2009年05月

2009年05月31日

[第119話 食] 超高級食材だった車麩

 麩と言えばフーチャンプルー。材料の車麩は、どこのスーパーでも見かけるおなじみの食品で、値段も手頃。ところで、この車麩、どうやって作るのか。沖縄市の大城製麩で、車麩づくりの現場を見せてもらった。

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 麩の原料は小麦粉。小麦粉には、でんぷんのほかに、タンパク質であるグルテンが豊富に含まれている。小麦粉に水を加えてかくはんしてからグルテンの沈殿を待ち、水に混ざったでんぷんを流す。この作業を繰り返して、より純粋なグルテンにしていく。

 ちょうど米を繰り返しといではヌカ成分を流すのに似ている。ただし、米の場合は、残るのがでんぷん。麩づくりはその逆で、流すのがでんぷんだ。「私のところはこれを14回やるんです」と大城さん。残るでんぷんが多いと、食感が悪くなるらしい。

 残ったグルテンは粘土色で、ねばりがものすごく強い(冒頭の写真)。これを数分練ってから、小分けする。小分けしたものを伸ばして棒に巻き付け、かまに入れて焼くこと約4分。グルテンは自分で膨らんで、おなじみの車麩が出来上がる。

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 簡単そうだが、実際には難しい点がいろいろある。例えば、生地を小分けしてから、棒に巻き付けるまでの時間。これが長すぎると、コシがどんどん弱くなる。気温も影響する。小分けする人と焼く人は、言葉も交わさず、全く別の作業をしているように見えるが、実はわずか4、5分の間合いを互いに意識しながら仕事をしているのだ。

 あるいは、麩を焼くかま。このかまは300度近い高温が保たれている特注品。パンやケーキは200度前後で焼くが、麩はそれよりもずっと高温で、短時間で焼く。電気オーブンでこの高温を作り出すのは難しい。大城さんのかまは灯油を燃やす。

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 パンなら酵母を生地に入れて膨らませるが、大城さんの麩は何も入れない。「グルテンは自然に膨らむんです」。グルテンの自然の性質をよく見極めて、時間と温度をしっかり管理して、最適の膨らみ具合を得なければならない。

 大城さんから興味深い話を聞いた。沖縄本島中部の製麩業者のほとんどは、戦後、首里から移転してきた。つまり、戦前まで、麩はかつての琉球王国の王府周辺だけで作られていた。麩は「王様の食べ物」だったのだ。

 よく考えてみれば、うなずける話。なにしろ、小麦粉の主成分である豊富なでんぷんを捨て、わずかなタンパク質だけを取り出すのだ。

 琉球王国がいくら繁栄を謳歌した時代があったとはいえ、生産力の低い昔、庶民はその日その日のカロリーを確保するのがやっとだったはず。その貴重なカロリー源のでんぷんを「捨てる」という食品加工技術が発達したのは、さすがに王府周辺だけだったのではないか。もちろん、かつて、でんぷんは「捨てられた」のではなく、「分けられて」別に利用されたに違いないが。

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 3本180円。今や、大衆食材の代表選手となった車麩には、実はそんな栄光の歴史があったのだ。その栄光ぶりは、今も、車麩の高い栄養価にはっきり刻印されている。というのも、車麩は、タンパク質がなんと40%を超す。これほど高タンパクの食品は、めったにあるものではない。

 そう考えると、フーチャンプルーが、なんだか神々しいまでにありがたいものに思えてきた。

 大城さんの車麩はスーパーかねひで各店で買える。万鐘本店でも、第4話のままやの記事で、麩だけで作るちょっと変わったフーイリチーを紹介したことがあった。

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2009年05月25日

[第118話 食] タコライスじゃない、たこめし

 「タコライスにタコは入ってないの?」 観光客から何度か聞かれた。タコライスはタコスの応用だからタコとは関係ないんです―。そんな会話を何度か交わしているうちに、「たこめし」ののぼりがはためいているのをたまたま万鐘の地元うるま市で見かけた。こちらはタコ入りらしい。おー、ほんとにタコ入りのごはんがあるじゃないか。早速、たこめしに挑戦した。

