2009年07月

2009年07月26日

[第127話 食] おきなの絶品フーチバージューシー

 フーチバーといえばフーチバージューシー。「よもぎの炊き込みごはん」だ。絶品のフーチバージューシーを出す店が那覇にある。

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 店の名は「琉球料理おきな」。牧志公設市場の国際通り側入口の先、アーケードから出て外側を少し歩いた場所。浮島通り側からなら、牧志公設市場向けに左に入ったところ。ふぜいのある木造の建物に、赤いのれんが揺れている。

 毎週水曜日の昼下がり―。常連客が引き戸を開けて「ありますかー」と言いながら入ってくる。店を切り盛りする3人のひとり、翁長千恵子さんが「ありますよ、どうぞー」。もちろん主語はフーチバージューシーだ。

 おきなは毎日営業しているが、フーチバジューシーは水曜日にしか作らない。なにしろ手がかかる。フーチバーの柔らかい葉だけを手でちぎっていく作業。毎日はとてもやっていられない。おきなのフーチバージューシーはフーチバーがたっぷり入るから、なおさらだ。

 フーチバーは、さっとゆがいてから炊き込む。ゆですぎると香りが抜けるし、ゆで足りないと香りが強すぎて、薬臭いような仕上がりになってしまう。その方がおいしいという人もいるが、おきなのフーチバージューシーは抑えめの香りが特徴。

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 炊く際には豚だしとかつおだしで。ジューシーのごはんを噛み締めていると、上品なだしの風味が感じられる。化学調味料だしに慣れた舌には物足りなく感じるかもしれないが、このだしはものすごく透明で控えめ。フーチバーの味やごはんのうまみを下からしっかり支えているのがよく分かる。

 脂加減も絶妙。炊き込む際には豚三枚肉を少量入れて味をのせるから、少し脂気が混ざったごはんになる。この脂が多すぎるとしつこいし、ごはんの粘り気をじゃまする。少なすぎてもおいしくない。

 口に含むと、フーチバーのよい香りがすーっと鼻に抜け、やがて、だしに支えられたごはんのうまみが口いっぱいに広がる。主役のごはんは、米粒が立っていて、弾力とほどよい粘り気が。ごはんの噛みごたえのすばらしさを再認識させられるジューシーだ。

 「これ、おばあが作ったのか、ってよく聞かれます」と千恵子さんが笑う。おばあの手作りと同様に、手をかけてだしをとり、ていねいにていねいに作るからこの味になるのだろう。

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 フーチバージューシーは500円で、小鉢が3つついたフーチバージューシー定食が600円。かかっている手間ヒマを考えたら、涙が出るほど安い。

 かつては壺屋に店があったので、今も壺屋焼きの陶器をたくさん使っている。フーチバージューシーは水曜日にしか作らないが、多めに作るので、運がよければ木曜日にも食べられる。それ以外の沖縄料理メニューも充実。

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 おきなは那覇市松尾2-11-3、098-867-6078。日曜、祝日休。営業は11:00-15:00と18:00-22:00。 

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2009年07月19日

[第126話 沖縄] 滑るように海を駆けるハーリー

 初夏はハーリーの季節。5月から8月にかけて、沖縄各地の漁港で、サバニによる競漕が繰り広げられる。那覇ハーリーや糸満ハーレーが有名だが、地域の小さなハーリー大会も面白い。沖縄本島中部東岸にある浜比嘉島の比嘉ハーリーを見た。第116話で紹介したホテル浜比嘉島リゾートがある集落だ。

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 ハーリーは、サバニと呼ばれるくり舟をチームで漕ぎ、タイムを競う。漕ぎ手10人、舵取りが1人の計11人がサバニに乗り込み、比嘉ハーリーの場合は、折り返しを含む300mのコースを全力で漕ぐ。

 浜比嘉島には浜と比嘉の2つの集落があり、この日は比嘉集落のハーリーだが、一集落の行事とはとても思えない盛況ぶり。出場者、見物客合わせて1000人近い人が集まった。国会議員や市長の姿も。飲み物や食べ物の出店もいろいろあって、にぎやかな夏祭りの趣き。

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 比嘉集落の人口は200人ほど。比嘉区長の平識勇さんは「ハーリーは年々、にぎやかになっていますね」と目を細める。

 出場するのは、比嘉区の住民ばかりではない。むしろ外部チームの方が圧倒的。ことしの出場チームは計45チーム。浜比嘉島を含む地元うるま市内外のJA、郵便局、企業、お店といった職域チームが多いが、中学生だけの舟もあったりする。中には北海道からの参加者を含むチームも。

 対戦はAとBの2つのブロックに分かれる。Aブロックは強豪ぞろい。やはり強いのは、漁協の各支部チームなど。浜比嘉島の近くにある津堅島の津堅支部、海中道路を渡った沖縄本島側の平敷屋支部などのチームが、息の合った力強いかいさばきを見せる。

