2009年06月

2009年06月28日

[第123話 食] 甘みチャンピオン、ナーベラー

 沖縄の夏野菜。一昨年はモウイ、昨年はウンチェーバーを取り上げた。今年はナーベラーでいってみよう。ナーベラーの甘みときたら。もし「野菜の甘みオリンピック」があったら、メダル獲得間違いなし。

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 ナーベラーはヘチマ。若い果実を食す。朝どりの新鮮なものは、白っぽく見える。表皮にびっしり生えている細かい毛がその正体。この毛はだんだん消えていき、店に並ぶ頃にはほとんど見られなくなる。

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 モウイ同様、ナーベラーも大手スーパーの流通からは半歩くらいはみ出した存在だ。スーパーにも売ってはいるが、キュウリやトマトのようにレギュラー扱いはされていない。ある時とない時がある。JA沖縄が運営する糸満などのファーマーズマーケットや、南城市大里の軽便駅かりゆし市のような、農家持ち込み型の店にはほぼ必ず置かれている。

 ナーベラーは皮をむき、中のふんわりと柔らかい果肉を、これまた柔らかい種ごとサクサクと1cmくらいの輪切りにする。まるでハンペンのよう。油をひいた鍋で軽くいため、そのままフタをして弱火にかける。

 5、6分すると水分が出て、ナーベラーが翡翠色に。ふにゃふにゃと柔らかくなったら、味噌とかつおぶしを少し入れ、数分煮ればナーベラーンブシーの出来上がり。豆腐を入れると、立派なおかずになる。

 肉を入れてももちろんおいしいが、ナーベラー、味噌、豆腐といった淡白なうま味の世界に肉の強い味が加わると、いくぶん突出した感じにはなる。

 フタをして蒸す際には、水を一切加えない。ナーベラーからかなりの水分が出てくるからだ。「水は一滴も入れないよー」というセリフを、おばあたーから何度聞いたことか。ただ、あまり長時間蒸し煮にすると、水が出過ぎて、みそ汁になってしまうので、ご注意を。その汁を飲むのがまたおいしいさぁ、という声もあるけれど。

 水溶き片栗粉を入れてとろみを少しつけると、食べるのにも盛りつけるのにも始末がいいので、お店ではそうやって出すところもある。

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 水が出る頃には、ナーベラー特有の甘みが最大限に引き出される。味噌しか入れないのに、まるで砂糖でも加えたんじゃないかと思うほどのしっかりした甘み―。もちろん、甘さの質は砂糖のそれとはだいぶ違うが。

 この自然の甘みを体験し、その虜になった人は、初夏になるとナーベラーを思って少しそわそわしたりする。

 ナーベラーは苦手、という人もいないではない。その理由は、ナーベラー特有の臭み。土臭いという人もいるし、カビ臭いという人もいる。ンブシーをみそ味でまとめるというのは、みその強い味でこの臭いを押さえ込む効果があるかもしれない。

 同様の臭みは、ビーツ(赤カブ)やツルムラサキにもある。ナーベラーの場合は個体差がかなりあるようで、ほとんど臭わないものも、時々ある。穫れたてならあまり臭わない、とか、完全有機栽培だと臭わない、と言われるが、真相は分からない。この臭みが好きという人もいるが、おそらくこれがなければナーベラー大好き人口は倍増するだろう。 

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 水を一滴も加えず、ナーベラーの水分とみそで作るナーベラーンブシーは、絵に描いたような健康食。沖縄の夏に力強く育つナーベラーはいかにも抗酸化力がありそうだし、みそは、リノレン酸エチルエステルの働きで、体内に毎日生まれているガン細胞を消してくれる。ただし、これは、ちゃんと天然熟成させたみそでないとダメらしい。 

 最後に、ンブシーを作る時の最重要ポイントを。それは、ナーベラーをたっぷり使うこと。水が出て縮まるので、小さめのものなら1人1本分は最低必要。好きな人は、1人で2本分くらいペロリと平らげてしまう。

