2008年02月24日
[第42話 沖縄] 知念の山中で焼く粉引茶碗
茶碗は、その微妙な形が面白い。ゆがんでいるようで、なんとも言えぬバランスを保っている。見る角度によって全く違う形に見えたりもする。この2つの茶碗は、白く粉を吹いたように見えるので、粉引(こびき)と呼ばれる。沖縄本島南部・知念の山の中にある涯山窯で出会った茶碗だ。
え、沖縄で粉引? 焼き物好きはそう思うだろう。粉引は、日本本土では珍しいものではないが、壺屋焼に代表される沖縄の焼き物にはあまり見られない。
この茶碗を焼いているのは玉木弘一さん。玉木さんは沖縄の出身だが、若き日に京都で修行して、粉引などの技法を身につけた。沖縄に戻り、那覇で4年、知念で涯山窯を開いてから21年になる。
沖縄の陶芸家が京都で身につけた技術で焼くー。現代の話だから別に驚くことではないが、数百年前、船しかなかった時代でも、芸術や文化の伝播や交流は、人から人へ、あるいはモノの流れを通じて、それなりに盛んだったのではないだろうか。むろん、そのスピードはゆっくりしたものだったろうが。
焼き物の世界だけでも、例えば、琉球王国のアジア中継貿易で、沖縄がアジア各地で売っていたものは中国産の陶磁器が中心だった。沖縄の壺屋焼は、1600年代に朝鮮から招いた陶工によってもたらされた技法だ。タイ北部で出土する13―15世紀のふたつきの小鉢は、壺屋焼でおなじみの黒砂糖などを入れておく小鉢とよく似ている・・・と、文化伝播の事実やそれらしき形跡はいろいろある。
話を涯山窯に戻そう。写真の左手前は、象嵌(ぞうがん)という技法で作った水差し。玉木さんによると、はんこを押し込んで模様をつけ、へこんだ部分に白い土を埋めて平らにし、釉薬をかけて焼く。小紋のような小さな模様の繰り返しが、端正な趣きを醸し出す。器の形が直線的なのでやや固い印象になるが、それがはんこ模様の繰り返しによく合う。
「何でも作っちゃうんです」。物静かな玉木さんが、茶目っ気たっぷりに言ったのは、デザイン系とも言うべき多様な生活雑器のこと。粉引の茶碗や水差しなどの茶道具類とは全く違った趣きの、ふだん使いのコーヒーカップや皿が、涯山窯のギャラリーにはたくさん並んでいる。製作の技法もさまざまだ。
ギャラリーを切り盛りするのは妻のあき子さん。玉木さんの作品をセンスよく並べるだけでなく、訪れる人々に作品についてていねいに説明してくれる。あき子さんがいれる香り高いコーヒーも魅力(300円)。毎年12月中旬には窯出しでにぎわうそうだ。
涯山窯は、南城市知念字具志堅268-1、電話098-948-7644。水曜休。ギャラリーは10時30分から18時30分まで。国道331号線の斎場御嶽入り口から2.5kmほど糸満方向に行ったところの右手に「涯山窯」の小さな看板が出ているので、そこから山に上がる道を入っていく。
え、沖縄で粉引? 焼き物好きはそう思うだろう。粉引は、日本本土では珍しいものではないが、壺屋焼に代表される沖縄の焼き物にはあまり見られない。
この茶碗を焼いているのは玉木弘一さん。玉木さんは沖縄の出身だが、若き日に京都で修行して、粉引などの技法を身につけた。沖縄に戻り、那覇で4年、知念で涯山窯を開いてから21年になる。
沖縄の陶芸家が京都で身につけた技術で焼くー。現代の話だから別に驚くことではないが、数百年前、船しかなかった時代でも、芸術や文化の伝播や交流は、人から人へ、あるいはモノの流れを通じて、それなりに盛んだったのではないだろうか。むろん、そのスピードはゆっくりしたものだったろうが。
焼き物の世界だけでも、例えば、琉球王国のアジア中継貿易で、沖縄がアジア各地で売っていたものは中国産の陶磁器が中心だった。沖縄の壺屋焼は、1600年代に朝鮮から招いた陶工によってもたらされた技法だ。タイ北部で出土する13―15世紀のふたつきの小鉢は、壺屋焼でおなじみの黒砂糖などを入れておく小鉢とよく似ている・・・と、文化伝播の事実やそれらしき形跡はいろいろある。
話を涯山窯に戻そう。写真の左手前は、象嵌(ぞうがん)という技法で作った水差し。玉木さんによると、はんこを押し込んで模様をつけ、へこんだ部分に白い土を埋めて平らにし、釉薬をかけて焼く。小紋のような小さな模様の繰り返しが、端正な趣きを醸し出す。器の形が直線的なのでやや固い印象になるが、それがはんこ模様の繰り返しによく合う。
「何でも作っちゃうんです」。物静かな玉木さんが、茶目っ気たっぷりに言ったのは、デザイン系とも言うべき多様な生活雑器のこと。粉引の茶碗や水差しなどの茶道具類とは全く違った趣きの、ふだん使いのコーヒーカップや皿が、涯山窯のギャラリーにはたくさん並んでいる。製作の技法もさまざまだ。
ギャラリーを切り盛りするのは妻のあき子さん。玉木さんの作品をセンスよく並べるだけでなく、訪れる人々に作品についてていねいに説明してくれる。あき子さんがいれる香り高いコーヒーも魅力(300円)。毎年12月中旬には窯出しでにぎわうそうだ。
涯山窯は、南城市知念字具志堅268-1、電話098-948-7644。水曜休。ギャラリーは10時30分から18時30分まで。国道331号線の斎場御嶽入り口から2.5kmほど糸満方向に行ったところの右手に「涯山窯」の小さな看板が出ているので、そこから山に上がる道を入っていく。
2008年02月18日
[第41話 食] 林道という名の癒し系居酒屋
やんばるの森を走る大国(おおくに)林道。国頭村字与那から大宜味村字大保までを結ぶ全長35.5kmのこの林道を、そのまま店名にしてしまった名護市内の居酒屋がある。シャッター通りが多い名護の旧市街で頑張っている店の一つだ。
大国林道の店内は、入り口から店内テーブル、カウンターまですべて木造り。それだけで心地よく、癒される。第16話の那覇空港の記事でも書いたように、木は「涼しくて温かい」「高級感があって親しみやすい」という互いに矛盾する特徴が同居している。考えてみれば何とも不思議な素材だ。
店内の分厚い木材はやんばるのリュウキュウマツなど。仲田一也店長らスタッフが手作りで作り上げたという。その仲田店長自身も、ほのぼのした雰囲気を漂わせる癒し系。混み合っている日は忙しそうに店内を飛び回っているが、手があけば、おしゃべりの相手をしてくれる。
入り口から泡盛古酒の入ったカメがずらりと並ぶ。15年ものの古酒もあるが、これはかなり値がはる。そんなすごい古酒でなくても、おいしい酒がいろいろ用意されている。例えば、店の常用酒として出している地元名護の「國華」。1合600円だが、味わい深く、十分に楽しめる。
