2008年09月

2008年09月27日

[第78話 食] ぜんそくには、うまいアヒル汁

 アヒル料理といえば北京ダックが有名だが、今回はもう少し地味な料理を紹介する。ぜんそくにいいとされるアヒル汁がそれだ。

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 沖縄では昔から「ぜんそくにアヒル」と言われてきた。お年寄りならまず知っているし、実際にアヒルを煮込んでぜんそく対策に飲んでいるという人もいる。サクナという葉野菜があって、これもぜんそくによいとされるので、アヒル汁にはサクナを入れることが多い。写真はアヒルを生産している金武町の農場で見かけた看板。

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 アヒル汁は普通の食堂ではまず出てこない。アヒル汁を出すことを売り物にしている数少ない食堂にしかない。数軒で食べてみたが、正直言って、それほどおいしいとは思わなかった。おつゆにコクが感じられなかったのだ。薬膳で副材料を入れないから仕方ないのか、と思っていた。

 でも、どうせ食べるなら、おいしい方がいいに決まっている。「ぜんそくには、うまいアヒル汁じゃないと」などと勝手なことを考えていたら、運よくうまいアヒル汁に出会った。

 沖縄市の市役所に近くにある居酒屋。その名もストレートに「アヒル亭」という。ここのアヒル汁、見栄えはあまりしないけれども、スープにコクがあってなかなかおいしい。ごぼうや人参、昆布などが入っている。もちろん、定番のサクナも。

 聞けば、かつおぶしなどの他のだしは一切使っていないという。アヒル100%のだし、である。コツは「アヒルの肉をたっぷり使うこと」と聞いて納得。確かにそれならおいしいはずだ。

 肉をたっぷり使えるのには、理由があった。この店では、アヒルを自家生産しているのだ。ご主人が生産したアヒルを奥さんが調理して店で出す。数年前に友人からアヒル生産事業を引き継いだのがきっかけ、という。

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 アヒル亭でアヒル汁定食を頼むと、アヒル汁とごはんのほかに、面白いものが1皿ついてくる。これ、アヒルの卵の卵焼き。自家生産の店ならではの技といえるだろう。鶏よりもやや色白のクセのない塩味の卵焼きで、ごはんがすすむ。

 アヒルの肉は生産量が少ないこともあって、決して安くない。アヒル汁も1500円くらいする店が多い中で、アヒル亭のアヒル汁定食は大が1300円、中が1000円とリーズナブル。

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 アヒル亭は、沖縄市仲宗根町5-3、098-929-1333。アヒル汁以外にも、普通の沖縄の食堂にあるメニューはだいたいそろっている。

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2008年09月21日

[第77話 食、沖縄] 沖縄のかつおぶしに異変

 沖縄のかつおぶしに異変が起きている。まずはこの、スーパーの削り節売り場の写真をご覧いただきたい。

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 売り場の右の方に「枯れ節」の文字が見える。これが異変の正体だ。背景を説明しよう。

 沖縄はかつおぶし大好きの地域。1人あたりの消費量は全国平均の7倍近い。多くの沖縄料理に大量のかつおぶしが使われる。スーパーの削り節売り場がこれだけ大きいのも、業務用でもないのに1袋が500g入りだったりするのも、とにかく沖縄ではかつおぶしをたくさん使うからなのである。

 そのかつおぶしは、本土でよく使われる枯れ節とは違うタイプの、裸節と呼ばれるものだ。

 かつおぶしを加熱し、いぶしながら乾燥させたものが荒節。その表面のタールを削りとったものが裸節。さらにカビつけして熟成させたものが枯れ節と呼ばれる。裸節はかつおの香りが非常に鮮烈。枯れ節になると、香りは落ち着くが、旨味が深まるとされる。

 沖縄は、これまで裸節専門だった。かつおかつおした香りをウチナーンチュは好む。那覇の平和通りなどの市場を歩いていて漂ってくる独特の臭いの主役も、実はこの裸節の強い香りだ。

 だから、スーパーの削り節売り場も、これまでは裸節のものがほとんどだった。それが最近、冒頭の写真のようになったのは、裸節の調達が困難を来しているからにほかならない。