 ことしのAブロックの優勝は同じ浜比嘉島の浜集落のチーム「はまゆう」、Bブロックの優勝は、同じく浜の高校生チーム「カッチンバーマJr」だった。

 ハーリーは、深くかいを入れて推進力を得る「一人ひとりのこぎ手の力」と、その動きが一糸乱れぬ動きになった時に初めて引き出される「チーム力」とのかけ算で実力が決まる。

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 かいを海の中に深く入れてグイっとかいた時、滑るように舟が加速するのを見るのは最高に気持ちよい。息の合ったチームは、漕ぎ手全員のかいの先の動きがあきれるほどよくそろい、なんとも美しい。

 イベントとしては、30人以上が乗り込んで大型の舟で競漕する那覇ハーリー(5月連休開催)が有名だが、これは例外。10人が全力で漕いで小さなサバニを滑らせていく普通のハーリーは、一人ひとりの動きが舟の動きに直結する面白さがある。

 ハーリーの楽しみは、まずは観戦。見ているだけでも充分楽しめるが、もし見ていて体がうずいてきたら、出場することもできる。

 事実、ハーリー好きで作るチームはあちこちのハーリー大会に出場する。沖縄ハーリーネットワークのHPによると、ことし、同ネットワークが把握しているだけで38ものハーリー大会が予定されている(多くは実施ずみ)。有力なチームは全県的に名が通っていて、例えば比嘉ハーリーで優勝した「はまゆう」も有名チームの一つ。

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 そのハーリー好きが大集合するのが名護ハーリー。これは数あるハーリー大会の一番最後に開かれることもあって、優勝チームに贈られるのは、たんなる名護市長杯ながら(失礼)、事実上「全沖縄の王者を決める大会」になってきた。

 ここは数多くのチームが出場するので男子の部、女子の部に分かれている。男子158組、女子24組の、実に182組ものチームが出場する。

 ことしの名護ハーリーは8月2日、午前8時半スタート。場所は名護市漁港。問合せは名護市観光協会、0980-53-7755まで。

 

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2009年07月12日

[第125話 食] そらまめ麹で作る味くーたー味噌

 沖縄の伝統的な味噌は、米麹または麦麹を大豆と混ぜて仕込んだ米味噌、麦味噌が多いが、今回は、そらまめ麹で作るそらまめ味噌を紹介しよう。読谷村農漁村生活研究会が作って販売している。1kg750円。

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 日本全国の味噌は、麹に何を使うかで米味噌、麦味噌、豆味噌の3つに大別される。米味噌、麦味噌は、蒸した米や麦に麹かびを生えさせて麹を作り、これと主原料の大豆、塩を混ぜて仕込む。

 これに対して、豆味噌の場合は、大豆自体に麹かびを生えさせる。八丁味噌に代表される東海地方の豆味噌は、豆麹と塩水だけで仕込む。いわば「全麹仕込み」であるところが、米味噌や麦味噌と大きく違う。

 製造技術としては、米や麦の麹で作る味噌より、豆だけで作る豆味噌の方が歴史が古いとされる。豆の形がはっきり残っている大徳寺納豆や中国の豆鼓(ドウチ)が豆味噌の源流。

 そらまめ味噌に話を戻せば、そらまめ麹の味噌は、かつては沖縄各地で作られていたらしい。味噌を家庭で作ること自体がほとんどなくなった今、そらまめ麹味噌を作っているのは、おそらく読谷だけだろう。

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 読谷のそらまめ味噌は、麹をそらまめで作り、大豆と塩で仕込む。つまり、麹がタンパク質の多いそらまめで作られる豆麹であるところは豆味噌と同じだが、全麹仕込みではなく、蒸した大豆と塩にそらまめ麹を混ぜて仕込むので、製法としては、米味噌や麦味噌に近い。

 読谷村農漁村生活研究会の与儀常子副会長の話では、仕込みは、そらまめ麹8に麦2、大豆20の比率。そらまめは蒸して種麹菌をまき、麹室に入れる。温かい季節で30時間、寒い時だと40時間ほどでそらまめ麹が出来上がる。真夏はうまくいかないのでやらない、という。写真は麹室。

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 仕込んだ味噌の熟成期間は7カ月から8カ月。もちろんさらに熟成させることもできる。

 できた味噌は、濃い赤みそ色。八丁味噌のように、渋みがあって甘さの少ない味わいだ。うまみはたっぷり。「味くーたー(味がある、味が濃い)よ」と与儀さん。

 塩分より豆のうまみが前面に出ているので、ごはんやキュウリにそのまま乗せて食べるもよし、そのままつまみながら、泡盛をチビリチビリやるもよし。もちろん料理の味付けには最高だ。

 沖縄で伝統的に使われてきた調味料の中では、味噌が最もよく使われていたらしい。農山漁村文化協会が出した都道府県別の伝統食シリーズ「沖縄の食事」には、沖縄各地の伝統食の聞き取りデータがたくさん載っているが、「調味料で一番よく使うのは味噌」という記述があちこちに出てくる。

