2009年09月

2009年09月27日

[第136話 食] 進化してきた塩せんべい

 塩せんべいは沖縄の代表的なおやつ。サクッとした歯ごたえと生地の素朴なおいしさ、ほどよい塩気が魅力だ。おなかがすいている時は3枚でも4枚でも、あっという間に食べてしまう。

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 原材料は、小麦粉に少しデンプンを加えた粉、植物油と塩だけ。いたってシンプルだ。

 水分と油を含ませた粉を専用の型に入れ、フタをして加熱する。少しして熱が一定の温度に達すると「プシュー」と生地が膨らむ。ポップコーンと似ている。ポップコーンの1粒の種の中で起きることが、塩せんべいの場合は密閉された型の中で起きていると考えればよさそうだ。

 何年も変わらない沖縄の庶民の味、ということになっている塩せんべいだが、実はさまざまな変化、進化を遂げてきた。

 那覇市繁多川にある丸吉塩せんべい屋の2代目社長新田民子さんによると、かつては、塩味ではなく、食紅に砂糖をまぜたものが表面に塗られていた。「私が子供の頃は、赤くて甘い表面をまずなめて、それからせんべいの部分をかじっていました。噛み切るのにとても力が必要で。いま思えば、しけていたんですね」と笑う。

 塩味が登場したのは昭和30年頃らしい。「甘いと子供のおやつにしかならないので、大人でも子供でも食べられるものにしたいと考えた人がいて、塩味を作り始めたんです」。これが今の塩せんべいの起こり、というわけだ。

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 今も、各メーカーは研究開発に余念がない。「塩せんべいの消費量は少しずつ落ちています」と新田さん。多種多様なお菓子がどんどん出てくる中で、消費者を何とかつなぎとめようとメーカーも必死だ。

 例えば、塩味になってからも、生地は微妙に変わってきた。かつての塩せんべいは、やや繊維っぽい仕上がりで、しけていなくても、噛み切るのに多少力が必要なものが主流だった。いま丸吉塩せんべい屋が作る塩せんべいの生地は、サクサク感が強く、噛み切るのに力はいらない。これをさらに進め、口の中ですぐに溶けるようなソフトな食感のせんべい生地を作っているメーカーもある。

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 梅味がコーティングされているものなど、味つけもいろいろ。チョコクリームが別添えになっているものもある。

 丸吉塩せんべい屋の製品「せんの恩返し」の場合は、厚さを変えてある。味は普通の塩味だが、標準バージョンの厚さの3分の1から4分の1ほどの薄焼き。これによって食感がだいぶ変わる。パリパリ感が強調されて、おいしい。

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 その「せんの恩返し」のパッケージにある絵と言葉が、以前から気になっていた。いわく「決してのぞいてはいけません」。 ん?? 

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 新田さんが解説してくれた。「鶴の恩返しのおつうみたいにね、焼きを担当する人は機械の前に座って、せっせとせんべいを焼いているんです。薄焼きはとてもデリケート。注意しないとすぐに割れてしまうので、ものすごく神経を使います」。他人にのぞかれると神経の集中が邪魔されて、上手に焼けないのだという。

 昔は、焼き上がるのを待ち切れない子供たちが工房をのぞき見したらしい。そんな時、のぞいてはダメよ、と制止したのがこのセリフ。「せんの恩返し」のラベルは、そんなかつての工房の風景を描いたもの、というわけだ。

 丸吉塩せんべい屋を有名にしたもう一つの新製品が「天使のはね」。これは塩せんべいを焼く際に型からはみ出すふわふわの部分を商品化したもの。かつてはすべて処分し、養豚業者が回収して豚の餌にしていた。

 新田さんがお腹がすいていた時にたまたま食べてみたら、とてもおいしかった。それまでは、とって捨てるもの、という見方しかしていなかったが、食べてみたらおいしいので、さっそく商品化した。せんべいのようにパリパリしておらず、フニャーっと柔らかい。油気もほとんどなく、塩味もうっすら。赤ちゃんでも食べられそうな優しい味だ。逆に、刺激の強い食べ物に慣れた舌にはモノ足りないかも。

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 塩せんべいは、これからも進化を遂げ、あっと驚く新企画が登場するかもしれない。でも、基本の塩味せんべいは、いつまでも残るような気がする。なぜって、これほどあきのこない味も珍しいから。

 塩せんべいは、古くなるとどうしても油が酸化してくるので、求める際は新しいものを選ぼう。沖縄県内はどのスーパーでも売っている。県外ではわしたショップなどで。丸吉塩せんべい屋は工房横に直売所がある。那覇市繁多川4-11-9、098-854-9017。

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2009年09月20日

[第135話 食] うまみ凝縮 クルマエビの「やわら」

 沖縄はクルマエビの生産日本一。県内各地に養殖場がある。本島北部、宜野座村にある宜野座養殖場は併設のレストラン「球屋」でクルマエビ料理が食べられる。脱皮したばかりのエビを焼いた「やわら」と、ミソのコクが楽しめる有頭エビ天ののった天丼をご紹介。

