[第162話 食、南] 風で麺を締める品質の頂点も、すそ野拡大も

2011年01月02日

泡盛伝統世界の間口を広げる

沖縄を創る人 第1回
 崎山酒造廠専務 崎山淳子さん(上)


 名酒「松藤(まつふじ)」を醸す明治38年創業の老舗、金武町の崎山酒造廠。琉球泡盛の伝統世界に新しいうねりを創り出すのが専務取締役の崎山淳子さんだ。東京農大醸造学科卒の理論家である夫の崎山和章社長と二人三脚で新商品の開発に取り組む。

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 香り高い黒糖にこだわった梅酒、粗濾過でうま味たっぷりの泡盛、黒糖酵母による華やかな香りの泡盛、玄米やはと麦で作る薬膳味噌ー。崎山酒造廠がこの5、6年の間に世に出してきた新製品群をながめてみると、伝統の世界にしっかりと基礎を置きながらも、その間口を大きく広げていく豊かな発想が感じられる。

 梅酒のきっかけは、リキュールを作ってほしいというお客さんの声だった。泡盛は、ストレートや水割りだけでなく、最近、さまざまなカクテルが考案され、甘さや高い香りの多様な材料との相性のよさが広く認められるようになっている。

 「体にいいものを作りたい」。淳子さんの発想の根底に流れる最大のコンセプトのひとつがこれだ。

 うま味成分の豊富な泡盛に、作りたての黒糖を入れ、南高梅を漬ける。いろいろ試したが、44度の泡盛で漬けたものが一番おいしく仕上がった。

 「黒糖は、釜で炊きたてのものをメーカーに持ってきていただくんです。(時間が経ったものとは)風味が全然違います」。力を込めて、淳子さんが話す。平成19年、こうして沖縄黒糖梅酒は誕生した。

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 炊きたての黒糖、となれば、どうしてもコストが心配になるが、かけるべき手間、経費はかける。その分は売価にはね返るが、作り手としての揺るぎない自信と確信がお客さんへの説明を熱いものにし、マーケットを切り開く。

 品質の追求という意味では、平成17年に誕生したうま味成分の多い泡盛「粗濾過松藤」について語らないわけにはいかない。これは沖縄黒糖梅酒のベースにもなっている泡盛だ。

 粗濾過は「あらろか」と読む。もろみを蒸留した後に行う濾過工程で、「粗く」濾過することにより、うま味成分をたっぷり残す製造法を指す。

 そもそも泡盛の濾過は、ザルのようなもので物理的に濾すわけではない。低温に置くことによって、アルコールに溶け込んでいる高級脂肪酸などを析出させ、それを除去する技術を用いる。

 この高級脂肪酸が泡盛の味を複雑なものにするため、ある程度の除去は必要になるのだが、実はこれらが同時にうま味成分を含んでいる。濾過が過ぎると、あっさりした軽い泡盛にはなるが、うま味も薄れていく。

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 「粗濾過松藤を冷蔵庫に入れておくと、そのうま味成分がたくさん出てくるんですよ」

 松藤に限らないが、泡盛のもろみは、米麹以外には、イモや麦はおろか、米すら加えない。黒麹菌を繁殖させた米麹と水のみで仕込む。この「全麹仕込み」こそが泡盛の大きな特徴、と淳子さんは考えている。その結果、うま味成分がたっぷり含まれる。

 古酒の深い味、高い香りを生み出すのも、このうま味成分の経年変化にほかならない。副原料ゼロで麹のみで仕込む、というのは、考えてみれば、ものすごくぜいたくな仕込みといえるだろう。

 まだある。粗濾過松藤がたっぷりとうま味成分を含んでいるのは、たんに濾過しすぎないからだけではない。実は、麹そのものにも大きな違いがあるのだ。

 続きは次回1/9(日)に。

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