 例えば、今でも、煮物であるンブシーにはみそ味のものが多い。ナーベラーンブシーは当本店の第123話で紹介したばかり。刺身のみそあえもよく食べられる。

 ところで、なぜ、そらまめで麹を作ったのか。与儀さんは「昔からそらまめで味噌を作ってきたので、理由はよく分かりません。読谷では、そらまめ以外にも、大豆やえんどうなど、たくさんの種類の豆が作れます。土地が豆づくりに向いているんじゃないでしょうか」と話す。

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 名もなき先人のだれかが、土地で豊富に穫れるそらまめでたまたま麹を作ってみたらうまくいった、ということかもしれない。

 そらまめで作る味噌と言えば、中国の激辛味噌、豆板醤(トウバンジャン)がそう。こちらは大豆は使わず、文字通り、そらまめと塩と唐辛子だけで辛い味噌を作る。中国は広いから、ほかにも、そらまめを利用した味噌があるかもしれない。

 読谷のそらまめ味噌は、毎週金曜午後3時から6時に開かれている読谷ゆいゆう市で販売されている。読谷村農漁村生活研究会は、読谷村都屋 167-2、098-956-9074。
 

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2009年07月05日

[第124話 農、南] 気持ちよい緑陰つくる大木マンゴー

 沖縄産マンゴーといえば、夏ギフトの定番。濃厚な味と鮮烈な香りは、他の追随を許さない。ところで沖縄では、マンゴーはハウスの中で作られているので、普通の樹木の形をしたマンゴーを見かけることはあまりない。と思っていたら、万鐘の地元うるま市で、マンゴーの大木を発見した。

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 うるま市豊原の喜納兼俊さんがこのマンゴーの主。喜納さんは自宅の庭に緑陰を作ろうと、25年ほど前にマンゴーを植えた。マンゴーはすくすくと枝を広げ、庭に見事な緑陰をもたらした。もちろん、実もつく。

 果樹としてのマンゴーは、花が雨で落ちると実がならないので、沖縄では、雨よけハウスに入れるのが普通。ハウスの中で自然のままに伸ばしたらハウスの屋根を突き破ってしまうから、そうならないように剪定する。

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 剪定して、高くしないように、横へ横へと枝を広げていく。その結果、マンゴーの木は、ずんぐりむっくり、というよりも、ほとんどT字の上のバーを長くしたように、横に平べったく枝を広げることになる。これには、高い木にしてしまうと収穫が大変、という事情もある。

 だから、沖縄県民の中には、マンゴーとは、横に広がる形の木だと思っている人もいる。現に沖縄にはそんな形のマンゴーしかないのだから無理もない。

 だが、マンゴーは本来、剪定しないで放っておけば、上にすくすくと伸びて大木になる。喜納さんの庭のマンゴーの木がまさにそれ。

 雨をよけないと花が落ちるという理由で農家はマンゴーをハウスに入れているのだが、大木になった喜納さんのマンゴーは、雨よけしなくともたくさん実をつける。ウチナーグチで言う「ちゃーなり」(鈴なり)の状態だ。その理由は、品種が違うから。

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 喜納さんの庭のマンゴーは、ペリカンマンゴー。一方、沖縄で果実として生産されているのはアーウィン種がメインだ。喜納さんの話では、アーウィンの方が味や香りは優れていて、商品価値が高い。一方、ペリカンマンゴーは多少の雨に打たれてもちゃんと実がつく。

 果実マンゴーとしてはアーウィンに軍配が上がるが、緑陰づくりなど、樹木としてマンゴーをとらえる時には、ペリカンマンゴーなど、アーウィン以外の品種も捨てたものではない。

 世界中にはたくさんの種類のマンゴーがあり、それぞれの特性を生かして多彩に活用されている。フルーツとして食べるのはもちろんだが、例えばインドのマンゴーアチャーのように、青くて歯ごたえのあるマンゴーを塩漬けにした漬物などもあったりする。

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 写真は、アフリカのアンゴラ内陸部で見かけたマンゴー並木。ポルトガル植民地時代に植えられたものらしいが、見事な緑陰を作り出している。季節になればちゃんと実をつけ、地域の人々の貴重な食糧源になるが、何よりも、炎天下を歩く人々に緑陰の涼しさと美しい景観を周年提供するのが第一の役割だ。

 沖縄でも、果実マンゴーだけでなく、もっと多彩なマンゴーの可能性に目を向けたら面白いことになる。例えば、の話だが、都市公園に500mくらいのマンゴー並木道をドーンと作り、地域の人々や観光客に緑陰を提供する。

 沖縄は陽光が強いから、質のよい緑陰づくりが生命線。いい木かげさえあれば、気持ちのよい島風に体が癒される。沖縄では気温が33度を超すことはまずないから、夏に36、37度になる本土各地から、人々が避暑に訪れるかもしれない。マンゴー並木はその象徴的場所になる。

 実りの季節になったら収穫イベントで大盤振る舞い。下の方は子どもたちに虫取り網のようなもので好きに穫らせて、上の方は高所作業車で収穫する。人が集まる新名所になれば、作業車の借り賃や落果の清掃経費くらいの予算は地元自治体がカバーすればいいー。

 緑陰マンゴーの先駆者である喜納さんと、気持ちのよい木かげで緑陰談義をしながら、そんなことを考えた。

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