2008年08月

2008年08月28日

[第73話 食] 煮豆を味わう冷たいぜんざい

 沖縄の夏の甘味といえば、なんといっても、ぜんざい。ぜんざいは、甘く煮た豆にかき氷を合わせたもの。コールド、である。本土のぜんざいがホットなのと対照的だ。写真は本部町にある新垣ぜんざい屋のぜんざい。

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 アイス、ホットの違いはあるが、煮た豆を味わう、という点は本土のぜんざいと同じと言えるかもしれない。ただし、本土のぜんざいは小豆を煮た「あんこ」なのに対し、沖縄のぜんざいは金時豆を煮た「煮豆」。

 沖縄のぜんざいは、一見、本土の氷あずきのようでもある。だが、氷あずきは、かき氷が主役。氷をおいしく食べるシロップの豪華版という感じであずきが乗っている。

 下の写真は、氷あずきが、さらに派手になったアイスカチャン。マレーシアでポピュラーだが、これは隣りのシンガポールで見かけたもの。あずきとイチゴシロップの他に黒みつのようなものと練乳がかかっている。ここまで来れば、あずきは、氷をおいしく食べるためのトッピング軍団の1つであることがはっきりする。

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 話を沖縄に戻せば、沖縄のぜんざいは、氷あずきというよりも、豆を冷たくして食べるために氷が添えられているという感じだ。店によるが、豆とかき氷だけのところもある。豆以外に何か入っている場合でも、せいぜい小さなもちが2つ、3つだ。下の写真は那覇市泊の富士家のぜんざい。もち入りだが、もちはアクセントで、やはり主役は豆である。

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 その豆は、小豆より食べごたえのある金時豆を使う。人気店は豆の煮方にこだわる。おそらく沖縄で一番人気と思われる冒頭の新垣ぜんざい屋では、金時豆を薪で炊く。

 冒頭の写真のように、新垣のぜんざいは、甘く煮た豆の上にかき氷が乗っているだけ。まさに豆を味わうぜんざいだ。あまりにシンプルなので、氷あずきのにぎやかさを期待する向きはやや拍子抜けするかもしれない。

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 だが、主役の豆は見事に柔らかく、ねっとりしていて、何ともおいしい。氷といっしょに食べてちょうどいいように上手に煮てある。このねっとり感は、他の店ではなかなかお目にかかれない。新垣ぜんざい屋の客は、みな豆のおいしさを静かに楽しんでいるように見えた。

 新垣ぜんざい屋は、国頭郡本部町字渡久地11-2、0980-47-4731。午後1時から営業しているが、売り切れじまいで、4時くらいには売り切れることも。月曜休み。1杯250円。

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2008年08月22日

[第72話 食、農] ヤギ乳チーズの濃厚なうまみ

 万鐘本店第14話で、おいしいヤギの刺身を紹介したように、沖縄にはヤギ食の文化がある。日本のヤギの半数以上は沖縄にいるという。今回は、沖縄ヤギ文化の、いわば応用編。ヤギ乳で作った味わい深いチーズのお話である。

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 このチーズの名は「ピンザブラン」。作っているのは、中城村の株式会社はごろも牧場。創業者の新城将秀さんが、数少ない文献を頼りに何年もの試行錯誤の末、ようやく作り上げた逸品だ。1個100gのピンザブランが、ヤギ1頭の乳から2個しか作れない。

 新城さんの出身地、宮古島ではヤギのことをピンザと呼ぶ。ブランはフランス語で「白」。ピンザブランとは「白カビタイプのヤギ乳チーズ」を意味する新城さんの造語だ。

 世界的にはフランスがヤギ乳チーズの一大産地。フランスではヤギ乳チーズはシェーブルと総称される。スペイン、ポルトガル、イギリス、ギリシャ、ノルウェーなど、欧州各地でヤギ乳チーズが作られている。

