2007年12月28日
[第32話 食] 巨大ヤマイモはこうして食べる
第29話でお伝えした「やまんむすーぶ(山芋勝負)」の巨大なヤマイモは、どうやって食べるのか。沖縄の農村部では、ヤマイモは旧正月の伝統的なごちそう。旧正月はまだ先だが、そこは深く考えないことにして、ことしの年の暮れはヤマイモ料理で締めくくることにしよう。
ヤマイモの料理編は、うるま市農漁村生活研究会石川支部の新田文子支部長、山城喜代子さん、山城美佐枝さんにナビゲーターをお願いした。うるま市石川地区(旧石川市)はヤマイモ生産のメッカだ。
ヤマイモ料理の定番中の定番はこれ、ヤマイモイリチャー。作り方の前に、ちょっとだけウンチクを。
沖縄のヤマイモには、中が白いのと紅色のとがある。料理して食べるのは白が普通で、紅色のものは、その鮮やかな色を生かして菓子類を作るのに使われる。紅はイモが大きくなるので、やまんむすーぶ用には紅を植える人が多い。
「ヤマイモは11月から収穫できますが、旧正月の頃に葉が枯れ始め、イモが熟して一番おいしくなるんです」と喜代子さんが解説する。旧正月は新暦では2月ごろに当たることが多く、来年の旧正月は新暦2月7日だ。
さて、ヤマイモイリチャーの作り方、いきましょう。ヤマイモはアクがあるので、まずはアクを抜く。皮をむいたヤマイモを適当な大きさに切り、酢水に3時間ほどさらす。こうすれば、すりおろしてトロロにし、生で食べてもおいしい。
次に、アク抜きしたイモに軽く塩をふってから、蒸す。大きさによるが、2、30分蒸せば柔らかくなる。冷ましてから、食べやすい大きさに切っておく。あまり薄くするとイモらしい食感が失われるので、1cmくらいの厚さに。
豚の塩漬け「スーチカー」をこんがりといためる。脂が出てきたら、ヤマイモを加える。ヤマイモに熱が通ったら、ニラかニンニクの葉を入れ、色よく仕上げる。「(脂が出た時に)おろしニンニクを加えるとおいしいです」と文子さんが補足してくれた。
味付けは塩だけ。スーチカーに塩気があるので、全体がちょうどよくなるように味をみながら塩をふる。スーチカーのコクとヤマイモのかすかな甘味とが一体になると、なんとも言えないおいしさが生まれる。
ヤマイモイリチャーは伝統料理だが、生活改善グループのみなさんが考えた創作料理も紹介しよう。喜代子さん、美佐枝さんのイチ押しは、ヤマイモのはさみ揚げ。これも豚との相性のよさを生かした一品だ。
アク抜きして蒸したヤマイモを5、6mmの厚さに切る。スーチカーは3mmくらいの厚さに。濃厚な味が好きな人はもう少し厚くしてもいい。スライスしたヤマイモ2枚の間にスーチカーをはさみ、周りを海苔で巻く。全体を薄めの天ぷらのころもにつけ、油で揚げる。
「切ると断面がとてもきれいなんですよ」と美佐子さん。ころものサクサク感とイモのねっとり感とのコントラストが楽しい。海苔の味と香りがアクセント。
味噌仕立ての汁に、ダイコン、ニンジン、昆布、豚肉などとともに、ヤマイモをたっぷり入れたヤマイモ汁も、生活改善グループの創作料理。ヤマイモはそのままだと煮くずれしやすいので、あらかじめ油でさっと揚げておく。支部長の文子さんは、全沖縄ヤマイモスーブの日、シンメーと呼ばれる大鍋で作ったヤマイモ汁を来訪者にふるまっていた。
こうして、農村部ではヤマイモ料理がいろいろと楽しまれているが、那覇などの都市部ではほとんど見かけない。ヤマイモがスーパーなどの物流に全く乗っていないからだ。
だが、最近は健康ブームの影響もあってか、ヤマイモの人気が再び出始めているという。文子さんたちのグループでは既に20種類以上のヤマイモ料理を開発ずみ。伝統料理のヤマイモイリチャー以外にも、ヤマイモをおいしく食べる方法はいろいろある。
家庭でも給食でもホテルでもレストランでも、ヤマイモがもっと食べられるようになることを期待したい。
ヤマイモの料理編は、うるま市農漁村生活研究会石川支部の新田文子支部長、山城喜代子さん、山城美佐枝さんにナビゲーターをお願いした。うるま市石川地区(旧石川市)はヤマイモ生産のメッカだ。
ヤマイモ料理の定番中の定番はこれ、ヤマイモイリチャー。作り方の前に、ちょっとだけウンチクを。
沖縄のヤマイモには、中が白いのと紅色のとがある。料理して食べるのは白が普通で、紅色のものは、その鮮やかな色を生かして菓子類を作るのに使われる。紅はイモが大きくなるので、やまんむすーぶ用には紅を植える人が多い。
「ヤマイモは11月から収穫できますが、旧正月の頃に葉が枯れ始め、イモが熟して一番おいしくなるんです」と喜代子さんが解説する。旧正月は新暦では2月ごろに当たることが多く、来年の旧正月は新暦2月7日だ。
さて、ヤマイモイリチャーの作り方、いきましょう。ヤマイモはアクがあるので、まずはアクを抜く。皮をむいたヤマイモを適当な大きさに切り、酢水に3時間ほどさらす。こうすれば、すりおろしてトロロにし、生で食べてもおいしい。
次に、アク抜きしたイモに軽く塩をふってから、蒸す。大きさによるが、2、30分蒸せば柔らかくなる。冷ましてから、食べやすい大きさに切っておく。あまり薄くするとイモらしい食感が失われるので、1cmくらいの厚さに。
豚の塩漬け「スーチカー」をこんがりといためる。脂が出てきたら、ヤマイモを加える。ヤマイモに熱が通ったら、ニラかニンニクの葉を入れ、色よく仕上げる。「(脂が出た時に)おろしニンニクを加えるとおいしいです」と文子さんが補足してくれた。
味付けは塩だけ。スーチカーに塩気があるので、全体がちょうどよくなるように味をみながら塩をふる。スーチカーのコクとヤマイモのかすかな甘味とが一体になると、なんとも言えないおいしさが生まれる。
ヤマイモイリチャーは伝統料理だが、生活改善グループのみなさんが考えた創作料理も紹介しよう。喜代子さん、美佐枝さんのイチ押しは、ヤマイモのはさみ揚げ。これも豚との相性のよさを生かした一品だ。
アク抜きして蒸したヤマイモを5、6mmの厚さに切る。スーチカーは3mmくらいの厚さに。濃厚な味が好きな人はもう少し厚くしてもいい。スライスしたヤマイモ2枚の間にスーチカーをはさみ、周りを海苔で巻く。全体を薄めの天ぷらのころもにつけ、油で揚げる。
「切ると断面がとてもきれいなんですよ」と美佐子さん。ころものサクサク感とイモのねっとり感とのコントラストが楽しい。海苔の味と香りがアクセント。
味噌仕立ての汁に、ダイコン、ニンジン、昆布、豚肉などとともに、ヤマイモをたっぷり入れたヤマイモ汁も、生活改善グループの創作料理。ヤマイモはそのままだと煮くずれしやすいので、あらかじめ油でさっと揚げておく。支部長の文子さんは、全沖縄ヤマイモスーブの日、シンメーと呼ばれる大鍋で作ったヤマイモ汁を来訪者にふるまっていた。
こうして、農村部ではヤマイモ料理がいろいろと楽しまれているが、那覇などの都市部ではほとんど見かけない。ヤマイモがスーパーなどの物流に全く乗っていないからだ。
だが、最近は健康ブームの影響もあってか、ヤマイモの人気が再び出始めているという。文子さんたちのグループでは既に20種類以上のヤマイモ料理を開発ずみ。伝統料理のヤマイモイリチャー以外にも、ヤマイモをおいしく食べる方法はいろいろある。
