2007年11月

2007年11月30日

[第27話 食] 口どけのよい丸いちんすこう

 ちんすこう、と言えば、最も有名な沖縄の伝統菓子。沖縄みやげの定番でもある。中国菓子の影響を受けて、明治時代に現在のちんすこうを初めて作り上げた老舗、新垣菓子店をはじめ、沖縄にはちんすこうメーカーがいくつかある。今回はその中からニューウェーブを紹介しよう。その名も、まんまるちんすこう。写真右はよくあるタイプ、左がまんまるちんすこうだ。

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 ちんすこうはクッキーと似ているが、食べれば違いが分かる。まず、クッキーは口に含むとバターの味と香りがするが、ちんすこうはバター味ではない。それもそのはず、ちんすこうはラードで作るのだ。ラードについては前回、第26話であれこれ書いた。

 もう一つ、大きな違いが。クッキーの中には、サクサクする口当たりのものが多いが、ちんすこうは、最初のひと口、ふた口こそサクっとした歯ごたえがあるものの、全体にしっとりと柔らかい。そして、噛むうちに口の中でサーッと溶けていく。「後半の口溶けのよさ」こそが、ちんすこう最大の持ち味といえる。まんまるちんすこうは、この口溶けのよさ、ホロホロ感がすばらしい。

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 初めの写真の右側のように、ちんすこうの主流は長い形をしている。まんまるちんすこうはその名の通り、まんまるなので、外観はニューウェーブといえる。だが中身はむしろ伝統製法に忠実だ。まんまるちんすこうを作っているプラスの共同経営者中西夕美絵さんの話では、まんまるちんすこうは、プレーン味の場合、小麦粉、砂糖、ラードのみを使い、低温でじっくり焼き上げるという。

 原材料について6、7種類のちんすこうを比べてみたが、原材料が小麦、ラード、砂糖だけ、というのはほとんどなかった。膨張剤(ふくらし粉)はまず入っている。卵を入れているものも多い。さらには、ラードではなく、ショートニングや植物油脂で作られているものまであった。ここまでくると、もはやちんすこうとは呼べないような気もする。パイン味や紅イモ味などの場合は、香料や色素が入っているタイプが少なくない。

 中西さんは、初めは沖縄で中国茶を販売していた。やがて、中国茶に合ういいお茶うけがないか、ということになり、伝統菓子のちんすこうを作り始めたという。

 まんまるちんすこうは、写真で見ると一口で食べられそうだが、思ったより大きい。重さを比べてみたら、普通の長いタイプのちんすこうが1個12gほどなのに対し、まんまるちんすこうは1個16g強だった。かわいい形の割には食べごたえがあるので、2、3個食べればお茶うけとしては十分満足できる。

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 まんまるちんすこうは、プレーンのほか、塩、みそ、コーヒー、コーヒーキャラメル、黒糖きなこ、黒糖チョコの味がある。透明なプラスチックのカップに8個入って263円。カジュアルなデザインの箱づめもある。

 首里店は、那覇市松川414、098-886-2144。那覇の国際通りの中心部、むつみ橋にもショップがある。インターネットでも販売している。「まんまるちんすこう」で検索を。


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2007年11月24日

[第26話 食] 来るか、ラード復権の時

 ラード=豚の脂といえば、「ダイエットの敵」「体に悪い」と思われがち。だが、良質のラードが持つ香りとコクは本当にすばらしい。写真は万鐘島ぶたからとったラード(非売品)。28度くらいの室温ではトロリとした半液状だ。

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 良質のラードがいかにおいしいか。とんかつ専門店の多くが豚肉をラードで揚げていることはよく知られている。加熱したラードの香ばしさとコクは、植物油の比ではない。

 世界にいる豚総頭数の1/3を擁する豚の国、中国。今でこそ、発育が速く経済性の高い大型の西洋種が主流になっているが、かつては中型のラードタイプが中心だった。ラードタイプとは、脂肪が厚く、ラードがたくさんとれる品種のこと。これは、肉以上にラードが重要な生産物だったからだ。

 沖縄の在来種アグーも、典型的な中型のラードタイプの豚。下の写真はアグーの純系種をカットしているところだが、肉の周囲に脂がたっぷりついているのが分かる。脂の厚みは西洋種の3、4倍はあるだろう。昨今はアグーの肉がもてはやされているが、もともとは、ラードの生産が重要だったのだ。

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 なぜそれほどラードが大切だったのか。答は、ラードの方が肉よりも「使いで」があったから。貧しい時代のふだんのおかずは野菜ばかりだが、その中にラードをひとさじ加えると、味も香りも栄養価もグンと高まった。ラードはわずか20gで家族全員に栄養と満足を与えることができた。豚肉もタンパク質というすばらしい栄養を含んでいるが、さすがに20gでは、そこまでの芸当はできない。

 ラードは薬としても使われていた。昔の沖縄では、熱が出ると、ラードと塩を混ぜて背中に塗った。地球を半周した南アフリカ共和国北部のある農村でも、発熱した子供の背中にはラードを塗る、と現地の人が話すのを聞いたことがある。面白いことに、その際には塩を混ぜるという点まで沖縄と同じだった。

