全域にいる。殻の合わせ目の部分が波の形をしている。
最も大きいオオジャコは直径が2mを超すものもあり、世界最大の二枚貝。沖縄近海にはもういないが、昔はいたらしく、今でも貝殻が上がることがある。
そのオオジャコには、人食い貝の異名が。実際に人が食べられたという情報はないようで、あくまで想像上の話。とはいえ、シャコガイに限らず、貝のはさむ力はとても強いから、大きさが2mもある貝に本当に人がはさまったらさぞかしひどいことになるだろうなあ、とつい想像してしまう。
すっかり物騒な話になったが、食用にするものは、オオジャコよりもずっとずっと小さいサイズのもの。特に、てのひらに乗るサイズのヒメジャコが味がよいとされる。

ヒメジャコは、成長するにしたがって岩の中に徐々に潜り込んで大きくなっていく。最終的には、貝殻はすべて岩の中に埋まった形で、殻の合わせ目だけが岩の上部で少し開いた状態になる。
潜り込むのは、岩の上に大木が育つのと似た仕組み。木が根から酸を出しながら岩を少しずつ溶かしては養分を吸収して育つように、ヒメジャコも自分で岩を溶かす物質を少しずつ分泌しては岩に潜っていく。
岩に潜っているヒメジャコを獲るには、コツがある。合わせ目の両端の部分の岩をハンマーで砕き、そこにバールのようなものを突っ込んで、テコをきかせて貝を岩から取り出すのだ。シャコガイを専門に獲るウミンチュ(漁師)がいる。

乱獲による減少が心配されており、各漁協は禁漁期間を設けて生産管理を実施している。それでも追いつかないので、今は稚貝を育てて海に戻す養殖が、沖縄県水産海洋研究センターなどによって推進されている。
シャコガイは比較的短時間のうちに味が落ちるので、収穫したてを素早く食べる方がいい。冒頭の写真と下の写真は万鐘本店第63話で紹介した和食のあらやで出てきたシャコガイ。わさびはもちろんいけるが、シークワサーなどのかんきつをかけて食べるのもお勧め。

貝柱はさっぱりしているが、身の味はひたすら深い。赤貝やミルガイなどより、ずーっと深い。東京からのお客さんに出したら、「んー、これは・・・・」と言ったまま、黙り込んでしまった。貝の好きな人にはこたえられない味だろう。泡盛によく合う。寿司ネタとしても最高。
シャコガイを買いたい場合は、那覇・泊の「泊いゆまち」に行けば、だいたいどこかの店にある。貝の取り扱いに慣れていない人は、身のはずし方をお店で教えてもらおう。居酒屋や割烹などは、ある日とない日があるので、事前に電話で確認を。
2009年10月25日
[第140話 沖縄] 街かど看板、傑作選
街かどで見かけた看板や横断幕の傑作選をお届けする。思わす笑ってしまう作品から、ほっこりした温かい気分になれるものまで、5点をご紹介。

まずはエイサーの参加者募集看板から。ことしの夏、万鐘の地元うるま市の字赤道で見つけた。エイサーは沖縄本島中部で盛んな伝統的な踊りで、旧盆の時に各字の青年会が路地や広場で踊りを披露したり、拝所などで奉納したりする。最近は勇壮なエイサーが全国的に人気を呼び、各地に同好会ができているようだ。
うるま市字赤道は、農村部の多いうるま市のいわば玄関口に位置する。飲食店などが多い、町っぽい場所だ。純農村部の青年会活動は「顔つながり」だけで情報が流れるが、赤道のような町っぽい字では、このように看板で参加者を募ることになるらしい。
「○○○しないと」という語り口は、とても沖縄的な口語表現。日常会話にもよく出てくる。相手に何かの行為をやわらかく促す時に、どちらかと言えば、女性がよく使う。「だのにぃ」も女性が言う。
下手くそな字が、いかにも青年会ふーじー(っぽい、「風姿」)。

ちょっと古いが、うるま市内で見かけた横断幕。横断幕が告知手段としてよく使われるという話は万鐘本店第67話で書いた。とりわけ同窓会の告知には横断幕が非常によく利用される。
同窓会告知のメインコピーに「あの人もハゲました」を置くというのは、言葉のとんがり具合といい、同窓会とのいい感じの距離感といい、かなりのセンス。
同じ同窓会の別の横断幕に、メインコピーが「来ないのはあなただけだったりして」というのもあった。「あの人もハゲました」とは別の意味で、これも秀作。この幹事さん、コピーライターでもメシが食えるんじゃないでしょうか。
次は小中学生の「あいさつ」標語シリーズを。

うるま市で見つけた看板。なんとも言えないおかしみがある。そもそも「あいさつをする」とは言うが、「あいさつをやる」とは言わない。これが笑いの源泉その一。
それから「やられる前に」というのも笑いを誘う。「やられたら、やり返せ」みたいな暴力的なセリフを想起させるこの文の主語が「あいさつ」であるところが、最高に面白い。
ぴょんぴょん弾むような少年マンガっぽい字の感じも含めて、野球帽をかぶった小学校低学年の男の子を一瞬イメージしたが、実は中三女子の作品。

これは「やられる前に」の横にあった作品。さほど面白みはないが、きれいにまとまっている。うまい。座ぶとん3枚。

最後は、慶良間諸島の阿嘉島で見つけた小学生の標語看板。阿嘉島といえば、ダイビングやホエールウォッチングの盛んな慶良間でも比較的地味な存在。
そんな静かな島のぬくもりが感じられるしっとりした作品だ。海風にあたって傷み加減の看板も、おとなしい字体も、言葉の中身とあいまって、すべて絵になっている。島はいいなあ。座布団10枚。

まずはエイサーの参加者募集看板から。ことしの夏、万鐘の地元うるま市の字赤道で見つけた。エイサーは沖縄本島中部で盛んな伝統的な踊りで、旧盆の時に各字の青年会が路地や広場で踊りを披露したり、拝所などで奉納したりする。最近は勇壮なエイサーが全国的に人気を呼び、各地に同好会ができているようだ。
うるま市字赤道は、農村部の多いうるま市のいわば玄関口に位置する。飲食店などが多い、町っぽい場所だ。純農村部の青年会活動は「顔つながり」だけで情報が流れるが、赤道のような町っぽい字では、このように看板で参加者を募ることになるらしい。
「○○○しないと」という語り口は、とても沖縄的な口語表現。日常会話にもよく出てくる。相手に何かの行為をやわらかく促す時に、どちらかと言えば、女性がよく使う。「だのにぃ」も女性が言う。
下手くそな字が、いかにも青年会ふーじー(っぽい、「風姿」)。

ちょっと古いが、うるま市内で見かけた横断幕。横断幕が告知手段としてよく使われるという話は万鐘本店第67話で書いた。とりわけ同窓会の告知には横断幕が非常によく利用される。
同窓会告知のメインコピーに「あの人もハゲました」を置くというのは、言葉のとんがり具合といい、同窓会とのいい感じの距離感といい、かなりのセンス。
同じ同窓会の別の横断幕に、メインコピーが「来ないのはあなただけだったりして」というのもあった。「あの人もハゲました」とは別の意味で、これも秀作。この幹事さん、コピーライターでもメシが食えるんじゃないでしょうか。
次は小中学生の「あいさつ」標語シリーズを。