家庭でも給食でもホテルでもレストランでも、ヤマイモがもっと食べられるようになることを期待したい。
2007年12月24日
[第31話 沖縄、南] ブラジル石油公社、沖縄進出のココロ
11月初め、大きなニュースが流れた。ブラジルの国営石油公社ペトロブラスが沖縄・西原町の南西石油を買収したのだ。南西石油は、沖縄県内の2006年度企業売上高ランキングで堂々1位の大企業。ただ、製油所としては能力が小さく、設備も老朽化しているため、親会社のエクソンモービルは閉鎖を含めて将来を検討していた。
そんな南西石油をブラジルが買うって、どういう意味? 分からない時は当事者に聞くのが一番だ。早速、ペトロブラスの関係者に会って、今回の進出の背景を尋ねた。
ペトロブラス関係者によると、ブラジルの埋蔵原油はかなりの量に上る。特に、11月初旬に発表された埋蔵量80億バレルに上る巨大なテュビ海底油田の発見は、世界を驚かせた。この巨大油田によって、ブラジルは良質な軽質原油を大量に確保。世界市場での販路開拓は同国にとってますます重要な課題になった。
今回の沖縄進出は、南西石油の既存施設があったことが直接の理由のようだ。製油所を新設するとなれば、巨額の資金が必要になるし、行政や地域との交渉などにも労力と時間がかかる。
加えて、沖縄の「戦略的な地理的位置」が決め手になったことを、この関係者は指摘した。「沖縄は、台湾にも韓国にも中国にも日本本土にも近いでしょう」
ペトロブラスは、沖縄で精製した石油をこうしたアジア各地で販売しようと考えている。同社はこれまで、欧米など26カ国に石油を販売してきたが、アジアへの本格的展開はこれから。その皮切りの拠点として、有利な地理的位置にある沖縄を選んだというわけだ。
沖縄県内では、東京を意識した経済振興策ばかりが語られがちだが、もう少し視点を自由にしてアジア全体をながめる必要がありそうだ。ここで、第22話の南北逆さ地図をもう一度。
沖縄のこの優位な位置を活用してきたのは、これまで、皮肉なことに米軍だけだった。それが、今回のブラジルの進出によって、「アジア最前線、沖縄」が、民間経済活動の拠点として本格的に生かされる可能性が出てきた。
この機会を沖縄側がどう活用するか。軍事拠点から脱出し、「万国津梁、再び」を実現するうえで、ひとつの試金石になるだろう。
ペトロブラス関係者は、もう一つ、興味深い話を披露してくれた。同社が、沖縄でバイオエタノールの生産にも取り組む意欲を持っている、という話だ。
バイオエタノールはトウモロコシやサトウキビから作る燃料用アルコール。ブラジルは1975年から開発に取り組み、今や世界で唯一のバイオエタノール輸出国になった。
ブラジルでは、ガソリン100%でもエタノール100%でも、あるいはどんな比率の両者のミックスでもOKというFFV(Flexible Fuel Vehicle)車が8割を占める。ユーザーは市場価格を見て、安い燃料を選べるという。
従来はもっぱら石油を扱ってきたペトロブラスも、FFVの普及により、「25%エタノール入りガソリン」などを生産し始めている。同社が沖縄でのエタノール生産を視野に入れているのは、アジアでFFV時代が来れば、同社のガソリン販売チャンネルの中に、ブラジルにとって「もう一つの得意分野」であるエタノールをほぼそのまま組み入れることができるからだ。
沖縄では、エタノールを主にサトウキビから作ることになる。亜熱帯の自然特性を生かして、沖縄が自前のエネルギー源を持てるかもしれないというのは、さまざまなハードルを超えなければならないにしても、夢のある話だ。
来年は、日本からのブラジル移民100周年。ペトロブラス関係者も、この日伯の強いきずなが今回の進出の背景にあることを強調した。100周年という節目の年に、140万日系移民の1割を占める沖縄系移民の故郷沖縄に、ブラジル国営石油公社ペトロブラスが精油所を持つ―。大いに象徴的な出来事と言えそうである。
そんな南西石油をブラジルが買うって、どういう意味? 分からない時は当事者に聞くのが一番だ。早速、ペトロブラスの関係者に会って、今回の進出の背景を尋ねた。
ペトロブラス関係者によると、ブラジルの埋蔵原油はかなりの量に上る。特に、11月初旬に発表された埋蔵量80億バレルに上る巨大なテュビ海底油田の発見は、世界を驚かせた。この巨大油田によって、ブラジルは良質な軽質原油を大量に確保。世界市場での販路開拓は同国にとってますます重要な課題になった。
今回の沖縄進出は、南西石油の既存施設があったことが直接の理由のようだ。製油所を新設するとなれば、巨額の資金が必要になるし、行政や地域との交渉などにも労力と時間がかかる。
加えて、沖縄の「戦略的な地理的位置」が決め手になったことを、この関係者は指摘した。「沖縄は、台湾にも韓国にも中国にも日本本土にも近いでしょう」
ペトロブラスは、沖縄で精製した石油をこうしたアジア各地で販売しようと考えている。同社はこれまで、欧米など26カ国に石油を販売してきたが、アジアへの本格的展開はこれから。その皮切りの拠点として、有利な地理的位置にある沖縄を選んだというわけだ。
沖縄県内では、東京を意識した経済振興策ばかりが語られがちだが、もう少し視点を自由にしてアジア全体をながめる必要がありそうだ。ここで、第22話の南北逆さ地図をもう一度。
沖縄のこの優位な位置を活用してきたのは、これまで、皮肉なことに米軍だけだった。それが、今回のブラジルの進出によって、「アジア最前線、沖縄」が、民間経済活動の拠点として本格的に生かされる可能性が出てきた。
この機会を沖縄側がどう活用するか。軍事拠点から脱出し、「万国津梁、再び」を実現するうえで、ひとつの試金石になるだろう。
ペトロブラス関係者は、もう一つ、興味深い話を披露してくれた。同社が、沖縄でバイオエタノールの生産にも取り組む意欲を持っている、という話だ。
バイオエタノールはトウモロコシやサトウキビから作る燃料用アルコール。ブラジルは1975年から開発に取り組み、今や世界で唯一のバイオエタノール輸出国になった。
ブラジルでは、ガソリン100%でもエタノール100%でも、あるいはどんな比率の両者のミックスでもOKというFFV(Flexible Fuel Vehicle)車が8割を占める。ユーザーは市場価格を見て、安い燃料を選べるという。
従来はもっぱら石油を扱ってきたペトロブラスも、FFVの普及により、「25%エタノール入りガソリン」などを生産し始めている。同社が沖縄でのエタノール生産を視野に入れているのは、アジアでFFV時代が来れば、同社のガソリン販売チャンネルの中に、ブラジルにとって「もう一つの得意分野」であるエタノールをほぼそのまま組み入れることができるからだ。
沖縄では、エタノールを主にサトウキビから作ることになる。亜熱帯の自然特性を生かして、沖縄が自前のエネルギー源を持てるかもしれないというのは、さまざまなハードルを超えなければならないにしても、夢のある話だ。