 県内のかつおぶし業者は「質も量も落ちている」と口をそろえる。

 まず、かつおぶしの生産は沖縄県内ではほとんど行われていない。沖縄本島で唯一のかつおぶし生産拠点は北部の本部漁協だが、かつお漁船が既に1隻しかなく、獲れたカツオの多くも生で出荷されるため、豊漁で生出荷できない分を凍結しておいて、時々かつおぶしにするだけだ。

 沖縄で消費されている裸節の主な産地は鹿児島県枕崎市など。裸節に限らず、ここのかつおぶし生産全体がまず減っている。もともと生産量が限られている裸節については、その影響が枯れ節以上に大きく出ているらしい。

 その結果、沖縄では、これまでの入手ルートでうまく調達できなくなったかつおぶし業者が出始めている。こうして、従来はあまり好まれなかった枯れ節を出さざるをえなくなった小売店、スーパーが増えてきたということらしい。

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 一方、独自の仕入れルートを持っている個人商店には、しっかりした裸節がまだ並んでいる。写真は那覇の公設市場前に店を構える松本商店のかつおぶし。水分がよく抜けた品質のよいかつおぶしであることは、削り節を見れば分かる。品質の悪い裸節をこんなに薄く削ることはできない。味も香りも、スーパーの削り節とはだいぶ違う。

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 むろん価格はスーパー品の2倍くらいする。が、スーパーの削り節は、かつおの香りというよりは、いぶし臭さが強列なものがある。松本商店の裸節は、いぶし臭さは弱く、料理に使えば、かつおの鮮烈な香りが広がる。

 それにしても、沖縄料理からかつおぶしをとったら、一体どうなってしまうのか。これまで沖縄の味と考えられていたものの多くが、大きく変わるだろう。

 沖縄から裸節がなくならないようにするためには、かつおぶし生産者がしっかり利益を出せる価格、つまり、かなりの値上げを甘受するしかないのではないか。諸物価値上がりの折、消費者には大変厳しいことにはなるが、それ以外に沖縄料理の味と香りを守る道はなさそうに思える。

 となれば、これまでのように大量に投入することはできなくなるかもしれないが、質のよい裸節ならば、使う量を2、3割減らしても、少なくとも香りはしっかり出せる。味の方は、はらわたをとった煮干しを少し加えて補えばよいのではないか。

 松本商店は那覇市松尾2-9-13、098-863-2889。

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2008年09月15日

[第76話 農] 黄金色のねっとりイモ

 沖縄で「イモ」といえばサツマイモのこと。江戸時代に沖縄から薩摩に伝えられ、日本本土に広まった。したがって沖縄では、サツマはつけずに、たんにイモという。鮮やかな紫色をした紅芋が主に製菓用に使われて有名になっているが、今回は黄色系のイモを紹介しよう。

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 その名も黄金イモ。コガネイモではなく、オウゴンイモと読む。沖縄本島中部の東側にある伊計島が主な産地だ。黄色というよりもややオレンジがかった色をしている。

 アメリカなどにもオレンジ色のサツマイモがあるが、あれは甘味がほとんどなく、砂糖を入れて煮ないと食べられない。しっかりした甘味のある黄金イモとは全く違う。一方、オレンジ色のサツマイモは品種改良でカロチンを強化したものが多い。黄金イモもカロチンの含有量が高そうだ。

 ふかして食すと、なんとも不思議な食感。水分が多いせいか、ホクホク感はあまりない。繊維めいたものがほとんどなく、なめらかで、ねっとりしている。歯にまとわりつくほど。まるで初めから裏ごしにかけたお菓子のようだ。

 伊計島の上田清さん、淳子さん夫妻は、葉タバコの裏作としてこの黄金イモを栽培している。農協出荷が主だが、最盛期には自宅でも直売する。平安座、宮城、伊計の各島と沖縄本島とを結ぶ海中道路の「海の駅あやはし」へも出荷する。ここではよく売れるようだ。

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 自宅の作業場では、選果して箱詰めする作業が進んでいた。写真の箱の「んむ」とは沖縄方言で「イモ」のこと。同島では黄金イモを栽培している農家が十数軒ある。

