2007年12月

2007年12月28日

[第32話 食] 巨大ヤマイモはこうして食べる

 第29話でお伝えした「やまんむすーぶ(山芋勝負)」の巨大なヤマイモは、どうやって食べるのか。沖縄の農村部では、ヤマイモは旧正月の伝統的なごちそう。旧正月はまだ先だが、そこは深く考えないことにして、ことしの年の暮れはヤマイモ料理で締めくくることにしよう。

 ヤマイモの料理編は、うるま市農漁村生活研究会石川支部の新田文子支部長、山城喜代子さん、山城美佐枝さんにナビゲーターをお願いした。うるま市石川地区(旧石川市)はヤマイモ生産のメッカだ。

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 ヤマイモ料理の定番中の定番はこれ、ヤマイモイリチャー。作り方の前に、ちょっとだけウンチクを。

 沖縄のヤマイモには、中が白いのと紅色のとがある。料理して食べるのは白が普通で、紅色のものは、その鮮やかな色を生かして菓子類を作るのに使われる。紅はイモが大きくなるので、やまんむすーぶ用には紅を植える人が多い。

 「ヤマイモは11月から収穫できますが、旧正月の頃に葉が枯れ始め、イモが熟して一番おいしくなるんです」と喜代子さんが解説する。旧正月は新暦では2月ごろに当たることが多く、来年の旧正月は新暦2月7日だ。

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 さて、ヤマイモイリチャーの作り方、いきましょう。ヤマイモはアクがあるので、まずはアクを抜く。皮をむいたヤマイモを適当な大きさに切り、酢水に3時間ほどさらす。こうすれば、すりおろしてトロロにし、生で食べてもおいしい。

 次に、アク抜きしたイモに軽く塩をふってから、蒸す。大きさによるが、2、30分蒸せば柔らかくなる。冷ましてから、食べやすい大きさに切っておく。あまり薄くするとイモらしい食感が失われるので、1cmくらいの厚さに。

 豚の塩漬け「スーチカー」をこんがりといためる。脂が出てきたら、ヤマイモを加える。ヤマイモに熱が通ったら、ニラかニンニクの葉を入れ、色よく仕上げる。「(脂が出た時に)おろしニンニクを加えるとおいしいです」と文子さんが補足してくれた。

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 味付けは塩だけ。スーチカーに塩気があるので、全体がちょうどよくなるように味をみながら塩をふる。スーチカーのコクとヤマイモのかすかな甘味とが一体になると、なんとも言えないおいしさが生まれる。

 ヤマイモイリチャーは伝統料理だが、生活改善グループのみなさんが考えた創作料理も紹介しよう。喜代子さん、美佐枝さんのイチ押しは、ヤマイモのはさみ揚げ。これも豚との相性のよさを生かした一品だ。

 アク抜きして蒸したヤマイモを5、6mmの厚さに切る。スーチカーは3mmくらいの厚さに。濃厚な味が好きな人はもう少し厚くしてもいい。スライスしたヤマイモ2枚の間にスーチカーをはさみ、周りを海苔で巻く。全体を薄めの天ぷらのころもにつけ、油で揚げる。

 「切ると断面がとてもきれいなんですよ」と美佐子さん。ころものサクサク感とイモのねっとり感とのコントラストが楽しい。海苔の味と香りがアクセント。

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 味噌仕立ての汁に、ダイコン、ニンジン、昆布、豚肉などとともに、ヤマイモをたっぷり入れたヤマイモ汁も、生活改善グループの創作料理。ヤマイモはそのままだと煮くずれしやすいので、あらかじめ油でさっと揚げておく。支部長の文子さんは、全沖縄ヤマイモスーブの日、シンメーと呼ばれる大鍋で作ったヤマイモ汁を来訪者にふるまっていた。

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 こうして、農村部ではヤマイモ料理がいろいろと楽しまれているが、那覇などの都市部ではほとんど見かけない。ヤマイモがスーパーなどの物流に全く乗っていないからだ。

 だが、最近は健康ブームの影響もあってか、ヤマイモの人気が再び出始めているという。文子さんたちのグループでは既に20種類以上のヤマイモ料理を開発ずみ。伝統料理のヤマイモイリチャー以外にも、ヤマイモをおいしく食べる方法はいろいろある。