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2009年06月21日

[第122話 食] 教科書に載せたい沖縄そば

 万鐘本店では、これまでに沖縄そば店をいくつか取り上げてきたが、どちらかと言えば個性派の店が多かった(第3話第30話第82話第108話)。今回は、これらとは対照的に、オーソドックスの極み、とも言うべき恩納村の「なかどまい」をご紹介。インパクトは強いが、何杯食べても飽きがこない。

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 なかどまいは、同じ場所で経営者が何回か変わってきたが、現在の店は當山忍さんが1年半前に始めたばかり。當山さんはもともと大のそば好き。あちこちの店を食べ歩きながら「自分で最もおいしいと思うそば、昔、食べておいしかったそばを作ろうと模索しました」と話す。

 まず汁は、豚骨とかつおだしをブレンドした汁。よくあるかつお主体の汁ではなく、豚骨がベースだ。深いコクがあるが、すっきりしていて、臭みや雑味はない。

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 汁の味つけは塩が主体でシンプルそのものだが、なにしろダシのコクが深いから、そばにからんで充分にうまみを発揮する。豚骨ベースのなせるわざ。言うまでもにないが、なかどまいの場合、豚骨は、弱火で、たぎらせることなく長時間じっくりと煮る。

 麺は、細麺と中太麺の中間くらいの太さ。少し縮れているので汁がよくからむ。小麦特有の、空気を少し含んだような優しい弾力のある麺。もちもち感を高める場合はでんぷんの配合を増やすが、ここの麺は小麦主体。

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 これは、ちょうどギョウザの皮が2種類あるのと似ている。1つはスーパーに置かれている薄手のもちもち感が強いタイプの皮。もう一つは、中華料理店で出てくる自家製ギョウザ皮。こちらは厚くて、わずかに空気を含んだような、ややパン生地っぽい食感がある。

 沖縄そばで言えば、昔風の沖縄そばには後者のタイプの麺が多い。なかどまいの麺もこれ。やんばる方面では、この手の麺を出す店が多いが、なかどまいの麺はよくあるやんばるの太麺よりは細く、スルスルと口に入っていく。

 三枚肉やソーキの煮方もオーソドックス。沖縄そばの具として最適の柔らかさといえそう。甘さのない汁とのコンビネーションが最高になるような甘さに、味付けをピタリと決めている。食べ始めは、シンプル塩味のアチコーコー汁と甘辛味の肉がきれいなコントラストをみせるが、食べ進むうちに肉の味が汁に移り、汁が少しずつ甘さを含むようになっていく。その変化が楽しい。ソーキはしっとり煮上がっており、三枚肉の脂落としは完璧だ。

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 汁、めん、肉。どれをとってもていねいな仕事の結果で、それぞれ並々ならぬ力があるが、まったく出しゃばらない。全体が絶妙のバランスを保ちながら、何食わぬ顔でググッと迫ってくる。まさにオーソドックスの極み―。

 沖縄そばビギナーに「沖縄そばって、こんな感じです」と勧めたいのはもちろんだが、あちこちを食べ歩いている沖縄そばジョーグーのみなさんにもぜひ試していただきたい。

 教科書に載せたい沖縄そば、という形容はどうかな、と。

 なかどまいは恩納村字仲泊754-3、098-965-7222。仲泊小学校の隣り。日曜定休。営業は11:00から16:00。

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2009年06月14日

[第121話 沖縄] 高級で親しみやすい琉球石灰岩

 落ち着いた象牙色の地に、サンゴなどが作り出す複雑な自然の模様―。琉球石灰岩は、伝統的石積みなどはもちろん、近代的ビルにもマッチする自然建材。今回はその琉球石灰岩の話題を。

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 琉球石灰岩については、第16話の那覇空港の記事で取り上げた。「高級感」と「親しみやすさ」という、一見矛盾する2つの性格が同居する自然素材の代表格。