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 うるま市の与勝半島と平安座島を結ぶ海中道路の話は第46話で紹介したが、「たこめし」ののぼりが風にゆれていたのは、その海中道路の入り口。お店の名前は、たこ焼き食堂ハリセンボン。

 たこめしは、沖縄の沿岸で獲れる島ダコを使った炊き込みごはんだった。島だこを使うので、正確には「島だこめし」(500円)。ごはんの上にちゃんとタコがのっている。タコをゆでた汁でごはんを炊くので、ごはんは薄い色に染まっていて、ほんのりとタコの香りがする。うまい。もちろん温かいのがおいしいが、お弁当にして冷めても十分いけるんじゃないかと思える味わいだ。

 タコライスは、メキシコ料理のタコスのトルティーヤに包まれている中身をごはんの上に乗せた沖縄発の創作料理。スパイスのきいたピリカラひき肉と刻んだレタス、チーズなどがごはんの上にのっている。偶然だが、ハリセンボンのすぐ隣りには、元祖タコライスのお店があるので、期せずして「タコライスvsたこめし」の図になっている。

 ハリセンボンは、大阪出身の漆師(うるし)康治さんと、海中道路を渡った平安座島出身の美幸さん夫妻が切り盛りしている。たこ焼きがメインだが、「ごはんものが欲しい」というお客さんの声に応えて、タコにこだわる漆師さんが島ダコを使った島だこめしを始めた。

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 メインメニューのたこ焼きも魅力。「普通の上等」をうたう普通のたこ焼き(350円)は、ソースの甘さと柔らかい生地が渾然一体となって口の中に広がり、そこに歯ごたえのあるタコが加わって、絶妙のバランス。はふはふ言いながら、あっという間に平らげてしまう。

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 創作たこ焼きもいろいろあって楽しい。例えば「もずくねぎポン酢たこ焼き」(450円)。たこ焼きの中に地元産のもずくが入っている。

 沖縄の特産品であるもずくを活用した料理はいろいろ提案されているが、やはりもずくはとろりとした柔らかな食感が命。残念ながら、もずく創作料理の多くが、もずくのこの食感を生かしきれていない。例えば、もずくの天ぷらなどもおいしいけれど、「あー、もずくを食べているなあ」という実感は湧かない。

 このもずくたこ焼きはそれらとは全く違う。たこ焼きのとろーり柔らかな生地ともずくのとろーり食感とがぴったりと合い、もずく本来のおいしさがちゃんと生かされているのだ。ねぎポン酢の甘くないタレも、もずくを見事に引き立てる。

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 「もずくに下味がつけてあるんですが、初めの頃は、その水分がたこ焼き生地に入るためにうまく焼けなかったりしたこともありました」と漆師さん。どんな新製品にも開発の苦労があるが、もずくたこ焼きもそう。

 もずくはこの界隈でもたくさん生産されている。地産地消を口で言うのは簡単だが、地で穫れたものをとり入れても、それによってさらにおいしくならなければ意味がない。もずくたこ焼きは、まさにもずくが入ったことで誕生した新しいおいしさだ。とろーり同士のハーモニーは、あつあつでないと最高潮に達しないので、持ち帰るよりも、作りたてをお店で食べるのがお勧め。

 ハリセンボンは海中道路の入口にあるので、海中道路を通って平安座島や浜比嘉島、宮城島、伊計島に行く人々が立ち寄るが、その一方で、地元の子供たちにも大人気。部活帰りの中学生などが、タコせんべいにたこ焼きをはさんだサンド・デ・タコヤキ(100円)などにパクついている。地域の風景に溶け込んだマチヤーグワー(お店)だ。

 ハリセンボンは、うるま市与那城屋慶名405-3、090-9406-6415。月曜定休。HPはこちら。島だこめしは数量限定品なので、売り切れることもしばしば。確実に食べたければ電話で予約を。

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2009年05月19日

[第117話 農] トーナチンが実をつけた

 モロコシという穀物がある。トウモロコシではない。トウのつかないモロコシ。沖縄ではトーナチンと呼ぶ。かつては沖縄各地で栽培されていたが、今では離島など一部で作られるだけになってしまった。南城市の奥武島で、実をつけ始めたトーナチンを見た。