 はごろも牧場には、ザーネン、ヌビアン、トッケンブルグ、アルバインの4種類のヤギがいる。いずれも乳用種で、ニュージーランドから導入した。特にヌビアンとトッケンブルグは珍しく、「日本でこれを持っている牧場はここだけではないかと思います」と新城さんは話す。沖縄の在来のヤギは肉用なので、恒常的に乳を搾ることはできない。

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 牧場は海のすぐそば。間伐材を組んで作られた畜舎は清潔感にあふれ、ミネラル豊富な島風を浴びながら、ヤギが静かに草を食べていた。全体で120―130頭ほど。

 新城さんの話では、ヤギ乳は牛乳に比べて脂肪球が小さいため、チーズにする際の乳を固める凝乳工程が難しいという。その一方で、脂肪球が小さいことによって、消化がよくなったり、呈味性が高まったりするというよさがある。

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 さて、その白カビタイプのヤギチーズ。口に含むと、心地よい熟成香が鼻に抜け、噛むにつれて深くて鋭いうまみが口じゅうに広がっていく。これだけの深い味ながら、化学調味料のような嫌味は全くない。まさに乳質のよさと発酵菌の力のなせるわざだ。

 このチーズに近いのは、同じく白カビタイプのカマンベールチーズだろうが、カマンベールは牛乳チーズ。ピンザブランがカマンベールよりもやや鋭利な味がするのは、酸味のあるヤギ乳チーズならではと言えるだろう。

 ただし、ピンザブランの酸味を酸味として意識するのは前半まで。酸味は、やがて広がり出て来る強いうまみに巻き込まれ、後半は濃厚なうまみの世界一色になる。

 ヤギ乳には独特の香りがあるが、これも意識されるのは主に前半。後半になると、やはり強い旨味の力がヤギ香を飲み込んでしまうようだ。口じゅうに豊潤なうまみが広がると、ワインがほしくなる。

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 このピンザブラン、仕込みから2、3週間の熟成で出荷されるが、1週間ほど追加熟成させるとさらに濃厚な味わいになる。中がとろりとクリーミーになり、歯ごたえのある外側の白カビ部分とのコントラストが楽しめる。

 「ただし、熟成が過度に進むとアンモニア臭が出てきますので、追熟は冷蔵庫でプラス2週間ほどにとどめて下さい」と新城さん。

 はごろも牧場は中城村北上原985-1、098-895-5119。商品はインターネットで買える。「はごろも牧場」で検索を。ピンザブラン1つ100gが1500円(送料別)。ただし、少量生産なので、品切れになることもある。ヤギ乳やヤギ乳ヨーグルトも販売している。

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2008年08月16日

[第71話 沖縄] 沖縄の土に惚れ込むロリマーさんの器

 沖縄の土に惚れ込み、焼締め一筋で作品を作り続けている陶芸作家がいる。南城市佐敷のポール・ロリマーさん。1300度を超す高温で焼き締めた器は、なんとも言えない渋い輝きを放つ。

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 上の2つは、いずれも泡盛を入れる小ぶりのカラカラ。焼締めだから釉薬は使わないが、下のカラカラは、高温で溶ける土を上部にかけてあるので、釉薬が溶けたような味わいになっている。

 ロリマーさんの作品は、和音を感じさせる整った形の上に、野性味あふれる焼締めの渋いタッチが乗っている。

 ロリマーさんは、沖縄じゅうの粘土を自分で掘ってきては使っている。中でも、高温に強い北部の土をよく使う。マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガンがそれぞれどれくらい含まれているかで、焼き締めた時の風合いが大きく変わってくる。写真は小さなちょこ(猪口)。金属的で華麗な輝きを放ちつつも、土の温かみを感じさせる作品だ。