 家庭でも給食でもホテルでもレストランでも、ヤマイモがもっと食べられるようになることを期待したい。

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2007年12月24日

[第31話 沖縄、南] ブラジル石油公社、沖縄進出のココロ

 11月初め、大きなニュースが流れた。ブラジルの国営石油公社ペトロブラスが沖縄・西原町の南西石油を買収したのだ。南西石油は、沖縄県内の2006年度企業売上高ランキングで堂々1位の大企業。ただ、製油所としては能力が小さく、設備も老朽化しているため、親会社のエクソンモービルは閉鎖を含めて将来を検討していた。

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 そんな南西石油をブラジルが買うって、どういう意味? 分からない時は当事者に聞くのが一番だ。早速、ペトロブラスの関係者に会って、今回の進出の背景を尋ねた。

 ペトロブラス関係者によると、ブラジルの埋蔵原油はかなりの量に上る。特に、11月初旬に発表された埋蔵量80億バレルに上る巨大なテュビ海底油田の発見は、世界を驚かせた。この巨大油田によって、ブラジルは良質な軽質原油を大量に確保。世界市場での販路開拓は同国にとってますます重要な課題になった。

 今回の沖縄進出は、南西石油の既存施設があったことが直接の理由のようだ。製油所を新設するとなれば、巨額の資金が必要になるし、行政や地域との交渉などにも労力と時間がかかる。

 加えて、沖縄の「戦略的な地理的位置」が決め手になったことを、この関係者は指摘した。「沖縄は、台湾にも韓国にも中国にも日本本土にも近いでしょう」

 ペトロブラスは、沖縄で精製した石油をこうしたアジア各地で販売しようと考えている。同社はこれまで、欧米など26カ国に石油を販売してきたが、アジアへの本格的展開はこれから。その皮切りの拠点として、有利な地理的位置にある沖縄を選んだというわけだ。

 沖縄県内では、東京を意識した経済振興策ばかりが語られがちだが、もう少し視点を自由にしてアジア全体をながめる必要がありそうだ。ここで、第22話の南北逆さ地図をもう一度。

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 沖縄のこの優位な位置を活用してきたのは、これまで、皮肉なことに米軍だけだった。それが、今回のブラジルの進出によって、「アジア最前線、沖縄」が、民間経済活動の拠点として本格的に生かされる可能性が出てきた。

 この機会を沖縄側がどう活用するか。軍事拠点から脱出し、「万国津梁、再び」を実現するうえで、ひとつの試金石になるだろう。

 ペトロブラス関係者は、もう一つ、興味深い話を披露してくれた。同社が、沖縄でバイオエタノールの生産にも取り組む意欲を持っている、という話だ。

 バイオエタノールはトウモロコシやサトウキビから作る燃料用アルコール。ブラジルは1975年から開発に取り組み、今や世界で唯一のバイオエタノール輸出国になった。

 ブラジルでは、ガソリン100%でもエタノール100%でも、あるいはどんな比率の両者のミックスでもOKというFFV(Flexible Fuel Vehicle)車が8割を占める。ユーザーは市場価格を見て、安い燃料を選べるという。

 従来はもっぱら石油を扱ってきたペトロブラスも、FFVの普及により、「25%エタノール入りガソリン」などを生産し始めている。同社が沖縄でのエタノール生産を視野に入れているのは、アジアでFFV時代が来れば、同社のガソリン販売チャンネルの中に、ブラジルにとって「もう一つの得意分野」であるエタノールをほぼそのまま組み入れることができるからだ。

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 沖縄では、エタノールを主にサトウキビから作ることになる。亜熱帯の自然特性を生かして、沖縄が自前のエネルギー源を持てるかもしれないというのは、さまざまなハードルを超えなければならないにしても、夢のある話だ。

 来年は、日本からのブラジル移民100周年。ペトロブラス関係者も、この日伯の強いきずなが今回の進出の背景にあることを強調した。100周年という節目の年に、140万日系移民の1割を占める沖縄系移民の故郷沖縄に、ブラジル国営石油公社ペトロブラスが精油所を持つ―。大いに象徴的な出来事と言えそうである。