うるま市で見つけた看板。なんとも言えないおかしみがある。そもそも「あいさつをする」とは言うが、「あいさつをやる」とは言わない。これが笑いの源泉その一。
それから「やられる前に」というのも笑いを誘う。「やられたら、やり返せ」みたいな暴力的なセリフを想起させるこの文の主語が「あいさつ」であるところが、最高に面白い。
ぴょんぴょん弾むような少年マンガっぽい字の感じも含めて、野球帽をかぶった小学校低学年の男の子を一瞬イメージしたが、実は中三女子の作品。

これは「やられる前に」の横にあった作品。さほど面白みはないが、きれいにまとまっている。うまい。座ぶとん3枚。

最後は、慶良間諸島の阿嘉島で見つけた小学生の標語看板。阿嘉島といえば、ダイビングやホエールウォッチングの盛んな慶良間でも比較的地味な存在。
そんな静かな島のぬくもりが感じられるしっとりした作品だ。海風にあたって傷み加減の看板も、おとなしい字体も、言葉の中身とあいまって、すべて絵になっている。島はいいなあ。座布団10枚。
2009年10月18日
[第139話 食] ソースを吸った生パスタのうまみ
宜野湾市のイタリアンレストラン、Pao(パオ)とPana(パナ)が今回の主役。ソースのうまみを充分に吸い込んだ生パスタが素晴らしくおいしい。

代表取締役の川口一仁さんは埼玉県出身。鉄人シェフとして知られる石鍋裕さんの店クイーンアリスに勤務した後、イタリアで本場の味と技術を学んだ。帰国後は東京・六本木ヒルズのイタリアンレストランなどで働いた。
独立のチャンスを求めていた際に、沖縄出身の友人から「一緒に店をやらないか」と声がかかり、沖縄に。間もなく、生パスタの専門店Paoを始めた。沖縄で生パスタを出す店の第一号だった。6年前のこと。姉妹店のPanaは昨年、オープンした。
川口さんが作る生パスタは、幅2、3mmのタリオリーニ、幅4、5mmのタリエリーニ、幅6、7mmのタリアテッレ、幅25-30mmのパッパルデッレの4種類(冒頭の写真はそのうちの3種類)。
パスタは、温度や湿度で出来具合が違ってくるという。こねた後、冷蔵庫で生地をじっくり寝かせて、グルテンの形成と生地の熟成をゆっくり進めるのがポイント。
細い麺はあっさりしたソースが合う。麺が太くなるほど、こってりしたソースとの相性がよくなる。ソースがこってりしてくれば、それに負けないボリュームのパスタが必要になるからだ。
あっさり系のソースといえば、魚介系の軽めのソースなど。トマトベース、クリームベースと徐々にこってりしてきて、最もこってりは、例えば仔羊の赤ワインソース。まるで京都名菓の八つ橋のようなパッパルデッレが登場するのは、こうした濃厚なソースの時。
「パスタは、ソースをおいしく食べるためにあるんですね」と川口さん。パスタは家庭料理。うまみをたっぷり含んだソースをムダにすることなく、効率よく食べるのに、パスタは必須のアイテムと言えるのだ。


生パスタは、ソースがからむだけではなく、ソースをしっかり吸い込む力がある。食べてみると、もっちりした麺にソースのうまみが染み込んでいるのが分かる。だからうまいのだ。
上の写真のトマトベースのパスタはタリエリーニ。パスタとソースが完全に一体になっている。沖縄地野菜のナーベラーが独特の食感をもたらす。麺に吸われて一番おいしくなるように、ソースの塩気や酸味がピタリと決まっている。


このクリームベースのソースには、タリエリーニよりひと回り太いタリアテッレを。こちらは小エビや小柱といった魚介のうまみが基調で、キャベツの甘味と食感がアクセントになっている。もちろん、ソースと麺の相性はバッチリ。
ランチにはパスタのほか、前菜と自家製のパン、デザートがつく。どれもおいしいが、この日のデザートに出て来たぶどうのソルベは、その上品な甘さといい、心地よい酸っぱさといい、ふわーっと口溶けする食感といい、出色の出来。

Panaは、イタリア語でオステーリア、つまり居酒屋のイメージ。生パスタ料理だけでなく、一品料理にも力を入れている。写真はPanaの店内。

Paoは宜野湾市新城2-39-20、098-892-9003。Panaは宜野湾市野嵩1-2-15、098-892-8736。HPはこちら。

代表取締役の川口一仁さんは埼玉県出身。鉄人シェフとして知られる石鍋裕さんの店クイーンアリスに勤務した後、イタリアで本場の味と技術を学んだ。帰国後は東京・六本木ヒルズのイタリアンレストランなどで働いた。
独立のチャンスを求めていた際に、沖縄出身の友人から「一緒に店をやらないか」と声がかかり、沖縄に。間もなく、生パスタの専門店Paoを始めた。沖縄で生パスタを出す店の第一号だった。6年前のこと。姉妹店のPanaは昨年、オープンした。
川口さんが作る生パスタは、幅2、3mmのタリオリーニ、幅4、5mmのタリエリーニ、幅6、7mmのタリアテッレ、幅25-30mmのパッパルデッレの4種類(冒頭の写真はそのうちの3種類)。
パスタは、温度や湿度で出来具合が違ってくるという。こねた後、冷蔵庫で生地をじっくり寝かせて、グルテンの形成と生地の熟成をゆっくり進めるのがポイント。
細い麺はあっさりしたソースが合う。麺が太くなるほど、こってりしたソースとの相性がよくなる。ソースがこってりしてくれば、それに負けないボリュームのパスタが必要になるからだ。
あっさり系のソースといえば、魚介系の軽めのソースなど。トマトベース、クリームベースと徐々にこってりしてきて、最もこってりは、例えば仔羊の赤ワインソース。まるで京都名菓の八つ橋のようなパッパルデッレが登場するのは、こうした濃厚なソースの時。
「パスタは、ソースをおいしく食べるためにあるんですね」と川口さん。パスタは家庭料理。うまみをたっぷり含んだソースをムダにすることなく、効率よく食べるのに、パスタは必須のアイテムと言えるのだ。


生パスタは、ソースがからむだけではなく、ソースをしっかり吸い込む力がある。食べてみると、もっちりした麺にソースのうまみが染み込んでいるのが分かる。だからうまいのだ。
上の写真のトマトベースのパスタはタリエリーニ。パスタとソースが完全に一体になっている。沖縄地野菜のナーベラーが独特の食感をもたらす。麺に吸われて一番おいしくなるように、ソースの塩気や酸味がピタリと決まっている。


このクリームベースのソースには、タリエリーニよりひと回り太いタリアテッレを。こちらは小エビや小柱といった魚介のうまみが基調で、キャベツの甘味と食感がアクセントになっている。もちろん、ソースと麺の相性はバッチリ。
ランチにはパスタのほか、前菜と自家製のパン、デザートがつく。どれもおいしいが、この日のデザートに出て来たぶどうのソルベは、その上品な甘さといい、心地よい酸っぱさといい、ふわーっと口溶けする食感といい、出色の出来。

