2007年08月

2007年08月28日

[第9話 沖縄] 宮城島の絶壁で作るぬちまーす

 沖縄はもはや「塩の産地」といっていいほど、数多くの銘柄塩が生産されている。その中でも1kg4000円の価格で他を大きく引き離しているのが「ぬちまーす」だ。

 ぬちまーすは、創業者の高安正勝さんが発明した常温瞬間空中結晶製塩法で海水から作られる。釜で煮詰める方式だと、マンガン、亜鉛、鉄などの微量ミネラル成分が最後まで水の方に残り、塩に取り込むのが難しい。高安さんの方式では約50度の空中に海水を噴霧する。ほぼ瞬間的に水分が蒸発し、できた塩がまるで雪のように床や壁に積もっていく。こうして、微量ミネラルをしっかり含んだ塩ができる、というわけだ。

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 ぬち、とは沖縄語で「いのち」、まーす、は「塩」を意味する。「微量ミネラルを含んだ塩は命の源。高い、と言う人もいるが、それだけの価値のあるものだと思っています」と高安さんは胸を張る。

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 10年前の創業以来、うるま市の一角にビニルハウスを建て、その中の高温を利用して製塩してきたが、このほど、沖縄本島東海岸にある宮城島の絶壁の上に新工場を建設した。付近の海は汚れが少なく、新工場では、足元から原料の海水を汲み上げられる。

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 新工場を高安さんは「ぬちうなー」と命名した。うなー、は「御庭」。いのちをはぐくむ特別の場、だ。高安さんは、工場を一般にも見学してもらえるようにした。製塩室の中には入れないが、内部に降り積もる「海の雪」を窓から見ることができる。

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 ぬちまーすを使った梅干しなどの加工品が買えるショップとレストランも備えた。見学者は、ビデオを見て塩について勉強したり、高安さん自身の話を聞ける日もある。

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 周囲はサトウキビ畑と絶景の青い海がどこまでも広がる。ほかには何もない。強い日差しの下で、まるで時が止まったような島の時空間を感じることができる。

 宮城島は、海中道路と橋で沖縄本島と陸続きになっているので、車で行ける。うるま市中心部から約30分。うるま市与那城宮城2768。098-983-1111。年中無休。工場見学は9:00〜17:30。レストランは11:30〜17:30。

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2007年08月23日

[第8話 食] 旧盆料理の主役、豚三枚肉煮付け

 沖縄の豚三枚肉料理と言えばラフテーがすっかり有名になっているが、実は沖縄県民はラフテーをそれほどひんぱんに食べているわけではない。むしろ県民がよく口にするのは「豚三枚肉の煮付け」。ラフテーも豚三枚肉を甘辛味で煮付けたものだが、「豚三枚肉の煮付け」はラフテーとは別物だ(下の写真は「豚三枚肉の煮付け」)。

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 ラフテーは皮付き三枚肉をトロトロになるまで煮込んだ宮廷料理。「箸で切れるくらい」の柔らかさになるまで数時間煮る。当然、歩留まりは悪くなるから、ぜいたくな料理と言える。

 これに対して「豚三枚肉の煮付け」は、旧盆、旧正月、法事などの時にほぼ必ず作られる庶民の伝統的な行事食。ラフテーより調理時間が短く、赤身はまだしっかりしており、歯ごたえがある。ごはんによく合う。重箱に詰める行事食なので、冷めてから食べても結構おいしい。

 沖縄を代表する料理研究家、松本嘉代子さんに、三枚肉煮付けを作るコツを聞いた。まず皮付き三枚肉を固まりのまま50分ほど下ゆでする。これでアクや余分な脂が抜け、皮も柔らかくなる。これを約8mmの幅に切る。

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 煮汁は醤油、砂糖、泡盛で作る。みりんは肉を堅くするので入れない。この煮汁の中で、下ゆでした肉を弱火で12、3分静かに煮ふくめる。仕上げに火を強めると、照りがつく。

 お盆や正月、法事の伝統行事の重箱に入るのは、三枚肉の煮付けのほか、昆布の煮付け、かまぼこ、天ぷら、揚げ豆腐、ごぼうの煮付け、こんにゃくの煮付けなど。旧盆に仏壇のある家を回ると、1人前の料理が小皿に盛りつけられて出されることが多い。

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 重箱の中身、つまり小皿の上は、どの行事でもほぼ同じ顔ぶれだ。行事の多い沖縄ではこれを年に3、4回は食べることになる。

 「行事食というのは本来そういうものなんです。でも、おいしければ子供たちも喜んで食べますよ。子供が伝統料理を食べないなどといわれますが、あれは大人が食べさせていないだけなんです」と松本さん。

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 確かに、同じものでも、おいしいものは毎回おいしい。行事のたびに行事料理に黙々とパクついている子供たちは必ずいる。

