2009年02月

2009年02月24日

[第103話 食] リッチなコーンブレッドはいかが

 コーンブレッドがメインという珍しいカフェが沖縄市泡瀬にある。石原和典さん、恵美さん夫妻の店カフェ・カーザ。コーンブレッドだけでなく、恵美さんが手作りする「ちょっと珍しいパンたち」が人気を集めている。

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 コーンブレッドといえば、アメリカ。粗く挽いたトウモロコシの粉をたっぷり使ったほんのり甘い素朴なパンだ。アメリカでは、おやつやピクニック、パーティなどに手作りのコーンブレッドがよく登場する。パンといっても、小麦粉のグルテンの粘りが少ないのと、イーストではなく膨らし粉で作るので、ややボソボソしたケーキのような食感。トウモロコシのつぶつぶ感と香りを楽しむ。

 恵美さんは、アメリカ人と結婚しているおばさんの家で、コーンブレッドを初めて食べ、そのおいしさに惹かれたという。

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 パン作りが得意な恵美さんは、和典さんと今の店を始めるにあたって、自分なりのコーンブレッドづくりに取り組んだ。自分がおいしいと思えるコーンブレッドを追求して、何度も試作。その結果、アメリカの平均的なそれよりもリッチな味わいのコーンブレッドが出来上がった。お客さんに出す際には軽く温めるので、トウモロコシの香りがいっそう膨らみ、鼻をくすぐる。

 コーンブレッドのほかに、スコーン、ワッフル、ベーグルは定番で置いているが、それ以外のパンはすべて週に2回替わるので、どんなパンが出てくるかはお店に行ってのお楽しみ。この週2回替わりのパン、つまり冒頭で書いた「ちょっと珍しいパンたち」がまた面白い。

 恵美さんの作るパンは、形容がなかなか難しい。いわゆる菓子パンでもないし、コロッケパンのようなおかずパンでもない。どれもパン生地そのものを味わうパンなのだ。例えば「白パン」と呼ばれる丸い小さなパン。まさに、パン生地そのものがおいしいパンで、具材やトッピングは何もないから、他に呼びようがない。しかし、この白パン、しっとりとした実にきめの細かなパン生地が何とも言えない繊細な食感をもたらす。

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 「普通のパン屋さんにないようなパンをお出しして、お客様に喜んでいただけたらうれしいですね」と和典さん。ソバ粉パン、イカスミパンなど、60種類ほどのさまざまなパンのレパートリーを持つ恵美さんが、その中から週の前半と後半に1種類ずつ焼く。これが「本日のパン」になる。

 ランチタイムはパスタも充実。180種類ほどあるレシピの中から、今週はこれとこれ、といった具合に、毎週違うものを3種類出す。だから「またあれが食べたい」と思っても、それが再びランチメニューに載るのは1年後というようなことに。裏返して言えば、パンもパスタも、行くたびに新しいものに出会えるという趣向だ。

 ランチセットは、パスタを中心に、コーンブレッドまたは「本日のパン」、サラダ、デザート、ドリンクがついて1050円。パスタの代わりにドリアも選べる。

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 カフェ・カーザは、沖縄市海邦2-7-12、098-939-2457。毎週水曜と第1、第3木曜が定休。ランチタイムは11:30から14:30まで(日祝は15:00まで)。その後は18:00までティータイム。場所は、那覇方面からなら、泡瀬の海沿いの県道を北上し、左手に「金城歯科医院」「マンモス釣り具」の見える路地を左折。1つ目の信号を右折して少し行くと右手に見える洋風の一軒家がそれ。

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2009年02月18日

[第102話 食、農] 鮮烈な香りを楽しむ島ラッキョウ

 沖縄の居酒屋でも家庭でも、あるいは本土の沖縄料理店でも大人気の島ラッキョウ。その島ラッキョウが、やがて旬の季節を迎える。

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 島ラッキョウは夏の終わりに植え付けする。株が分かれてゆっくりゆっくり粒がふくらんでいく。順調にいけば、1粒植えると10粒くらいは収穫できる。ネギの仲間はどれもそうだが、生育に時間がかかることはあまり知られていない。島ラッキョウの場合も7、8カ月を要する。葉の面積が小さいからだろう。