 南城市にある株式会社武村石材建設で、琉球石灰岩の石材を製造する現場を見せてもらった。琉球石灰岩は沖縄各地にあるが、採掘権の問題などから、現在は主に糸満市で採掘されているとのこと。

 原石を板状の石材に切るのは、専用のダイヤモンドソー。ダイヤモンドを埋め込んだ刃が高速回転し、長さ1mほどの原石を4、5分で「スライス」する。水をかけて摩擦熱を冷やしながら切っていく。

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 こうして切られた板状の石材は、建物の外壁や内壁に貼られる。壁材はそれほど力はかからないので、厚さ3センチもあれば足りるが、敷石などに使う場合は割れやすいのでもっと厚いものを使う。

 表面仕上げは数種類ある。ダイヤ刃の丸ノコで切った平らな切り肌が基本。その孔を埋めてさらにつるつるに磨き上げた本磨き、逆に、細かいでこぼこをわざとつけたビシャンなど。

 表面の状態によって、光と陰がかもし出す石の表情が大きく変わる。表面がなめらかになるほど高級感が増し、逆に、でこぼこが大きいほど素朴さ、親しみやすさが増すと考えてよさそうだ。

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 琉球石灰岩は、有孔虫やサンゴの作り出す多数の孔(あな)が空いているため表面温度が上がりにくいという機能を持つ。炎天下に、例えば大理石や御影石を置いたら触れないくらいに熱くなるが、琉球石灰岩は多数の孔を通じて熱を逃がすため、それほど熱くならない。

 これが役に立つのは、日差しの強い沖縄ばかりではない。というのも、ヒートアイランド現象などによって、熱をどう逃がすか、遮るかは各地で大きな課題になっているからだ。

 琉球石灰岩のたくさんの孔を利用したのが地下ダム。地下に埋まっている琉球石灰岩層は、その無数の孔に大量の地下水を保っている。いわば、水を含んだ巨大なスポンジ。

 この性質を利用して、琉球石灰岩層の一部に止水壁を設け、層の中の水をせき止めて流出を抑え、それを農業用水として利用しようとするのが地下ダムだ。糸満や宮古島などでは既に完成、今は与勝半島で工事が進んでいる。

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 石材の話に戻ろう。写真は那覇市の国際通りにある飲食店。この店は琉球料理店で、琉球石灰岩をほぼ全面に貼っているが、貼り方によっては和食店やイタリアンレストランなどの演出にも使えるだろう。

 コンクリートの場合、コケやカビによる経年変化は素材を汚くするだけだが、琉球石灰岩の場合は、むしろ面白みが増す。屋外に使われている琉球石灰岩の中には次第に一部が黒ずんできて、建設当初とは違った趣きに。写真は首里の金城ダムの堤体の上部。

 近くで見ると汚れにしか見えなくても、離れて見ると「風合い」になる。もとの複雑な模様が黒ずむことでデフォルメされるからだろう。もとの模様がないコンクリートではこうはいかない。

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 もっとも、近代的なビルに貼られた琉球石灰岩壁材の場合は、あまり黒ずんでくると、ビルのその他の直線的な素材のタッチとかけ離れてしまう。これを防ぐためには、ケイ素樹脂などを含むコーディング剤を使う。例えば、那覇空港の場合は、琉球石灰岩にそうしたコーティングを施し、もとのアイボリー色を長く保つようにしている。

 ところで、有名な大理石、トラバーチンは、イタリアやスペインなどで産出するが、沖縄でも採掘される。沖縄産トラバーチンは、琉球石灰岩が熱変成したもの。高級感あふれる建材として国会議事堂などにも使われているという。ただ、最近は採掘量が減り、あまり流通していないらしい。

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 写真は、ホテルJALシティ那覇に使われている沖縄産トラバーチン。穏やかな縞模様が特徴だ。さすがに大理石ともなると、同じ自然素材であっても、高級感がぐぐっと前面に出てくるところが面白い。