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2007年12月17日

[第30話 食] どこまでもユニークな若狭のそば

 那覇の若狭にユニークな沖縄そば屋がある、と聞いて出かけた。その名は「若狭パーラー」。沖縄でパーラーと言えば、浜辺などで、プレハブやコンテナハウスで軽食やかき氷などを売っている店のこと。転じて、海辺ではない場所でも、簡単な建物で軽食を売る店を総称してパーラーと呼ぶ。たいがいのパーラーはそばも置いているが、出来合いの濃縮スープをお湯で薄めたような情けないそばを出すところも多い。さて、どんなものか―。半信半疑で若狭に赴いたら、ありました。

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 一見してそのユニークさが分かる店だった。若狭パーラーは、住宅街にある店主の自宅の一部を店にしている。店の部分が建物のギリギリのところにあり、客のすわるイスはその外側に置かれている。客席が店内にない、という意味では確かにパーラーだが、場所は砂浜ではなく、普通の住宅街なので、客席がまるで道路上にあるような、なんとも妙な構えになる。

 いや、正確に言えば、バーラーにはもともと客席はない。例えば海辺なら、客は、パーラーで買った食べ物を、自分の荷物を置いた場所などに持っていって、そこで食べる。若狭パーラーもそうした「パーラーの原則」に忠実なだけ。イスはサービスで置いているにすぎない。

 だが、驚くのはまだ早かった。行き交う車に背を向けて、豚肉そばを注文したら、こんなそばが登場した。

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 ヨモギの葉がオプションでついてくる店は時々見かける。第3話で紹介した美里そばもそうだった。ところが若狭パーラーでは、オプションではなく、初めからヨモギがたっぷり入っている。これはかなり珍しい。つゆの熱で鮮やかになったヨモギの緑と、立ち上る香りを楽しみながら、めんをすすり、つゆを飲む。

 あれ? 食べ始めて、「ユニーク」がもう一つあることに気づいた。そばの上に乗っている肉。沖縄そばと言えば、三枚肉かソーキ(あばら肉)を柔らかく煮付けたものが乗っていることが多いが、ここでは、赤身肉が乗っている。赤身だとどうしてもぱさぱさしがちだが、ここの肉は不思議なくらいしっとりと煮上がっている。

 赤身肉を入れるそば屋もないわけではないが、これほどつゆによく合う赤身肉の煮付けは、なかなかお目にかからない。これはタダモノではないな―。作り方を尋ねてみると、店主はさすがに口を濁した。かなり手の込んだ作り方をしているらしい。

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 コーレーグスもユニーク。コーレーグスといえば、小さな三角形をした赤い島唐辛子が泡盛に漬け込んである姿を思い浮かべるが、ここでは、それをミキサーにかけてすりつぶした赤いペースト状のものが出てくる。普通のコーレーグスは泡盛の香りとトウガラシの辛さが基本になっているが、すりつぶしたコーレーグスは、唐辛子の香りが前面に出ていて、これはこれでなかなかうまい。ペーストの作り方も尋ねてみたが、これにも店主は口を濁した。

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 沖縄そばは、どんどんおいしくなっていると言われる。後発こだわり店の頑張りに、昔の名店もうかうかしていられない。そばの完成度は上がり、そばジョーグーたちは「理想的なそばの姿」をあれこれ語る。

 だが、若狭パーラーのように、そうした動きから離れたところで、わが道をいく店も健在だ。独自のこだわりの中にバランスのとれたおいしさを感じさせる若狭パーラーのそばは、沖縄そばの理想型が一つではないことを教えてくれる。

 若狭パーラーは那覇市若狭2-14-16。098-861-6492。営業時間は07:30から20:00まで。豚肉そば400円、卵焼そば400円など。

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2007年12月10日

[第29話 農、沖縄] 1株130kgで優勝 ヤマイモ勝負

 この写真の手前に写っているものは何でしょう。まるでアザラシが群れているみたいだが、これはヤマイモ。それも1株から収穫されたヤマイモだ。

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 うるま市の石川地区はヤマイモの生産が盛んで、12月に入ると、1株あたりのイモの重さを競う「やまんむすーぶ」が字ごとに開かれる。分かち書きにすると、やま・んむ・すーぶ。漢字に直せば、山芋勝負。字(あざ)伊波(いは)のすーぶに行ってみた。

 ヤマイモは、4月ごろに植え、11月後半から収穫される。沖縄のヤマイモは、熱帯のヤムの正統派。つるの株元には、直径1m近くにわたって、でっかいイモがゴロゴロ実る。アジアでもアフリカでも同じようなヤマイモが各地で栽培され、食べられている。