来年は、日本からのブラジル移民100周年。ペトロブラス関係者も、この日伯の強いきずなが今回の進出の背景にあることを強調した。100周年という節目の年に、140万日系移民の1割を占める沖縄系移民の故郷沖縄に、ブラジル国営石油公社ペトロブラスが精油所を持つ―。大いに象徴的な出来事と言えそうである。
2007年12月17日
[第30話 食] どこまでもユニークな若狭のそば
那覇の若狭にユニークな沖縄そば屋がある、と聞いて出かけた。その名は「若狭パーラー」。沖縄でパーラーと言えば、浜辺などで、プレハブやコンテナハウスで軽食やかき氷などを売っている店のこと。転じて、海辺ではない場所でも、簡単な建物で軽食を売る店を総称してパーラーと呼ぶ。たいがいのパーラーはそばも置いているが、出来合いの濃縮スープをお湯で薄めたような情けないそばを出すところも多い。さて、どんなものか―。半信半疑で若狭に赴いたら、ありました。
一見してそのユニークさが分かる店だった。若狭パーラーは、住宅街にある店主の自宅の一部を店にしている。店の部分が建物のギリギリのところにあり、客のすわるイスはその外側に置かれている。客席が店内にない、という意味では確かにパーラーだが、場所は砂浜ではなく、普通の住宅街なので、客席がまるで道路上にあるような、なんとも妙な構えになる。
いや、正確に言えば、バーラーにはもともと客席はない。例えば海辺なら、客は、パーラーで買った食べ物を、自分の荷物を置いた場所などに持っていって、そこで食べる。若狭パーラーもそうした「パーラーの原則」に忠実なだけ。イスはサービスで置いているにすぎない。
だが、驚くのはまだ早かった。行き交う車に背を向けて、豚肉そばを注文したら、こんなそばが登場した。
ヨモギの葉がオプションでついてくる店は時々見かける。第3話で紹介した美里そばもそうだった。ところが若狭パーラーでは、オプションではなく、初めからヨモギがたっぷり入っている。これはかなり珍しい。つゆの熱で鮮やかになったヨモギの緑と、立ち上る香りを楽しみながら、めんをすすり、つゆを飲む。
あれ? 食べ始めて、「ユニーク」がもう一つあることに気づいた。そばの上に乗っている肉。沖縄そばと言えば、三枚肉かソーキ(あばら肉)を柔らかく煮付けたものが乗っていることが多いが、ここでは、赤身肉が乗っている。赤身だとどうしてもぱさぱさしがちだが、ここの肉は不思議なくらいしっとりと煮上がっている。
赤身肉を入れるそば屋もないわけではないが、これほどつゆによく合う赤身肉の煮付けは、なかなかお目にかからない。これはタダモノではないな―。作り方を尋ねてみると、店主はさすがに口を濁した。かなり手の込んだ作り方をしているらしい。
コーレーグスもユニーク。コーレーグスといえば、小さな三角形をした赤い島唐辛子が泡盛に漬け込んである姿を思い浮かべるが、ここでは、それをミキサーにかけてすりつぶした赤いペースト状のものが出てくる。普通のコーレーグスは泡盛の香りとトウガラシの辛さが基本になっているが、すりつぶしたコーレーグスは、唐辛子の香りが前面に出ていて、これはこれでなかなかうまい。ペーストの作り方も尋ねてみたが、これにも店主は口を濁した。
沖縄そばは、どんどんおいしくなっていると言われる。後発こだわり店の頑張りに、昔の名店もうかうかしていられない。そばの完成度は上がり、そばジョーグーたちは「理想的なそばの姿」をあれこれ語る。
だが、若狭パーラーのように、そうした動きから離れたところで、わが道をいく店も健在だ。独自のこだわりの中にバランスのとれたおいしさを感じさせる若狭パーラーのそばは、沖縄そばの理想型が一つではないことを教えてくれる。
若狭パーラーは那覇市若狭2-14-16。098-861-6492。営業時間は07:30から20:00まで。豚肉そば400円、卵焼そば400円など。
一見してそのユニークさが分かる店だった。若狭パーラーは、住宅街にある店主の自宅の一部を店にしている。店の部分が建物のギリギリのところにあり、客のすわるイスはその外側に置かれている。客席が店内にない、という意味では確かにパーラーだが、場所は砂浜ではなく、普通の住宅街なので、客席がまるで道路上にあるような、なんとも妙な構えになる。
いや、正確に言えば、バーラーにはもともと客席はない。例えば海辺なら、客は、パーラーで買った食べ物を、自分の荷物を置いた場所などに持っていって、そこで食べる。若狭パーラーもそうした「パーラーの原則」に忠実なだけ。イスはサービスで置いているにすぎない。
だが、驚くのはまだ早かった。行き交う車に背を向けて、豚肉そばを注文したら、こんなそばが登場した。
ヨモギの葉がオプションでついてくる店は時々見かける。第3話で紹介した美里そばもそうだった。ところが若狭パーラーでは、オプションではなく、初めからヨモギがたっぷり入っている。これはかなり珍しい。つゆの熱で鮮やかになったヨモギの緑と、立ち上る香りを楽しみながら、めんをすすり、つゆを飲む。
あれ? 食べ始めて、「ユニーク」がもう一つあることに気づいた。そばの上に乗っている肉。沖縄そばと言えば、三枚肉かソーキ(あばら肉)を柔らかく煮付けたものが乗っていることが多いが、ここでは、赤身肉が乗っている。赤身だとどうしてもぱさぱさしがちだが、ここの肉は不思議なくらいしっとりと煮上がっている。
赤身肉を入れるそば屋もないわけではないが、これほどつゆによく合う赤身肉の煮付けは、なかなかお目にかからない。これはタダモノではないな―。作り方を尋ねてみると、店主はさすがに口を濁した。かなり手の込んだ作り方をしているらしい。
コーレーグスもユニーク。コーレーグスといえば、小さな三角形をした赤い島唐辛子が泡盛に漬け込んである姿を思い浮かべるが、ここでは、それをミキサーにかけてすりつぶした赤いペースト状のものが出てくる。普通のコーレーグスは泡盛の香りとトウガラシの辛さが基本になっているが、すりつぶしたコーレーグスは、唐辛子の香りが前面に出ていて、これはこれでなかなかうまい。ペーストの作り方も尋ねてみたが、これにも店主は口を濁した。
沖縄そばは、どんどんおいしくなっていると言われる。後発こだわり店の頑張りに、昔の名店もうかうかしていられない。そばの完成度は上がり、そばジョーグーたちは「理想的なそばの姿」をあれこれ語る。
だが、若狭パーラーのように、そうした動きから離れたところで、わが道をいく店も健在だ。独自のこだわりの中にバランスのとれたおいしさを感じさせる若狭パーラーのそばは、沖縄そばの理想型が一つではないことを教えてくれる。
若狭パーラーは那覇市若狭2-14-16。098-861-6492。営業時間は07:30から20:00まで。豚肉そば400円、卵焼そば400円など。
2007年12月10日
[第29話 農、沖縄] 1株130kgで優勝 ヤマイモ勝負
この写真の手前に写っているものは何でしょう。まるでアザラシが群れているみたいだが、これはヤマイモ。それも1株から収穫されたヤマイモだ。