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 黄金イモのなめらかな食感と鮮やかな色を生かして、加工品づくりに利用しているのが、うるま市与那城屋慶名で「手作り加工所あやかりん」を営む秋広洋子さん。

 秋広さんは、つぶした黄金イモにイモでんぷんと砂糖を加えて、モチにする。イモの味にモチの食感が合わさった素朴なおやつ。海の駅で販売しているが、なかなかの人気商品で、ほとんど毎日にように完売している。でんぷんと混ぜてから薄くスライスして油で揚げた「フチャフチャ」も人気。こちらはうっすらと甘い黄金イモチップだ。

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 この黄金イモ、伊計島の在来種ではない。10年ほど前、当時の旧与那城町長だった山根勉さんが「なんとか島おこしを図りたい」と、他の地域で見つけたこのイモを種を持ち込んで、生産の振興を図ったのが始まり。今ではすっかり伊計島の特産品として根付いた。

 何が好きかと問われて「サツマイモ」と答える人が、それほど多くはないが、確実にいる。そんなイモファンは黄金イモをお試しいただきたい。生のサツマイモ類は、植物防疫上、本土への出荷が禁じられているので、沖縄で試食を。海の駅あやはしでは、加工品や生イモに加え、シンプルにふかしただけの黄金イモも売られている。

 海の駅あやはしは、うるま市与那城字屋平4番地、098-978-8830。

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2008年09月09日

[第75話 沖縄] お年寄りは宝

 後期高齢者医療制度を挙げるまでもなく、お年寄りが肩身の狭い思いをさせられることが多い昨今。沖縄本島東側の平安座(へんざ)島で、面白いものを見つけた。

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 万鐘本店46話の海中道路、51話のサングヮーチャーで登場した平安座島。その公民館には、99歳のお祝いを迎えたお年寄りたちの肖像写真がずらりと並んでいる。歴代区長の肖像写真を掲げる公民館は多いが、長生きのお年寄りを顕彰している公民館は、さすがの沖縄でもあまり見ない。

 立派なことをしたから顕彰されるのではない。長生きそれ自体が最高の価値、という、ヒトにとって根源的ともいえる価値観。

 沖縄の各地では数え97歳を「カジマヤー」と呼んで盛大にお祝いする習慣があるが、平安座島では99歳の白寿を「ガージーバール」と呼び、島を挙げて祝うのがならわし。旧暦の9月9日にこの祝賀行事が行われる。人口1500人の島で、対象者は年に1人か2人という。

 旧9月9日の午後、まず、祝われる人の家に公民館からごちそうが届けられる。午後3時からはパレード。公民館特製のリヤカーを改造した車に本人が鎮座して、島じゅうを1時間半にわたって練り歩く。その後は祝宴になる。

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 沖縄では、若者も年寄りの意見は聞くといわれる。確かに、悪たれ小僧どもが、90歳近いおばあに諭されているような光景は、ときどき見かける。

 沖縄民謡のベテラン歌手、登川誠仁の「じいちゃん、ばあちゃん」の歌い出しはこんな歌詞で始まる。

 昔云言葉に御年寄や宝 話花咲ち手墨習てぃ

 [標準語]
 昔からの金言、お年寄りは宝 語り合う慶び、教えを請うありがたさ

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 現代人の力の源泉は恐らく「稼ぎがいいこと」なのだろうが、お年寄りが尊敬されるのは稼ぎがいいからではない。稼ぎ以上に重視される価値観があるからこそ、万事に長じているお年寄りに教えを請うのが「ありがたい」のだ。

 もちろん、年をとれば病気がちになるし、お金もかかる。しかし、そこは、稼げる人々が相応に経費を負担する。

 例えば、平安座島のガージーバールの祝いには大勢の人が参加して、いろいろとお金がかかる。祝われる本人の家族はその経費を負担するが、背景には、広範囲の親類から祝い金が集まる仕組みがある。公民館も経費負担の一環としてかなりの祝い金を出す。

 長寿の祝いは、こうして親族と地域が経済的に支えている。家族が遠方にいたり、本人が老人ホームに入っているようなケースもあるが、そんな時も島に残る親族が支える。

 少子高齢化社会では、稼げる人が減ってくるから大変だ。沖縄は子だくさん社会を続けているおかげで、若年労働力がまだ豊富。子を産み育てるのは、社会を成り立たせる根幹中の根幹だから、これは大きな強みといえる。