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2009年06月07日

[第120話 食] 暑さを乗り切るタイのサラダ

 ことしの沖縄はカラ梅雨だが、雨が少なくても、夏に向かって気温はじわじわ上がっていく。暑い時には、酸っぱくて辛くて香りの強いものが一番。酸っぱくて辛くて香りが強い、と言えば、そう、タイ料理のサラダがあるじゃないか。

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 南城市玉城のタイ料理店「シャム」。バンコク出身の井上タノームワンさんが、ご主人の料理人井上康さんとともに、本格的で繊細なタイ料理を作り続けている人気店だ。

 1皿目は、エビの香草サラダ「クンプラー」(900円)。ゆでたエビとレタスが、ナンプラーとライムのドレッシングであえてある。ライムはレモンよりも一段と引き締まった酸味があり、香りも鋭い。

 これに、コリアンダー、ミント、エシャロット、青ネギといった、まさに香り立つ面々が加わる。さらに、爽快さをプラスする柑橘系の香りが2つ入って、皿はいよいよ香りワールドに。

 その一つはバイマックルー。コブミカンの葉だ。生のバイマックルーを糸のように細く切って散らしてある。柑橘特有の爽やかな香りが立ち、かすかな苦みが全体の味に奥行きを与える。

 もう一つの柑橘系は、レモングラス。茎の根元の白い部分は柔らかいので、細く刻めば生でサラダに入れられる。タノームワンさんは自分でレモングラスを栽培している。沖縄の気温なら、雨さえ降ればレモングラスはよく育つ。

 ヨーロッパのドレッシングは、酢の酸味に加えて、油の甘味と潤滑の力で、ガサガサした野菜をおいしくするわけだが、タイのドレッシングは油をほとんど使わない。魚醤であるナンプラーの深いコクとライムやレモン果汁の鮮烈な酸味、全体の味を丸くする少量の砂糖だけで味が見事にまとまり、野菜が十分おいしくなる。
 
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 2皿目は、細切り青パパイヤのサラダ「ソムタム」(650円)。第92話で紹介したように、沖縄では普通、青パパイヤは加熱して食べるが、ソムタムの青パパイヤは生で。

 ソムタムの味の組み立ては、1皿目のクンプラーとは違う。ベースはクンプラーとよく似たナンプラー+レモンだが、ソムタムではこれに生ニンニクのみじん切りがたっぷり入る。そこに刻んだ干しえびが。トッピングにもさくらえびが乗っているので、えびの香りはかなり強く、生ニンニクと互角の闘い。両横綱の陰で、刻んだピーナツがひっそりと自己主張している。爽快さが特徴のクンプラーと対照的に、ソムタムは濃厚な力強さが売り。

 主役のパパイヤは、味も香りもほとんどないが、繊維は強い。つまり「歯ごたえ担当」。ドレッシングの味が強いので、歯ごたえも強くないとバランスしない。青パパイヤには、脂肪燃焼機能のあるパパインが豊富に含まれているから、「ダイエット担当」でもある。


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 3皿目は、牛肉が入って食べ応え十分のおかずサラダ、「ヤム・ヌア」(900円)。ナンプラー+レモンの土台に、ミント、コリアンダー、ネギがのる。香りは、1皿目のクンプラーに近い。柑橘系の香草はないが、ミントがやや多めで、それが牛肉とトマトによく合う。脂気のない赤身の牛肉は、このナンプラーのドレッシングであえると、とてもおいしく感じられる。

 以上のサラダ3種は、シャムではディナーメニューだが、材料があれば昼時でも作ってくれる。事前に電話で予約注文しておけば確実だろう。どれも唐辛子がかなり効いているので、苦手な人は頼んで調節してもらうとよい。

 シャムは南城市玉城字富里136-1、098-948-3807。サラダだけでなく、カレーやパッタイ、トムヤムクンなど、タイ料理の定番メニューも豊富。南城市役所本庁舎のすぐ近く。月曜と第4日曜が定休。昼は11:30-14:30、夜は17:00-22:00の営業。

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