Panaは、イタリア語でオステーリア、つまり居酒屋のイメージ。生パスタ料理だけでなく、一品料理にも力を入れている。写真はPanaの店内。

Paoは宜野湾市新城2-39-20、098-892-9003。Panaは宜野湾市野嵩1-2-15、098-892-8736。HPはこちら。
2009年10月11日
[第138話 食、農] 砂糖を入れないパイン缶
パイン缶といえば、おいしいが、それほどありがたいものでもないーといったところか。そんなイメージを打ち破るパイン缶が人気を呼んでいる。砂糖を全く使わないパイン缶「ロイヤルスウィート」がそれ。


砂糖を使わないパイン缶を作っているのは、名護パイン園グループの株式会社名護パイナップルワイナリー。
同社常務取締役の上江洲朝則さんによると、ロイヤルスウィートは、7月下旬から8月下旬にかけて出荷される糖度の高いパインだけで作る。パインは9月下旬から11月上旬にも出荷されるが、この時期のパインは糖度が低いので、砂糖なしでは作れない。
盛夏の時期のパインならすべていいかというと、そうはいかない。パインは底の部分から上に向けて糖度が上がっていく。つまり葉に近い上の部分は甘味が弱い。だから砂糖なしのパイン缶を作る時には、上の部分は入れられない。本当に甘くておいしい部分だけを使ったぜいたくなパイン缶なのだ。砂糖なしで作るのに必要な糖度は最低14度。
価格は1缶598円。スーパーの砂糖入りパイン缶と比べると、かなりの価格ではある。

そのロイヤルスウィートを食べてみた。非常にすっきりしている。砂糖のしつこさが全くなく、砂糖入りのパイン缶とは確かに違う。よく冷やして食べると、おいしさはひとしお。
砂糖入りパイン缶のシロップは強いので、そのまま飲むのは抵抗があるが、ロイヤルスウィートの汁ならいくらでも飲める。
名護パイナップルワイナリーが砂糖なしのパイン缶を作り始めて7年目になる。「おかげさまで、ことしはよく売れています」と上江洲さん。例年は、盛夏に作ったパイン缶を半年ほどかけて売っていくのだが、ことしは3カ月ほどで完売の見込みという。

ロイヤルスウィートを作った背景には、深刻なパインの減産傾向があった。沖縄のパイン生産は年々減っている。理由は簡単。もうからないから、やめる農家が多いのだ。やめないまでも、後継者はいないという農家が多い。
名護パイン園グループの基幹施設ナゴパイナップルパークはパイン農家があってこそのテーマパーク。「農家がちゃんとうるおう買い入れ価格を実現できる付加価値商品をなんとか作れないかと思ったんです」と上江洲さん。
人気ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」のやまけんこと山本謙治さんは「日本の農産物は安すぎる」と主張しているが、パインもその例に漏れない。実際、パインに限らず、農業は、天候や病虫害のリスクがむやみと大きいのに、利益はあきれるほど小さいから、総じてもうからない。下手をすればすぐ赤字。これでは、やる人が減っていくのは当然の結末だろう。
前回取り上げたやんばるの農家直販市も、今回のロイヤルスウィートも、農家を実質的に支える取り組み。農家が衰退してしまったら成り立たない仕事をしている人々が、ある意味では農家以上に危機感をもって、新しい仕組みづくりを模索しているといえそうだ。

ロイヤルスウィートはパイナップルパークで買えるほか、通販でも取り寄せられる。詳しくはパイナップルパークのHPで。パイナップルワイナリーは名護市為又1196-7、0980-53-0017。


砂糖を使わないパイン缶を作っているのは、名護パイン園グループの株式会社名護パイナップルワイナリー。
同社常務取締役の上江洲朝則さんによると、ロイヤルスウィートは、7月下旬から8月下旬にかけて出荷される糖度の高いパインだけで作る。パインは9月下旬から11月上旬にも出荷されるが、この時期のパインは糖度が低いので、砂糖なしでは作れない。
盛夏の時期のパインならすべていいかというと、そうはいかない。パインは底の部分から上に向けて糖度が上がっていく。つまり葉に近い上の部分は甘味が弱い。だから砂糖なしのパイン缶を作る時には、上の部分は入れられない。本当に甘くておいしい部分だけを使ったぜいたくなパイン缶なのだ。砂糖なしで作るのに必要な糖度は最低14度。
価格は1缶598円。スーパーの砂糖入りパイン缶と比べると、かなりの価格ではある。

そのロイヤルスウィートを食べてみた。非常にすっきりしている。砂糖のしつこさが全くなく、砂糖入りのパイン缶とは確かに違う。よく冷やして食べると、おいしさはひとしお。
砂糖入りパイン缶のシロップは強いので、そのまま飲むのは抵抗があるが、ロイヤルスウィートの汁ならいくらでも飲める。
名護パイナップルワイナリーが砂糖なしのパイン缶を作り始めて7年目になる。「おかげさまで、ことしはよく売れています」と上江洲さん。例年は、盛夏に作ったパイン缶を半年ほどかけて売っていくのだが、ことしは3カ月ほどで完売の見込みという。

ロイヤルスウィートを作った背景には、深刻なパインの減産傾向があった。沖縄のパイン生産は年々減っている。理由は簡単。もうからないから、やめる農家が多いのだ。やめないまでも、後継者はいないという農家が多い。
名護パイン園グループの基幹施設ナゴパイナップルパークはパイン農家があってこそのテーマパーク。「農家がちゃんとうるおう買い入れ価格を実現できる付加価値商品をなんとか作れないかと思ったんです」と上江洲さん。
人気ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」のやまけんこと山本謙治さんは「日本の農産物は安すぎる」と主張しているが、パインもその例に漏れない。実際、パインに限らず、農業は、天候や病虫害のリスクがむやみと大きいのに、利益はあきれるほど小さいから、総じてもうからない。下手をすればすぐ赤字。これでは、やる人が減っていくのは当然の結末だろう。
前回取り上げたやんばるの農家直販市も、今回のロイヤルスウィートも、農家を実質的に支える取り組み。農家が衰退してしまったら成り立たない仕事をしている人々が、ある意味では農家以上に危機感をもって、新しい仕組みづくりを模索しているといえそうだ。

ロイヤルスウィートはパイナップルパークで買えるほか、通販でも取り寄せられる。詳しくはパイナップルパークのHPで。パイナップルワイナリーは名護市為又1196-7、0980-53-0017。
2009年10月04日
[第137話 農] ホテルが買い付ける山田金曜朝市
一般の農協出荷でも、ファーマーズマーケットでもない、新しいタイプの農産物直販市が本島北部で産声を上げた。売り手は農家。買い手はホテルと飲食店。新しい農産物流通のモデルになりそうな、B-to-Bの直販市を訪れた。