料理も全般に、エッジの立った鋭い味というよりは、どことなくほのぼのした味わいだ。各種チャンプルーやグルクンの唐揚げなど、沖縄料理の定番がそろっているが、ここでは個性的な料理をいくつか紹介しよう。まず、砂肝のニンニクいため。砂肝のこりこりした食感にニンニクがよくマッチしていて、ビールにも泡盛にも合う。
豚タンのニンニク焼き。牛タンでなく豚タンというところが、豚王国沖縄らしさをよく表している。こちらもニンニク味だが、砂肝と違って味がある豚タン自体がニンニクと互角に勝負する。
三枚肉をじっくり煮込んだラフテー。ここのラフテーは、醤油ではなく、みそ味。豚汁の例を持ち出すまでもないが、豚と味噌は相性がとてもいい。豚三枚肉のコクに味噌のしっかりした味がよく絡んで、おいしい。
パパイヤチャンプルー。沖縄では、熟していない青パパイヤを野菜としてよく食べる。インドでは授乳中の母親に青パパイヤを食べさせるそうだ。青パパイヤには乳がよく出る成分が含まれているらしい。青パパイヤは、調理する際、味がしみるのに少し時間がかかるので、だしを少し入れ、フタをしていため煮にするとよい。大国林道のパパイヤチャンプルーも、味をよく含んでしっとりとおいしく仕上がっている。
模合や同窓グループなどの地元客が多いが、ホテルの食事に飽きた観光客も利用している。大国林道は、沖縄県名護市大東1−14−12、0980-54-5959。日曜定休。
大国林道の店内は、入り口から店内テーブル、カウンターまですべて木造り。それだけで心地よく、癒される。第16話の那覇空港の記事でも書いたように、木は「涼しくて温かい」「高級感があって親しみやすい」という互いに矛盾する特徴が同居している。考えてみれば何とも不思議な素材だ。
店内の分厚い木材はやんばるのリュウキュウマツなど。仲田一也店長らスタッフが手作りで作り上げたという。その仲田店長自身も、ほのぼのした雰囲気を漂わせる癒し系。混み合っている日は忙しそうに店内を飛び回っているが、手があけば、おしゃべりの相手をしてくれる。
入り口から泡盛古酒の入ったカメがずらりと並ぶ。15年ものの古酒もあるが、これはかなり値がはる。そんなすごい古酒でなくても、おいしい酒がいろいろ用意されている。例えば、店の常用酒として出している地元名護の「國華」。1合600円だが、味わい深く、十分に楽しめる。
料理も全般に、エッジの立った鋭い味というよりは、どことなくほのぼのした味わいだ。各種チャンプルーやグルクンの唐揚げなど、沖縄料理の定番がそろっているが、ここでは個性的な料理をいくつか紹介しよう。まず、砂肝のニンニクいため。砂肝のこりこりした食感にニンニクがよくマッチしていて、ビールにも泡盛にも合う。
豚タンのニンニク焼き。牛タンでなく豚タンというところが、豚王国沖縄らしさをよく表している。こちらもニンニク味だが、砂肝と違って味がある豚タン自体がニンニクと互角に勝負する。
三枚肉をじっくり煮込んだラフテー。ここのラフテーは、醤油ではなく、みそ味。豚汁の例を持ち出すまでもないが、豚と味噌は相性がとてもいい。豚三枚肉のコクに味噌のしっかりした味がよく絡んで、おいしい。
パパイヤチャンプルー。沖縄では、熟していない青パパイヤを野菜としてよく食べる。インドでは授乳中の母親に青パパイヤを食べさせるそうだ。青パパイヤには乳がよく出る成分が含まれているらしい。青パパイヤは、調理する際、味がしみるのに少し時間がかかるので、だしを少し入れ、フタをしていため煮にするとよい。大国林道のパパイヤチャンプルーも、味をよく含んでしっとりとおいしく仕上がっている。
模合や同窓グループなどの地元客が多いが、ホテルの食事に飽きた観光客も利用している。大国林道は、沖縄県名護市大東1−14−12、0980-54-5959。日曜定休。
2008年02月12日
[第40話 農] 熱田の海の恵み、アーサ
アーサを収穫する季節になった。沖縄ではアーサをよく食べる。和名でヒトエグサというノリの仲間。沖縄のあちこちの海でとれるが、養殖でまとまった量を生産しているのは北中城村の熱田だ。ここが県内生産の6割以上を占める。
熱田の海に網を張っておくと、アーサは自然に生えてくる。種付けや育苗がいらない自然任せの養殖といえるが、網の張り方にはいろいろ技術があるようだ。毎年11月ごろ網を張り、2月くらいから本格的に収穫する。
上の2枚の写真のうち、初めの方が芽が出て間もない頃で、2枚目はそれがいくぶん成長した段階。干潮時、網が水面より上に出た時に撮影した。
アーサは、乾燥させたものが県内のスーパー各店や沖縄みやげの店で売られているが、生か、生をそのまま冷凍したものの方が断然おいしい。乾燥アーサに比べて、生のアーサは、色と舌ざわりのなめらかさが一段上をいく。
アーサ汁が代表的な食べ方。濃いめのかつおだしをとり、塩で味を整える。好みで少量の醤油を入れてもいいが、きれいなアーサの色を邪魔したくないので、薄口醤油を少量使うにとどめたい。アーサを入れ、細かくあられに切った豆腐を散らす。アーサを入れてから長時間加熱すると色があせるので注意。
アーサ自体にはそれほど強い味はないが、たっぷり入れると、とろ味を伴う不思議な食感が楽しめる。青みを帯びた透明な深い緑色が実にきれいで、かすかな海の香りが食欲を刺激する。味噌汁に入れてもおいしい。
乾燥ものは、このとろみが弱く、どうしてもいくぶんカサカサする。色もあせた感じになりがちだ。
冷凍アーサは北中城漁協や、沖縄市漁協の直売店パヤオで売っている。500gで800円。量が多いが、8つくらいに切り分け、1つずつラップして冷凍庫で保存すれば、かなりもつ。1つがアーサ汁3、4杯分なので、必要な量だけ使っていけばよい。
アーサに関する問い合わせは、北中城村漁業組合まで。北中城村字熱田2070-7、098-935-4955。
熱田の海に網を張っておくと、アーサは自然に生えてくる。種付けや育苗がいらない自然任せの養殖といえるが、網の張り方にはいろいろ技術があるようだ。毎年11月ごろ網を張り、2月くらいから本格的に収穫する。
上の2枚の写真のうち、初めの方が芽が出て間もない頃で、2枚目はそれがいくぶん成長した段階。干潮時、網が水面より上に出た時に撮影した。
アーサは、乾燥させたものが県内のスーパー各店や沖縄みやげの店で売られているが、生か、生をそのまま冷凍したものの方が断然おいしい。乾燥アーサに比べて、生のアーサは、色と舌ざわりのなめらかさが一段上をいく。