 3月頃が収穫の最盛期。出始めの時季はかなり高い島ラッキョウだが、旬になると30本前後の1束が250―300円まで下がる。

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 島ラッキョウは、沖縄の食の代表選手の一つになりつつあるようだ。東京の沖縄料理店では、つき出しや一品料理として春から初夏までのレギュラーメニューになっていることが多い。沖縄でも、観光客の多い国際通りや那覇空港にはほぼ定番で置かれている。生の束もあれば、真空パックされた塩漬けも見かける。むろん、県民は飲食店でも食べるし、スーパーで生の島ラッキョウを買っては自分で塩漬けにしてよく食べる。

 島ラッキョウの最大の魅力はあの鮮烈な香り。ネギ、ニラ、ニンニク系の香りであることは間違いないのだが、そのいずれとも微妙に違う。味はネギやニンニクほどきつくない。泡盛に実によく合う。島ラッキョウをつまみながら泡盛を飲み始めたら、本当にいくらでも入ってしまう。

 浅漬けで食べるのが最もポピュラー。塩をして1日置けばおいしくなり、3、4日はそのおいしさが持続する。居酒屋で出てくる島ラッキョウの大半はこれ。かつおぶしがかかっていることが多い。

 この、塩だけのシンプルな浅漬け。試みに島ネギでやってみたが、ヘナヘナと柔らかくなりすぎてしまい、食感が今ひとつだった。島ラッキョウなら、塩で柔らかくなっても、シャリシャリした感じが十分に残る。

 沖縄では、たくさん穫れた時には天ぷらも楽しむ。天ぷらにすると、加熱されて香りは弱まるが、その代わりに甘味が引き出される。実際、ラッキョウ天ぷら好きはかなりいる。

 塩漬けよりも、さらに鮮烈な香りをストレートに感じるには、生かじりするのが一番。ネギやニンニクほどきつくはないから、生でも食べられる。生の島ラッキョウには味噌をつけるとよい。味噌の強い味が島ラッキョウの香りを包み込み、食べやすくしてくれる。ネギ味噌を引き合いに出すまでもなく、ネギ・ラッキョウ系の味と味噌は極めて相性がいい。塩漬けよりも生の方が強いシャリシャリ感を楽しむことができる。

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 島ラッキョウを薬味として食べるのもお勧め。例えば、薄く切った島ラッキョウをよく熟したトマトに乗せて、ドレッシングをかけて食す。トマトのうまみとラッキョウの鮮烈な香りがよく合う。

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 塩こしょうして焼いた豚肉に、薄切り島ラッキョウをたっぷりと乗せ、かんきつ果汁を絞って食べるのもうまい。あるいは、ゆでたジャガイモにドレッシングをふって、薄切り島ラッキョウを散らす。好みでマヨネーズを少しかけてもいい。ジャガイモの淡白な香りはベースになり、ラッキョウの刺激的な香りがハイライトとしてくっきり浮かび上がる。

 薬味で使う場合、島ラッキョウは生なので、あの鮮烈な香りがそのまま迫ってくるのが魅力。とりわけ、豚やジャガイモは熱いので、そこに乗った島ラッキョウの香りがふくらみを増し、鼻から食欲を大いに刺激すること請け合い。

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2009年02月12日

[第101話 食] 無垢の粉もん カタハランブー

 第81話で紹介した「沖縄の天ぷら=粉もん」説を裏書きする話題を今回はお届けしよう。カタハランブーのお話。

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 那覇や南部を中心に、正月や結納など、さまざまなお祝いの席で食べられるお菓子の一つがカタハランブー。名前を分解すると、カタハラ+ンブーで「片方」が「重い」。写真で見ての通り、片方だけが膨らんでいて重たい。