名護市の中心部から少し入った山あいにある山田公民館。毎週金曜日の朝、農家が自慢の農産物を次々と運び込む。ほどなくして、買い付けるホテルや飲食店の人々がバンなどに乗ってやってくる。山田金曜朝市の始まりだ。
毎回、近くの農家20軒ほどが出品する。ホテル側はそうそうたる顔ぶれ。沖縄のホテルで売上ナンバーワンのかりゆしホテルズ、高級ホテルの代表格ブセナテラスビーチリゾート、長期滞在用の居室が充実しているカヌチャベイホテル&ヴィラズなど、北部の大手ホテルや飲食店がずらり。
北部のホテルや飲食店のシェフたちが集まる「やんばる料理研究会」がこの朝市を実現したホテル側の母体。地元食材にこだわり、地元食材の活用方法を研究してきた。農家側は、万鐘本店第18話で紹介した土づくりを実践し、総理大臣賞を受賞したゴーヤー農家金城美代子さんを中心とする腕っこきの生産者たち。
この日は小松菜、トウガン、白いゴーヤー、ショウガ、オクラ、ナスなどが、所狭しと並べられていた。


この朝市、農家にとって魅力なのは、自ら値をつけたうえで、まとまった量が売れること。
従来の農協出荷の場合、量は出せるが、サイズや形などの規格が非常に厳しいうえに、黙ってセリ値を受け入れるしかない。この朝市では、相場を基準にしつつも、原則として農家は自分で値をつけられる。セリではなく、個別の相対取引。この違いは大きい。農家が農産物の作り手としてだけでなく、売り手として一人前になれるのだ。
ファーマーズマーケットはB品も出せるし、値も自分でつけられる。だが、ファーマーズマーケーットは一般消費者が相手だから、ビニル袋1つが単位。まとまった量を売るのはなかなか難しい。山田金曜朝市では、ホテルが相手だから、箱単位で量がはける。
この朝市に自ら足を運ぶ沖縄かりゆしビーチリゾート・オーシャンスパの常務取締役総支配人玉城智司さんは「うちは1日1000人のお客様が泊ります。そのうち9割が朝食を、6割が夕食を召し上がります」と説明する。このように買い手の胃袋が大きいからこそ、農家は実のある商売ができる。
朝市での買い付けでまだ量が足りないホテルは、出品農家と個別に話をつけてさらに農家の畑で追加で買い付けすることも珍しくない。

ホテル側にもメリットは大いにある。やはり自らこの市を訪れるブセナテラスの総料理長新垣敏光さんは「ここで仕入れた野菜は日もちが違いますね」と言いながら、買い付けた野菜をせっせとバンに載せていた。ここで販売される農産物の品質のよさはもちろんだが、間に流通業者が入れば、1日、2日はよけいにかかるということだろう。
価格面でも間の業者の取り分がなくなるから有利。厳しい経済状況の中で、ホテルも、食材調達を業者任せにしてのほほんとしてはいられない。責任者自らこの朝市に足を運び、品定めをして、いいものを少しでも安く仕入れようとしている。
「農家も、ここでは、お客さんの要望を直接聞くことができます」と金城美代子さん。農協出荷の場合は、お客さんの声が農家に直接届くことはめったにない。
朝市の事務処理は簡素そのもの。農家は納品書兼請求書を自分で切り、ホテルはその金額を翌週現金で支払う。ホテルは支払い金額が明確になるから、よけいな現金を持ち歩く必要がない。専従の事務スタッフは必要ないし、場所は公民館で無料だから、売り手と買い手の「間」の部分には全くコストがかからない。

「そのうち、ホテルのお客様をここに連れて来ようと思っているんですよ」と楽しそうに話すのはかりゆしの玉城智司さん。ここで農家から直接買い入れたとびきり新鮮な地元食材で今夜のあなたのディナーをお作りします、というわけだ。確かに、どんなうたい文句よりもこの朝市を見せる方が説得力があるだろう。
場所は山あいの公民館の前庭。立派な建物や派手な看板があるわけではないが、売り手と買い手が互いの必要から向き合い、コミュニケーションしながら作り上げる「市」の原点がここにはある。いわゆる観光施設にあきたベテラン観光客には恰好の見学先になるかもしれない。
山田金曜朝市は、毎週金曜日朝8時半に始まり、約1時間で終了する。場所は、名護市字田井等909、山田公民館。

名護市の中心部から少し入った山あいにある山田公民館。毎週金曜日の朝、農家が自慢の農産物を次々と運び込む。ほどなくして、買い付けるホテルや飲食店の人々がバンなどに乗ってやってくる。山田金曜朝市の始まりだ。
毎回、近くの農家20軒ほどが出品する。ホテル側はそうそうたる顔ぶれ。沖縄のホテルで売上ナンバーワンのかりゆしホテルズ、高級ホテルの代表格ブセナテラスビーチリゾート、長期滞在用の居室が充実しているカヌチャベイホテル&ヴィラズなど、北部の大手ホテルや飲食店がずらり。
北部のホテルや飲食店のシェフたちが集まる「やんばる料理研究会」がこの朝市を実現したホテル側の母体。地元食材にこだわり、地元食材の活用方法を研究してきた。農家側は、万鐘本店第18話で紹介した土づくりを実践し、総理大臣賞を受賞したゴーヤー農家金城美代子さんを中心とする腕っこきの生産者たち。
この日は小松菜、トウガン、白いゴーヤー、ショウガ、オクラ、ナスなどが、所狭しと並べられていた。


この朝市、農家にとって魅力なのは、自ら値をつけたうえで、まとまった量が売れること。
従来の農協出荷の場合、量は出せるが、サイズや形などの規格が非常に厳しいうえに、黙ってセリ値を受け入れるしかない。この朝市では、相場を基準にしつつも、原則として農家は自分で値をつけられる。セリではなく、個別の相対取引。この違いは大きい。農家が農産物の作り手としてだけでなく、売り手として一人前になれるのだ。
ファーマーズマーケットはB品も出せるし、値も自分でつけられる。だが、ファーマーズマーケーットは一般消費者が相手だから、ビニル袋1つが単位。まとまった量を売るのはなかなか難しい。山田金曜朝市では、ホテルが相手だから、箱単位で量がはける。
この朝市に自ら足を運ぶ沖縄かりゆしビーチリゾート・オーシャンスパの常務取締役総支配人玉城智司さんは「うちは1日1000人のお客様が泊ります。そのうち9割が朝食を、6割が夕食を召し上がります」と説明する。このように買い手の胃袋が大きいからこそ、農家は実のある商売ができる。
朝市での買い付けでまだ量が足りないホテルは、出品農家と個別に話をつけてさらに農家の畑で追加で買い付けすることも珍しくない。

ホテル側にもメリットは大いにある。やはり自らこの市を訪れるブセナテラスの総料理長新垣敏光さんは「ここで仕入れた野菜は日もちが違いますね」と言いながら、買い付けた野菜をせっせとバンに載せていた。ここで販売される農産物の品質のよさはもちろんだが、間に流通業者が入れば、1日、2日はよけいにかかるということだろう。
価格面でも間の業者の取り分がなくなるから有利。厳しい経済状況の中で、ホテルも、食材調達を業者任せにしてのほほんとしてはいられない。責任者自らこの朝市に足を運び、品定めをして、いいものを少しでも安く仕入れようとしている。
「農家も、ここでは、お客さんの要望を直接聞くことができます」と金城美代子さん。農協出荷の場合は、お客さんの声が農家に直接届くことはめったにない。
朝市の事務処理は簡素そのもの。農家は納品書兼請求書を自分で切り、ホテルはその金額を翌週現金で支払う。ホテルは支払い金額が明確になるから、よけいな現金を持ち歩く必要がない。専従の事務スタッフは必要ないし、場所は公民館で無料だから、売り手と買い手の「間」の部分には全くコストがかからない。