アーサ汁が代表的な食べ方。濃いめのかつおだしをとり、塩で味を整える。好みで少量の醤油を入れてもいいが、きれいなアーサの色を邪魔したくないので、薄口醤油を少量使うにとどめたい。アーサを入れ、細かくあられに切った豆腐を散らす。アーサを入れてから長時間加熱すると色があせるので注意。
アーサ自体にはそれほど強い味はないが、たっぷり入れると、とろ味を伴う不思議な食感が楽しめる。青みを帯びた透明な深い緑色が実にきれいで、かすかな海の香りが食欲を刺激する。味噌汁に入れてもおいしい。
乾燥ものは、このとろみが弱く、どうしてもいくぶんカサカサする。色もあせた感じになりがちだ。
冷凍アーサは北中城漁協や、沖縄市漁協の直売店パヤオで売っている。500gで800円。量が多いが、8つくらいに切り分け、1つずつラップして冷凍庫で保存すれば、かなりもつ。1つがアーサ汁3、4杯分なので、必要な量だけ使っていけばよい。
アーサに関する問い合わせは、北中城村漁業組合まで。北中城村字熱田2070-7、098-935-4955。
2008年02月06日
[第39話 食] キラキラ光る中国家庭料理の店
「勢いのある飲食店」とはこういう店なんだな、と思わせる那覇の中華料理店「燕郷房 中国家常菜」。読み方は、やんきょうふぁん。料理も、店の雰囲気も、キラキラと光っている。
掲げる旗印は、広東料理でも四川料理でもなく、中国家庭料理。だからおこげ料理から、おなじみの麻婆豆腐、回鍋肉まで、ざまざまな味が楽しめる。
まずは、いためものを3種、紹介しよう。ホタテと季節野菜の塩いため、鶏・ネギ・カシューナッツの塩いため、牛肉セロリのブラックビーンズいため。いずれも、複数の素材と調味料が上手に組み合わされていて、思わず箸がのびてしまう。
ブラックビーンズは豆鼓(ドウチ)のこと。深く発酵した豆味噌のようなもので、うまみの固まり。日本の大徳寺納豆に似た調味料。皿に残った豆鼓のソースをごはんに乗せて食べると、実にうまい。
さてさて、次のおこげが絶品だ。海鮮野菜あんもおいしいが、おこげ自体の作り方が非常に巧み。ヘンに歯に障ることなく、最初から最後までサクサクと軽い。あんと一緒に口の中で心地よくほどけていく。
チャーハンは、じゃこ青ネギチャーハンにした。青ネギが信じられないくらいたっぷり入っていて、香りの基調を作っている。
麺は、アサリ青ネギやきそば。ニンニクの香りをじっくり引き出したところにアサリの強いうまみが加わる。そのスープの味をしみ込ませたタイプのやきそばだ。これも青ネギがたっぷり。
ホールスタッフの動きがいい。ときどき客席に声をかけて客とやりとりするのだが、そのタイミングが心地よい。やりとりの内容も浅すぎず、深すぎず。忙しそうにしているが、出す料理についてのちょっとした質問には、足を止めて、ていねいに答えてくれる。総じて、適当にかまってもらって嬉しく、勝手にのびのびさせてもらって楽しい店、という感じだろうか。
男同士の飲み会はもちろん、女性グループでもいいし、家族連れにも向いている。内装は、造りすぎという感じもしないではないが、この手が好きな人には楽しいだろう。
モノレール美栄橋駅近くで繁盛していたが、手狭だったので拡張移転したばかり。拡張すると味が落ちる店もあるようだが、この店についてはその心配はなさそうだ。現在の店は、同じモノレールの旭橋駅が近い。
那覇市泉崎1-11-3、098-862-0011。年中無休。ランチの営業はない。1品1000円前後。1人3000円分も食べれば、普通の人はおなか一杯になる(酒代を含まない)。
掲げる旗印は、広東料理でも四川料理でもなく、中国家庭料理。だからおこげ料理から、おなじみの麻婆豆腐、回鍋肉まで、ざまざまな味が楽しめる。
まずは、いためものを3種、紹介しよう。ホタテと季節野菜の塩いため、鶏・ネギ・カシューナッツの塩いため、牛肉セロリのブラックビーンズいため。いずれも、複数の素材と調味料が上手に組み合わされていて、思わず箸がのびてしまう。
ブラックビーンズは豆鼓(ドウチ)のこと。深く発酵した豆味噌のようなもので、うまみの固まり。日本の大徳寺納豆に似た調味料。皿に残った豆鼓のソースをごはんに乗せて食べると、実にうまい。
さてさて、次のおこげが絶品だ。海鮮野菜あんもおいしいが、おこげ自体の作り方が非常に巧み。ヘンに歯に障ることなく、最初から最後までサクサクと軽い。あんと一緒に口の中で心地よくほどけていく。
チャーハンは、じゃこ青ネギチャーハンにした。青ネギが信じられないくらいたっぷり入っていて、香りの基調を作っている。
麺は、アサリ青ネギやきそば。ニンニクの香りをじっくり引き出したところにアサリの強いうまみが加わる。そのスープの味をしみ込ませたタイプのやきそばだ。これも青ネギがたっぷり。
ホールスタッフの動きがいい。ときどき客席に声をかけて客とやりとりするのだが、そのタイミングが心地よい。やりとりの内容も浅すぎず、深すぎず。忙しそうにしているが、出す料理についてのちょっとした質問には、足を止めて、ていねいに答えてくれる。総じて、適当にかまってもらって嬉しく、勝手にのびのびさせてもらって楽しい店、という感じだろうか。
男同士の飲み会はもちろん、女性グループでもいいし、家族連れにも向いている。内装は、造りすぎという感じもしないではないが、この手が好きな人には楽しいだろう。
モノレール美栄橋駅近くで繁盛していたが、手狭だったので拡張移転したばかり。拡張すると味が落ちる店もあるようだが、この店についてはその心配はなさそうだ。現在の店は、同じモノレールの旭橋駅が近い。
那覇市泉崎1-11-3、098-862-0011。年中無休。ランチの営業はない。1品1000円前後。1人3000円分も食べれば、普通の人はおなか一杯になる(酒代を含まない)。
2008年01月31日
[第38話 沖縄] 三線片手に歌える民謡広場
検索エンジンで「三線教室」を調べると、全国各地の三線教室情報がズラリと出てくる。この勢いだと、習っている人たちの層も、入門者からセミプロ級まで、既にだいぶ厚くなっていることだろう。
沖縄民謡も、ある程度うまくなってくれば、三線片手に人前で歌ってみたい、という気になるものだ。
沖縄には、コザを中心に民謡クラブがいくつかあるが、有名なプロの民謡歌手が経営する店がほとんど。言ってみれば有名歌手のライブハウスなので、セミプロはもちろん、初心者の出番など全くない。
一方、カラオケでは、歌は歌えるが、自分で三線を演奏することができない。「歌三線(うたさんしん)」という言葉があるように、沖縄民謡は三線を弾きながら歌うのが基本。「歌だけ」では成り立たない。
そんな中で、沖縄民謡の初心者でも気軽にステージに立たせてもらえる店が、うるま市にでき、民謡愛好家の間で人気を呼んでいる。
