2008年02月

2008年02月24日

[第42話 沖縄] 知念の山中で焼く粉引茶碗

 茶碗は、その微妙な形が面白い。ゆがんでいるようで、なんとも言えぬバランスを保っている。見る角度によって全く違う形に見えたりもする。この2つの茶碗は、白く粉を吹いたように見えるので、粉引(こびき)と呼ばれる。沖縄本島南部・知念の山の中にある涯山窯で出会った茶碗だ。

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 え、沖縄で粉引? 焼き物好きはそう思うだろう。粉引は、日本本土では珍しいものではないが、壺屋焼に代表される沖縄の焼き物にはあまり見られない。

 この茶碗を焼いているのは玉木弘一さん。玉木さんは沖縄の出身だが、若き日に京都で修行して、粉引などの技法を身につけた。沖縄に戻り、那覇で4年、知念で涯山窯を開いてから21年になる。

 沖縄の陶芸家が京都で身につけた技術で焼くー。現代の話だから別に驚くことではないが、数百年前、船しかなかった時代でも、芸術や文化の伝播や交流は、人から人へ、あるいはモノの流れを通じて、それなりに盛んだったのではないだろうか。むろん、そのスピードはゆっくりしたものだったろうが。

 焼き物の世界だけでも、例えば、琉球王国のアジア中継貿易で、沖縄がアジア各地で売っていたものは中国産の陶磁器が中心だった。沖縄の壺屋焼は、1600年代に朝鮮から招いた陶工によってもたらされた技法だ。タイ北部で出土する13―15世紀のふたつきの小鉢は、壺屋焼でおなじみの黒砂糖などを入れておく小鉢とよく似ている・・・と、文化伝播の事実やそれらしき形跡はいろいろある。

 話を涯山窯に戻そう。写真の左手前は、象嵌(ぞうがん)という技法で作った水差し。玉木さんによると、はんこを押し込んで模様をつけ、へこんだ部分に白い土を埋めて平らにし、釉薬をかけて焼く。小紋のような小さな模様の繰り返しが、端正な趣きを醸し出す。器の形が直線的なのでやや固い印象になるが、それがはんこ模様の繰り返しによく合う。

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 「何でも作っちゃうんです」。物静かな玉木さんが、茶目っ気たっぷりに言ったのは、デザイン系とも言うべき多様な生活雑器のこと。粉引の茶碗や水差しなどの茶道具類とは全く違った趣きの、ふだん使いのコーヒーカップや皿が、涯山窯のギャラリーにはたくさん並んでいる。製作の技法もさまざまだ。

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 ギャラリーを切り盛りするのは妻のあき子さん。玉木さんの作品をセンスよく並べるだけでなく、訪れる人々に作品についてていねいに説明してくれる。あき子さんがいれる香り高いコーヒーも魅力(300円)。毎年12月中旬には窯出しでにぎわうそうだ。

 涯山窯は、南城市知念字具志堅268-1、電話098-948-7644。水曜休。ギャラリーは10時30分から18時30分まで。国道331号線の斎場御嶽入り口から2.5kmほど糸満方向に行ったところの右手に「涯山窯」の小さな看板が出ているので、そこから山に上がる道を入っていく。

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2008年02月18日

[第41話 食] 林道という名の癒し系居酒屋

 やんばるの森を走る大国(おおくに)林道。国頭村字与那から大宜味村字大保までを結ぶ全長35.5kmのこの林道を、そのまま店名にしてしまった名護市内の居酒屋がある。シャッター通りが多い名護の旧市街で頑張っている店の一つだ。

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 大国林道の店内は、入り口から店内テーブル、カウンターまですべて木造り。それだけで心地よく、癒される。第16話の那覇空港の記事でも書いたように、木は「涼しくて温かい」「高級感があって親しみやすい」という互いに矛盾する特徴が同居している。考えてみれば何とも不思議な素材だ。

 店内の分厚い木材はやんばるのリュウキュウマツなど。仲田一也店長らスタッフが手作りで作り上げたという。その仲田店長自身も、ほのぼのした雰囲気を漂わせる癒し系。混み合っている日は忙しそうに店内を飛び回っているが、手があけば、おしゃべりの相手をしてくれる。

 入り口から泡盛古酒の入ったカメがずらりと並ぶ。15年ものの古酒もあるが、これはかなり値がはる。そんなすごい古酒でなくても、おいしい酒がいろいろ用意されている。例えば、店の常用酒として出している地元名護の「國華」。1合600円だが、味わい深く、十分に楽しめる。

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 料理も全般に、エッジの立った鋭い味というよりは、どことなくほのぼのした味わいだ。各種チャンプルーやグルクンの唐揚げなど、沖縄料理の定番がそろっているが、ここでは個性的な料理をいくつか紹介しよう。まず、砂肝のニンニクいため。砂肝のこりこりした食感にニンニクがよくマッチしていて、ビールにも泡盛にも合う。

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 豚タンのニンニク焼き。牛タンでなく豚タンというところが、豚王国沖縄らしさをよく表している。こちらもニンニク味だが、砂肝と違って味がある豚タン自体がニンニクと互角に勝負する。

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 三枚肉をじっくり煮込んだラフテー。ここのラフテーは、醤油ではなく、みそ味。豚汁の例を持ち出すまでもないが、豚と味噌は相性がとてもいい。豚三枚肉のコクに味噌のしっかりした味がよく絡んで、おいしい。