「そのうち、ホテルのお客様をここに連れて来ようと思っているんですよ」と楽しそうに話すのはかりゆしの玉城智司さん。ここで農家から直接買い入れたとびきり新鮮な地元食材で今夜のあなたのディナーをお作りします、というわけだ。確かに、どんなうたい文句よりもこの朝市を見せる方が説得力があるだろう。
場所は山あいの公民館の前庭。立派な建物や派手な看板があるわけではないが、売り手と買い手が互いの必要から向き合い、コミュニケーションしながら作り上げる「市」の原点がここにはある。いわゆる観光施設にあきたベテラン観光客には恰好の見学先になるかもしれない。
山田金曜朝市は、毎週金曜日朝8時半に始まり、約1時間で終了する。場所は、名護市字田井等909、山田公民館。
2009年09月27日
[第136話 食] 進化してきた塩せんべい
塩せんべいは沖縄の代表的なおやつ。サクッとした歯ごたえと生地の素朴なおいしさ、ほどよい塩気が魅力だ。おなかがすいている時は3枚でも4枚でも、あっという間に食べてしまう。

原材料は、小麦粉に少しデンプンを加えた粉、植物油と塩だけ。いたってシンプルだ。
水分と油を含ませた粉を専用の型に入れ、フタをして加熱する。少しして熱が一定の温度に達すると「プシュー」と生地が膨らむ。ポップコーンと似ている。ポップコーンの1粒の種の中で起きることが、塩せんべいの場合は密閉された型の中で起きていると考えればよさそうだ。
何年も変わらない沖縄の庶民の味、ということになっている塩せんべいだが、実はさまざまな変化、進化を遂げてきた。
那覇市繁多川にある丸吉塩せんべい屋の2代目社長新田民子さんによると、かつては、塩味ではなく、食紅に砂糖をまぜたものが表面に塗られていた。「私が子供の頃は、赤くて甘い表面をまずなめて、それからせんべいの部分をかじっていました。噛み切るのにとても力が必要で。いま思えば、しけていたんですね」と笑う。
塩味が登場したのは昭和30年頃らしい。「甘いと子供のおやつにしかならないので、大人でも子供でも食べられるものにしたいと考えた人がいて、塩味を作り始めたんです」。これが今の塩せんべいの起こり、というわけだ。

今も、各メーカーは研究開発に余念がない。「塩せんべいの消費量は少しずつ落ちています」と新田さん。多種多様なお菓子がどんどん出てくる中で、消費者を何とかつなぎとめようとメーカーも必死だ。
例えば、塩味になってからも、生地は微妙に変わってきた。かつての塩せんべいは、やや繊維っぽい仕上がりで、しけていなくても、噛み切るのに多少力が必要なものが主流だった。いま丸吉塩せんべい屋が作る塩せんべいの生地は、サクサク感が強く、噛み切るのに力はいらない。これをさらに進め、口の中ですぐに溶けるようなソフトな食感のせんべい生地を作っているメーカーもある。

梅味がコーティングされているものなど、味つけもいろいろ。チョコクリームが別添えになっているものもある。
丸吉塩せんべい屋の製品「せんの恩返し」の場合は、厚さを変えてある。味は普通の塩味だが、標準バージョンの厚さの3分の1から4分の1ほどの薄焼き。これによって食感がだいぶ変わる。パリパリ感が強調されて、おいしい。

その「せんの恩返し」のパッケージにある絵と言葉が、以前から気になっていた。いわく「決してのぞいてはいけません」。 ん??

新田さんが解説してくれた。「鶴の恩返しのおつうみたいにね、焼きを担当する人は機械の前に座って、せっせとせんべいを焼いているんです。薄焼きはとてもデリケート。注意しないとすぐに割れてしまうので、ものすごく神経を使います」。他人にのぞかれると神経の集中が邪魔されて、上手に焼けないのだという。
昔は、焼き上がるのを待ち切れない子供たちが工房をのぞき見したらしい。そんな時、のぞいてはダメよ、と制止したのがこのセリフ。「せんの恩返し」のラベルは、そんなかつての工房の風景を描いたもの、というわけだ。
丸吉塩せんべい屋を有名にしたもう一つの新製品が「天使のはね」。これは塩せんべいを焼く際に型からはみ出すふわふわの部分を商品化したもの。かつてはすべて処分し、養豚業者が回収して豚の餌にしていた。
新田さんがお腹がすいていた時にたまたま食べてみたら、とてもおいしかった。それまでは、とって捨てるもの、という見方しかしていなかったが、食べてみたらおいしいので、さっそく商品化した。せんべいのようにパリパリしておらず、フニャーっと柔らかい。油気もほとんどなく、塩味もうっすら。赤ちゃんでも食べられそうな優しい味だ。逆に、刺激の強い食べ物に慣れた舌にはモノ足りないかも。

塩せんべいは、これからも進化を遂げ、あっと驚く新企画が登場するかもしれない。でも、基本の塩味せんべいは、いつまでも残るような気がする。なぜって、これほどあきのこない味も珍しいから。
塩せんべいは、古くなるとどうしても油が酸化してくるので、求める際は新しいものを選ぼう。沖縄県内はどのスーパーでも売っている。県外ではわしたショップなどで。丸吉塩せんべい屋は工房横に直売所がある。那覇市繁多川4-11-9、098-854-9017。

原材料は、小麦粉に少しデンプンを加えた粉、植物油と塩だけ。いたってシンプルだ。
水分と油を含ませた粉を専用の型に入れ、フタをして加熱する。少しして熱が一定の温度に達すると「プシュー」と生地が膨らむ。ポップコーンと似ている。ポップコーンの1粒の種の中で起きることが、塩せんべいの場合は密閉された型の中で起きていると考えればよさそうだ。
何年も変わらない沖縄の庶民の味、ということになっている塩せんべいだが、実はさまざまな変化、進化を遂げてきた。
那覇市繁多川にある丸吉塩せんべい屋の2代目社長新田民子さんによると、かつては、塩味ではなく、食紅に砂糖をまぜたものが表面に塗られていた。「私が子供の頃は、赤くて甘い表面をまずなめて、それからせんべいの部分をかじっていました。噛み切るのにとても力が必要で。いま思えば、しけていたんですね」と笑う。
塩味が登場したのは昭和30年頃らしい。「甘いと子供のおやつにしかならないので、大人でも子供でも食べられるものにしたいと考えた人がいて、塩味を作り始めたんです」。これが今の塩せんべいの起こり、というわけだ。

今も、各メーカーは研究開発に余念がない。「塩せんべいの消費量は少しずつ落ちています」と新田さん。多種多様なお菓子がどんどん出てくる中で、消費者を何とかつなぎとめようとメーカーも必死だ。
例えば、塩味になってからも、生地は微妙に変わってきた。かつての塩せんべいは、やや繊維っぽい仕上がりで、しけていなくても、噛み切るのに多少力が必要なものが主流だった。いま丸吉塩せんべい屋が作る塩せんべいの生地は、サクサク感が強く、噛み切るのに力はいらない。これをさらに進め、口の中ですぐに溶けるようなソフトな食感のせんべい生地を作っているメーカーもある。

梅味がコーティングされているものなど、味つけもいろいろ。チョコクリームが別添えになっているものもある。
丸吉塩せんべい屋の製品「せんの恩返し」の場合は、厚さを変えてある。味は普通の塩味だが、標準バージョンの厚さの3分の1から4分の1ほどの薄焼き。これによって食感がだいぶ変わる。パリパリ感が強調されて、おいしい。

その「せんの恩返し」のパッケージにある絵と言葉が、以前から気になっていた。いわく「決してのぞいてはいけません」。 ん??