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 風合いだけではない。そうした土の成分によって、焼き上げた器の機能までも違ってくるらしい。ロリマーさんは、酒器や花瓶などのほかに、泡盛古酒を仕込む酒甕を数多く作っている。「成分が違う土で焼いた酒甕に、全く同じ泡盛を入れても、味がまるで違ってくるんです。半年ではっきり違いが分かるようになりますよ」

 ロリマーさんは土の成分を沖縄県工業試験場に委託して分析してきた。味わい深い数々の焼締めが作られる舞台裏には、長年の経験や卓越した職人技と同時に、緻密な科学的データの積み重ねがあったのだ。

 ロリマーさんはニュージーランド出身。備前で3年ほど修業した後、旅行で訪れた石垣島が気に入ってそこに16年、沖縄本島に移ってからは13年が過ぎた。石垣島時代に、八重山焼の古い器と出会うことがあり、その時の記憶をたどって作ったのが次の作品。酒器なのか花器なのか分からないというが、独特のひょうたん形が面白い。

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 今は沖縄本島南部、佐敷の古民家に住む。南蛮焼のルーツをたどって訪れた東南アジアでも大きな刺激を受けた。自身も泡盛が好き。仲間が集って一杯やる時は、ちょこが無造作に入れられた箱が登場し、各自が自分の好きなちょこを選んで飲むという。

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 ロリマーさんの工房は南城市佐敷字冨祖崎320、098-947-1630。作品を常時売っている店はないので、事前に電話を入れてから、工房を直接訪ねるとよい。佐敷のシュガーホールから車で数分のところ。

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2008年08月10日

[第70話 食、農] ピュアな甘味を堪能 古宇利島のウニ

 沖縄本島北部、今帰仁村の古宇利島ではウニ漁が真っ盛り。カラからはずしたばかりの新鮮な生ウニを口に含むと、磯の香りの中から濃厚な甘味が立ち上ってくる。

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 沖縄で獲れるウニはシラヒゲウニ。亜熱帯の海に生息するウニで、日本では沖縄、奄美の海で獲れる。姿を見れば名前の由来はイメージできるだろう。7月、8月が収穫期。だたし、資源保護のため、漁獲が禁止される年もある。

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 古宇利島では、今帰仁漁協のウニ加工のための共同利用施設で、獲られたばかりのウニの処理作業が進んでいた。

 作業は海水をかけながら行う。まずナイフでウニを2つに割る。食べられる黄色い部分は生殖巣で、これが内部に5筋ある。割る人はこれが2筋と3筋にうまく分かれるように割り、食べられない部分をかき出す。

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 次の人が、殻の内側にはりついている生殖巣をスプーンではがしとる。もろい生殖巣を傷つけないよう慎重にやらねばならない。殻からはずされた生殖巣は、水気をとって容器に並べられる。

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 こうした作業は家族総出で行われる。金城正行さんの一家も、正行さんが獲ってきたウニを女性陣がきれいに処理して、出荷する容器にていねいに並べていた。

 話を聞いていたら、作業中の女性の一人が「はい、味見して下さい」と言って、貴重なウニをてのひらにたくさん乗せてくれた。大感激。ひたすら甘い。

 生のウニはそのままにしておくと、2、3日で溶けてしまうのだそうだ。このため、ウニの形を長く保持するには、ミョウバン液に漬けなければならない。ただ、ミョウバン液につけると、若干の苦みが生じる。もちろん獲れたてのウニは、全くの生だから、苦みは一切ない。

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 苦みのないウニのピュアな甘味を堪能したい向きは、古宇利島にウニを買いに行くことをお勧めする。古宇利大橋を渡って島に入ると左手に港とウニ加工施設が見えてくる。そこでも売ってくれるし、ほかにもウニを買える場所は島内にいくつかある。価格はどこでも100gで1500円。持ち帰り用に小さなクーラーボックスと氷を持参すること。