 小麦粉を水またはダシ汁で溶き、塩味をつけただけのものなので、甘味はない。生地以外は何も入らない無垢の粉もん。薄い部分はパリパリしていて揚げせんべいのよう、厚い部分は、固めのパンのような味わいだ。もぐもぐ噛んでいると口の中でうまみがじわっと立ち上がってくる。油で揚げられた小麦粉生地は、それだけで素朴なおいしさがある。

 このカタハランブー、どうやって作るのか。那覇・牧志の公設市場近くに店を構えて40年以上になる呉屋天ぷら屋で作るところを見た。この店は、幅1mほどの狭い路地に小さな店を構えているが、この世界では有名店。NHKドラマ「ちゅらさん」の結納シーンで使われたカタハランブーもここが納品した。

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 柔らかい生地を、フライヤーの手前の斜面部分の鍋肌から静かに流していく。生地は水分が多くて柔らかいので、そのままタラーっと流れ落ちていき、先頭部分が油の中に入る。そこが油の高温で揚げられ、重い方になる。鍋肌に残った薄い生地には、すくった油を上からかけて火を通す。形が定まったら、鍋肌からはずし、仕上げに全体を油に入れてよく揚げる。

 生地が流れて油の中に入ったとたん、油の圧力と熱で流下のスピードが鈍り、そこでたまった生地が固まる。その結果、「カタハラ」が「ンブー」になる。生地の濃さや油の温度、流す鍋肌の角度によって、出来具合いがずいぶん違ってきそうだ。

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 「これは誰彼でもできるものではないよ」と早口で話すのは、店主の呉屋カヅ子さん。きれいに作るには技術がいる。生地を寝かす時間なども粘りに影響しそうだ。「今は上等のフライヤーがあるから楽になったけど、昔はシンメー鍋でやってたから」と呉屋さん。シンメー鍋は、大量のものを煮炊きするのに使う大鍋。その鍋肌で生地を流したということだろう。シンメー鍋は、第32話「巨大ヤマイモはこうして食べる」の5枚目の写真がそれ。

 呉屋天ぷら屋は、カタハランブー以外にもサーターアンダギーや、同様にお祝いに使う濃いピンク色のマチカジを作る。おやつの定番、魚天ぷらやイモ天ぷらも。とても小さな店だが、実績は堂々たるもので、県内のホテルからも結婚式用に注文が来る。サーターアンダーギーは本土出荷も多いという。

 中年の女性2人連れが呉屋てんぷら屋でイモ天ぷらを買い求め、そのまま店先で食べ始めた。「お昼を食べなかったから。おいしい」と笑顔。寒気の中で、2つに割った揚げたてのイモ天ぷらから湯気がすーっと立ち上る。「カタハランブーは家でもよく作りますよ。お祝いの席に出して、食べる時にはいくつかに切り分けて食べるんです」と解説しながら、「はい」とイモ天を分けてくれた。

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 既にお気づきの読者もいるだろうが、第81話で紹介した奥武島のテルちゃん鮮魚店が作る「海ぶどうと干しえびの天ぷら」の原型は、カタハランブーではないか。あの天ぷらから、海ぶどうと干しえびを取り除けば、まさにカタハランブー。ただし、あちらのは厚い部分がもっと多く、ンブーなのが必ずしもカタハラではないが。

 呉屋天ぷら屋は、那覇市松尾2-11-8、098-868-8782、ほとんど無休。カタハランブーは1つ130円。1つを1人で食べたら、1食分になるボリュームだ。サーターアンダギーは、普通サイズが50円、直径10cm近い特大は150円。

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 場所は、牧志の公設市場の南側にある「松尾二丁目中央市場」の路地の中だが、数ヶ月後に移転する。現在借りている建物の取り壊しに伴う移転で、今の場所の近くだそうだが、呉屋さん自身もまだ正確な移転先がよく分からないらしい。今の場所もかなり分かりにくいが、移転後は、近くで聞きながら探すしかなさそうだ。