新田さんが解説してくれた。「鶴の恩返しのおつうみたいにね、焼きを担当する人は機械の前に座って、せっせとせんべいを焼いているんです。薄焼きはとてもデリケート。注意しないとすぐに割れてしまうので、ものすごく神経を使います」。他人にのぞかれると神経の集中が邪魔されて、上手に焼けないのだという。
昔は、焼き上がるのを待ち切れない子供たちが工房をのぞき見したらしい。そんな時、のぞいてはダメよ、と制止したのがこのセリフ。「せんの恩返し」のラベルは、そんなかつての工房の風景を描いたもの、というわけだ。
丸吉塩せんべい屋を有名にしたもう一つの新製品が「天使のはね」。これは塩せんべいを焼く際に型からはみ出すふわふわの部分を商品化したもの。かつてはすべて処分し、養豚業者が回収して豚の餌にしていた。
新田さんがお腹がすいていた時にたまたま食べてみたら、とてもおいしかった。それまでは、とって捨てるもの、という見方しかしていなかったが、食べてみたらおいしいので、さっそく商品化した。せんべいのようにパリパリしておらず、フニャーっと柔らかい。油気もほとんどなく、塩味もうっすら。赤ちゃんでも食べられそうな優しい味だ。逆に、刺激の強い食べ物に慣れた舌にはモノ足りないかも。

塩せんべいは、これからも進化を遂げ、あっと驚く新企画が登場するかもしれない。でも、基本の塩味せんべいは、いつまでも残るような気がする。なぜって、これほどあきのこない味も珍しいから。
塩せんべいは、古くなるとどうしても油が酸化してくるので、求める際は新しいものを選ぼう。沖縄県内はどのスーパーでも売っている。県外ではわしたショップなどで。丸吉塩せんべい屋は工房横に直売所がある。那覇市繁多川4-11-9、098-854-9017。
2009年09月20日
[第135話 食] うまみ凝縮 クルマエビの「やわら」
沖縄はクルマエビの生産日本一。県内各地に養殖場がある。本島北部、宜野座村にある宜野座養殖場は併設のレストラン「球屋」でクルマエビ料理が食べられる。脱皮したばかりのエビを焼いた「やわら」と、ミソのコクが楽しめる有頭エビ天ののった天丼をご紹介。

宜野座養殖場は宜野座インターを降りて少し北上した宜野座大橋のたもとにある。目の前の川にはマングローブが。
球屋は、天ぷらや刺身、塩焼きなどでクルマエビを食べさせる。まず「やわら」からいこう。
「やわら」は、脱皮したばかりのクルマエビで、殻がソフト。これをシンプルに焼き、塩を振って食べる。アメリカ人の好きな脱皮直後のカニ「ソフトシェルクラブ」とよく似ている。
注文したら、テーブルコンロが用意された。ほどなくして、串にさされた「やわら」と塩が登場。「少し焦がすくらいが香ばしくておいしいですよ。頭のところはしっかり加熱して下さい」とスタッフが説明してくれた。


加熱すると、あざやかな朱色に変わっていく。表、裏とも3、4分ずつ。頭の部分に火がよく当たるようにする。仕上げにパラパラと塩を。
頭からかぶりつく。頭の部分にはミソが入っていて、えもいわれぬコクが。身は身で、塩だけの味付けなのに、うまみ十分。もちろん柔らかい殻ごといただく。
クルマエビは、本当にうまみが凝縮した食べ物であることを再認識させられる。体長15-18cmほどだから、イセエビやロブスターのようなボリュームはないが、うまみの深さではそれらに全く負けない。
天丼は、主役のクルマエビ天のほかに、ハンダマ、オクラ、カボチャ、ゴボウ、ナスなどの野菜天ぷら陣が脇を固める。揚げ方が実に巧み。薄ゴロモだが、サクサク、カリカリに仕上がっており、油の中で脱水され、凝縮された素材のうまみが際立つ。

クルマエビ養殖場直営のレストランはほかにもあるが、残念ながら天ぷらの揚げ方が今ひとつの店も。球屋はその点、ピタリと決まっている。ただ、ていねいに揚げるので、昼時の混み合う時間帯などは、20〜30分待たされることもある。
天丼のクルマエビ天も有頭で、これは「やわら」ではないが、しっかり揚げてあるから、頭も尻尾もすべておいしい。
「やわら」同様、頭にはミソが入っている。ミソはコロモと一体になって、さらにコクが増す。天丼は、エビの身とコロモとタレのうまさでかき込むのが醍醐味だが、球屋の天丼は有頭エビのミソのうまみも加わり、複雑でぜいたくなおいしさが楽しめる。
クルマエビ天を頭からかぶりつく時には、そのミソが飛び出すことがあるので注意しよう。間違ってもミソをこぼしてはいけない。それはあまりにもったいない。あわてずに、そおーっと噛み切れば大丈夫だ。
天丼は活きエビを使ったものと急速冷凍されたエビを使ったものが選べる。価格は前者がいくらか高い。だが、急速冷凍ものでも十分おいしい。

タレは少量かかっているが、残りは別添え。もっとかけたい人はお好みでどうぞ、という方式だ。タレが多すぎるとミソの味わいが殺されてしまうので、控えめにかけるのがお勧め。
球屋は、宜野座村宜野座1008、098-968-4435。火曜定休。HPはこちら。

宜野座養殖場は宜野座インターを降りて少し北上した宜野座大橋のたもとにある。目の前の川にはマングローブが。
球屋は、天ぷらや刺身、塩焼きなどでクルマエビを食べさせる。まず「やわら」からいこう。
「やわら」は、脱皮したばかりのクルマエビで、殻がソフト。これをシンプルに焼き、塩を振って食べる。アメリカ人の好きな脱皮直後のカニ「ソフトシェルクラブ」とよく似ている。
注文したら、テーブルコンロが用意された。ほどなくして、串にさされた「やわら」と塩が登場。「少し焦がすくらいが香ばしくておいしいですよ。頭のところはしっかり加熱して下さい」とスタッフが説明してくれた。


