2007年10月

2007年10月31日

[第22話 南] 南を上にしてアジアを見る

 これまでの万鐘本店の記事分類は「沖縄」「食」「農」の3つだったが、今回から新カテゴリーとして「南」を加える。沖縄は、さらに南の国や地域との間にさまざまな次元の接点を持つ。それらを紹介したり、時には沖縄をすっ飛ばして南そのものの話題もお届けしたい。初回は「南北逆さ地図」のお話。

 グーグルアースを使うと、上空のさまざまな高さから世界を眺めることができる。北朝鮮の核貯蔵施設だって茶の間で簡単に見られるという。そのグーグルアースで、沖縄と東南アジアの一帯をくるりと南北逆さにしてみたのが、この地図だ。

SouthNorthA

 まず、奄美、沖縄、宮古、八重山、台湾、中国・福州が、東シナ海を取り囲むようにして、きれいな弧を描いていることがよく分かる。この弧は、北が上の地図でも全く同じはずなのだが、この地図で見ると妙に目立つ。その部分を拡大してみよう。

SouthNorthB

 歴史を振り返れば、この弧は、実際にさまざまなつながりを持ってきた。奄美から八重山までの琉球王国の版図内はもちろん、その先の台湾、中国・福州まで、人々の行き来は盛んだった。琉球王国が中国に朝貢する際の窓口は泉州から福州に移り、そこには琉球の大使館の役割を果たす「福州琉球館」が置かれていた。

 現代に目を転じると、経済発展著しい中国は、上海から香港までの沿岸部一帯が、その牽引役を果たしている。うるま市でリムジンを作っている株式会社アミューザが深圳をターゲットにしているという話は第19話で紹介した。中国南部の沿岸地域に焦点を合わせた時、琉球弧が日本の最前線に位置していることが、この地図だとよく分かる。

 初めの逆さ地図に戻って、もう一つ、目に入るのは、台湾、福州の先に大きく広がる南シナ海だろう。環南シナ海の拡大図がこれ。

SouthNorthC

 琉球王国も南シナ海を舞台に、アジアの国々との間で盛んに貿易をしていた。主な貿易の相手国はシャム(タイ)、安南(ベトナム)、ジャワ(インドネシア・ジャワ島)、パレンバン(同・スマトラ島)、マラッカ(マレーシア)、スマトラ(インドネシア・スマトラ島)、パタニ(タイ南部)など。これら南の国々で得たコショウなどを中国に、中国の磁器などを各地に、といった中継貿易をしていた。

 これらの国々はいずれも、明(中国)の朝貢要請に応じる形で、その国際秩序の中で貿易をしていた。初期には、倭冦に手を焼いた明が琉球にその相手をさせようと考えて、数多くの船を与えたり、他国には課した進貢回数の制限を設けないなどの優遇措置をとった結果、琉球はこの貿易ネットワークの中でぐんぐん頭角を現したという。

 白石一郎の歴史小説『怒濤のごとく』に登場する明末期の鄭芝龍も、若き日に長崎、琉球、フィリピン、インドネシア、タイなどをまたにかけた南シナ海の密貿易で財をなした。その鄭芝龍と平戸の日本人妻との間に生まれたのが鄭成功。彼は、清に最後まで抵抗したため中国では英雄視されている、…と、この海域をめぐる話は尽きない。

 南シナ海の地図を見ていると、船を進めるにしたがって安南やマラッカが徐々に近づいてくる感覚になれる。南が下だと、どうもそういう気分になりにくい。だから南を目指す時は、地図をヒョイとひっくり返して「前進」したい。

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2007年10月25日

[第21話 沖縄] 民謡人気衰えず、三線作りも好調

 全国的な三線ブームはまだ続いているようだ。うるま市にある津波三線店社長の津波清一さんの話では、月に50本ほど作る三線の半分以上が本土向けだという。個人がインターネットで注文してくることもあるし、本土の楽器店が仕入れるケースもある。本土の各地に三線教室ができているという。

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 津波三線店は、先代が創業して既に50年余り。「昔は、三線をひく人はアシバー(遊び人)と言われ、やや白い目で見られていたんですが、そうした雰囲気はこの20年で大きく変わりましたね」と津波さんは語る。

 三線は、胴体に蛇の皮を張り、竿をつけて組み上げていく。胴体と竿の噛み合わせが悪いといい音が出ないため、紙を差し込んで隙き間の具合をみながら、竿を抜いては胴体を槌でこつこつ叩いて形を整える。根気のいる作業だ。

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 仕上げの段階では、実際につまびいて音を確かめ、全体的な仕上がり具合をチェックする。全体のバランスは経験が豊富でないとつかめない文字通り職人芸の世界。最終点検する津波社長のまなざしは真剣そのものだ。

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 沖縄民謡の世界は相変わらず元気、元気。「民謡の新人」はポツポツ出ているし、「民謡の新曲」も毎年作られ続けている。そして、歌三線のすぐ隣りには琉舞や組踊が。夏の風物詩、エイサーの全国的人気も健在だ。津波三線店も、三線だけでなく、太鼓、パーランクーなどの楽器や舞踊関係の道具類・衣装を製造したり、販売したりしている。

