[第148話 食] 手打ち風の麺に透明で深い汁[第150話 食、沖縄] 透明な中身汁で祝う新春

2009年12月27日

[第149話 食] ままやでトガリエビスを

 ことしの大トリは、万鐘本店第6話でお伝えした那覇の「ままや」。万鐘本店初の再掲である。ままやは、久茂地から松山の古い民家に場所を移し、雰囲気も料理も、ますます磨きがかかってきた。大人が那覇の夜を過ごすならイチオシの名店。今回は、沖縄県民にもあまり知られていない幻の魚トガリエビスを中心にお伝えしよう。

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 ままやは、柳生徹夫さん、郁子さん夫妻が切り盛りする店。郁子さんが洗練された琉球料理を作る。カウンターでは、徹夫さんが静かにビールをグラスに注ぎ、客と会話をする。食器、酒器もすばらしい。

 移転先の古い民家とは、実は、那覇生まれの徹夫さん自身が育った思い出深い家。ご両親が他界した後、空き家となった実家の建物に手を入れて店にした。屋根裏の板1枚1枚に、あるいは昔なつかしい正方形の窓のさんに、年月にしか出せない深い味わいがにじみ出ている。まさに大人の空間。

 さて料理。今回は、トガリエビスの煮付けから。赤い色をしたイットウダイ科の魚で、白身に脂がのっていて非常においしい。繊維の適当な食感と柔らかさが絶妙。今回は甘辛の煮付けにしてもらったが、まーす煮にしても塩焼きにしてもいけるとのこと。

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 このトガリエビス、魚屋に行ってもあまり見かけない。漁獲量が少ないのに加え、あまりにおいしいので、たまに獲れてもウミンチュ(漁師)が自分で食べてしまうのだそうだ。

 ままやには、トガリエビスが入荷すると業者からすぐ連絡が入る。那覇の店でトガリエビスを食べられる確率が最も高いのはままや、と常連客の1人。とはいえ、毎日というわけにはいかないので、もしトガリエビス目当てに行くなら、事前に問い合わせた方がいい。

 トガリエビスはインド洋や太平洋の珊瑚礁の岩場にいる。口が尖っていて形はユニークだが、色はとてもきれいだ。沖縄方言ではアカイユ(赤い魚)。

 八重山では、このトガリエビスのことを、なんと「浜崎の奥さん」と呼ぶらしい。語源は定かではないが、八重山ではこれで通じると書かれたブログがいくつかあるから、恐らくそうなのだろう。八重山に行ったら、魚屋で「浜崎の奥さん、ありますか」と尋ねてみたい。

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 さて、ままやといえば、ニガナのサラダを取り上げないわけにはいかない。第6話でも一番に紹介したが、相変わらず絶品なので、再掲する。1mm幅に細切りにしたニガナをさらし玉ねぎと合わせ、歯ごたえのアクセントにするソバ茶と香りづけのゴマをパラパラとふる。ニガナの苦みと食感、玉ネギの味がよくマッチしている。体にいいこと間違いなし。

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 つき出しで登場したクーブイリチャー。写真がアップになりすぎているが、実物の昆布は1、2mm幅に細くきれいに切ってある。よくあるクーブイリチャーの半分以下。同時に、普通のクーブイリチャーより、昆布を蒸し煮する時間が短めなのだろう、ほどよい歯ごたえが残されている。この歯ごたえを「ほどよい」と感じるために必要な細さが、この1、2mmの細さなのだ。計算されたバランスの中に、郁子さんのセンスが光る。

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 クブシミのチキアギをいただいた。クブシミは、和語でコブシメという大きなイカ。これをすり身にして、人参を混ぜ、油で揚げてある。あつあつをほおばると、口の中にクブシミのうまみが広がる。しょうが醤油をつけると、さらに立体的な味に。郁子さんは八重山出身。八重山ではクブシミをすり身にしてよく食べるという。沖縄本島ではほとんど見ないチキアギだ。

 第6話で既に紹介したカリカリねっとりの焼きテビチ、麩と卵だけで作る一風変わったフーイリチャー、ドゥルワカシを揚げたドゥル天なども、相変わらず非常においしい。豆腐窯はまだ報告していなかったが、豆腐窯には珍しいほどのフレッシュな香りが鼻に抜ける逸品。

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 新しいままやは、那覇で最も有名な寺である大典寺の正門に向かって右の道を進むとすぐ右側にある。那覇市松山1-8-5、098-867-1350。毎週水曜と最終週の火曜が休み。電話予約をお勧めする。

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