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2008年10月21日

[第82話 食] 見事なバランスの塩味豚だしそば

 10月17日の沖縄そばの日にちなんだ話題は、浦添市にある高江洲そばでいこう。ゆし豆腐がのった豆腐そばが名物で、淡白なゆし豆腐と透明な豚だしスープが実によく合う。その仲をとりもつのが、とろりとするまで煮込んだ軟骨ソーキだ。キーワードは塩味。

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 高江洲そばは地元の人々がたくさん訪れる人気店。昼時ともなれば、多少の行列は覚悟しなければならない。行列嫌いの沖縄県民も、高江洲そばの前では、おとなしく順番を待っている。待たされている人に対する店員の応対はていねいで気持ちよい。

 豆腐そばを注文すると、小さめのどんぶりにたっぷり盛りつけられたそばが登場した。めんは平めんで、それほど強いコシはなく、素直な食感。縮れているので、スープがよく絡んでおいしい。

 そのスープは、豚だしが軸。こっくりと深みがあるが、ドロッとしたような豚骨スープではない。透明でさらさら。深いコクを感じるのは、静かに煮込んでとった豚だしに、昆布だしやかつおだしが合わさっているからか。

 このスープにゆし豆腐がのると何が起きるか。ちょっとドキドキする。豆腐は自己主張があまり強くないので、豚だしスープに入れたら負けてしまうのではないか―。

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 さにあらず。塩味豚だしスープの中で豆腐の味がかえって強調されている。うまい。これは豆腐の底力もあるが、塩味スープが豆腐によくマッチするように上手に作られていることが大きい。

 第3話で紹介した美里そばにもゆし豆腐がのっていて、あれもすばらしくおいしい。美里そばのスープは醤油やかつおの風味もきいていて、それが豆腐の淡白な味とコントラストを見せながら、豆腐をうまく浮かび上がらせていた。高江洲そばはスープが塩味で、ほとんど目立たず、完全にわき役として豆腐を下からひき立てている。

 次は肉。多くの沖縄そば店では、具の肉の味付けはしょうゆと砂糖の甘辛味だが、ここのはなんと塩味。肉は軟骨ソーキで、軟骨がトロリとするまでじっくり煮込んである。この塩味軟骨ソーキが、また不思議なほど、ゆし豆腐と合う。しょうゆ味でなく塩味であることと、豆腐に近いくらいに柔らかな食感であることが決め手とみた。これまた実にうまい。

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 高江洲そばを食べると「バランス」という言葉を思い出す。軟骨ソーキにしても、ゆし豆腐にしても、スープにしても、平めんにしても、一つひとつは、びっくりするような感じではない。肩の力が抜けた、なんとも温和なたたずまい。なのに、それらが一つのどんぶりに納まって、一杯の豆腐そばになったとたんに、何やら妙においしい世界が立ち上がる。作り手の中に「この味」というイメージがしっかりあるからだろう。

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 お母さんが豚骨をじっくり煮込んで作る手づくりそばのイメージ。コシの強い麺や、カツオの強い香りを期待する人には向かないかもしれないが、透明な豚だしのうまみとそれに絡むそばや具のバランスを堪能するには最適だろう。

 むしろ、こういうそばこそが、家庭で作られてきた沖縄そばの味なのではないかと思える。豚だしというと、豚骨ラーメンの白濁スープを思い浮かべる人も多いかもしれないが、沖縄の豚だしは透明でサラサラが普通。高江洲そばのスープはまさにこれだ。

 とはいえ、このそばの味の深さは、マネしようとしても簡単にはできそうにない。スープ、肉、そして何よりもどんぶり全体が持つこのインパクトと見事なバランスは、やはり長い間、毎日、神経を研ぎすませて沖縄そばを作り続けてきたプロだからできること。とことん優しいけれど、人を行列に並ばせるだけの強い力が、どんぶりの中にあふれている。

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 高江洲そばは浦添市伊祖3-36-22、098-878-4201。日曜休。場所はパイプライン通りの伊祖付近なのだが、パイプラインから少し西に入った住宅街の中にあるので、分かりにくい。パイプラインを那覇から宜野湾向けに走って伊祖に入ったら、左手に「高江洲そば駐車場」と書かれたビル1階のゲタばき駐車場が見える。その手前を左折して20mほど坂を登り、右折すると店がある。駐車場は周囲の数カ所に分かれている。

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