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 トーナチンは、イネ科の穀物。トウモロコシを細くしたような茎と葉で、穂は初めは葉に包まれているが、やがてそこから飛び出し、ススキのように一番上のところで赤茶色の丸い実を膨らませる。英語名はソルガム、中国ではコウリャン、日本ではタカキビと呼ばれることも。

 トーナチンは世界中で作られている。例えば、南部アフリカ各地では、脱穀した後に製粉し、固練りにして食べる。固練りはもち、ごはん、おかゆを足して3で割ったような食感。皮の色が出るので、固練りも茶色と紫色の間のような色になる。穀類特有の味と香りが魅力だ。

 全粒粉で食べるから、栄養豊富。例えば、玄米と比べると、トーナチンのスーパー穀物ぶりがよく分かる。タンパク質は玄米6.8gに対してトーナチンはなんと10.3g、ビタミンB2は玄米0.04mgに対してトーナチン0.1mg。食物繊維も3gに対して9.7gだ。

 南部アフリカの一部では、伝統的主食であるトーナチンの固練りが、トウモロコシの真っ白な固練りにとって代わられた。トウモロコシの固練りはクセがないので、ちょうど白いごはんのように、おかずとよく合う。社会が豊かになり、野菜や肉、卵を食べる機会が増えると、「銀しゃりにおかず」ならぬ「白いトウモロコシ固練りにおかず」の食事が好まれる、ということかもしれない。

 確かに、トーナチンの固練りはそれ自体にしっかりした味がある。トーナチンの味は、タンパク質やビタミンなどの「栄養の味」。ぬか成分がたっぷり残っている玄米の味を思い浮かべればいい。玄米はおいしいが、何にでも合うというわけではないところが、トーナチンと似ている。しかもトーナチンは玄米よりもっと栄養豊富で味が濃い。

 沖縄ではトーナチンを粉にひいて、モチ粉に混ぜ、ムーチーを作って食べる。トーナチンを入れると、ムーチーに独特の味がつく。少しざらざらした食感になるが、それがまたいいという人が多い。旧暦12月のムーチーの季節になると、スーパーにトーナチンの粉が出回る。ただし、沖縄県産ではなく、海外からの輸入ものがほとんど。

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 奥武島で聞いた話では、トーナチンは脱穀した後、水に数時間つけてアクぬきしてから乾燥させる。粉にひくのは、昔は石臼だったが、今は製粉機。

 実は、このトーナチン、必ずしも粉にしなくてよい。「トーナチンを水につけて柔らかくすれば、ミキサーでも大丈夫ですよ」。奥武島のあるおばあが話してくれた。言われてみれば、かつて、石臼で穀類や豆をひく時にも、水につけて柔らかくしたものをひいて、ドロドロの液状にしていた。いわゆるシトギ。

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 ところで、トウモロコシは登熟しても実が覆われているからいいが、トーナチンのように、株のてっぺんにむき出しの実をつけるタイプの穀類は鳥にやられる。さあ、明日にでもいよいよ収穫するか、というその前日に鳥はいずこからかやってきて、食べごろの実をきれいに平らげてしまう。熟していない実は決して食べない。

 いったいどんなセンサーがついているのか知らないが、鳥たちの正確な判断力にはただただ脱帽するしかない。奥武島でも、丸々とした実をつけた穂だけが選ばれ、袋がけされていた。

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2009年05月13日

[第116話 沖縄] 浜比嘉島「大人の」リゾート

 沖縄本島東海岸に浮かぶ浜比嘉島(はまひがじま)。平安座島から橋がかかるこの小さな島の東端に、とびきりの大人向けリゾートホテルがある。地元出身のスタッフとリピーター客、コンセプトによく合った内外装が作り出す静かな癒しの時空間をご紹介。

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 ホテル浜比嘉島リゾート。20年以上前からあるホテルだが、昨年4月にリニューアルした。外装には要所要所に琉球石灰岩をあしらって、高級感と親しみやすさという、正反対の効果を同時に実現。自然素材が持つこの不思議な力については、第16話の那覇空港の話でも取り上げた。次の写真の上は、琉球石灰岩が貼られた正面階段。