うるま市の石川地区はヤマイモの生産が盛んで、12月に入ると、1株あたりのイモの重さを競う「やまんむすーぶ」が字ごとに開かれる。分かち書きにすると、やま・んむ・すーぶ。漢字に直せば、山芋勝負。字(あざ)伊波(いは)のすーぶに行ってみた。
ヤマイモは、4月ごろに植え、11月後半から収穫される。沖縄のヤマイモは、熱帯のヤムの正統派。つるの株元には、直径1m近くにわたって、でっかいイモがゴロゴロ実る。アジアでもアフリカでも同じようなヤマイモが各地で栽培され、食べられている。
すーぶは、字の役員が立会人になり、間違いなく1株についているイモであることを、事前に参加者が畑で掘り出す際に現場確認する。そのうえで、参加者は12月第2日曜日のすーぶの日に会場に運び込んで、計量する。
午前中は、班ごとにブルーシートを敷いて、計量した「出品作」を並べていく。「○○さんのは形がいいよ」「どうやってあんなに大きくするのかね」ー。重量と生産者名が書かれた段ボールの札を見ながら、参観者と生産者はゆっくりとヤマイモ談義を楽しむ。
昼になると、婦人会や生活改善グループが大鍋で準備したヤマイモイリチャーとヤマイモ汁にみなで舌鼓を打つ。子供エイサーを披露した小学生たちも、おいしいヤマイモ料理にパクついていた。
ことしの優勝は2班の呉屋孝仁さんで、1株でなんと130.5kg。大人2人分の重量だ。鶏糞をうまく使って栽培するのがコツとのこと。「ことしのはそんなに大きくもないよ。去年はもっとだったから」と呉屋さん。優勝した呉屋さんにはヤギ1頭が贈呈された。
字伊波の場合、やまんむすーぶの日は、字の年次総会を兼ねていて、すーぶが終われば次年度の役員選出なども行う。まさに地に足のついた伝統行事だ。
石川地区の各字のすーぶは、毎年12月の第2日曜と日程がほぼ決まっているので、興味のある人は、この日に訪ねていけばいい。ヤマイモ栽培に一家言ある地元の人が集まっているから、何か質問すればだれでも親切に教えてくれる。沖縄県民はもちろん、「5度目の沖縄」を計画中のベテラン沖縄旅行者にうってつけの催し。日程は石川地区字伊波、字山城など各字の公民館か、うるま市役所観光課098-965-5634で確認を。
12月16日にはうるま市産業まつりで、全沖縄やまんむすーぶも開催される。ヤマイモの料理については回を改めて紹介します。
うるま市の石川地区はヤマイモの生産が盛んで、12月に入ると、1株あたりのイモの重さを競う「やまんむすーぶ」が字ごとに開かれる。分かち書きにすると、やま・んむ・すーぶ。漢字に直せば、山芋勝負。字(あざ)伊波(いは)のすーぶに行ってみた。
ヤマイモは、4月ごろに植え、11月後半から収穫される。沖縄のヤマイモは、熱帯のヤムの正統派。つるの株元には、直径1m近くにわたって、でっかいイモがゴロゴロ実る。アジアでもアフリカでも同じようなヤマイモが各地で栽培され、食べられている。
すーぶは、字の役員が立会人になり、間違いなく1株についているイモであることを、事前に参加者が畑で掘り出す際に現場確認する。そのうえで、参加者は12月第2日曜日のすーぶの日に会場に運び込んで、計量する。
午前中は、班ごとにブルーシートを敷いて、計量した「出品作」を並べていく。「○○さんのは形がいいよ」「どうやってあんなに大きくするのかね」ー。重量と生産者名が書かれた段ボールの札を見ながら、参観者と生産者はゆっくりとヤマイモ談義を楽しむ。
昼になると、婦人会や生活改善グループが大鍋で準備したヤマイモイリチャーとヤマイモ汁にみなで舌鼓を打つ。子供エイサーを披露した小学生たちも、おいしいヤマイモ料理にパクついていた。
ことしの優勝は2班の呉屋孝仁さんで、1株でなんと130.5kg。大人2人分の重量だ。鶏糞をうまく使って栽培するのがコツとのこと。「ことしのはそんなに大きくもないよ。去年はもっとだったから」と呉屋さん。優勝した呉屋さんにはヤギ1頭が贈呈された。
字伊波の場合、やまんむすーぶの日は、字の年次総会を兼ねていて、すーぶが終われば次年度の役員選出なども行う。まさに地に足のついた伝統行事だ。
石川地区の各字のすーぶは、毎年12月の第2日曜と日程がほぼ決まっているので、興味のある人は、この日に訪ねていけばいい。ヤマイモ栽培に一家言ある地元の人が集まっているから、何か質問すればだれでも親切に教えてくれる。沖縄県民はもちろん、「5度目の沖縄」を計画中のベテラン沖縄旅行者にうってつけの催し。日程は石川地区字伊波、字山城など各字の公民館か、うるま市役所観光課098-965-5634で確認を。
12月16日にはうるま市産業まつりで、全沖縄やまんむすーぶも開催される。ヤマイモの料理については回を改めて紹介します。
2007年12月06日
[第28話 農] 知念の清水で育つクレソン
いま、南城市知念の志喜屋集落ではクレソンの収穫が真っ盛り。クレソンは、英語でウォータークレスというが、その名の通り、水の中で育つ。
水はきれいで、しかも常に流れていなければならない。知念の志喜屋は、琉球王国最高の聖地「斎場御嶽」の近く。日本の名水に選ばれた玉城の垣花樋川や受水走水もそれほど遠くない。志喜屋も水に恵まれ、クレソンの足元には清水がいつも静かに流れている。
志喜屋のクレソン出荷は年間100トン前後。日本一の産地、山梨県道志村の320トンには及ばないが、それなりの量を出荷しているといえそうだ。収穫は11月から3月までだが、特に年を越すと、本土では寒さで出荷できなくなる地域が多いため、志喜屋産のクレソンの存在感が市場で大きくなるという。100トンのうち6、7割が本土向け。
クレソンを育む水は、きれいなだけではダメで、水温が25度以下でなければならない。ことしはやや温度が高く、農家は、害虫の発生に手を焼いている。生産者の一人、具志堅武助さんによると、ある程度成熟して、さあ収穫、という直前に虫にやられるケースが多いという。
「クレソンがおいしくなる時を虫もちゃんと知ってる。タイミングを見計らって、虫にやられる寸前にうまく収穫しないと」
「少し持っていってね」と具志堅さんは、日よけをした作業小屋の中で手際よくクレソンの下の葉をそいできれいにし、束ねて、新聞紙に包んでくれた。
普通の葉野菜だと、生産できたら農協にいつでも持ち込んで出荷できるが、クレソンの場合は、お客さんの注文が入ってから収穫する。一方、よくある葉野菜類のように価格が暴落することはないという。
クレソンは、収穫してからしばらくすると、同じ株からまた葉が出て、やがて収穫できる。3月までの間に何回か収穫し、時期が終わったら植え替える。
クレソンは、独特の辛みがある。洋野菜として、一品料理に彩りを添えたり、サラダに散らして色と味のアクセントに使われることが多い。だが、和の食材としてもいろいろ楽しめる。例えば、みそ汁に入れるとおいしいし、ゆでてからあえものにしてもいける。
志喜屋のクレソンについての問い合わせは、JAおきなわ知念支店、電話098-948-1308。