 とはいえ、将来はやはり大変だろう。ただ、沖縄の社会は、今後も子だくさんを続け、稼ぎ手が働きつつ、お年寄りを大切にする姿勢を、できるギリギリまで保とうとするに違いない。なぜって、それが沖縄そのものだから。

 こんな古い琉歌がある。

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 百歳年寄りぬ うち笑ていめす
 くりどぅ世栄いぬ しるしさらみ

 [標準語] 
 百歳のお年寄りが、声も高らかに笑っている
 これこそが社会繁栄の証しである

 立派なビルよりも、お年寄りの笑い声―。沖縄は復帰後、ずいぶん立派なビルも増えたが、お年寄りを敬って大事にする気持ちと、それを裏打ちする子だくさんのスタンスはまだ堅持しているように見える。

 ただ、ちょっと補足するならば、この琉歌の「うち笑ていめす」は、「微笑んでいる」というよりは「呵々大笑する」ようなニュアンスだ。

 お年寄りを大切にするというのは、必ずしも「手を引いてあげる」という感じではない。90歳過ぎて1人暮らしというような話は珍しくない。むろん、これは元気な人の場合だが。

 大切にされるお年寄りも、案外サバサバしている。そうした強さがなければ、声も高らかに笑えないし、若者は敬いようがない。照りつける太陽の下で、弱々しい姿はあまり絵にならない。

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2008年09月03日

[第74話 食] ゆるぎない原点の極上コーヒー

 実にすっきりとして深い味のコーヒーである。沖縄市のくすのき通りにある「原点」。沖縄のコーヒー専門店の最高峰といっていいだろう。

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 「原点」は既に有名な店なので、万鐘本店では、当初、コーヒー以外の切り口で原点を紹介するつもりだった。実際、興味深い別の話題もある。だが、このコーヒーの味と香りをさしおいて、別の話から入るのは無理がある。やはり本筋のコーヒーの話からいくことにしよう。

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 マスターは外間也蔵さん。外間さんがいれるコーヒーは、強いが、なぜか全く抵抗なく入ってくる。「苦み」や「しびれ」をほとんど感じることなく、たっぷりとした旨味を堪能できる。酸味もさほど強くない。抜群のバランスの上に豊潤さが大きく開花している、そんなコーヒーだ。

 コーヒーをおいしく作るには、いれ方ももちろんあるが、豆の焙煎が重要だと外間さんは言う。「酸味なども、焼き方で決まります」。焙煎してから3日くらいまでは大丈夫だが、その後からは劣化が始まるらしい。もちろん、粉にひくのは飲む直前。

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 昔に比べて豆の質が落ちた、と外間さんは嘆く。農薬のかかったコーヒー豆はそういう味がするという。かつてはモカを使うことがしばしばあったが、最近はインドネシア産の豆が比較的いい、と話す。

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 原点には、細やかな神経が隅々にまで行き届いた空気が漂っている。もちろん、それはピリピリしたものではなく、あくまでも心地よい穏やかな緊張感だ。

 作りつけの棚には、水出しコーヒーの器具が整然と並び、真ん中に柱時計が。机などは濃い茶色で統一され、落ち着いた空間を形づくる。BGMはクラシック。もの静かな外間さん自身も、コーヒーについて尋ねれば、気さくにうんちくを傾けてくれる。

 空気、店の造り、色合い、音楽、人。それらすべてが、極上のコーヒーをさらにおいしくするバックグラウンドになっている。

 その原点が、創業30年目の来春、移転する。くすのき通りが拡張されるため、通り沿いの店舗は立ち退きを余儀なくされるのだ。見事だったくすのきも既に無惨に切られてしまった。

 「店は続けます」と外間さん。移転先はまだ決まっていないが、立ち退き後、間を置かずに移転先で開店できるようにするつもり、と言う。よかった。外間さんのいれる極上のコーヒーは、まだしばらく飲めるらしい。

 原点は、沖縄市仲宗根町1-10、098-938-4832。営業は8時から21時。日曜休。

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