 さて、そんなラードを現代の私たちはどう食べればいいか。どれほど良質なラードでも、脂である以上、カロリーは高いし、一定量のコレステロールを含むから、食べすぎはいけない。だが、どのみち油脂類の摂取は必要なのだから、他の油脂を控え、ここぞ、という時には良質のラードを使ったらどうだろう。

 欧米諸国やFAO、WHOなどの国際機関で「アレルギー疾患を悪化させる」「胎児、乳児に悪影響」「ボケを引き起こす」など、その悪影響が次々に明るみに出ているトランス脂肪酸。これは、マーガリン、ショートニングに代表される硬化植物油や、高温で抽出された植物油などに多く含まれる。米国政府は、既に、マーガリンなどのパッケージにトランス脂肪酸の含有量を表示することを義務づけている。

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 ファーストフードのカリカリフライドポテトを揚げる油も同様の植物油。売れ残ったフライドポテトにはハエも近づかないし、菌がつかないから何日も腐らない、という話があるらしい。トランス脂肪酸は自然界にはほとんどないもので、言う人に言わせれば「油のプラスチック」。こうした表現がどこまで当たっているかはともかく、「植物性だから体にいい」というような単純な話でないことだけは確かなようだ。

 人間の、動物としての感覚をもう少し信じてもいいんじゃないか、と万鐘は考える。例えば、かつてのマーガリンは非常に臭かったし、何とも気持ちの悪い味がした。最近はさまざまな技術でその異様さを懸命に抑えようとしているが、それでも本物のバターのようなすっきりした透明感は望めない。

 この「臭い」「気持ち悪い」は、体になじまないものとして体自身が拒絶反応を示している証拠、と考えれば分かりやすい。逆に、体にいいものは「すっきりしている」。その結果、豊かな時代にはついつい食べ過ぎるから体に悪い働きをする結果になりがち、ということなのではないだろうか。

 もちろんラードにもピンからキリまである。豚の飼い方や餌にもいろいろあるから、それは当然だ。胸が悪くなるようなラードは、体に悪いものを含んでいるのだろう。しかし、芳香を漂わせる良質のラードは、もっと食べられていい。チャンプルーの類だけでも、こうしたラードで作れば、うまさ3倍増間違いなし、だ。

 ラードの機能に関する研究が今後さらに進めば、体によいの成分の存在が分かるなどして、本格的な復権の時がやって来るかもしれない―。豚屋の万鐘はそう夢見ている。

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2007年11月18日

[第25話 沖縄] 中村家に流れる癒しの風

 北中城村(きたなかぐすくそん)の中村家は、上層農家の家構えがそのまま残る重要文化財。訪れる観光客も多い。文化財としての中村家の解説はほかに譲るとして、ここでは「風」の話を。

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 中村家を訪れると、畳の間に上がり込んで、そこを流れる風に身を任せながら、放心状態気味の表情でたたずんでいる人をよく見かける。暑い日でも、この家の中は何とも言えぬ心地よい風が流れている。

 中村家は、山の南斜面に位置しているため、北からの強風がまともにぶつかることはない。南からの強風は、家の外側に密に植えられたフクギや(下の写真の上)、南向きの正面入り口をふさぐように置かれている目隠し「ひんぷん」でかなり緩和される(下の写真の下)。

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 こうして家に当たる前にマイルドになった風を家の中に取り込むについては、今度は逆に、できるだけ多くの風が家の奥まで流れ込むように建物が作られている。

 まず、壁らしい壁がないので、雨戸を開け、障子を開け放てば、外と内はほぼ一体の空間になる。その開放感は、柱と屋根しかない庭園のあずま屋に近い。この内外一体感については、第7話の万国津梁館の記事でも紹介した。

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 一部には格子戸があるが、5cm幅の板が5cm間隔で入った戸が2枚重なっているので、日当りの強い時には、これを5cmずらせば、光はほとんど遮ることができる。だが、2枚の戸の間には1cmほどの隙き間があるので、光は遮断しても、風はその隙き間を通って建物内部にしっかり流れ込んでいく。

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 沖縄は海に囲まれた島なので、ほぼどこでも、海のミネラルをたっぷり含んだ風が吹いている。塩分を含む空中浮遊ミネラルは本土の10倍、強風時には100倍、という大手電器メーカーの調査結果があるほどだ。

 ミネラルは命の源。たっぷりのやわらかな風に乗ってそのミネラルが室内に流れ込み、体を包む時、体が「癒し」を感じて、そのあまりの心地よさに放心状態になるのではないだろうか。コンクリートとサッシで外気を完全に遮断し、中は冷房で冷やすのでは、「癒しの風」は感じられない。