水はきれいで、しかも常に流れていなければならない。知念の志喜屋は、琉球王国最高の聖地「斎場御嶽」の近く。日本の名水に選ばれた玉城の垣花樋川や受水走水もそれほど遠くない。志喜屋も水に恵まれ、クレソンの足元には清水がいつも静かに流れている。
志喜屋のクレソン出荷は年間100トン前後。日本一の産地、山梨県道志村の320トンには及ばないが、それなりの量を出荷しているといえそうだ。収穫は11月から3月までだが、特に年を越すと、本土では寒さで出荷できなくなる地域が多いため、志喜屋産のクレソンの存在感が市場で大きくなるという。100トンのうち6、7割が本土向け。
クレソンを育む水は、きれいなだけではダメで、水温が25度以下でなければならない。ことしはやや温度が高く、農家は、害虫の発生に手を焼いている。生産者の一人、具志堅武助さんによると、ある程度成熟して、さあ収穫、という直前に虫にやられるケースが多いという。
「クレソンがおいしくなる時を虫もちゃんと知ってる。タイミングを見計らって、虫にやられる寸前にうまく収穫しないと」
「少し持っていってね」と具志堅さんは、日よけをした作業小屋の中で手際よくクレソンの下の葉をそいできれいにし、束ねて、新聞紙に包んでくれた。
普通の葉野菜だと、生産できたら農協にいつでも持ち込んで出荷できるが、クレソンの場合は、お客さんの注文が入ってから収穫する。一方、よくある葉野菜類のように価格が暴落することはないという。
クレソンは、収穫してからしばらくすると、同じ株からまた葉が出て、やがて収穫できる。3月までの間に何回か収穫し、時期が終わったら植え替える。
クレソンは、独特の辛みがある。洋野菜として、一品料理に彩りを添えたり、サラダに散らして色と味のアクセントに使われることが多い。だが、和の食材としてもいろいろ楽しめる。例えば、みそ汁に入れるとおいしいし、ゆでてからあえものにしてもいける。
志喜屋のクレソンについての問い合わせは、JAおきなわ知念支店、電話098-948-1308。
2007年11月30日
[第27話 食] 口どけのよい丸いちんすこう
ちんすこう、と言えば、最も有名な沖縄の伝統菓子。沖縄みやげの定番でもある。中国菓子の影響を受けて、明治時代に現在のちんすこうを初めて作り上げた老舗、新垣菓子店をはじめ、沖縄にはちんすこうメーカーがいくつかある。今回はその中からニューウェーブを紹介しよう。その名も、まんまるちんすこう。写真右はよくあるタイプ、左がまんまるちんすこうだ。
ちんすこうはクッキーと似ているが、食べれば違いが分かる。まず、クッキーは口に含むとバターの味と香りがするが、ちんすこうはバター味ではない。それもそのはず、ちんすこうはラードで作るのだ。ラードについては前回、第26話であれこれ書いた。
もう一つ、大きな違いが。クッキーの中には、サクサクする口当たりのものが多いが、ちんすこうは、最初のひと口、ふた口こそサクっとした歯ごたえがあるものの、全体にしっとりと柔らかい。そして、噛むうちに口の中でサーッと溶けていく。「後半の口溶けのよさ」こそが、ちんすこう最大の持ち味といえる。まんまるちんすこうは、この口溶けのよさ、ホロホロ感がすばらしい。
初めの写真の右側のように、ちんすこうの主流は長い形をしている。まんまるちんすこうはその名の通り、まんまるなので、外観はニューウェーブといえる。だが中身はむしろ伝統製法に忠実だ。まんまるちんすこうを作っているプラスの共同経営者中西夕美絵さんの話では、まんまるちんすこうは、プレーン味の場合、小麦粉、砂糖、ラードのみを使い、低温でじっくり焼き上げるという。
原材料について6、7種類のちんすこうを比べてみたが、原材料が小麦、ラード、砂糖だけ、というのはほとんどなかった。膨張剤(ふくらし粉)はまず入っている。卵を入れているものも多い。さらには、ラードではなく、ショートニングや植物油脂で作られているものまであった。ここまでくると、もはやちんすこうとは呼べないような気もする。パイン味や紅イモ味などの場合は、香料や色素が入っているタイプが少なくない。
中西さんは、初めは沖縄で中国茶を販売していた。やがて、中国茶に合ういいお茶うけがないか、ということになり、伝統菓子のちんすこうを作り始めたという。
まんまるちんすこうは、写真で見ると一口で食べられそうだが、思ったより大きい。重さを比べてみたら、普通の長いタイプのちんすこうが1個12gほどなのに対し、まんまるちんすこうは1個16g強だった。かわいい形の割には食べごたえがあるので、2、3個食べればお茶うけとしては十分満足できる。
まんまるちんすこうは、プレーンのほか、塩、みそ、コーヒー、コーヒーキャラメル、黒糖きなこ、黒糖チョコの味がある。透明なプラスチックのカップに8個入って263円。カジュアルなデザインの箱づめもある。
首里店は、那覇市松川414、098-886-2144。那覇の国際通りの中心部、むつみ橋にもショップがある。インターネットでも販売している。「まんまるちんすこう」で検索を。
ちんすこうはクッキーと似ているが、食べれば違いが分かる。まず、クッキーは口に含むとバターの味と香りがするが、ちんすこうはバター味ではない。それもそのはず、ちんすこうはラードで作るのだ。ラードについては前回、第26話であれこれ書いた。
もう一つ、大きな違いが。クッキーの中には、サクサクする口当たりのものが多いが、ちんすこうは、最初のひと口、ふた口こそサクっとした歯ごたえがあるものの、全体にしっとりと柔らかい。そして、噛むうちに口の中でサーッと溶けていく。「後半の口溶けのよさ」こそが、ちんすこう最大の持ち味といえる。まんまるちんすこうは、この口溶けのよさ、ホロホロ感がすばらしい。
初めの写真の右側のように、ちんすこうの主流は長い形をしている。まんまるちんすこうはその名の通り、まんまるなので、外観はニューウェーブといえる。だが中身はむしろ伝統製法に忠実だ。まんまるちんすこうを作っているプラスの共同経営者中西夕美絵さんの話では、まんまるちんすこうは、プレーン味の場合、小麦粉、砂糖、ラードのみを使い、低温でじっくり焼き上げるという。
原材料について6、7種類のちんすこうを比べてみたが、原材料が小麦、ラード、砂糖だけ、というのはほとんどなかった。膨張剤(ふくらし粉)はまず入っている。卵を入れているものも多い。さらには、ラードではなく、ショートニングや植物油脂で作られているものまであった。ここまでくると、もはやちんすこうとは呼べないような気もする。パイン味や紅イモ味などの場合は、香料や色素が入っているタイプが少なくない。
中西さんは、初めは沖縄で中国茶を販売していた。やがて、中国茶に合ういいお茶うけがないか、ということになり、伝統菓子のちんすこうを作り始めたという。
まんまるちんすこうは、写真で見ると一口で食べられそうだが、思ったより大きい。重さを比べてみたら、普通の長いタイプのちんすこうが1個12gほどなのに対し、まんまるちんすこうは1個16g強だった。かわいい形の割には食べごたえがあるので、2、3個食べればお茶うけとしては十分満足できる。