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 こうした元気が本土に波及しているのかもしれない。沖縄の地元紙琉球新報、沖縄タイムスがそれぞれ主催する三線コンクールでは、最高賞をとった人が紙面に顔写真入りで紹介されるが、その中にも本土の出身者が少しずつ増えてきた。

 「この調子が続けばいいんですが」。津波社長は控えめに言うが、沖縄民謡にはどこか人を引きつける力がある。例えば、古典音楽における三線と歌の旋律のかけあいなど、ぞくぞくするほどスリリング。現代音楽にも三線の音色は不思議になじむ。三線を「聞きたい」「弾きたい」と思う人はまだ増え続けるのではないだろうか。

 津波三線店はうるま市平良川184-1、電話098-973-3997。http://www.34ten.com/

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2007年10月19日

[第20話 食] 涙なしのソーミンチャンプルー

 沖縄料理の店でソーミンチャンプルーを食べて大変気に入り、自宅で挑戦したものの、ベトベトになって今ひとつだった、という失敗談をよく聞く。今回は、失敗しないソーミンチャンプルーの作り方を。

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 ソーミンチャンプルーをしゃきっと作るには、いくつかのコツがある。

 コツ1。そうめんはたっぷりの湯で、固めにゆで上げる。芯がなくなったらすぐに湯を切って冷水にさらし、麺をよく引き締める。

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 コツ2。水を切ったら、ボウルに移し、好みの油をまぶしておく。そうめん2束に油を小さじ2杯くらい入れる。こうしておけば、めん同士がくっつかない。油をからめる時に、あまり強く混ぜるとかえってベタベタになるので、そっと軽く。

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 コツ3。いためる際に、いためすぎないよう注意する。加熱しすぎるとベタベタになる。いため油を入れたら、あまり高温にしないでそうめんを入れ、徐々に温度を上げていく。塩をしっかりふり、ニラを切ったものを入れ、熱くなったらすぐ火を止める。

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 ニラと塩だけでも十分おいしいが、皿によそってから花かつおを乗せると、コクが増す。塩味が基本だが、お好みで醤油をたらしてもよい。

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 むろん、キャベツなどの野菜や豚肉、ツナ缶などを入れてもおいしい。その場合は、具材はめんとは別にいためておき、めんをある程度いためてから加えて混ぜるようにする。

 最後に、伝統的なソーミンチャンプルーはラードで作る。ラードで作れば、それはそれは素晴らしい味と香りになる。ぜひ一度お試しを。

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2007年10月13日

[第19話 沖縄] 地の利を生かしてリムジン製造

 リムジンといえば、要人やお金持ちが乗る長い長いクルマ。その製造工場が沖縄本島中部、うるま市州崎にある。訪問した日、出来上がったリムジンが、雨上がりの構内に並んでいた。1台でも見る機会のあまりないリムジンだが、それがずらりと並ぶ光景はなかなか壮観だ。

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 リムジンを作っているのは、株式会社アミューザ。取締役技術開発部本部長の神原実さんによると、同社は2年前、うるま市内の特別自由貿易地域に進出。これまで年間10台ほど製造し、日本国内のホテル、企業、配車会社などに販売してきた。次年度からは生産台数を倍増させ、中国・深圳などに輸出していくという。

 なぜ沖縄に立地したのだろうか。神原さんはいくつかの理由を挙げたが、その一つは、同社が立地した特別自由貿易地域の制度面での手厚いサポート体制だ。例えば10年間は法人税が35%免除になる。

 沖縄の「地の利」もある。海外市場に目を向けると、経済発展著しい中国南部をはじめ、沖縄から出荷した方が有利になるようだ。全日空が国際航空貨物のハブを那覇空港に置くことにしたように、南の玄関としての沖縄の役割は今後、大きくなっていくかもしれない。

 リムジンは、ベンツなどの大型車を土台とし、いわば車体を延ばして作る。と言うと簡単に聞こえるかもしれないが、「長くする部分に板金をあてがうだけ」ではできない。

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 車体を長くすれば、当然ながら、いろいろな強度計算が変わってくる。例えば、長くなるとひねりの強さが変わるので、それに合わせて、中央部分には固すぎず、柔らかすぎずの材料を慎重に選ぶ必要がある。アミューザの工場には、こうした安全性確保のための実験・計測機器類がいくつも置かれていた。

 内装部品類は、既製品がないのでほとんど自前。プラスチック部品や革製品はそれぞれの担当部門が手作りする。こうして出来上がったリムジンの価格は1000万から3000万円という。

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 主に観光でメシを食っている沖縄だが、その地の利を生かして、製造業を含めた多様な産業立地が構想されている。安価な量産品の製造は困難かもしれない。だが、リムジンのように高い付加価値をつける製造業が、それも輸出を視野に入れることで地の利が生かせれば、沖縄は魅力的な進出先といえるだろう。