 小さなところにも自然の素材が上手に使われている。例えば客室の場所を伝える廊下の掲示は、ガラスに文字を乗せて、そのバックに木製の板を入れた。各室前の室番号は、10cm四方の琉球ガラスの板に文字が乗せてある。

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 内装は、アジアンリゾート風味の昭和モダン、とでも言おうか。白とこげ茶、ベージュを基調に、ところどころに赤っぽいハイライトをあしらったアジアンリゾート風の色調を使いながら、こげ茶で装飾性の少ない直線的な家具類を置くことで昭和モダン風の味わいを出している。

 だから、曲線の多いヨーロピアンとも、東南アジアのコテコテのアジアンリゾートとも一線を画す。一言で言えば、控えめ、抑えめの華やかさ、豪華さ。第7話で紹介した万国津梁館と共通するデザインコンセプトかもしれない。もちろん、浜比嘉島リゾートも、例えばシャワールームの感じに見られるように、リゾートらしい豪華さはちゃんと備えている。

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 「大人の―」とは、そんな控えめのリゾート感覚を心地よく受け止めるのが、ある程度の人生経験を持つ年齢層に多いはずだから。若者は、どちらかと言えば、もっと冒険的で刺激的で、作り込んだ面白さにひかれるだろう。

 支配人の中野優子さんによると、地域の自然や社会にとけ込むリゾート、というのが、このホテルのコンセプトの一つ。リゾート開発には、地域と関係ない施設をドカンと作るアプローチもあり、沖縄ではリゾートの主舞台である西海岸にそうした施設が多い。だが、このホテルは違う。

 例えば、浜比嘉島リゾートは、24、5人のスタッフの大半が地元出身。中野さん自身も、海中道路を渡ったうるま市与那城屋慶名の出身で、配膳スタッフから始めて、ずっとこのホテルで勤めてきた。リニューアル後に支配人に昇格したという文字通りの生え抜きだ。そんなスタッフが醸し出す等身大の雰囲気のよさが分かるには、多少の人生経験がいるかもしれない。

 西海岸のリゾートホテルは大型や高層の建物が普通で、観光バスでやってくる数多くの団体客が宿泊する。これに対して、浜比嘉島リゾートの顧客の中心は、個人のリピーター客。「お子さんが3歳の頃から毎年いらっしゃるご家族がありまして、その子がことし小学3年生になったんですよ。スタッフとも顔なじみです」。中野さんが目を輝かせて楽しそうに語る。

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 北谷や恩納村などの西海岸がサンセットから夜ふけまで若者が遊ぶところとするならば、東の浜比嘉島リゾートは早起きの大人たちがサンライズで朝の光とすがすがしい空気を楽しむ場所といえるかもしれない。事実、中野さんの話では、夜10時ともなれば客室の多くは静かになるという。部屋の多くが東向きのオーシャンビューになっているので、朝、宿泊客はカーテンを開けて、青い海の上に昇る朝日を楽しむ。

 うれしいのは、宿泊料も抑えめなこと。西海岸のリゾートより安い。しかも3連泊以上するとさらに2割引きになる(ハイシーズンを除く)。部屋の広さはスタンダードルームが24平米。

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 最後になったが、海の青さは、橋がかかったとはいえ、やはり島なので格別だ。写真は浜比嘉島側から見た平安座の漁港だが、浜比嘉島の周囲の海も同じくエメラルドグリーン。ガラスを溶かしたような、透明感あふれる海の色は、何度見ても飽きない。

 ホテル浜比嘉島リゾートは、うるま市勝連比嘉202、098-977-8088。HPはこちら

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2009年05月07日

[第115話 食] 1100円のお値打ちステーキ

 沖縄はステーキが有名。米軍統治時代のなごりと言われるが、沖縄県民の肉好きがそれをガッチリ下支えしているとの説もある。そんな地元民御用達洋食店の代表格が沖縄市の「ハイウェイドライブイン」。いつも地元客でごった返している。中でも、1100円のスペシャルステーキはお値打ちだ。