まんまるちんすこうは、プレーンのほか、塩、みそ、コーヒー、コーヒーキャラメル、黒糖きなこ、黒糖チョコの味がある。透明なプラスチックのカップに8個入って263円。カジュアルなデザインの箱づめもある。
首里店は、那覇市松川414、098-886-2144。那覇の国際通りの中心部、むつみ橋にもショップがある。インターネットでも販売している。「まんまるちんすこう」で検索を。
2007年11月24日
[第26話 食] 来るか、ラード復権の時
ラード=豚の脂といえば、「ダイエットの敵」「体に悪い」と思われがち。だが、良質のラードが持つ香りとコクは本当にすばらしい。写真は万鐘島ぶたからとったラード(非売品)。28度くらいの室温ではトロリとした半液状だ。
良質のラードがいかにおいしいか。とんかつ専門店の多くが豚肉をラードで揚げていることはよく知られている。加熱したラードの香ばしさとコクは、植物油の比ではない。
世界にいる豚総頭数の1/3を擁する豚の国、中国。今でこそ、発育が速く経済性の高い大型の西洋種が主流になっているが、かつては中型のラードタイプが中心だった。ラードタイプとは、脂肪が厚く、ラードがたくさんとれる品種のこと。これは、肉以上にラードが重要な生産物だったからだ。
沖縄の在来種アグーも、典型的な中型のラードタイプの豚。下の写真はアグーの純系種をカットしているところだが、肉の周囲に脂がたっぷりついているのが分かる。脂の厚みは西洋種の3、4倍はあるだろう。昨今はアグーの肉がもてはやされているが、もともとは、ラードの生産が重要だったのだ。
なぜそれほどラードが大切だったのか。答は、ラードの方が肉よりも「使いで」があったから。貧しい時代のふだんのおかずは野菜ばかりだが、その中にラードをひとさじ加えると、味も香りも栄養価もグンと高まった。ラードはわずか20gで家族全員に栄養と満足を与えることができた。豚肉もタンパク質というすばらしい栄養を含んでいるが、さすがに20gでは、そこまでの芸当はできない。
ラードは薬としても使われていた。昔の沖縄では、熱が出ると、ラードと塩を混ぜて背中に塗った。地球を半周した南アフリカ共和国北部のある農村でも、発熱した子供の背中にはラードを塗る、と現地の人が話すのを聞いたことがある。面白いことに、その際には塩を混ぜるという点まで沖縄と同じだった。
さて、そんなラードを現代の私たちはどう食べればいいか。どれほど良質なラードでも、脂である以上、カロリーは高いし、一定量のコレステロールを含むから、食べすぎはいけない。だが、どのみち油脂類の摂取は必要なのだから、他の油脂を控え、ここぞ、という時には良質のラードを使ったらどうだろう。
欧米諸国やFAO、WHOなどの国際機関で「アレルギー疾患を悪化させる」「胎児、乳児に悪影響」「ボケを引き起こす」など、その悪影響が次々に明るみに出ているトランス脂肪酸。これは、マーガリン、ショートニングに代表される硬化植物油や、高温で抽出された植物油などに多く含まれる。米国政府は、既に、マーガリンなどのパッケージにトランス脂肪酸の含有量を表示することを義務づけている。
ファーストフードのカリカリフライドポテトを揚げる油も同様の植物油。売れ残ったフライドポテトにはハエも近づかないし、菌がつかないから何日も腐らない、という話があるらしい。トランス脂肪酸は自然界にはほとんどないもので、言う人に言わせれば「油のプラスチック」。こうした表現がどこまで当たっているかはともかく、「植物性だから体にいい」というような単純な話でないことだけは確かなようだ。
人間の、動物としての感覚をもう少し信じてもいいんじゃないか、と万鐘は考える。例えば、かつてのマーガリンは非常に臭かったし、何とも気持ちの悪い味がした。最近はさまざまな技術でその異様さを懸命に抑えようとしているが、それでも本物のバターのようなすっきりした透明感は望めない。
この「臭い」「気持ち悪い」は、体になじまないものとして体自身が拒絶反応を示している証拠、と考えれば分かりやすい。逆に、体にいいものは「すっきりしている」。その結果、豊かな時代にはついつい食べ過ぎるから体に悪い働きをする結果になりがち、ということなのではないだろうか。
もちろんラードにもピンからキリまである。豚の飼い方や餌にもいろいろあるから、それは当然だ。胸が悪くなるようなラードは、体に悪いものを含んでいるのだろう。しかし、芳香を漂わせる良質のラードは、もっと食べられていい。チャンプルーの類だけでも、こうしたラードで作れば、うまさ3倍増間違いなし、だ。
ラードの機能に関する研究が今後さらに進めば、体によいの成分の存在が分かるなどして、本格的な復権の時がやって来るかもしれない―。豚屋の万鐘はそう夢見ている。
良質のラードがいかにおいしいか。とんかつ専門店の多くが豚肉をラードで揚げていることはよく知られている。加熱したラードの香ばしさとコクは、植物油の比ではない。
世界にいる豚総頭数の1/3を擁する豚の国、中国。今でこそ、発育が速く経済性の高い大型の西洋種が主流になっているが、かつては中型のラードタイプが中心だった。ラードタイプとは、脂肪が厚く、ラードがたくさんとれる品種のこと。これは、肉以上にラードが重要な生産物だったからだ。
沖縄の在来種アグーも、典型的な中型のラードタイプの豚。下の写真はアグーの純系種をカットしているところだが、肉の周囲に脂がたっぷりついているのが分かる。脂の厚みは西洋種の3、4倍はあるだろう。昨今はアグーの肉がもてはやされているが、もともとは、ラードの生産が重要だったのだ。
なぜそれほどラードが大切だったのか。答は、ラードの方が肉よりも「使いで」があったから。貧しい時代のふだんのおかずは野菜ばかりだが、その中にラードをひとさじ加えると、味も香りも栄養価もグンと高まった。ラードはわずか20gで家族全員に栄養と満足を与えることができた。豚肉もタンパク質というすばらしい栄養を含んでいるが、さすがに20gでは、そこまでの芸当はできない。
ラードは薬としても使われていた。昔の沖縄では、熱が出ると、ラードと塩を混ぜて背中に塗った。地球を半周した南アフリカ共和国北部のある農村でも、発熱した子供の背中にはラードを塗る、と現地の人が話すのを聞いたことがある。面白いことに、その際には塩を混ぜるという点まで沖縄と同じだった。
さて、そんなラードを現代の私たちはどう食べればいいか。どれほど良質なラードでも、脂である以上、カロリーは高いし、一定量のコレステロールを含むから、食べすぎはいけない。だが、どのみち油脂類の摂取は必要なのだから、他の油脂を控え、ここぞ、という時には良質のラードを使ったらどうだろう。
欧米諸国やFAO、WHOなどの国際機関で「アレルギー疾患を悪化させる」「胎児、乳児に悪影響」「ボケを引き起こす」など、その悪影響が次々に明るみに出ているトランス脂肪酸。これは、マーガリン、ショートニングに代表される硬化植物油や、高温で抽出された植物油などに多く含まれる。米国政府は、既に、マーガリンなどのパッケージにトランス脂肪酸の含有量を表示することを義務づけている。