「民謡広場 嘉手久」。経営しているのは、自身もセミプロ民謡歌手の高江洲康栄さん。高江洲さんは、地元新聞社主催の民謡の新人賞、優秀賞、最高賞の各階段を順当に上り、現在は教師。師範の一つ手前のところにいる。そろそろCDを出したらどうか、という声が周囲から聞こえてくるが、自身は「まだまだ」と笑う。
高江洲さんが民謡広場を始めたのは、そういう場がなくて自分自身が困ったから。「民謡クラブは、きちんと着物をつけた大先生がステージに立つから、われわれはとても出られない。でも、ステージで演奏する機会を積まないと、人前で演奏できるようにならないんですよ」と高江洲さん。
民謡広場嘉手久では、午後8時の開店から1時間もすると、呼び水役として高江洲さん自身がまずミニステージに上がって、数曲演奏する。その後は、客が次々にステージに上がっては、三線片手に民謡をうなる。
嘉手久では、高江洲さんも着物をつけず、普段着のまま。「着物だと、どうしても堅苦しくなるでしょう」。客と同じ高さに立つことで、気軽にステージに出てもらいたい、という気配りだ。
安さも魅力。有名歌手の民謡クラブは「ライブハウス+スナック」なので、しっかり飲めば1万5000円くらいかかることも珍しくない。嘉手久の場合は「お客さん自身が演奏を楽しむ場所だから」と高江洲さんは価格を大幅に抑えている。「かなり飲んでも5000円まではいきません」と妻の吉子さん。
あそこならステージに立てる、という話を聞きつけて、沖縄民謡を習っている愛好家が遊びと練習を兼ねてやってくる。本土から来る人もたまにいるらしい。
三線片手に一度人前で沖縄民謡を歌ってみたい、という人にお勧め。店内は沖縄方言が飛び交うが、気さくな高江洲さん夫妻は、だれでも気持ちよくもてなしてくれる。午後9時すぎに行って、泡盛をチビチビやりながら、高江洲さん夫妻や他の客と話していると、そのうち演奏が始まる。さあ、あなたもミニステージへ。もちろん、人の演奏を聞くだけでも楽しい。
民謡広場嘉手久は、うるま市平良川111地階、電話098-973-1200。月曜定休。
沖縄民謡も、ある程度うまくなってくれば、三線片手に人前で歌ってみたい、という気になるものだ。
沖縄には、コザを中心に民謡クラブがいくつかあるが、有名なプロの民謡歌手が経営する店がほとんど。言ってみれば有名歌手のライブハウスなので、セミプロはもちろん、初心者の出番など全くない。
一方、カラオケでは、歌は歌えるが、自分で三線を演奏することができない。「歌三線(うたさんしん)」という言葉があるように、沖縄民謡は三線を弾きながら歌うのが基本。「歌だけ」では成り立たない。
そんな中で、沖縄民謡の初心者でも気軽にステージに立たせてもらえる店が、うるま市にでき、民謡愛好家の間で人気を呼んでいる。
「民謡広場 嘉手久」。経営しているのは、自身もセミプロ民謡歌手の高江洲康栄さん。高江洲さんは、地元新聞社主催の民謡の新人賞、優秀賞、最高賞の各階段を順当に上り、現在は教師。師範の一つ手前のところにいる。そろそろCDを出したらどうか、という声が周囲から聞こえてくるが、自身は「まだまだ」と笑う。
高江洲さんが民謡広場を始めたのは、そういう場がなくて自分自身が困ったから。「民謡クラブは、きちんと着物をつけた大先生がステージに立つから、われわれはとても出られない。でも、ステージで演奏する機会を積まないと、人前で演奏できるようにならないんですよ」と高江洲さん。
民謡広場嘉手久では、午後8時の開店から1時間もすると、呼び水役として高江洲さん自身がまずミニステージに上がって、数曲演奏する。その後は、客が次々にステージに上がっては、三線片手に民謡をうなる。
嘉手久では、高江洲さんも着物をつけず、普段着のまま。「着物だと、どうしても堅苦しくなるでしょう」。客と同じ高さに立つことで、気軽にステージに出てもらいたい、という気配りだ。
安さも魅力。有名歌手の民謡クラブは「ライブハウス+スナック」なので、しっかり飲めば1万5000円くらいかかることも珍しくない。嘉手久の場合は「お客さん自身が演奏を楽しむ場所だから」と高江洲さんは価格を大幅に抑えている。「かなり飲んでも5000円まではいきません」と妻の吉子さん。
あそこならステージに立てる、という話を聞きつけて、沖縄民謡を習っている愛好家が遊びと練習を兼ねてやってくる。本土から来る人もたまにいるらしい。
三線片手に一度人前で沖縄民謡を歌ってみたい、という人にお勧め。店内は沖縄方言が飛び交うが、気さくな高江洲さん夫妻は、だれでも気持ちよくもてなしてくれる。午後9時すぎに行って、泡盛をチビチビやりながら、高江洲さん夫妻や他の客と話していると、そのうち演奏が始まる。さあ、あなたもミニステージへ。もちろん、人の演奏を聞くだけでも楽しい。
民謡広場嘉手久は、うるま市平良川111地階、電話098-973-1200。月曜定休。
2008年01月25日
[第37話 食] 屋良敦さんが教える魚のマース煮
マースは塩。「マース煮」を直訳すると「塩煮」になる。第23話で紹介したような塩焼きではない。煮るのだ。煮魚といえば、醤油やみりんで甘辛く煮たものが本土では多いようだが、沖縄ではこのマース煮がよく作られる。
甘辛い煮つけだと、味の主役は甘辛の煮汁で、魚の味はうまみとして煮汁の土台になる。が、マース煮の場合は、塩でデフォルメされた魚の香りと味がストレートに迫ってくるので、「魚を食べている」という実感がわく。同じ煮魚でも、甘辛味とはだいぶ違った味わいだ。
沖縄が誇る和食の名人、屋良敦さんに、マース煮の作り方を教えてもらった。まず、マース煮にする魚は白身の魚を使う。沖縄ではエーグワー(アイゴ)をよく使う。高級な魚ではないとされているが、面白いことに、マース煮にした時はこのエーグワーがとてもおいしい。固すぎず、柔らかすぎずのエーグワーの白身の食感が、塩で煮た時に引き立つようだ。
「魚は新鮮なものを使って下さい」と屋良さん。塩だけで煮るので、生臭ければそれがまともに出てしまうからだ。エーグワーは内蔵の苦みが強いので、すべて取り出して、腹の中をよく洗う。臭みが気になる場合は、さっと熱湯にくぐらせ、いわゆる霜降りにするとよい。
まず、魚が半分くらいひたる煮汁を作る。ここでは水2カップ、泡盛1カップに塩小さじ1前後を入れた。臭み消しの生姜を加え、煮立てる。魚を入れ、落としぶたをして中火で煮る。濃いめの味にしたければ昆布を敷いてもよいが、昆布なしでも十分おいしい。煮る時間は魚の大きさによるが、長さ25cmぐらいの魚で10分ほど。