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 「沖縄 ステーキ」でネット検索すると、那覇を中心にいろいろなステーキ専門店が出てくる。かつて米軍Aサインレストランだった店、ステーキだけでなく伊勢エビなどの高級海鮮グリルを出す店など、さまざまだ。

 古くからあるステーキ専門店でも、1980年代の前半くらいまでは、1000円前後でステーキが食べられた。当時、本土から沖縄旅行に来た人の中にはそれをお目当てにする人もかなりいた。だが、現在、1000円でステーキを出す店はさすがにほとんどない。「安い」ということにそれほど重きを置かなくなってきたのだろう。例えば、1953年創業の有名店、那覇市のジャッキーステーキハウスでも、一番割安のニューヨークステーキSが1400円。

 ハイウェイドライブインは、本土復帰の前後にオープンしたというから既に創業30年以上。コザという場所柄、かつては米軍人のお客も多かっただろうが、今や地元民が圧倒的だ。

 この店は、昼となく夜となく、常にお客がたくさんいる。家族連れ、若いカップル、作業服姿のおじさんたち。カウンターごしのオープンキッチンの中には料理人やアシスタントの女性が4、5人いて、ハンバーグを焼いたり、とんかつを揚げたりして、忙しそうに動き回っている。それほど広くもないキッチンにあんなにたくさんスタッフがいるのかな、と思うかもしれないが、客の回転がいいから、2人やそこいらでは追いつかないのだ。

 ステーキ専門店ではない。メニューの中心はランチ。ランチとは言っても、「洋定食」くらいの意味で、昼時だけでなく、夜でも食べられる。オムレツ、とんかつ、ハンバーグ、スパゲティといった懐かしの洋おかずとごはん、スープがセットになっている。

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 ランチでも先にスープが出てきたり、アイスティーがおかわり自由だったり、ハンバーグがハンバーガーにする肉っぽいタイプだったりする。このあたりがアメリカン。八宝菜風の中華メニューを「チャプスイ」と呼ぶところもアメリカンの趣きが漂う。チャンプルーなどのオキナワンメニューも豊富。

 さて、本題のスペシャルステーキにいこう。初めてオーダーした時は「1100円はちょっと安すぎないか」「靴底のような、味がなくて固いだけの肉かも」と、待っている間に一抹の不安がよぎった。いくぶん緊張気味でテーブルに座っていたが、やや粉っぽいスープとサラダに続いて登場したのは、まさに血のしたたるおいしそうなステーキだった。鉄板の上で肉汁がジュワジュワといい音を奏でている(冒頭の写真)。

 「とろけるような」という形容は当たらないが、バサバサ肉では全くない。適度な噛み応えと柔らかさがともにあり、しかもジューシー。これで1100円なら文句を言う人はいないだろう。味はほとんどついていないので、好みで塩、コショウ、しょうゆ、ソース類をかけて食べる。

 ふと周囲を見回してみると、ランチを食べている人が多い中で、ナイフでステーキを一口大に切りながら、せっせと口に運ぶ向きもバラバラと見えた。ランチが500-800円ほどなのに比べれば1100円は割高かもしれないが、ちょっと奮発すれば手の届くところに、このスペシャルステーキはある。

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 名前の「ハイウェイドライブイン」も70年代風のレトロな響き。ただ、実際は、ハイウェイ沿いではなく、一般県道75号線沿い。ドライブインと言えば、駐車場が広々していて、というイメージだが、これもそうではなく、県道沿いのやや古びた普通の建物なので、想像をたくましくして初めて訪れた人は戸惑うかも。車は裏手の小さな駐車場にとめられる。

 ハイウェイドライブインは、沖縄市美里1266、098-937-8448。営業時間は11:00-26:00。年末年始と旧盆を除いて無休。

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2009年05月01日

[第114話 食] おいしい海ぶどう、はあるのか

 沖縄の特産品としてすっかり定着した感のある海ぶどう。ぷちぷちした口当たりと、海の香りが魅力とされる。しかし、海ぶどうは、本当においしいのだろうか。実のところぷちぷち感だけなんじゃないか。そんな疑問を解こうと、あちこち走り回った。その結論。おいしい海ぶどうは確かにある―。