ファーストフードのカリカリフライドポテトを揚げる油も同様の植物油。売れ残ったフライドポテトにはハエも近づかないし、菌がつかないから何日も腐らない、という話があるらしい。トランス脂肪酸は自然界にはほとんどないもので、言う人に言わせれば「油のプラスチック」。こうした表現がどこまで当たっているかはともかく、「植物性だから体にいい」というような単純な話でないことだけは確かなようだ。
人間の、動物としての感覚をもう少し信じてもいいんじゃないか、と万鐘は考える。例えば、かつてのマーガリンは非常に臭かったし、何とも気持ちの悪い味がした。最近はさまざまな技術でその異様さを懸命に抑えようとしているが、それでも本物のバターのようなすっきりした透明感は望めない。
この「臭い」「気持ち悪い」は、体になじまないものとして体自身が拒絶反応を示している証拠、と考えれば分かりやすい。逆に、体にいいものは「すっきりしている」。その結果、豊かな時代にはついつい食べ過ぎるから体に悪い働きをする結果になりがち、ということなのではないだろうか。
もちろんラードにもピンからキリまである。豚の飼い方や餌にもいろいろあるから、それは当然だ。胸が悪くなるようなラードは、体に悪いものを含んでいるのだろう。しかし、芳香を漂わせる良質のラードは、もっと食べられていい。チャンプルーの類だけでも、こうしたラードで作れば、うまさ3倍増間違いなし、だ。
ラードの機能に関する研究が今後さらに進めば、体によいの成分の存在が分かるなどして、本格的な復権の時がやって来るかもしれない―。豚屋の万鐘はそう夢見ている。
2007年11月18日
[第25話 沖縄] 中村家に流れる癒しの風
北中城村(きたなかぐすくそん)の中村家は、上層農家の家構えがそのまま残る重要文化財。訪れる観光客も多い。文化財としての中村家の解説はほかに譲るとして、ここでは「風」の話を。
中村家を訪れると、畳の間に上がり込んで、そこを流れる風に身を任せながら、放心状態気味の表情でたたずんでいる人をよく見かける。暑い日でも、この家の中は何とも言えぬ心地よい風が流れている。
中村家は、山の南斜面に位置しているため、北からの強風がまともにぶつかることはない。南からの強風は、家の外側に密に植えられたフクギや(下の写真の上)、南向きの正面入り口をふさぐように置かれている目隠し「ひんぷん」でかなり緩和される(下の写真の下)。
こうして家に当たる前にマイルドになった風を家の中に取り込むについては、今度は逆に、できるだけ多くの風が家の奥まで流れ込むように建物が作られている。
まず、壁らしい壁がないので、雨戸を開け、障子を開け放てば、外と内はほぼ一体の空間になる。その開放感は、柱と屋根しかない庭園のあずま屋に近い。この内外一体感については、第7話の万国津梁館の記事でも紹介した。
一部には格子戸があるが、5cm幅の板が5cm間隔で入った戸が2枚重なっているので、日当りの強い時には、これを5cmずらせば、光はほとんど遮ることができる。だが、2枚の戸の間には1cmほどの隙き間があるので、光は遮断しても、風はその隙き間を通って建物内部にしっかり流れ込んでいく。
沖縄は海に囲まれた島なので、ほぼどこでも、海のミネラルをたっぷり含んだ風が吹いている。塩分を含む空中浮遊ミネラルは本土の10倍、強風時には100倍、という大手電器メーカーの調査結果があるほどだ。
ミネラルは命の源。たっぷりのやわらかな風に乗ってそのミネラルが室内に流れ込み、体を包む時、体が「癒し」を感じて、そのあまりの心地よさに放心状態になるのではないだろうか。コンクリートとサッシで外気を完全に遮断し、中は冷房で冷やすのでは、「癒しの風」は感じられない。
中村家は北中城村大城106、098-935-3500。年中無休で、午前9時から午後5時半まで。観覧料は大人500円、中高生300円、小学生200円。
中村家を訪れると、畳の間に上がり込んで、そこを流れる風に身を任せながら、放心状態気味の表情でたたずんでいる人をよく見かける。暑い日でも、この家の中は何とも言えぬ心地よい風が流れている。
中村家は、山の南斜面に位置しているため、北からの強風がまともにぶつかることはない。南からの強風は、家の外側に密に植えられたフクギや(下の写真の上)、南向きの正面入り口をふさぐように置かれている目隠し「ひんぷん」でかなり緩和される(下の写真の下)。
こうして家に当たる前にマイルドになった風を家の中に取り込むについては、今度は逆に、できるだけ多くの風が家の奥まで流れ込むように建物が作られている。
まず、壁らしい壁がないので、雨戸を開け、障子を開け放てば、外と内はほぼ一体の空間になる。その開放感は、柱と屋根しかない庭園のあずま屋に近い。この内外一体感については、第7話の万国津梁館の記事でも紹介した。
一部には格子戸があるが、5cm幅の板が5cm間隔で入った戸が2枚重なっているので、日当りの強い時には、これを5cmずらせば、光はほとんど遮ることができる。だが、2枚の戸の間には1cmほどの隙き間があるので、光は遮断しても、風はその隙き間を通って建物内部にしっかり流れ込んでいく。
沖縄は海に囲まれた島なので、ほぼどこでも、海のミネラルをたっぷり含んだ風が吹いている。塩分を含む空中浮遊ミネラルは本土の10倍、強風時には100倍、という大手電器メーカーの調査結果があるほどだ。
ミネラルは命の源。たっぷりのやわらかな風に乗ってそのミネラルが室内に流れ込み、体を包む時、体が「癒し」を感じて、そのあまりの心地よさに放心状態になるのではないだろうか。コンクリートとサッシで外気を完全に遮断し、中は冷房で冷やすのでは、「癒しの風」は感じられない。
中村家は北中城村大城106、098-935-3500。年中無休で、午前9時から午後5時半まで。観覧料は大人500円、中高生300円、小学生200円。
2007年11月12日
[第24話 食、南] コザのインターナショナルなタイ麺屋
コザ(沖縄市)には、どこかインターナショナルな空気が漂う。米軍嘉手納基地の門前だからというだけではない。確かにアメリカさんも多いが、インドやフィリピンなどのアジア系やラテンアメリカ系の人々も町を闊歩している。今回はそんなコザの町で、タイの麺料理を出す店を紹介しよう。
リチャードさん、ミコさん夫妻がやっているソムチャイ。胡屋十字路に近いセンター街の1本目を左に入ったレンガ敷きのパルミラ通りにある小ぶりな店だ。赤いトウガラシの絵が目を引く。
リチャードさんはフィリピン生まれのタイ育ち。成人してから家族でカナダに引っ越し、さらに日本に移り、横浜生まれのミコさんと長野で出会い、とうとう沖縄に来てしまったという、まさにインターナショナルを地で行く経歴の持ち主だ。
少年期を過ごしたタイの料理が一番好きだから、それを広めたくてこの店を始めた、という。「沖縄は野菜がタイとよく似ていますね」とリチャードさん。店名のソムチャイはタイ男性の最もポピュラーな名前。ミコさんが「日本で言えば、太郎さん、みたいな感じです」と説明してくれた。