 10年後の沖縄―。ひょっとしたら、青い海に囲まれた輸出品製造業の島、になっているかもしれない。

 アミューザは、うるま市州崎12-80、電話098-982-1116


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2007年10月07日

[第18話 農] 微生物より有機物、金城夫妻の土づくり

 名護市でハウス野菜を生産している金城利信さん、美代子さん夫妻は、土づくりにこだわって、高品質のゴーヤーやインゲンを栽培している。「土づくり」はよく聞く言葉だが、実際には何をするのか。その前に、まずは土づくりの結果をお見せしよう。

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 金城さんの畑では、長さ70cmほどの鉄筋が片手でスーッと入っていく。とてもトラクターで耕せる深さではない。この土の柔らかさは驚異的と言っていい。もとはガチガチの赤土だった。その当時、もし鉄筋を突き立てていたら、おそらく3cmも入らなかったはずだ。

 土づくりとは―。落ち葉などで作った堆肥とともに、鶏糞や豚糞、油かすといった栄養価の高い有機物を入れ続けると、何年か栽培を続けるうちに土の生物的・化学的バランスが徐々に整い、土が柔らかくなり、作物の収量が上がるとともに病気にも強くなる―。このあたりが模範解答だろう。

 だが、高温の熱帯・亜熱帯では、土壌微生物の活動が非常に活発なので、教科書通り、1反(0.1ha)に2tくらいの有機物を入れたのではとても追いつかない。利信さんが「本土に研修に行ったんだが、あまり参考にならなかった」と述懐するのは、温帯の土づくりは亜熱帯の沖縄では通用しないからだ。

 金城さんの土づくりの極意は、有機物を大量投入すること。剪定チップと呼ばれる木のチップをはじめ、伐採木、雑草、コーヒーの絞りかすなど、手に入るあらゆる有機物を1、2年寝かせてから、畑に入れる。都市汚泥や牛糞といった栄養価の高い素材ももちろん混ぜる。こうした有機物を1反に年間10tも入れるのだ。下の写真は新しい剪定チップ。2年経った頃には黒ずんできて、かさもぐっと減る。

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 「最近は微生物のことが強調されるけど、微生物の餌になる有機物をまずたくさん入れなければどうにもならん」と利信さん。少々の堆肥を入れても、あっという間に分解されて消えてしまうのが亜熱帯の赤土なのだ。

 野菜づくりは、初めは美代子さんが一人でやっていた。美代子さんの栽培管理の腕はたいへんなもの。ゴーヤーでは総理大臣賞に輝いたこともある。建設業を辞めた利信さんが本格的に戦列に加わって、二人の土づくりは一層進んだ。

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 金城さん夫妻は、売っている微生物資材は全く使っていない。大量の有機物が入れば、それをエサにして自然の微生物が増え、土をほろほろに柔らかくしてくれるからだ。

 微生物資材より有機物の大量投入―。亜熱帯の土づくりの基本である。


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2007年10月03日

[第17話 食] 鍋持参でテイクアウトするおでん

 暑い沖縄にも、おいしいおでん屋さんがある。その中から今回はうるま市の「いこい」を紹介しよう。沖縄おでんの主役、てびちがトロトロになるまで煮込んである正統派だ。

 てびち(豚足)は皮や筋の部分にコラーゲンがたっぷり含まれているので、これをじっくり煮込んだ沖縄おでんは非常に濃厚な味わいになる。大根や豆腐といった淡白な味の素材も、てびちの濃厚なうまみをもらって、こってりと「味くーたー」(味わい深い、味がある)に。

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 てびちの味は濃厚でボリュームもたっぷりだが、食べた後は不思議ともたれない。

 「いこい」は、具志川郵便局の向かいで営業して既に38年。地元の人々に長く愛されてきた。「おでんと言うとお酒を飲みながらのイメージが強いんですが、うちはどちらかと言えば家庭のおかずなんです。持ち帰りも多いですよ」と店主の又吉とよ子さん。

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 又吉さんと話をしたのは昼時だったが、ちょうどその時、頭に白いものが混じった作業服姿の男性が鍋を片手に店に入ってきた。おでんを2つ3つ注文して「おばあのお昼にね」と笑顔を見せた。持ち帰りの人はみな家から鍋を持って来る。ゴミを出さない「昔ながらのテイクアウト」がここでは健在なのだ。

 夜も営業しているので、島酒(泡盛)を飲みながらおでんを楽しむことももちろんできる。てびちは350円、それ以外のとうふ、大根、こんぶ、やさい(シロナかウンチェー)、こんにゃくなどはみな100円。おでん以外に、各種チャンプルーや沖縄そばなどもある。よく食べて、飲んでも3000円止まり。

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 おふくろの味を求める人、ややディープな沖縄を感じたい人にぴったり。気さくな又吉さんと話すのも楽しい。話しかければ、昔からの知り合いのように接してくれる。うるま市平良川206-2、098(973)4061。県道75号線沿い、具志川郵便局の向かい。

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