 島の中には、獲れたてのウニをのせたウニどんぶりを出す食堂やパーラーもいくつかあるから、最高の味をその場で楽しむこともできる。

 もう一つ、古宇利島の魅力は、その海の色の美しさだ。古宇利大橋の両側に広がる海の色は、ちょっと言葉では表せないほど、すごい。離島を除いて、これだけの色の海はまず見られないのではないか。天気がよくなければ色は冴えないから、ぜひ晴天の日を選んで出かけたい。ウニの甘味と海の圧倒的な美しさで、最高の夏休みになるはずだ。

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 古宇利島は、屋我地島をはさんで、沖縄本島と橋でつながっているので、車で行ける。国道58号線で名護市中心部を抜けてしばらく行くと、屋我地島に入る道があるから、そこを左折し、あとは案内板にしたがって行けばよい。

 ウニに関する問い合わせは、今帰仁漁協0980-56-2226まで。

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2008年08月04日

[第69話 食、農] 世界の銘茶を目指す山城紅茶

 うるま市石川の山城地区では、長い間、お茶が栽培されてきた。やまぐすく茶、と呼ばれる無農薬茶。やまぐすく茶の話は別の機会にするとして、今回は、やまぐすく茶で作られる珍しい紅茶を紹介する。「有機、無農薬、手摘み」の紅茶だ。

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 その名も山城紅茶。山城直人さんを中心とする沖縄紅茶農園の30代の青年4人が取り組んでいる。山城直人さんの家は、祖父の代からやまぐすく茶を栽培してきた。茶畑で遊びながら育ったという直人さんは、自分の代ではぜひ紅茶に取り組もうと思っていた。山城の土や気候が紅茶向きだという話をかねてから聞いていたからだった。

 直人さんは静岡県にある国立野菜茶業試験場(現在の独立行政法人農業食品産業技術総合研究機構の野菜茶業研究所)で2年間、研修生としてみっちり学んだ。当時は紅茶専門の先生がいたので、直人さんは紅茶作りの技術を深めることができた。故郷に戻った直人さんは、仲間とともに紅茶を作る機械づくりから始めた。

 発酵していない緑茶や、発酵を途中で止める烏龍茶などの半発酵茶とは違って、紅茶は完全に発酵させたお茶とされる。だが一口に「完全に発酵させた」と言っても、発酵過程の微妙な加減で味や香りは大きく変わる。直人さんらは、1000パターンくらいのさまざまな紅茶を試作したという。

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 そんな中から製品化したのは「コク重視」「職人仕上げ」「あっさりストレート」「スモーキー」の4種類。それぞれに番号がついているが、これは完成した日付をそのまま番号に見立ててつけたという。例えば9月18日に出来上がった「あっさりストレート」は918番。「商品それぞれの誕生日というわけです」と直人さん。冒頭の茶葉はコク重視。


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 有機、無農薬に加え、収穫機械を全く使わない手摘み茶というのも珍しい。「機械だとよけいな部分が入ってしまうので、どうしても雑味が出てしまうんです」と直人さん。ふだんはシルバー人材センターのおばさんらが、せっせと手で茶葉を摘み取っている。この日はたまたま地元の中学生が職場体験で茶摘みに精を出していた。

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 「コク重視」を試飲してみた。香りはあまり強くないが、ボディはしっかりしている。雑味がほとんどなく、すっきりしている。ストレートでそのまま楽しむ紅茶か。強い味を求める人は茶葉を多めに入れるとよさそうだ。

 パッケージには、くまと女の子が描かれている。どうして「くまと女の子」なのか。

 「ヨーロッパの人が見た時に、理解できるものにしたかったからです」。栽培面積は小さいから量産は難しいかもしれないが、質についてはインドやスリランカの銘茶に負けない世界水準を追求する―。この絵にはそんな直人さんたちの決意が込められている。

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 沖縄紅茶農園はうるま市石川伊波1005、098-965-3728。店舗はないが、インターネットで販売している。「山城紅茶」で検索を。50g入りパッケージが1000円から1500円。

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