加熱すると、あざやかな朱色に変わっていく。表、裏とも3、4分ずつ。頭の部分に火がよく当たるようにする。仕上げにパラパラと塩を。
頭からかぶりつく。頭の部分にはミソが入っていて、えもいわれぬコクが。身は身で、塩だけの味付けなのに、うまみ十分。もちろん柔らかい殻ごといただく。
クルマエビは、本当にうまみが凝縮した食べ物であることを再認識させられる。体長15-18cmほどだから、イセエビやロブスターのようなボリュームはないが、うまみの深さではそれらに全く負けない。
天丼は、主役のクルマエビ天のほかに、ハンダマ、オクラ、カボチャ、ゴボウ、ナスなどの野菜天ぷら陣が脇を固める。揚げ方が実に巧み。薄ゴロモだが、サクサク、カリカリに仕上がっており、油の中で脱水され、凝縮された素材のうまみが際立つ。

クルマエビ養殖場直営のレストランはほかにもあるが、残念ながら天ぷらの揚げ方が今ひとつの店も。球屋はその点、ピタリと決まっている。ただ、ていねいに揚げるので、昼時の混み合う時間帯などは、20〜30分待たされることもある。
天丼のクルマエビ天も有頭で、これは「やわら」ではないが、しっかり揚げてあるから、頭も尻尾もすべておいしい。
「やわら」同様、頭にはミソが入っている。ミソはコロモと一体になって、さらにコクが増す。天丼は、エビの身とコロモとタレのうまさでかき込むのが醍醐味だが、球屋の天丼は有頭エビのミソのうまみも加わり、複雑でぜいたくなおいしさが楽しめる。
クルマエビ天を頭からかぶりつく時には、そのミソが飛び出すことがあるので注意しよう。間違ってもミソをこぼしてはいけない。それはあまりにもったいない。あわてずに、そおーっと噛み切れば大丈夫だ。
天丼は活きエビを使ったものと急速冷凍されたエビを使ったものが選べる。価格は前者がいくらか高い。だが、急速冷凍ものでも十分おいしい。

タレは少量かかっているが、残りは別添え。もっとかけたい人はお好みでどうぞ、という方式だ。タレが多すぎるとミソの味わいが殺されてしまうので、控えめにかけるのがお勧め。
球屋は、宜野座村宜野座1008、098-968-4435。火曜定休。HPはこちら。
2009年09月13日
[第134話 農、食] 地野菜を楽しむ農家民宿
「農家民宿」は、読んで字のごとし、農家が経営する民宿。農家だから、畑で穫れたての新鮮野菜が食卓に並ぶ。沖縄本島北部の宜野座村で季節の地野菜を作っている仲間澄子さんの農家民宿「田元」をのぞいてみた。

田元は「タムトゥー」と読む。これは仲間家の屋号。沖縄の農村部では、今でも屋号で家を呼ぶことが多い。仲間家では、古い瓦家の隣りに鉄筋コンクリート造の自宅を建て、家人はそちらで生活することになったので、空いた古い瓦家を民宿として使うことにした。これが「田元」の始まり。
その瓦家は、昔ながらの一番座、二番座のある間取り。一番座には床の間、二番座には仏壇がそれぞれある。

仲間さんはカンダバーやンスナバー、イーチョバーといった沖縄の地野菜を作っている。夏場ならモウイのあえもの、秋口にはシークワサーのジュース(下の写真)、冬にはダイコンの地漬けやイーチョバーの天ぷらが献立に加わる。パパイヤイリチャーやカンダバーのみそあえは年中できる。

カンダバーは万鐘本店第54話、モウイは第1話、野菜パパイヤは第92話でそれぞれ紹介した。イーチョバーはウイキョウ。さわやかな香りが特徴で、天ぷらにしたり、ボロボロジューシーにしたりする。
「地野菜は、何にもしなくても、ほとんど放ったらかしでできるんですよ。農薬もいらないし」と仲間さん。
話を聞けば簡単そうだが、仲間さんは、例えばカンダバーなら葉が柔らかく、えぐみの少ない品種を選んで植えている。カンダバーなど、沖縄ではそれこそどこでも生えている葉野菜だが、ちゃんとこだわりの品種を栽培しているところはやはり農家。

地野菜は、たとえばカンダバーでもハンダマでもイーチョバーでもゴーヤーでも、独特の香りや苦み、渋みがあって、それがおいしい。とはいえ、その香りや苦み、渋みが、度を過ぎたものでは、とても食べられない。適度ならば、「大人の味」として、おいしくいただける。
だから農家は、品種について、長い間、研究を重ねてきた。この研究は、もちろん研究所みたいなところで行なわれるわけではなく、各農家が自分の畑で経験的に続けてきたもの。「いい種を残す」「いい種を人に分ける」という形で、その成果は細く長く受け継がれてきた。
地球上で農業というものが始まって2万年。その99%以上にあたる1万9900年くらいの間、品種改良などの研究開発はすべて農家が担ってきた。例えば、バナナが今のような種なしの形になったのは、何千年も前にインドネシアで品種改良が行なわれたかららしい。そんな時代に研究所があったはずもない。
話が急に大きくなってしまったが、仲間さんのカンダバーも、そんなふうにして農家の手で残されてきた「いい種」の一つなのだ。

田元の宿泊客は、畑で土いじりをしたり、それぞれの味わいを持つ地野菜に舌つづみを打つことができる。おやつのサーターアンダアギーを仲間さんと一緒に作ったりするチャンスもあるらしい。
ホテルにあきた沖縄リピーターの間で田元は人気が高く、夏休みなどは予約で一杯になる。1回に1組しか泊れないから、予約は必須。1組5、6人までは泊れる。
農家民宿はほかにもいくつかある。北部の農家民宿情報は、このHPが便利。田元も載っている。田元は宜野座村宜野座村字漢那112、 098-968-3992。

田元は「タムトゥー」と読む。これは仲間家の屋号。沖縄の農村部では、今でも屋号で家を呼ぶことが多い。仲間家では、古い瓦家の隣りに鉄筋コンクリート造の自宅を建て、家人はそちらで生活することになったので、空いた古い瓦家を民宿として使うことにした。これが「田元」の始まり。
その瓦家は、昔ながらの一番座、二番座のある間取り。一番座には床の間、二番座には仏壇がそれぞれある。

仲間さんはカンダバーやンスナバー、イーチョバーといった沖縄の地野菜を作っている。夏場ならモウイのあえもの、秋口にはシークワサーのジュース(下の写真)、冬にはダイコンの地漬けやイーチョバーの天ぷらが献立に加わる。パパイヤイリチャーやカンダバーのみそあえは年中できる。

カンダバーは万鐘本店第54話、モウイは第1話、野菜パパイヤは第92話でそれぞれ紹介した。イーチョバーはウイキョウ。さわやかな香りが特徴で、天ぷらにしたり、ボロボロジューシーにしたりする。
「地野菜は、何にもしなくても、ほとんど放ったらかしでできるんですよ。農薬もいらないし」と仲間さん。
話を聞けば簡単そうだが、仲間さんは、例えばカンダバーなら葉が柔らかく、えぐみの少ない品種を選んで植えている。カンダバーなど、沖縄ではそれこそどこでも生えている葉野菜だが、ちゃんとこだわりの品種を栽培しているところはやはり農家。