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2009年02月06日

[第100話 沖縄] まちづくり情報満載の「しまたてぃ」

 万鐘本店の記念すべき第100回は、沖縄の島おこしの話題を。

 「しまたてぃ」という季刊誌がある。社団法人沖縄建設弘済会が発行する地味でまじめな建設情報誌なのだが、お役所風広報誌や業界誌とはひと味違う。沖縄のまちづくり、景観、環境などに関する情報満載で、島おこしに関心を持つ者にとっては目が離せない。

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 「しまたてぃ」は、沖縄本島北部・大宜味村喜如嘉に伝わる国土創造の神歌の言葉。「おもろさうし」に収録されているこの神歌に「くにたてぃ(国建てぃ)」「しまたてぃ(島建てぃ)」とある。

 沖縄は、海の鮮やかさに比べると、陸上部のたたずまいは今ひとつ。建造物の中には素晴らしいものもあるが、まちや地域全体が美しい空間になっているところは残念ながら少ない。戦後の沖縄は、コンクリート造りの、面白味も風情もない建物ばかりになったという指摘がある。新しい地域開発でも、那覇新都心に典型的に見られるように、コンセプトなき乱開発があちこちで進んでいるのが現状だ。

 こんなお寒い状況の中に「しまたてぃ」を置いてみると、その奮闘ぶりがよく分かる。例えば―

 2008年1月発行の44号は特集「いま沖縄の景観づくりを考える」。近世琉球王国の傑出した政治家で技術者だった蔡温(さいおん、1682-1761)の人物像と植林技術をふりかえる座談会を皮切りに、さまざまな立場の執筆者が「私の沖縄景観論」を展開する。

 特集の本体部分には「首里の風景と都市のみどり」「浦添市景観まちづくりの取り組み」「街路樹がもたらす街の風景」といったコクのある各論、事例が並ぶ。このほか「沖縄の風景づくりを考える県民シンポジウム」の討論記録も収録されている。

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 最近の各号の特集は「沖縄の環境保全と創造の現場を見る」(43号)、「沖縄の維持管理技術とアセットマネジメント」(45号)、「モノレールの新たな可能性を探る」(46号)、「沖縄の都市計画を俯瞰する」(47号)。

 個々の記事の中にも目を引くものが少なくない。例えば「ハシゴ道路の構築を目指して」(41号)、「温もりの海郷 渡名喜島」(同)、「沖縄県津波・高潮被害想定調査」(42号)、「活性化への鍵は新・粟国ブランドづくりから」(43号)、「いま注目集める沖縄式共同売店」(45号)、「報得川よ息を吹き返せ」(46号)などなど。

 しまたてぃが面白いのは「地域の風土に合った社会資本整備を進めていこう」という山里将展沖縄建設弘済会専務の基本方針と、編集担当の砂川敏彦さんの編集センスによるところが大きいようだ。

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 砂川さんは東京の雑誌記者や沖縄建設新聞の記者などを経て、2年半前からしまたてぃの編集を担当するようになったという生粋の編集人。全国各地の建設弘済会などの広報誌で、編集のプロが実際に編集しているものは少ない。その意味では、ぜいたくな布陣、といえそうだ。

 「地域を活性化させる道具としてしまたてぃを使ってもらえれば嬉しいですね」と砂川さんは話す。

 沖縄の島おこしやまちづくりについては、地元2紙にもさまざまな論議が載るが、技術にも財務にも頓着しない観念的な記事が目につく。しまたてぃは、国や自治体、企業、NPOの実務者の手になる記事が多く、現実感覚に根ざしている。もちろん、砂川さんら編集部が直接取材した記事も。こうした情報や主張でないと、実際の動きにつながらない。

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 しまたてぃは無料配布の情報誌で、書店で販売される雑誌ではない。図書館など公共機関に送られているが、沖縄県民がしまたてぃを最もよく見るのは、銀行のロビーかもしれない。でも、せっかくの貴重な情報が銀行のロビー以上に広く行き渡らないというのはいささかもったいない気がする。

 とはいえ、しまたてぃに掲載された記事の多くはしまたてぃのホームページからダウンロードして読める。沖縄のまちづくり、島おこしに関心を持つ方はとりあえずこちらをどうぞ。

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