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 宜野座養殖場は宜野座インターを降りて少し北上した宜野座大橋のたもとにある。目の前の川にはマングローブが。

 球屋は、天ぷらや刺身、塩焼きなどでクルマエビを食べさせる。まず「やわら」からいこう。

 「やわら」は、脱皮したばかりのクルマエビで、殻がソフト。これをシンプルに焼き、塩を振って食べる。アメリカ人の好きな脱皮直後のカニ「ソフトシェルクラブ」とよく似ている。

 注文したら、テーブルコンロが用意された。ほどなくして、串にさされた「やわら」と塩が登場。「少し焦がすくらいが香ばしくておいしいですよ。頭のところはしっかり加熱して下さい」とスタッフが説明してくれた。

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 加熱すると、あざやかな朱色に変わっていく。表、裏とも3、4分ずつ。頭の部分に火がよく当たるようにする。仕上げにパラパラと塩を。

 頭からかぶりつく。頭の部分にはミソが入っていて、えもいわれぬコクが。身は身で、塩だけの味付けなのに、うまみ十分。もちろん柔らかい殻ごといただく。

 クルマエビは、本当にうまみが凝縮した食べ物であることを再認識させられる。体長15-18cmほどだから、イセエビやロブスターのようなボリュームはないが、うまみの深さではそれらに全く負けない。

 天丼は、主役のクルマエビ天のほかに、ハンダマ、オクラ、カボチャ、ゴボウ、ナスなどの野菜天ぷら陣が脇を固める。揚げ方が実に巧み。薄ゴロモだが、サクサク、カリカリに仕上がっており、油の中で脱水され、凝縮された素材のうまみが際立つ。

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 クルマエビ養殖場直営のレストランはほかにもあるが、残念ながら天ぷらの揚げ方が今ひとつの店も。球屋はその点、ピタリと決まっている。ただ、ていねいに揚げるので、昼時の混み合う時間帯などは、20〜30分待たされることもある。

 天丼のクルマエビ天も有頭で、これは「やわら」ではないが、しっかり揚げてあるから、頭も尻尾もすべておいしい。

 「やわら」同様、頭にはミソが入っている。ミソはコロモと一体になって、さらにコクが増す。天丼は、エビの身とコロモとタレのうまさでかき込むのが醍醐味だが、球屋の天丼は有頭エビのミソのうまみも加わり、複雑でぜいたくなおいしさが楽しめる。

 クルマエビ天を頭からかぶりつく時には、そのミソが飛び出すことがあるので注意しよう。間違ってもミソをこぼしてはいけない。それはあまりにもったいない。あわてずに、そおーっと噛み切れば大丈夫だ。

 天丼は活きエビを使ったものと急速冷凍されたエビを使ったものが選べる。価格は前者がいくらか高い。だが、急速冷凍ものでも十分おいしい。

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 タレは少量かかっているが、残りは別添え。もっとかけたい人はお好みでどうぞ、という方式だ。タレが多すぎるとミソの味わいが殺されてしまうので、控えめにかけるのがお勧め。

 球屋は、宜野座村宜野座1008、098-968-4435。火曜定休。HPはこちら

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2009年09月13日

[第134話 農、食] 地野菜を楽しむ農家民宿

 「農家民宿」は、読んで字のごとし、農家が経営する民宿。農家だから、畑で穫れたての新鮮野菜が食卓に並ぶ。沖縄本島北部の宜野座村で季節の地野菜を作っている仲間澄子さんの農家民宿「田元」をのぞいてみた。

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 田元は「タムトゥー」と読む。これは仲間家の屋号。沖縄の農村部では、今でも屋号で家を呼ぶことが多い。仲間家では、古い瓦家の隣りに鉄筋コンクリート造の自宅を建て、家人はそちらで生活することになったので、空いた古い瓦家を民宿として使うことにした。これが「田元」の始まり。

 その瓦家は、昔ながらの一番座、二番座のある間取り。一番座には床の間、二番座には仏壇がそれぞれある。

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 仲間さんはカンダバーやンスナバー、イーチョバーといった沖縄の地野菜を作っている。夏場ならモウイのあえもの、秋口にはシークワサーのジュース(下の写真)、冬にはダイコンの地漬けやイーチョバーの天ぷらが献立に加わる。パパイヤイリチャーやカンダバーのみそあえは年中できる。

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 カンダバーは万鐘本店第54話モウイは第1話野菜パパイヤは第92話でそれぞれ紹介した。イーチョバーはウイキョウ。さわやかな香りが特徴で、天ぷらにしたり、ボロボロジューシーにしたりする。

 「地野菜は、何にもしなくても、ほとんど放ったらかしでできるんですよ。農薬もいらないし」と仲間さん。

 話を聞けば簡単そうだが、仲間さんは、例えばカンダバーなら葉が柔らかく、えぐみの少ない品種を選んで植えている。カンダバーなど、沖縄ではそれこそどこでも生えている葉野菜だが、ちゃんとこだわりの品種を栽培しているところはやはり農家。