地野菜は、たとえばカンダバーでもハンダマでもイーチョバーでもゴーヤーでも、独特の香りや苦み、渋みがあって、それがおいしい。とはいえ、その香りや苦み、渋みが、度を過ぎたものでは、とても食べられない。適度ならば、「大人の味」として、おいしくいただける。
だから農家は、品種について、長い間、研究を重ねてきた。この研究は、もちろん研究所みたいなところで行なわれるわけではなく、各農家が自分の畑で経験的に続けてきたもの。「いい種を残す」「いい種を人に分ける」という形で、その成果は細く長く受け継がれてきた。
地球上で農業というものが始まって2万年。その99%以上にあたる1万9900年くらいの間、品種改良などの研究開発はすべて農家が担ってきた。例えば、バナナが今のような種なしの形になったのは、何千年も前にインドネシアで品種改良が行なわれたかららしい。そんな時代に研究所があったはずもない。
話が急に大きくなってしまったが、仲間さんのカンダバーも、そんなふうにして農家の手で残されてきた「いい種」の一つなのだ。

田元の宿泊客は、畑で土いじりをしたり、それぞれの味わいを持つ地野菜に舌つづみを打つことができる。おやつのサーターアンダアギーを仲間さんと一緒に作ったりするチャンスもあるらしい。
ホテルにあきた沖縄リピーターの間で田元は人気が高く、夏休みなどは予約で一杯になる。1回に1組しか泊れないから、予約は必須。1組5、6人までは泊れる。
農家民宿はほかにもいくつかある。北部の農家民宿情報は、このHPが便利。田元も載っている。田元は宜野座村宜野座村字漢那112、 098-968-3992。
2009年09月06日
[第133話 食] 汁の味を変えられる八重そば
名護の沖縄そば店で。左の男性は「いただきます」と箸を入れたところ。ゆっくりと箸を動かし、麺と汁をなじませる。穏やかな笑みの中に、おいしいものをいただく喜びがにじむ。
さて、右の人は? 食後のお茶か。いやいや、この人もこれから沖縄そばを食べるところ。そのために、沖縄そばのどんぶりに自分で汁を注いでいるのだ―。

名護市の旧市街の飲食店街にある八重そばは、いつも地元のファンでいっぱい。ソーキそばでも三枚肉そばでも、注文すると、麺、肉、ネギだけが入ったどんぶりと、やかんに入ったアチコーコーの汁とが出される。右の男性が持っているやかんがそれ。八重そばでは、めんと汁が別々に出てくるのだ。
まず、やかんの汁をおもむろにどんぶりの中に自分で注ぐ。汁は驚くほどにごりがなく、透明感にあふれている。これほど透明な沖縄そばの汁も珍しい。豚骨ベースだが、静かにていねいに煮出してあるから、豚臭さは一切なし。


肉とめんを食べていくうちに、肉の煮汁が全体の汁に溶けていき、汁の味がだんだん丸みを帯びてくる。その変化を楽しみながら、めんを7割方食べ、汁も少し飲んだ状態が下の写真。最初の汁に比べて色がだいぶ変わっているのが分かる。その甘味を増した汁に、やかんの新しい汁を注ぎ足す。

新しい汁を注ぎ足すと、汁全体が最初の塩の効いたやや厳しい感じの味に戻る。特に、最後をそれで終わると、いくぶんダレ気味の舌が引き締まる感じで心地よい。やかんに新しい汁が用意されていると、このような味の「戻し」ができる。
第122話で紹介した恩納村の「なかどまい」の汁も八重そばの汁によく似ているが、八重そばの汁はなかどまいよりもさらに一段と透明で、あっさりしている。
もの足りないと感じる向きもあるかもしれないが、いったん甘味を帯びた汁に注ぎ足して元の緊張感を蘇らせるには、この透明感、あっさり感が重要そうだ。あまりコテコテの汁だと、こういう戻しの効果は鈍くなるのではないか。

八重そばのめんは、名護らしい平麺。幅は1cm弱でそれほど厚くない。強いコシは感じられないが、昔ながらの沖縄そばの麺は、それほどコシが強くない。むしろ、やや柔らかめの麺の方がトラディショナル。八重そばのめんもまさにそれだ。
平麺でも厚ぼったくないので、ヒラヒラと曲がり、汁がよくからむ。平麺を食べる時にはいつも思うが、すすり上げて口に含み、もぐもぐと噛み始めた時、平麺は口の中で独特のボリューム感を感じさせてくれる。
八重そば創業者の八重子おばあは、息子に店を任せ、ふだんはデイケアに行っているが、デイケアが休みの時には店にすわってお客さんとゆんたく(おしゃべり)している。
八重そばは名護市城1-9-3、0980-52-3286。11時〜(売り切れ次第終了)、火曜定休。
さて、右の人は? 食後のお茶か。いやいや、この人もこれから沖縄そばを食べるところ。そのために、沖縄そばのどんぶりに自分で汁を注いでいるのだ―。

名護市の旧市街の飲食店街にある八重そばは、いつも地元のファンでいっぱい。ソーキそばでも三枚肉そばでも、注文すると、麺、肉、ネギだけが入ったどんぶりと、やかんに入ったアチコーコーの汁とが出される。右の男性が持っているやかんがそれ。八重そばでは、めんと汁が別々に出てくるのだ。
まず、やかんの汁をおもむろにどんぶりの中に自分で注ぐ。汁は驚くほどにごりがなく、透明感にあふれている。これほど透明な沖縄そばの汁も珍しい。豚骨ベースだが、静かにていねいに煮出してあるから、豚臭さは一切なし。


肉とめんを食べていくうちに、肉の煮汁が全体の汁に溶けていき、汁の味がだんだん丸みを帯びてくる。その変化を楽しみながら、めんを7割方食べ、汁も少し飲んだ状態が下の写真。最初の汁に比べて色がだいぶ変わっているのが分かる。その甘味を増した汁に、やかんの新しい汁を注ぎ足す。

新しい汁を注ぎ足すと、汁全体が最初の塩の効いたやや厳しい感じの味に戻る。特に、最後をそれで終わると、いくぶんダレ気味の舌が引き締まる感じで心地よい。やかんに新しい汁が用意されていると、このような味の「戻し」ができる。
第122話で紹介した恩納村の「なかどまい」の汁も八重そばの汁によく似ているが、八重そばの汁はなかどまいよりもさらに一段と透明で、あっさりしている。
もの足りないと感じる向きもあるかもしれないが、いったん甘味を帯びた汁に注ぎ足して元の緊張感を蘇らせるには、この透明感、あっさり感が重要そうだ。あまりコテコテの汁だと、こういう戻しの効果は鈍くなるのではないか。

八重そばのめんは、名護らしい平麺。幅は1cm弱でそれほど厚くない。強いコシは感じられないが、昔ながらの沖縄そばの麺は、それほどコシが強くない。むしろ、やや柔らかめの麺の方がトラディショナル。八重そばのめんもまさにそれだ。
平麺でも厚ぼったくないので、ヒラヒラと曲がり、汁がよくからむ。平麺を食べる時にはいつも思うが、すすり上げて口に含み、もぐもぐと噛み始めた時、平麺は口の中で独特のボリューム感を感じさせてくれる。
八重そば創業者の八重子おばあは、息子に店を任せ、ふだんはデイケアに行っているが、デイケアが休みの時には店にすわってお客さんとゆんたく(おしゃべり)している。
八重そばは名護市城1-9-3、0980-52-3286。11時〜(売り切れ次第終了)、火曜定休。