 中村家は北中城村大城106、098-935-3500。年中無休で、午前9時から午後5時半まで。観覧料は大人500円、中高生300円、小学生200円。

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2007年11月12日

[第24話 食、南] コザのインターナショナルなタイ麺屋

 コザ(沖縄市)には、どこかインターナショナルな空気が漂う。米軍嘉手納基地の門前だからというだけではない。確かにアメリカさんも多いが、インドやフィリピンなどのアジア系やラテンアメリカ系の人々も町を闊歩している。今回はそんなコザの町で、タイの麺料理を出す店を紹介しよう。

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 リチャードさん、ミコさん夫妻がやっているソムチャイ。胡屋十字路に近いセンター街の1本目を左に入ったレンガ敷きのパルミラ通りにある小ぶりな店だ。赤いトウガラシの絵が目を引く。

 リチャードさんはフィリピン生まれのタイ育ち。成人してから家族でカナダに引っ越し、さらに日本に移り、横浜生まれのミコさんと長野で出会い、とうとう沖縄に来てしまったという、まさにインターナショナルを地で行く経歴の持ち主だ。

 少年期を過ごしたタイの料理が一番好きだから、それを広めたくてこの店を始めた、という。「沖縄は野菜がタイとよく似ていますね」とリチャードさん。店名のソムチャイはタイ男性の最もポピュラーな名前。ミコさんが「日本で言えば、太郎さん、みたいな感じです」と説明してくれた。

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 まず、タイ風やきそばのパッタイ。米のめんに肉やえび、豆腐などの具が入る。辛さ、甘さ、酸っぱさ、しょっぱさが全部同居している、これぞタイの味、という感じだ。

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 次は、クイチャオナム。透明なスープに米のめんが入っている。揚げニンニクとバジル、ミント、ネギ、干しえびが香りのアクセント。アジアの香り、である。スープはさっぱりしていてクセがなく、さほど辛くない。焼豚もうまい。舌触りのなめらかなめんがスルスルと入っていく。

 場所柄もあるだろうが、外国人客が多い。リチャードさん、ミコさんが英語で気さくに話しかけるから、日本語に不自由な人でも入りやすいのだろう。赤とライムグリーンのカジュアルな内装が楽しい。胡屋かいわいはシャッター通りが多いが、この店は間違いなく元気だ。

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 沖縄市中央1-17-14 098-937-2208。月、火が定休。国道330号線側からセンター街に入ってすぐ左1本目のパルミラ通りにあるが、車は入れない。センター街から1本目の道を右折したところにある有料駐車場に車を置いて歩くとよい。


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2007年11月06日

[第23話 南、食] 焼魚再発見―アンゴラ風アジの塩焼き

 新カテゴリー「南」を前回に続けてお届けする。今回は、琉球王国の貿易の舞台だった南シナ海からマラッカ海峡を抜けてインド洋を渡り、一気にアフリカまで行く。喜望峰を回った大西洋を北上したアンゴラが舞台。沖縄とも豚とも関係ないが、それはそれはおいしい南の話を仕入れたので、冷めないうちにアツアツをお伝えしたい。題して、アンゴラ風アジの塩焼き―。

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 能書きよりも、まずはその作り方からいこう。アンゴラ風アジの塩焼きは、たっぷりニンニクを使う。焼いた後はニンニク、ニンニクした味にはならず、ニンニクは裏方に回って深いうまみになるところが面白い。

 まず、すり込むニンニク塩ペーストを作る。ニンニクを入れ、叩いて大まかに砕いたら、塩を加え、ジャリジャリとよくすりつぶしていく。

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 今回はアジだが、脂がのった大きめのイワシが手に入ったら、ぜひ試していただきたい。サンマでもおそらくいけるし、タチウオなどでやってもおいしいかもしれない。とにかく脂がノリノリにのっていることが条件だ。

 魚の側面に、深さ4、5mmの切れ目を1、2本入れる。全体にニンニク塩ペーストをよくぬったうえで、この切れ目の中にもニンニク塩ペーストを詰める。これがコツ。

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 15分ほど室温にそのまま置いてニンニク塩をよくしみ込ませてから、炭火でじっくり焼く。都会のマンション暮らしの人はグリルかロースターで、となる。魚の厚さにもよるが、20分以上かけてゆっくりと焼きたい。

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 焼き上がりは、不思議なほどニンニクの突出した味がしない。ニンニク臭くもない。ニンニクは魚の中に入り込んで、魚の脂と一体になり、見事なうまみに変わっている。

 アンゴラは旧ポルトガル領。この塩焼きもポルトガルの料理技術が伝えられた結果だという。そう言えば、ポルトガルには名物のイワシの塩焼きがあった。

 アンゴラは、すぐ横をベンゲラ海流が北上する。アジ、タイセイヨウニシン、サバ、タチウオ、タイ、サワラ、イカ、タコなど、日本人にもおなじみの魚の宝庫。シイラやハタも上がる。もちろんアンゴラの人々は大の魚好きだ。

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 「こんなにおいしい塩焼きがあったのか」―。塩焼きの味はよく知っているはずの日本人が、驚きをもって再発見する塩焼き。一度お試しあれ。

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