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 地野菜は、たとえばカンダバーでもハンダマでもイーチョバーでもゴーヤーでも、独特の香りや苦み、渋みがあって、それがおいしい。とはいえ、その香りや苦み、渋みが、度を過ぎたものでは、とても食べられない。適度ならば、「大人の味」として、おいしくいただける。

 だから農家は、品種について、長い間、研究を重ねてきた。この研究は、もちろん研究所みたいなところで行なわれるわけではなく、各農家が自分の畑で経験的に続けてきたもの。「いい種を残す」「いい種を人に分ける」という形で、その成果は細く長く受け継がれてきた。

 地球上で農業というものが始まって2万年。その99%以上にあたる1万9900年くらいの間、品種改良などの研究開発はすべて農家が担ってきた。例えば、バナナが今のような種なしの形になったのは、何千年も前にインドネシアで品種改良が行なわれたかららしい。そんな時代に研究所があったはずもない。

 話が急に大きくなってしまったが、仲間さんのカンダバーも、そんなふうにして農家の手で残されてきた「いい種」の一つなのだ。

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 田元の宿泊客は、畑で土いじりをしたり、それぞれの味わいを持つ地野菜に舌つづみを打つことができる。おやつのサーターアンダアギーを仲間さんと一緒に作ったりするチャンスもあるらしい。

 ホテルにあきた沖縄リピーターの間で田元は人気が高く、夏休みなどは予約で一杯になる。1回に1組しか泊れないから、予約は必須。1組5、6人までは泊れる。

 農家民宿はほかにもいくつかある。北部の農家民宿情報は、このHPが便利。田元も載っている。田元は宜野座村宜野座村字漢那112、 098-968-3992。

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2009年09月06日

[第133話 食] 汁の味を変えられる八重そば

 名護の沖縄そば店で。左の男性は「いただきます」と箸を入れたところ。ゆっくりと箸を動かし、麺と汁をなじませる。穏やかな笑みの中に、おいしいものをいただく喜びがにじむ。

 さて、右の人は? 食後のお茶か。いやいや、この人もこれから沖縄そばを食べるところ。そのために、沖縄そばのどんぶりに自分で汁を注いでいるのだ―。

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 名護市の旧市街の飲食店街にある八重そばは、いつも地元のファンでいっぱい。ソーキそばでも三枚肉そばでも、注文すると、麺、肉、ネギだけが入ったどんぶりと、やかんに入ったアチコーコーの汁とが出される。右の男性が持っているやかんがそれ。八重そばでは、めんと汁が別々に出てくるのだ。

 まず、やかんの汁をおもむろにどんぶりの中に自分で注ぐ。汁は驚くほどにごりがなく、透明感にあふれている。これほど透明な沖縄そばの汁も珍しい。豚骨ベースだが、静かにていねいに煮出してあるから、豚臭さは一切なし。

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 肉とめんを食べていくうちに、肉の煮汁が全体の汁に溶けていき、汁の味がだんだん丸みを帯びてくる。その変化を楽しみながら、めんを7割方食べ、汁も少し飲んだ状態が下の写真。最初の汁に比べて色がだいぶ変わっているのが分かる。その甘味を増した汁に、やかんの新しい汁を注ぎ足す。

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 新しい汁を注ぎ足すと、汁全体が最初の塩の効いたやや厳しい感じの味に戻る。特に、最後をそれで終わると、いくぶんダレ気味の舌が引き締まる感じで心地よい。やかんに新しい汁が用意されていると、このような味の「戻し」ができる。

 第122話で紹介した恩納村の「なかどまい」の汁も八重そばの汁によく似ているが、八重そばの汁はなかどまいよりもさらに一段と透明で、あっさりしている。

 もの足りないと感じる向きもあるかもしれないが、いったん甘味を帯びた汁に注ぎ足して元の緊張感を蘇らせるには、この透明感、あっさり感が重要そうだ。あまりコテコテの汁だと、こういう戻しの効果は鈍くなるのではないか。

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 八重そばのめんは、名護らしい平麺。幅は1cm弱でそれほど厚くない。強いコシは感じられないが、昔ながらの沖縄そばの麺は、それほどコシが強くない。むしろ、やや柔らかめの麺の方がトラディショナル。八重そばのめんもまさにそれだ。

 平麺でも厚ぼったくないので、ヒラヒラと曲がり、汁がよくからむ。平麺を食べる時にはいつも思うが、すすり上げて口に含み、もぐもぐと噛み始めた時、平麺は口の中で独特のボリューム感を感じさせてくれる。

 八重そば創業者の八重子おばあは、息子に店を任せ、ふだんはデイケアに行っているが、デイケアが休みの時には店にすわってお客さんとゆんたく(おしゃべり)している。

 八重そばは名護市城1-9-3、0980-52-3286。11時〜(売り切れ次第終了)、火曜定休。

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