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 パパイヤチャンプルー。沖縄では、熟していない青パパイヤを野菜としてよく食べる。インドでは授乳中の母親に青パパイヤを食べさせるそうだ。青パパイヤには乳がよく出る成分が含まれているらしい。青パパイヤは、調理する際、味がしみるのに少し時間がかかるので、だしを少し入れ、フタをしていため煮にするとよい。大国林道のパパイヤチャンプルーも、味をよく含んでしっとりとおいしく仕上がっている。

 模合や同窓グループなどの地元客が多いが、ホテルの食事に飽きた観光客も利用している。大国林道は、沖縄県名護市大東1−14−12、0980-54-5959。日曜定休。

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2008年02月12日

[第40話 農] 熱田の海の恵み、アーサ

 アーサを収穫する季節になった。沖縄ではアーサをよく食べる。和名でヒトエグサというノリの仲間。沖縄のあちこちの海でとれるが、養殖でまとまった量を生産しているのは北中城村の熱田だ。ここが県内生産の6割以上を占める。

 熱田の海に網を張っておくと、アーサは自然に生えてくる。種付けや育苗がいらない自然任せの養殖といえるが、網の張り方にはいろいろ技術があるようだ。毎年11月ごろ網を張り、2月くらいから本格的に収穫する。

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 上の2枚の写真のうち、初めの方が芽が出て間もない頃で、2枚目はそれがいくぶん成長した段階。干潮時、網が水面より上に出た時に撮影した。

 アーサは、乾燥させたものが県内のスーパー各店や沖縄みやげの店で売られているが、生か、生をそのまま冷凍したものの方が断然おいしい。乾燥アーサに比べて、生のアーサは、色と舌ざわりのなめらかさが一段上をいく。

 アーサ汁が代表的な食べ方。濃いめのかつおだしをとり、塩で味を整える。好みで少量の醤油を入れてもいいが、きれいなアーサの色を邪魔したくないので、薄口醤油を少量使うにとどめたい。アーサを入れ、細かくあられに切った豆腐を散らす。アーサを入れてから長時間加熱すると色があせるので注意。

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 アーサ自体にはそれほど強い味はないが、たっぷり入れると、とろ味を伴う不思議な食感が楽しめる。青みを帯びた透明な深い緑色が実にきれいで、かすかな海の香りが食欲を刺激する。味噌汁に入れてもおいしい。

 乾燥ものは、このとろみが弱く、どうしてもいくぶんカサカサする。色もあせた感じになりがちだ。

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 冷凍アーサは北中城漁協や、沖縄市漁協の直売店パヤオで売っている。500gで800円。量が多いが、8つくらいに切り分け、1つずつラップして冷凍庫で保存すれば、かなりもつ。1つがアーサ汁3、4杯分なので、必要な量だけ使っていけばよい。

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 アーサに関する問い合わせは、北中城村漁業組合まで。北中城村字熱田2070-7、098-935-4955。

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2008年02月06日

[第39話 食] キラキラ光る中国家庭料理の店

 「勢いのある飲食店」とはこういう店なんだな、と思わせる那覇の中華料理店「燕郷房 中国家常菜」。読み方は、やんきょうふぁん。料理も、店の雰囲気も、キラキラと光っている。

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 掲げる旗印は、広東料理でも四川料理でもなく、中国家庭料理。だからおこげ料理から、おなじみの麻婆豆腐、回鍋肉まで、ざまざまな味が楽しめる。

 まずは、いためものを3種、紹介しよう。ホタテと季節野菜の塩いため、鶏・ネギ・カシューナッツの塩いため、牛肉セロリのブラックビーンズいため。いずれも、複数の素材と調味料が上手に組み合わされていて、思わず箸がのびてしまう。

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 ブラックビーンズは豆鼓(ドウチ)のこと。深く発酵した豆味噌のようなもので、うまみの固まり。日本の大徳寺納豆に似た調味料。皿に残った豆鼓のソースをごはんに乗せて食べると、実にうまい。

 さてさて、次のおこげが絶品だ。海鮮野菜あんもおいしいが、おこげ自体の作り方が非常に巧み。ヘンに歯に障ることなく、最初から最後までサクサクと軽い。あんと一緒に口の中で心地よくほどけていく。

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 チャーハンは、じゃこ青ネギチャーハンにした。青ネギが信じられないくらいたっぷり入っていて、香りの基調を作っている。

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 麺は、アサリ青ネギやきそば。ニンニクの香りをじっくり引き出したところにアサリの強いうまみが加わる。そのスープの味をしみ込ませたタイプのやきそばだ。これも青ネギがたっぷり。

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 ホールスタッフの動きがいい。ときどき客席に声をかけて客とやりとりするのだが、そのタイミングが心地よい。やりとりの内容も浅すぎず、深すぎず。忙しそうにしているが、出す料理についてのちょっとした質問には、足を止めて、ていねいに答えてくれる。総じて、適当にかまってもらって嬉しく、勝手にのびのびさせてもらって楽しい店、という感じだろうか。

 男同士の飲み会はもちろん、女性グループでもいいし、家族連れにも向いている。内装は、造りすぎという感じもしないではないが、この手が好きな人には楽しいだろう。

 モノレール美栄橋駅近くで繁盛していたが、手狭だったので拡張移転したばかり。拡張すると味が落ちる店もあるようだが、この店についてはその心配はなさそうだ。現在の店は、同じモノレールの旭橋駅が近い。

 那覇市泉崎1-11-3、098-862-0011。年中無休。ランチの営業はない。1品1000円前後。1人3000円分も食べれば、普通の人はおなか一杯になる(酒代を含まない)。

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