魚は尾かしらつきが基本で、切り身ではあまりやらない。出来上がったら、塩味の煮汁をつけながら熱いうちに食べる。屋良さんは今回、特別に、魚の周囲にアーサをあしらって、地味な色のエーグワーの皿に彩りを添えてくれた。アーサは色だけでなく、その海の香りがマース煮を引き立てる。煮汁のうまみを味わうのにも、アーサがあると具合がいい。
酢じめしか食べ方がないコハダのように、エーグワーもマース煮以外にはおいしい食べ方がないのではないかと思わせる。実際、この魚を焼魚や唐揚げにして食べるという話は聞いたことがない。
マース煮は、高級魚ミーバイ(ハタ)でももちろんおいしい。ビタロー、アカマチなどでもいける。マース煮を経験したことのない人は、塩だけで煮るなんて、と思うかもしれないが、目からウロコのおいしさであること請け合い。一度お試しを。
甘辛い煮つけだと、味の主役は甘辛の煮汁で、魚の味はうまみとして煮汁の土台になる。が、マース煮の場合は、塩でデフォルメされた魚の香りと味がストレートに迫ってくるので、「魚を食べている」という実感がわく。同じ煮魚でも、甘辛味とはだいぶ違った味わいだ。
沖縄が誇る和食の名人、屋良敦さんに、マース煮の作り方を教えてもらった。まず、マース煮にする魚は白身の魚を使う。沖縄ではエーグワー(アイゴ)をよく使う。高級な魚ではないとされているが、面白いことに、マース煮にした時はこのエーグワーがとてもおいしい。固すぎず、柔らかすぎずのエーグワーの白身の食感が、塩で煮た時に引き立つようだ。
「魚は新鮮なものを使って下さい」と屋良さん。塩だけで煮るので、生臭ければそれがまともに出てしまうからだ。エーグワーは内蔵の苦みが強いので、すべて取り出して、腹の中をよく洗う。臭みが気になる場合は、さっと熱湯にくぐらせ、いわゆる霜降りにするとよい。
まず、魚が半分くらいひたる煮汁を作る。ここでは水2カップ、泡盛1カップに塩小さじ1前後を入れた。臭み消しの生姜を加え、煮立てる。魚を入れ、落としぶたをして中火で煮る。濃いめの味にしたければ昆布を敷いてもよいが、昆布なしでも十分おいしい。煮る時間は魚の大きさによるが、長さ25cmぐらいの魚で10分ほど。
魚は尾かしらつきが基本で、切り身ではあまりやらない。出来上がったら、塩味の煮汁をつけながら熱いうちに食べる。屋良さんは今回、特別に、魚の周囲にアーサをあしらって、地味な色のエーグワーの皿に彩りを添えてくれた。アーサは色だけでなく、その海の香りがマース煮を引き立てる。煮汁のうまみを味わうのにも、アーサがあると具合がいい。
酢じめしか食べ方がないコハダのように、エーグワーもマース煮以外にはおいしい食べ方がないのではないかと思わせる。実際、この魚を焼魚や唐揚げにして食べるという話は聞いたことがない。
マース煮は、高級魚ミーバイ(ハタ)でももちろんおいしい。ビタロー、アカマチなどでもいける。マース煮を経験したことのない人は、塩だけで煮るなんて、と思うかもしれないが、目からウロコのおいしさであること請け合い。一度お試しを。
2008年01月19日
[第36話 食、南] シトギ文化の一翼担うムーチー
旧暦12月8日はムーチー。ことしの新暦では1月15日にあたる。この日は、家庭でサンニン(月桃)の葉に包んで蒸したムーチーを作って食べるならわしだ。
サンニンの葉には殺菌成分が豊富に含まれている。ムーチー作りの時は、家の消毒を兼ねているんじゃないかと思うくらい、サンニンの強い香りが部屋じゅうに漂う。
ムーチーに漢字をあてる時は「鬼餅」と書く。鬼餅の由来として、鬼になった兄を妹が退治するというすごい民話があるが、そのお話は他のサイトに詳しいので、そちらに譲る。「鬼餅」「ムーチー」で検索すると、たくさん出てくる。
ムーチーは和語の「モチ」に当たるが、本土のモチと沖縄のムーチーには決定的な違いがある。それは本土のモチが、蒸したモチ米を臼と杵でつき上げるのに対し、沖縄のムーチーは、生のモチ米粉に水や砂糖を加えて形を整え、最後に蒸して加熱するという点だ。
ムーチーのように、米粉に水を加えて練ったものをシトギと呼ぶ。もともとは水に浸して柔らかくした生のモチ米を臼でひき、ペースト状にしたものを指した。シトギを加熱すれば、出来上がりはモチのようになるが、歯ごたえは、ついたモチの方が強い。
シトギは、米粉加工品なので、いろいろと姿を変えて展開していく。名著『栽培植物と農耕の起源』『料理の起源』で知られる中尾佐助は、シトギの展開を一つの文化圏と読み解いている。例えば、中国・台湾で米粉から作られる「ビーフン」、フィリピンの米粉蒸しパン「プト」、スリランカの米粉薄焼き「アッパ(ホッパー)」などは、すべてシトギから作られ、一つの文化圏を形成している、というわけだ。
シトギにほかならないムーチーも、こうしたアジアのシトギ文化の一翼を担っているといえそうだ。沖縄にはムーチーをはじめ、小豆を乗せたフチャギや味噌入りのナントゥーといったモチ類があるが、いずれもシトギ。ついたモチは見られない。
日本本土でも加熱しない生シトギが各地で神事に使われてきており、中国南部に発するとみられるシトギ文化の、いわば北限に位置づけられるらしい。
さて、ムーチーの作り方はいたってシンプル。用意するものは、モチ米粉(白玉粉)、水、サンニンの葉。味付け用に、砂糖、黒砂糖、紅芋粉など、好きなものを適宜用意する。
粉と水に砂糖類をよく混ぜ、耳たぶくらいの固さにする。生シトギの状態だ。ピンポン玉2つくらいの分量をとり、楕円形にして、サンニンの葉の中央に乗せる。サンニンの葉を三つ折りにして、真ん中をワラかヒモでゆわえ、葉が開かないようにして、20分ほど蒸せば出来上がり。
子供たちは自分の歳の数だけムーチーをぶら下げておいて、毎日少しずつ食べていく。初めにも書いたように、サンニンの葉には殺菌作用があるので、冬でも15度を切ることが珍しい沖縄でさえ、そのまま置いておいても、1週間くらいはカビが生えない。
サンニンの葉には殺菌成分が豊富に含まれている。ムーチー作りの時は、家の消毒を兼ねているんじゃないかと思うくらい、サンニンの強い香りが部屋じゅうに漂う。
ムーチーに漢字をあてる時は「鬼餅」と書く。鬼餅の由来として、鬼になった兄を妹が退治するというすごい民話があるが、そのお話は他のサイトに詳しいので、そちらに譲る。「鬼餅」「ムーチー」で検索すると、たくさん出てくる。
ムーチーは和語の「モチ」に当たるが、本土のモチと沖縄のムーチーには決定的な違いがある。それは本土のモチが、蒸したモチ米を臼と杵でつき上げるのに対し、沖縄のムーチーは、生のモチ米粉に水や砂糖を加えて形を整え、最後に蒸して加熱するという点だ。