 中でも、適度な柔らかさと歯ごたえを備えた味くーたーの豚三枚肉煮付けは、やはり行事食の主役。ごちそう、である。

 ことしの旧盆は8月25日がウンケー(お迎え)で8月27日がウークイ(お送り)。家族が仏前に集まって重箱をお供えし、祖先の霊と向き合う沖縄最大の行事だ。各家とも入念に準備する。スーパーの折り込みチラシにもいよいよ力が入ってきた。

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 企業も役所も、この3日間ばかりは動きが超スローになる。観光は問題ないが、ビジネスのアポは入れない方がよさそうだ。あの世からのお客さんの相手で、県民はかなり忙しい。

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2007年08月20日

[第7話 沖縄] 万国津梁館、上質感の秘密

 沖縄を代表する現代建築を挙げるならば、まずは名護市の万国津梁館を推す。2000年の沖縄サミット首脳会合の会場になったから、というわけではない。万鐘と同名のよしみだから、でももちろんない。ここに入ると、他では得られない上質感と独特の心地よさに包まれるからだ。

 万国津梁館を設計したのは、地元の(株)国建の福田俊次常務をプロジェクトマネージャーとするチーム。福田さんにその秘密を聞いた。

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 「安波の集落の家並みなどに代表されるように、小さな建物が集まっているのが沖縄的な風景だと思うんです。威圧感のある巨大な構造物では、人間が空間をコントロールできません。そこで万国津梁館も大きな建物にせずに、分棟方式にしました」

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 もう一つ、福田さんが沖縄的だと考える建築のあり方が「内と外との融合」だ。沖縄の伝統家屋は壁らしい壁がない。障子や雨戸を閉めることはもちろんあるが、それを開け放てば、外の空気がそのまま家の中とつながる。万国津梁館も、そうした空間設計にして、内外一体の開放感をもたせた。

 建物内部の上質感を支えているのは、無垢の部厚い木材をたっぷり使っていること。木の肌合いが、心地よさのベースになっていることは間違いない。「内装のモチーフはアジアです。沖縄は環アジアの一角にあるので、アジアンリゾートのイメージで作りました」。カフェテラスがその好例だろう(下の写真)。

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 無垢材はインドネシアで加工することで、厳しい予算の制約を乗り越えた。内外一体にすれば、内部にも外の風が入ってくるので、内装に使う木材は一定の強度が必要になる。この無垢材はニアトウという木で、油分が多く、風にさらされても朽ちにくい。眼下に海が見渡せるオーシャンホールの内部にも無垢材が使われている。無垢材の濃い茶色とアイボリーホワイトとの取り合わせが万国津梁館の内装の基調だ(下の写真)。

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 ただし、万国津梁館はコテコテのアジアンリゾートではない。モチーフはアジアンだが、そこに日本的、沖縄的な抑制が働いている。だからこそわれわれには快適なのかもしれない。サミット主会場に使われたサミットホールにも、どこかそんな味わいがある(下の写真)。

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 万国津梁館は、サミット後も国際会議や各種イベント、結婚式などに使われているが、そうした催しがない時は一般に公開されている。借景の海も絶景。ぜひ一度訪れたいスポットだ。名護市字喜瀬1792。電話0980-53-3155。

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2007年08月15日

[第6話 食] 「ままや」の洗練された沖縄料理

 那覇かいわいで万鐘がお勧めする店は「ままや」から。久茂地川沿いにある電波堂ビルから1本入った奥にある、お酒がメインの店。酒の肴として登場する沖縄料理が独自性にあふれている。その洗練された味と美しい姿は第一級だ。

 ビールを頼むと、もの静かな店主の柳生さんが、きめ細かい泡をていねいに立てながらビールをグラスに注いでくれる。クリーミーな泡の感覚を楽しみながら肴の登場を待つ。

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 酒肴のトップバッターとして、第4話でお伝えしたニガナがタマネギとサラダになって出てきた。ニガナの苦みがタマネギの辛み、甘みとよく合う。この2つの個性の強い味を、厚みのあるドレッシングとゴマがうまくまとめてくれる。

 2番手はドゥル天。ターンムにしいたけ、豚肉などを混ぜてよく練った沖縄伝統料理のドゥルワカシーをまるめて油で揚げてある。表面のサクサク感と、中のねっとりしたドゥルワカシーとの対比が絶妙だ。泡盛によく合う。

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 ほろ酔い加減になってきたところに、焼きテビチが登場した。テビチ(豚足)を柔らかくなるまで加熱した後、外側を焼き上げて、カリっとした食感を出す。これにニンニクとネギの効いたタレをつけながら食べる。絶品。会話が止まる。おかわりしたかったが、既に品切れだった。

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 フーイリチーといえば、県民的おかず、といっていい。よくあるのは、フー以外に豆腐、豚肉、卵、野菜などが入っているチャンプルーだが、ここのはユニーク。何と、フーのみで作られている。揚げられているような口あたりが何ともおいしい。エスクニック風のトウガラシソースで食べる。