まず、タイ風やきそばのパッタイ。米のめんに肉やえび、豆腐などの具が入る。辛さ、甘さ、酸っぱさ、しょっぱさが全部同居している、これぞタイの味、という感じだ。
次は、クイチャオナム。透明なスープに米のめんが入っている。揚げニンニクとバジル、ミント、ネギ、干しえびが香りのアクセント。アジアの香り、である。スープはさっぱりしていてクセがなく、さほど辛くない。焼豚もうまい。舌触りのなめらかなめんがスルスルと入っていく。
場所柄もあるだろうが、外国人客が多い。リチャードさん、ミコさんが英語で気さくに話しかけるから、日本語に不自由な人でも入りやすいのだろう。赤とライムグリーンのカジュアルな内装が楽しい。胡屋かいわいはシャッター通りが多いが、この店は間違いなく元気だ。
沖縄市中央1-17-14 098-937-2208。月、火が定休。国道330号線側からセンター街に入ってすぐ左1本目のパルミラ通りにあるが、車は入れない。センター街から1本目の道を右折したところにある有料駐車場に車を置いて歩くとよい。
リチャードさん、ミコさん夫妻がやっているソムチャイ。胡屋十字路に近いセンター街の1本目を左に入ったレンガ敷きのパルミラ通りにある小ぶりな店だ。赤いトウガラシの絵が目を引く。
リチャードさんはフィリピン生まれのタイ育ち。成人してから家族でカナダに引っ越し、さらに日本に移り、横浜生まれのミコさんと長野で出会い、とうとう沖縄に来てしまったという、まさにインターナショナルを地で行く経歴の持ち主だ。
少年期を過ごしたタイの料理が一番好きだから、それを広めたくてこの店を始めた、という。「沖縄は野菜がタイとよく似ていますね」とリチャードさん。店名のソムチャイはタイ男性の最もポピュラーな名前。ミコさんが「日本で言えば、太郎さん、みたいな感じです」と説明してくれた。
まず、タイ風やきそばのパッタイ。米のめんに肉やえび、豆腐などの具が入る。辛さ、甘さ、酸っぱさ、しょっぱさが全部同居している、これぞタイの味、という感じだ。
次は、クイチャオナム。透明なスープに米のめんが入っている。揚げニンニクとバジル、ミント、ネギ、干しえびが香りのアクセント。アジアの香り、である。スープはさっぱりしていてクセがなく、さほど辛くない。焼豚もうまい。舌触りのなめらかなめんがスルスルと入っていく。
場所柄もあるだろうが、外国人客が多い。リチャードさん、ミコさんが英語で気さくに話しかけるから、日本語に不自由な人でも入りやすいのだろう。赤とライムグリーンのカジュアルな内装が楽しい。胡屋かいわいはシャッター通りが多いが、この店は間違いなく元気だ。
沖縄市中央1-17-14 098-937-2208。月、火が定休。国道330号線側からセンター街に入ってすぐ左1本目のパルミラ通りにあるが、車は入れない。センター街から1本目の道を右折したところにある有料駐車場に車を置いて歩くとよい。
2007年11月06日
[第23話 南、食] 焼魚再発見―アンゴラ風アジの塩焼き
新カテゴリー「南」を前回に続けてお届けする。今回は、琉球王国の貿易の舞台だった南シナ海からマラッカ海峡を抜けてインド洋を渡り、一気にアフリカまで行く。喜望峰を回った大西洋を北上したアンゴラが舞台。沖縄とも豚とも関係ないが、それはそれはおいしい南の話を仕入れたので、冷めないうちにアツアツをお伝えしたい。題して、アンゴラ風アジの塩焼き―。
能書きよりも、まずはその作り方からいこう。アンゴラ風アジの塩焼きは、たっぷりニンニクを使う。焼いた後はニンニク、ニンニクした味にはならず、ニンニクは裏方に回って深いうまみになるところが面白い。
まず、すり込むニンニク塩ペーストを作る。ニンニクを入れ、叩いて大まかに砕いたら、塩を加え、ジャリジャリとよくすりつぶしていく。
今回はアジだが、脂がのった大きめのイワシが手に入ったら、ぜひ試していただきたい。サンマでもおそらくいけるし、タチウオなどでやってもおいしいかもしれない。とにかく脂がノリノリにのっていることが条件だ。
魚の側面に、深さ4、5mmの切れ目を1、2本入れる。全体にニンニク塩ペーストをよくぬったうえで、この切れ目の中にもニンニク塩ペーストを詰める。これがコツ。
15分ほど室温にそのまま置いてニンニク塩をよくしみ込ませてから、炭火でじっくり焼く。都会のマンション暮らしの人はグリルかロースターで、となる。魚の厚さにもよるが、20分以上かけてゆっくりと焼きたい。
焼き上がりは、不思議なほどニンニクの突出した味がしない。ニンニク臭くもない。ニンニクは魚の中に入り込んで、魚の脂と一体になり、見事なうまみに変わっている。
アンゴラは旧ポルトガル領。この塩焼きもポルトガルの料理技術が伝えられた結果だという。そう言えば、ポルトガルには名物のイワシの塩焼きがあった。
アンゴラは、すぐ横をベンゲラ海流が北上する。アジ、タイセイヨウニシン、サバ、タチウオ、タイ、サワラ、イカ、タコなど、日本人にもおなじみの魚の宝庫。シイラやハタも上がる。もちろんアンゴラの人々は大の魚好きだ。
「こんなにおいしい塩焼きがあったのか」―。塩焼きの味はよく知っているはずの日本人が、驚きをもって再発見する塩焼き。一度お試しあれ。
能書きよりも、まずはその作り方からいこう。アンゴラ風アジの塩焼きは、たっぷりニンニクを使う。焼いた後はニンニク、ニンニクした味にはならず、ニンニクは裏方に回って深いうまみになるところが面白い。
まず、すり込むニンニク塩ペーストを作る。ニンニクを入れ、叩いて大まかに砕いたら、塩を加え、ジャリジャリとよくすりつぶしていく。
今回はアジだが、脂がのった大きめのイワシが手に入ったら、ぜひ試していただきたい。サンマでもおそらくいけるし、タチウオなどでやってもおいしいかもしれない。とにかく脂がノリノリにのっていることが条件だ。
魚の側面に、深さ4、5mmの切れ目を1、2本入れる。全体にニンニク塩ペーストをよくぬったうえで、この切れ目の中にもニンニク塩ペーストを詰める。これがコツ。
15分ほど室温にそのまま置いてニンニク塩をよくしみ込ませてから、炭火でじっくり焼く。都会のマンション暮らしの人はグリルかロースターで、となる。魚の厚さにもよるが、20分以上かけてゆっくりと焼きたい。
焼き上がりは、不思議なほどニンニクの突出した味がしない。ニンニク臭くもない。ニンニクは魚の中に入り込んで、魚の脂と一体になり、見事なうまみに変わっている。
アンゴラは旧ポルトガル領。この塩焼きもポルトガルの料理技術が伝えられた結果だという。そう言えば、ポルトガルには名物のイワシの塩焼きがあった。
アンゴラは、すぐ横をベンゲラ海流が北上する。アジ、タイセイヨウニシン、サバ、タチウオ、タイ、サワラ、イカ、タコなど、日本人にもおなじみの魚の宝庫。シイラやハタも上がる。もちろんアンゴラの人々は大の魚好きだ。
「こんなにおいしい塩焼きがあったのか」―。塩焼きの味はよく知っているはずの日本人が、驚きをもって再発見する塩焼き。一度お試しあれ。