ムーチーのように、米粉に水を加えて練ったものをシトギと呼ぶ。もともとは水に浸して柔らかくした生のモチ米を臼でひき、ペースト状にしたものを指した。シトギを加熱すれば、出来上がりはモチのようになるが、歯ごたえは、ついたモチの方が強い。
シトギは、米粉加工品なので、いろいろと姿を変えて展開していく。名著『栽培植物と農耕の起源』『料理の起源』で知られる中尾佐助は、シトギの展開を一つの文化圏と読み解いている。例えば、中国・台湾で米粉から作られる「ビーフン」、フィリピンの米粉蒸しパン「プト」、スリランカの米粉薄焼き「アッパ(ホッパー)」などは、すべてシトギから作られ、一つの文化圏を形成している、というわけだ。
シトギにほかならないムーチーも、こうしたアジアのシトギ文化の一翼を担っているといえそうだ。沖縄にはムーチーをはじめ、小豆を乗せたフチャギや味噌入りのナントゥーといったモチ類があるが、いずれもシトギ。ついたモチは見られない。
日本本土でも加熱しない生シトギが各地で神事に使われてきており、中国南部に発するとみられるシトギ文化の、いわば北限に位置づけられるらしい。
さて、ムーチーの作り方はいたってシンプル。用意するものは、モチ米粉(白玉粉)、水、サンニンの葉。味付け用に、砂糖、黒砂糖、紅芋粉など、好きなものを適宜用意する。
粉と水に砂糖類をよく混ぜ、耳たぶくらいの固さにする。生シトギの状態だ。ピンポン玉2つくらいの分量をとり、楕円形にして、サンニンの葉の中央に乗せる。サンニンの葉を三つ折りにして、真ん中をワラかヒモでゆわえ、葉が開かないようにして、20分ほど蒸せば出来上がり。
子供たちは自分の歳の数だけムーチーをぶら下げておいて、毎日少しずつ食べていく。初めにも書いたように、サンニンの葉には殺菌作用があるので、冬でも15度を切ることが珍しい沖縄でさえ、そのまま置いておいても、1週間くらいはカビが生えない。
2008年01月13日
[第35話 沖縄] 沖縄宿の裏技 ウィークリーマンション
敬老の日や体育の日を月曜日にしたために連休が増え、遠出しやすくなった。そのせいか、連休前後に「那覇のホテルがとれないで困っている」という話を旅行者からよく聞く。そんな時に那覇で快適に泊る裏技をご紹介。
多少をお金がかかっても休日気分を、という人には向かないかもしれないが、ビジネスがらみで来る人、プライバシーが守れて安心して泊れれば十分という人なら、ウィークリーマンションをお勧めする。那覇周辺はウィークリーマンションが増えてきたが、その草分け的存在が、県庁近くの泉崎にあるハーバービューマンションだ。
受付の砂川康成さんによると、ここは週貸しで始めたが、1泊、2泊の短期滞在ニーズにも応えられるようにと、ホテルとしての営業許可も取得した。もちろんホテルではないので、ホテル仕様のフルサービスは受けられない。例えば、ホテルのような立派なロビーやフロントはないし、朝食を食べるところもない。
だが、室内には炊飯器やオーブントースター、電子レンジ、ガスコンロなどがあって、鍋類も用意されているから、自炊するのは問題ない。本格的に作らなくても、近くにコンビニやスーパーがあるから、ちょっと温めれば食べられるものを買ってきて、簡単にすませることができる。
この調理機能をフル活用する手もある。料理好きの家族、グループなら、那覇・牧志の公設市場などで新鮮な魚や肉、島野菜を買ってきて、部屋でワイワイ調理しながら食べれば、好みのアレンジの沖縄料理がお値打ちに楽しめる(調味料類は自分で用意すること)。こういう場所を利用して、沖縄での生鮮食品の買い物と料理を主目的にした旅を企画するのも一興だろう。下の写真は、牧志公設市場1階で売られている色とりどりの魚たち。ちなみに、一番手前が最高級魚のアカジンミーバイ。高いが、刺身で食べたら脱帽のうまさだ。
入居時には新しいシーツが敷かれている。滞在中はベッドメーキングが標準サービスになっていないが、あらかじめ希望しておけば1回1000円でやってくれる。4、5日滞在するなら途中で1回やってもらえばいい。
シングルで17平米、ツインで28平米あるから、よくあるビジネスホテルより広め。シングルで1泊5450円、ツイン2人で1泊7480円。リゾートっぽい雰囲気にこだわらず、こざっぱりした室内で泊れれば十分、という人にはピッタリだ。国際通りや那覇バスターミナルにも近くて便利。ただし、レンタカーを利用する場合、駐車できる台数は限られている。
1週間以上滞在するなら、天久新都心にもウィークリーマンションがいくつかあるので、そこも同じように利用できる。ハーバービューマンションは那覇市泉崎2-101-3、098-855-8111。ホームページ http://www.okinawa-weekly.com/ からも予約可能。
多少をお金がかかっても休日気分を、という人には向かないかもしれないが、ビジネスがらみで来る人、プライバシーが守れて安心して泊れれば十分という人なら、ウィークリーマンションをお勧めする。那覇周辺はウィークリーマンションが増えてきたが、その草分け的存在が、県庁近くの泉崎にあるハーバービューマンションだ。
受付の砂川康成さんによると、ここは週貸しで始めたが、1泊、2泊の短期滞在ニーズにも応えられるようにと、ホテルとしての営業許可も取得した。もちろんホテルではないので、ホテル仕様のフルサービスは受けられない。例えば、ホテルのような立派なロビーやフロントはないし、朝食を食べるところもない。
だが、室内には炊飯器やオーブントースター、電子レンジ、ガスコンロなどがあって、鍋類も用意されているから、自炊するのは問題ない。本格的に作らなくても、近くにコンビニやスーパーがあるから、ちょっと温めれば食べられるものを買ってきて、簡単にすませることができる。
この調理機能をフル活用する手もある。料理好きの家族、グループなら、那覇・牧志の公設市場などで新鮮な魚や肉、島野菜を買ってきて、部屋でワイワイ調理しながら食べれば、好みのアレンジの沖縄料理がお値打ちに楽しめる(調味料類は自分で用意すること)。こういう場所を利用して、沖縄での生鮮食品の買い物と料理を主目的にした旅を企画するのも一興だろう。下の写真は、牧志公設市場1階で売られている色とりどりの魚たち。ちなみに、一番手前が最高級魚のアカジンミーバイ。高いが、刺身で食べたら脱帽のうまさだ。
入居時には新しいシーツが敷かれている。滞在中はベッドメーキングが標準サービスになっていないが、あらかじめ希望しておけば1回1000円でやってくれる。4、5日滞在するなら途中で1回やってもらえばいい。