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 というわけで、「ままや」では、沖縄料理の定番がすべてひとひねりされて登場する。その仕上がりぶりは、まさに洗練された沖縄料理と呼ぶにふさわしい。泡盛がすすむ、すすむ。

 普通の沖縄料理にはちょいと飽きた、という人にお勧め。飲んで食べて4000円くらい。那覇市久茂地2-17-19。098-867-1350。17時30分から。日祝休だが、土、月が祝日の場合は連休。


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2007年08月05日

[第4話 農] ハツおばあのニガナ

 ゴーヤーよりにがい野菜がある。その名もニガナ。ウチナーグチではンジャナバー。葉野菜というより、野菜と薬草の中間くらいの存在だ。

 野生のニガナは海辺の岩っぽいところに自生している。栽培される場合は、家庭菜園の隅っこに5、6株、植えられていることが多い。

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 数は少ないが、プロの栽培農家もいる。スーパーなどに並んでいるニガナは、こうした農家が栽培したものだ。

 豊見城市の大城ハツさんもその一人。さすがのニガナも7、8月の直射日光には弱いらしく、ハツさんはネットをべたがけにして、遮光していた。

 ハツさんは、あまり手間をかけなくてもできるからニガナを始めた、という。「でも、収穫は1枚1枚だからね。年寄りの仕事さあ。若い人はやらんよ」

 ニガナは、葉を切りとって収穫すると、また次の葉が出てくる。そうやってずっと穫り続けられるが、夏の暑さなどで株が傷むらしく、ハツさんも2年に1回くらいは植え替えしているそうだ。日差しが落ち着いてくる秋ごろから、どんどん伸びてくるようになり、出荷量も増えるという。

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 「昔はね。海辺に生えているニガナの根っこをとってきて、酒に漬けてね。腹具合の悪い時に飲むこともあったよ」とハツさん。

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 栽培されたニガナは、海辺の野草ニガナよりも葉が大きく、柔らかい。細く切って豆腐とあえるのと、イカのスミ汁に入れるのが2大料理法。白あえは、豆腐がニガナの苦みを緩和してくれる。スミ汁では、うまみたっぷりの汁の中で、苦みがアクセントになる。最近はツナと合わせてサラダ風に仕立てた小鉢にもよくお目にかかる。

 いかにも体によさそう。いろいろな食べ方が工夫できそうだ。

 スーパーに売られているニガナでも、冷蔵庫に入れておけば3週間くらいは平気でもつ。沖縄では農連市場、公設市場のほか、サンエーなどのスーパーも置いていることが多い。

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2007年08月01日

[第3話 食] 繊細で優しい美里そば

 万鐘が自信をもってお勧めする隠れた名店のトップバッターは、沖縄市の美里そば。雑誌の沖縄そば特集などにはほとんど載っていないが、その味のよさでファンがじわじわ増えているようだ。

 シンプルで飾り気のない店構え。手入れの行き届いた清潔な店内は、店主の照屋エリ子さんの心遣いが感じられる。

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 メニューは、三枚肉の煮付けをのせた沖縄そば、ソーキの煮付けが入るソーキそばの定番2種に加え、軟骨ソーキをねっとりするまで煮込んだ軟骨ソーキ入りの軟骨そばがある。さらには店名を冠した美里そば。これが一番人気とのことなので、早速注文。

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 大ぶりのどんぶりに、三枚肉の煮付け、軟骨ソーキの煮付け、ゆし豆腐とねぎが載ったそばが登場した。ヨモギの葉が別添えでついている。汁が熱いうちにヨモギを入れて、しんなりさせながら、その香りを楽しむ。コーレーグスをかけると泡盛のいい香りが加わった。

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 まずゆし豆腐を一口。ゆし豆腐がそばの汁とこんなに相性がいいとは―。そばは細めで、のどごし最高だが、しっかりとコシがある。汁とよく絡んでうまい。中盤に入ると、めんが汁を吸って少し柔らかくなるが、これが汁とさらによく絡む。

 三枚肉の煮付け。そばにのせる三枚肉は、柔らかく煮てある方がそばや汁と一体になってうまいのだが、煮すぎると味も香りもなくなってしまう。美里そばの三枚肉は、ギリギリの柔らかさまで煮込んである。軟骨ソーキは、ゼリーのようにねっとりしていて、おいしい。

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 この汁は不思議な味だ。豚骨をじっくり煮込んでいるとのことだが、臭みは全くない。ほんのりと甘味を感じる、何とも優しい味だ。繊細な細めんとの相性がいい。コクは確かにあるのに、しつこさが全くないので、最後まで飲んでしまった。

 泡盛残波のCMでおなじみの民謡歌手げんちゃんこと前川守賢さん、ネーネーズをサポートしてきたミュージシャン嘉手苅聡さんも常連らしい。県道75号線、琉球銀行コザ十字路支店の駐車場のすぐそば。沖縄市美里744-1。電話098-937-4196。


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