 すーぶは、字の役員が立会人になり、間違いなく1株についているイモであることを、事前に参加者が畑で掘り出す際に現場確認する。そのうえで、参加者は12月第2日曜日のすーぶの日に会場に運び込んで、計量する。

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 午前中は、班ごとにブルーシートを敷いて、計量した「出品作」を並べていく。「○○さんのは形がいいよ」「どうやってあんなに大きくするのかね」ー。重量と生産者名が書かれた段ボールの札を見ながら、参観者と生産者はゆっくりとヤマイモ談義を楽しむ。

 昼になると、婦人会や生活改善グループが大鍋で準備したヤマイモイリチャーとヤマイモ汁にみなで舌鼓を打つ。子供エイサーを披露した小学生たちも、おいしいヤマイモ料理にパクついていた。

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 ことしの優勝は2班の呉屋孝仁さんで、1株でなんと130.5kg。大人2人分の重量だ。鶏糞をうまく使って栽培するのがコツとのこと。「ことしのはそんなに大きくもないよ。去年はもっとだったから」と呉屋さん。優勝した呉屋さんにはヤギ1頭が贈呈された。

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 字伊波の場合、やまんむすーぶの日は、字の年次総会を兼ねていて、すーぶが終われば次年度の役員選出なども行う。まさに地に足のついた伝統行事だ。

 石川地区の各字のすーぶは、毎年12月の第2日曜と日程がほぼ決まっているので、興味のある人は、この日に訪ねていけばいい。ヤマイモ栽培に一家言ある地元の人が集まっているから、何か質問すればだれでも親切に教えてくれる。沖縄県民はもちろん、「5度目の沖縄」を計画中のベテラン沖縄旅行者にうってつけの催し。日程は石川地区字伊波、字山城など各字の公民館か、うるま市役所観光課098-965-5634で確認を。

 12月16日にはうるま市産業まつりで、全沖縄やまんむすーぶも開催される。ヤマイモの料理については回を改めて紹介します。


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2007年12月06日

[第28話 農] 知念の清水で育つクレソン

 いま、南城市知念の志喜屋集落ではクレソンの収穫が真っ盛り。クレソンは、英語でウォータークレスというが、その名の通り、水の中で育つ。

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 水はきれいで、しかも常に流れていなければならない。知念の志喜屋は、琉球王国最高の聖地「斎場御嶽」の近く。日本の名水に選ばれた玉城の垣花樋川や受水走水もそれほど遠くない。志喜屋も水に恵まれ、クレソンの足元には清水がいつも静かに流れている。

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 志喜屋のクレソン出荷は年間100トン前後。日本一の産地、山梨県道志村の320トンには及ばないが、それなりの量を出荷しているといえそうだ。収穫は11月から3月までだが、特に年を越すと、本土では寒さで出荷できなくなる地域が多いため、志喜屋産のクレソンの存在感が市場で大きくなるという。100トンのうち6、7割が本土向け。

 クレソンを育む水は、きれいなだけではダメで、水温が25度以下でなければならない。ことしはやや温度が高く、農家は、害虫の発生に手を焼いている。生産者の一人、具志堅武助さんによると、ある程度成熟して、さあ収穫、という直前に虫にやられるケースが多いという。

 「クレソンがおいしくなる時を虫もちゃんと知ってる。タイミングを見計らって、虫にやられる寸前にうまく収穫しないと」

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 「少し持っていってね」と具志堅さんは、日よけをした作業小屋の中で手際よくクレソンの下の葉をそいできれいにし、束ねて、新聞紙に包んでくれた。

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 普通の葉野菜だと、生産できたら農協にいつでも持ち込んで出荷できるが、クレソンの場合は、お客さんの注文が入ってから収穫する。一方、よくある葉野菜類のように価格が暴落することはないという。

 クレソンは、収穫してからしばらくすると、同じ株からまた葉が出て、やがて収穫できる。3月までの間に何回か収穫し、時期が終わったら植え替える。

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 クレソンは、独特の辛みがある。洋野菜として、一品料理に彩りを添えたり、サラダに散らして色と味のアクセントに使われることが多い。だが、和の食材としてもいろいろ楽しめる。例えば、みそ汁に入れるとおいしいし、ゆでてからあえものにしてもいける。

 志喜屋のクレソンについての問い合わせは、JAおきなわ知念支店、電話098-948-1308。


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