シングルで17平米、ツインで28平米あるから、よくあるビジネスホテルより広め。シングルで1泊5450円、ツイン2人で1泊7480円。リゾートっぽい雰囲気にこだわらず、こざっぱりした室内で泊れれば十分、という人にはピッタリだ。国際通りや那覇バスターミナルにも近くて便利。ただし、レンタカーを利用する場合、駐車できる台数は限られている。
1週間以上滞在するなら、天久新都心にもウィークリーマンションがいくつかあるので、そこも同じように利用できる。ハーバービューマンションは那覇市泉崎2-101-3、098-855-8111。ホームページ http://www.okinawa-weekly.com/ からも予約可能。
2008年01月07日
[第34話 食] 静かに守る首里の味
琉球料理の正統派、古都・首里の味をひっそりと守っている店を紹介する。ともに首里に生まれ育った富名腰久雄さん、米子さん夫妻が経営する富久屋。「私たち2人の舌で覚えている首里の味をお出ししています」と久雄さんが語る。
まずは、むじぬ汁から(「の」が、琉球語では「ぬ」になる)。「むじ」とは、ターウム(田芋)の茎。本土では、サトイモの茎のズイキが食べられるが、これに近い。むじぬ汁は、むじがみそ汁に入っており、豚の三枚肉があしらってある。祝いごとがあると、首里ではむじぬ汁が作られたという。むじはシャクシャクした独特の歯ごたえがある。
同じみそ仕立ての汁でも、むじぬ汁とは全く違うのが、いなむどぅち。こちらは甘い白みそ仕立てで、豚肉やこんにゃく、かまぼこなどが入っている。汁はいくぶんとろみがあり、コクは十分だが、不思議にしつこさはない。
豚肉に黒ごまをまぶして蒸した、みぬだる。全く脂っぽくない。さっぱりした味付けだが、うまみはしっかり感じられる。
どぅるわかしーぬあぎー。ターウムをつぶして、豚肉、かまぼこなどを加えて練ったのがどぅるわかしーで、それをまるめてあぎー(揚げもの)にしたのがこれ。第6話のままやの料理でも登場した。脇道にそれるが、「あぎー」は、さーたーあんだあぎーの「あぎー」だ(「さーたー」は砂糖=甘い、「あんだ」は油)。
小鉢では、かんぴょういりちー。かんぴょうを昆布やこんにゃくなどといっしょにいため煮にしたもの。かんぴょうにヌヌっと入っていく歯ごたえが楽しい。昆布をいため煮にしたくーぶいりちーはよくあるが、かんぴょうのものは珍しい。
ピーナツで作る地豆豆腐(じーまーみどーふ)はポピュラーな沖縄料理だが、ここの地豆豆腐はべたつかず、切れがよい。
祝膳のイメージで出している、というむじぬ汁定食についてきたごはんは赤飯だった。ただし、もち米ではなく、うるち米を使うのが首里流とのこと。
料理全体の印象は、ヘルシーで繊細な和食のイメージ(もちろん料理の中身は和食とは違うが)に、豚のうまみが加わったという感じだ。豚だしのうまみは随所に使われているが、あくまで上品で、脂っぽさや臭みは一切ない。ていねいに作られたバランスのよいごはんをいただいた満足感が残った。
定食だけでなく、富久屋は泡盛も用意しているから、一杯やりながら、首里の味を楽しむことができる。
富久屋は、首里の龍潭通りから、旧県立博物館の横の細い道を入って間もなくの右側、道から少し奥に引っ込んだところにある。場所は大人の隠れ家風だが、中は木づくりで明るく、家族連れで楽しめる。看板は一応あるが、見えにくいので、分からなければ電話を。常連客が多いようだが、初めての客も、富名腰さんが温かくもてなしてくれる。
那覇市首里当蔵町1-14、098-884-4201。営業時間は昼が11:00-15:00、夜は18:00-23:00。定食は、むじぬ汁定食が1200円、それ以外は1000円。単品は500円前後。ちゃんぷるー類や沖縄そばもある。
まずは、むじぬ汁から(「の」が、琉球語では「ぬ」になる)。「むじ」とは、ターウム(田芋)の茎。本土では、サトイモの茎のズイキが食べられるが、これに近い。むじぬ汁は、むじがみそ汁に入っており、豚の三枚肉があしらってある。祝いごとがあると、首里ではむじぬ汁が作られたという。むじはシャクシャクした独特の歯ごたえがある。
同じみそ仕立ての汁でも、むじぬ汁とは全く違うのが、いなむどぅち。こちらは甘い白みそ仕立てで、豚肉やこんにゃく、かまぼこなどが入っている。汁はいくぶんとろみがあり、コクは十分だが、不思議にしつこさはない。
豚肉に黒ごまをまぶして蒸した、みぬだる。全く脂っぽくない。さっぱりした味付けだが、うまみはしっかり感じられる。
どぅるわかしーぬあぎー。ターウムをつぶして、豚肉、かまぼこなどを加えて練ったのがどぅるわかしーで、それをまるめてあぎー(揚げもの)にしたのがこれ。第6話のままやの料理でも登場した。脇道にそれるが、「あぎー」は、さーたーあんだあぎーの「あぎー」だ(「さーたー」は砂糖=甘い、「あんだ」は油)。
小鉢では、かんぴょういりちー。かんぴょうを昆布やこんにゃくなどといっしょにいため煮にしたもの。かんぴょうにヌヌっと入っていく歯ごたえが楽しい。昆布をいため煮にしたくーぶいりちーはよくあるが、かんぴょうのものは珍しい。
ピーナツで作る地豆豆腐(じーまーみどーふ)はポピュラーな沖縄料理だが、ここの地豆豆腐はべたつかず、切れがよい。
祝膳のイメージで出している、というむじぬ汁定食についてきたごはんは赤飯だった。ただし、もち米ではなく、うるち米を使うのが首里流とのこと。
料理全体の印象は、ヘルシーで繊細な和食のイメージ(もちろん料理の中身は和食とは違うが)に、豚のうまみが加わったという感じだ。豚だしのうまみは随所に使われているが、あくまで上品で、脂っぽさや臭みは一切ない。ていねいに作られたバランスのよいごはんをいただいた満足感が残った。
定食だけでなく、富久屋は泡盛も用意しているから、一杯やりながら、首里の味を楽しむことができる。
富久屋は、首里の龍潭通りから、旧県立博物館の横の細い道を入って間もなくの右側、道から少し奥に引っ込んだところにある。場所は大人の隠れ家風だが、中は木づくりで明るく、家族連れで楽しめる。看板は一応あるが、見えにくいので、分からなければ電話を。常連客が多いようだが、初めての客も、富名腰さんが温かくもてなしてくれる。
那覇市首里当蔵町1-14、098-884-4201。営業時間は昼が11:00-15:00、夜は18:00-23:00。定食は、むじぬ汁定食が1200円、それ以外は1000円。単品は500円前後。ちゃんぷるー類や沖縄そばもある。
2008年01月01日
[第33話 農、万鐘] 鳴く雄豚
