[第118話 食] タコライスじゃない、たこめし[第120話 食] 暑さを乗り切るタイのサラダ

2009年05月31日

[第119話 食] 超高級食材だった車麩

 麩と言えばフーチャンプルー。材料の車麩は、どこのスーパーでも見かけるおなじみの食品で、値段も手頃。ところで、この車麩、どうやって作るのか。沖縄市の大城製麩で、車麩づくりの現場を見せてもらった。

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 麩の原料は小麦粉。小麦粉には、でんぷんのほかに、タンパク質であるグルテンが豊富に含まれている。小麦粉に水を加えてかくはんしてからグルテンの沈殿を待ち、水に混ざったでんぷんを流す。この作業を繰り返して、より純粋なグルテンにしていく。

 ちょうど米を繰り返しといではヌカ成分を流すのに似ている。ただし、米の場合は、残るのがでんぷん。麩づくりはその逆で、流すのがでんぷんだ。「私のところはこれを14回やるんです」と大城さん。残るでんぷんが多いと、食感が悪くなるらしい。

 残ったグルテンは粘土色で、ねばりがものすごく強い(冒頭の写真)。これを数分練ってから、小分けする。小分けしたものを伸ばして棒に巻き付け、かまに入れて焼くこと約4分。グルテンは自分で膨らんで、おなじみの車麩が出来上がる。

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 簡単そうだが、実際には難しい点がいろいろある。例えば、生地を小分けしてから、棒に巻き付けるまでの時間。これが長すぎると、コシがどんどん弱くなる。気温も影響する。小分けする人と焼く人は、言葉も交わさず、全く別の作業をしているように見えるが、実はわずか4、5分の間合いを互いに意識しながら仕事をしているのだ。

 あるいは、麩を焼くかま。このかまは300度近い高温が保たれている特注品。パンやケーキは200度前後で焼くが、麩はそれよりもずっと高温で、短時間で焼く。電気オーブンでこの高温を作り出すのは難しい。大城さんのかまは灯油を燃やす。

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 パンなら酵母を生地に入れて膨らませるが、大城さんの麩は何も入れない。「グルテンは自然に膨らむんです」。グルテンの自然の性質をよく見極めて、時間と温度をしっかり管理して、最適の膨らみ具合を得なければならない。

 大城さんから興味深い話を聞いた。沖縄本島中部の製麩業者のほとんどは、戦後、首里から移転してきた。つまり、戦前まで、麩はかつての琉球王国の王府周辺だけで作られていた。麩は「王様の食べ物」だったのだ。

 よく考えてみれば、うなずける話。なにしろ、小麦粉の主成分である豊富なでんぷんを捨て、わずかなタンパク質だけを取り出すのだ。

 琉球王国がいくら繁栄を謳歌した時代があったとはいえ、生産力の低い昔、庶民はその日その日のカロリーを確保するのがやっとだったはず。その貴重なカロリー源のでんぷんを「捨てる」という食品加工技術が発達したのは、さすがに王府周辺だけだったのではないか。もちろん、かつて、でんぷんは「捨てられた」のではなく、「分けられて」別に利用されたに違いないが。

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 3本180円。今や、大衆食材の代表選手となった車麩には、実はそんな栄光の歴史があったのだ。その栄光ぶりは、今も、車麩の高い栄養価にはっきり刻印されている。というのも、車麩は、タンパク質がなんと40%を超す。これほど高タンパクの食品は、めったにあるものではない。

 そう考えると、フーチャンプルーが、なんだか神々しいまでにありがたいものに思えてきた。

 大城さんの車麩はスーパーかねひで各店で買える。万鐘本店でも、第4話のままやの記事で、麩だけで作るちょっと変わったフーイリチーを紹介したことがあった。

bansyold at 00:00│TrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック  | 沖縄

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