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 海ぶどうの本名はクビレヅタ、言うまでもなく海藻の一種だ。暖かい海に生育するが、現在、出回っているもののほとんどは、海水を汲み上げた水槽で養殖されている。植えてから夏場で30日、冬場で40日ほどで出荷サイズに成長する。

 ぷちぷち感の主役になる丸い部分を含めて、全体に葉緑素が含まれていて、光合成する。だから、光がよく当たる上の方は緑色が濃く、下にいくほど白っぽくなる。

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 浦添宜野湾漁協組合員で、夫婦で海ぶどうを養殖している武藤浩司さんによると、おいしい海ぶどうの第一条件は生であること。塩蔵品もあるが、これは明らかに味が落ちる。保存の仕方も重要だ。生の海ぶどうは生きているので、海ぶどうが好む状態で保存しなければならない。例えば海ぶどうは低温に弱いので、うっかり冷蔵庫に入れると、たちまち弱り、味もどっと落ちる。

 品種もいろいろある。牧港漁港で海ぶどうを養殖している宮平俊信さんの話では、宮古島原産の海ぶどうの味がいいという。フィリピン原産種の場合、厳しい条件に耐える強さはあるが、草っぽいような臭いがあるのが難点。逆に宮古島のものは味はすっきりしているが、デリケートなので、生育の具合を毎日よく見ながら、常に細かく管理しないといけないらしい。「育て方をマニュアル化できないんです」と宮平さん。

 生であること、宮古原産の品種であることなどがおいしさの条件らしいことは分かってきた。だが、さらに調べてみると、味に影響を与えるもっと大きな要因があることが分かった。

 海ぶどうは、一般に、ぷちぷちしたぶどうの房の部分だけに商品価値がある。確かに見た目はその部分が美しい。下の写真は、茎が混ざった海ぶどうだが、雑然とした感じで、なんとも見栄えがしない。ところが―。

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 食べ比べてみると、茎がついている方がずっとうまいのだ。ぶどうの房のみの場合、粒が壊れて出て来る汁はぺちゃぺちゃしていて、それほど味はない。だが、茎の部分を一緒に食べると、とろみが感じられておいしい。茎にうまみがあるとまでは言えないかもしれないが、とろみが味全体に厚みを与えていることは間違いなさそう。茎わかめのミニミニ版を食べている感じ、とでも言おうか。

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 海ぶどうは「あしらい」「彩り」の役割を担っているので、売られているのは、見た目に美しい「ぶどう房のみ」のものがほとんど。「茎つき」はあまり見かけない。どの海ぶどう養殖場でも、パートのおばさんが茎からぶどうの房をせっせと手作業ではずし、それを商品にしている。

 宮平さんは、少量ながら茎つきを出荷している。茎つきのおいしさを知るファンがいるからだ。しかし、茎つきが宮平さんの商品だけというのでは「茎つきうまし」の論拠としてはちょっと弱いなあ、と思いながら、さらに探求を続けた。

 しばらくして、沖縄市のある食料品店で傍証を見つけた。そこに置かれていた海ぶどうのポップには「海人は知っていた。実は茎がおいしいことを」というようなセリフが書かれ、茎つき海ぶどうが売られていたのだ。こちらはうるま市の宮城島産。さらに、インターネットで調べてみると、宮古島産の海ぶどうは茎つきがかなり出荷されていることが分かった。通販でも手に入る。

 茎つきがありがたいのは、ぶどうの房をはずすパートのおばさんの人件費がかかっていないので、安いこと。ぶどうの房のみの商品より3、4割安い。見た目は冴えないが、まさに、安くてうまい海ぶどう、なのだ。

 海ぶどうを食べる時は、軽く水洗いしてそのままでOK。海水の塩気だけでおいしい。塩気が強すぎる場合は、少量の酢につければ緩和される。醤油をつけるとまたうまいが、先の方だけチョンとつけるようにしないと、つぶつぶのすき間に大量の醤油が入り込み、ひどくしょっぱくなる。だし汁で食すのもお勧め。


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