あけましておめでとうございます。万鐘本店、新年の幕開けは、正月にふさわしい子孫繁栄の話で。ただし、主役は雄豚である。
母豚は、成長して性の成熟期に入ると、21日の間隔で発情が来るようになる。1回の発情期間は2、3日で、その間しか雄を受け入れない。それ以外の時は、雄を全く相手にせず、雄が追いかけようものなら、「助けてくれ」と大声を上げながら徹底的に逃げ回る。
豚はふだん、雌雄別々の房にいるので、管理者は母豚の発情を見はからって、雄豚を母豚の房に入れ、種付けをする。ただ、発情期間中は、そわそわする母豚もいるが、そうでもないものもいて、個体差が激しい。その結果、発情をうっかり見落としてしまうことがある。一度、見落とすとまた21日待たなければならず、種付けは遅れ、生産性が落ちる。
母豚の発情を把握するには、雄豚を使うのが確実。雄豚を近づければ、発情している母豚は「受け入れ姿勢」をとり、じっと動かなくなるからだ。
ところが、万鐘の農場にいるアダムという雄豚は、もっと簡単に母豚の発情を知らせてくれる。同じ豚舎にいる母豚が1頭でも発情していると、それをちゃんと感知して、ウーウーと鳴き声を上げるのだ。アダムが鳴き声を上げることはめったにないから、ほぼ確実に分かる。まさに、生きたセンサー。「鳴いている時のアダムは、日頃の猛烈な食欲も控えめになります」と農場主任の大和田宝林は話す。
アダムのいる房から母豚が見えるとは限らない。母豚の側が特別の臭いや音などを出していて、それをアダムが感じ取るのかもしれない。そうしたメカニズムのすべてが、子孫を残すための豚の本能に基づいているのだろう。
アダムが鳴いている時は、どの母豚が発情しているかを、まず見極める。分からなければアダムを房から出して好きに歩かせれば、発情している母豚に近づいていく。母豚がいる房内で交配が終わったら、扉付近に自分からやって来る。仕事を終えたら餌をもらえることを知っているからだ。扉を開ければ、特に指示しなくても、巨体を揺らしながら廊下を走って、おいしい餌の待つ自房へまっしぐら。その安定感のある働きぶりには、大和田も厚い信頼を寄せている。
そんなアダムも、活躍の場がだんだん減ってきた。少しずつ成長を続けるうちに体が大きくなり、若くて小さい母豚だと彼が乗った時に、重くて体重を支えきれないのだ。アダムは既に300kg以上あるとみられる。このデュロックという品種の豚の雄は、350kgくらいまでは成長していく。
試みに、生まれて1週間の2kgほどの子豚をアダムの背中に乗せてみた。この2頭、れっきとした親子なのだが、まるでネズミとゾウのようだと言ったら、さすがに言い過ぎか。
大きな雄豚は、飼う側にとって、いささか危険を伴う。動物同士の力くらべは、ごく大ざっぱに言えば、まずは体重の勝負だ。万一、300kgもある雄豚と勝負するハメになれば、60kgや70kgの人間に勝ち目はない。現に養豚の世界では、雄豚に太ももを丸ごと噛み切られたというような事故がたまに起きる。むろん、人間から勝負を挑むことはないが、人間の行動を雄豚に誤解され、運悪く噛みつかれる、というような悲劇がまれに起きるのだ。
巨大な雄豚の前に立つ時は自然に「シャンとして強い気を送らなきゃ」という気持ちになる。こちらも一応、動物だからだろう。むろん命は惜しいので、勝ち目のない勝負を仕掛けるようなことは絶対しないが。
母豚は、成長して性の成熟期に入ると、21日の間隔で発情が来るようになる。1回の発情期間は2、3日で、その間しか雄を受け入れない。それ以外の時は、雄を全く相手にせず、雄が追いかけようものなら、「助けてくれ」と大声を上げながら徹底的に逃げ回る。
豚はふだん、雌雄別々の房にいるので、管理者は母豚の発情を見はからって、雄豚を母豚の房に入れ、種付けをする。ただ、発情期間中は、そわそわする母豚もいるが、そうでもないものもいて、個体差が激しい。その結果、発情をうっかり見落としてしまうことがある。一度、見落とすとまた21日待たなければならず、種付けは遅れ、生産性が落ちる。
母豚の発情を把握するには、雄豚を使うのが確実。雄豚を近づければ、発情している母豚は「受け入れ姿勢」をとり、じっと動かなくなるからだ。
ところが、万鐘の農場にいるアダムという雄豚は、もっと簡単に母豚の発情を知らせてくれる。同じ豚舎にいる母豚が1頭でも発情していると、それをちゃんと感知して、ウーウーと鳴き声を上げるのだ。アダムが鳴き声を上げることはめったにないから、ほぼ確実に分かる。まさに、生きたセンサー。「鳴いている時のアダムは、日頃の猛烈な食欲も控えめになります」と農場主任の大和田宝林は話す。
アダムのいる房から母豚が見えるとは限らない。母豚の側が特別の臭いや音などを出していて、それをアダムが感じ取るのかもしれない。そうしたメカニズムのすべてが、子孫を残すための豚の本能に基づいているのだろう。
アダムが鳴いている時は、どの母豚が発情しているかを、まず見極める。分からなければアダムを房から出して好きに歩かせれば、発情している母豚に近づいていく。母豚がいる房内で交配が終わったら、扉付近に自分からやって来る。仕事を終えたら餌をもらえることを知っているからだ。扉を開ければ、特に指示しなくても、巨体を揺らしながら廊下を走って、おいしい餌の待つ自房へまっしぐら。その安定感のある働きぶりには、大和田も厚い信頼を寄せている。
そんなアダムも、活躍の場がだんだん減ってきた。少しずつ成長を続けるうちに体が大きくなり、若くて小さい母豚だと彼が乗った時に、重くて体重を支えきれないのだ。アダムは既に300kg以上あるとみられる。このデュロックという品種の豚の雄は、350kgくらいまでは成長していく。
試みに、生まれて1週間の2kgほどの子豚をアダムの背中に乗せてみた。この2頭、れっきとした親子なのだが、まるでネズミとゾウのようだと言ったら、さすがに言い過ぎか。
大きな雄豚は、飼う側にとって、いささか危険を伴う。動物同士の力くらべは、ごく大ざっぱに言えば、まずは体重の勝負だ。万一、300kgもある雄豚と勝負するハメになれば、60kgや70kgの人間に勝ち目はない。現に養豚の世界では、雄豚に太ももを丸ごと噛み切られたというような事故がたまに起きる。むろん、人間から勝負を挑むことはないが、人間の行動を雄豚に誤解され、運悪く噛みつかれる、というような悲劇がまれに起きるのだ。
巨大な雄豚の前に立つ時は自然に「シャンとして強い気を送らなきゃ」という気持ちになる。こちらも一応、動物だからだろう。むろん命は惜しいので、勝ち目のない勝負を仕掛けるようなことは絶対しないが。