2009年10月

2009年10月25日

[第140話 沖縄] 街かど看板、傑作選

 街かどで見かけた看板や横断幕の傑作選をお届けする。思わす笑ってしまう作品から、ほっこりした温かい気分になれるものまで、5点をご紹介。


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 まずはエイサーの参加者募集看板から。ことしの夏、万鐘の地元うるま市の字赤道で見つけた。エイサーは沖縄本島中部で盛んな伝統的な踊りで、旧盆の時に各字の青年会が路地や広場で踊りを披露したり、拝所などで奉納したりする。最近は勇壮なエイサーが全国的に人気を呼び、各地に同好会ができているようだ。

 うるま市字赤道は、農村部の多いうるま市のいわば玄関口に位置する。飲食店などが多い、町っぽい場所だ。純農村部の青年会活動は「顔つながり」だけで情報が流れるが、赤道のような町っぽい字では、このように看板で参加者を募ることになるらしい。

 「○○○しないと」という語り口は、とても沖縄的な口語表現。日常会話にもよく出てくる。相手に何かの行為をやわらかく促す時に、どちらかと言えば、女性がよく使う。「だのにぃ」も女性が言う。

 下手くそな字が、いかにも青年会ふーじー(っぽい、「風姿」)。


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 ちょっと古いが、うるま市内で見かけた横断幕。横断幕が告知手段としてよく使われるという話は万鐘本店第67話で書いた。とりわけ同窓会の告知には横断幕が非常によく利用される。

 同窓会告知のメインコピーに「あの人もハゲました」を置くというのは、言葉のとんがり具合といい、同窓会とのいい感じの距離感といい、かなりのセンス。

 同じ同窓会の別の横断幕に、メインコピーが「来ないのはあなただけだったりして」というのもあった。「あの人もハゲました」とは別の意味で、これも秀作。この幹事さん、コピーライターでもメシが食えるんじゃないでしょうか。

 次は小中学生の「あいさつ」標語シリーズを。


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 うるま市で見つけた看板。なんとも言えないおかしみがある。そもそも「あいさつをする」とは言うが、「あいさつをやる」とは言わない。これが笑いの源泉その一。

 それから「やられる前に」というのも笑いを誘う。「やられたら、やり返せ」みたいな暴力的なセリフを想起させるこの文の主語が「あいさつ」であるところが、最高に面白い。

 ぴょんぴょん弾むような少年マンガっぽい字の感じも含めて、野球帽をかぶった小学校低学年の男の子を一瞬イメージしたが、実は中三女子の作品。


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 これは「やられる前に」の横にあった作品。さほど面白みはないが、きれいにまとまっている。うまい。座ぶとん3枚。


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 最後は、慶良間諸島の阿嘉島で見つけた小学生の標語看板。阿嘉島といえば、ダイビングやホエールウォッチングの盛んな慶良間でも比較的地味な存在。

 そんな静かな島のぬくもりが感じられるしっとりした作品だ。海風にあたって傷み加減の看板も、おとなしい字体も、言葉の中身とあいまって、すべて絵になっている。島はいいなあ。座布団10枚。

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2009年10月18日

[第139話 食] ソースを吸った生パスタのうまみ

 宜野湾市のイタリアンレストラン、Pao(パオ)とPana(パナ)が今回の主役。ソースのうまみを充分に吸い込んだ生パスタが素晴らしくおいしい。

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 代表取締役の川口一仁さんは埼玉県出身。鉄人シェフとして知られる石鍋裕さんの店クイーンアリスに勤務した後、イタリアで本場の味と技術を学んだ。帰国後は東京・六本木ヒルズのイタリアンレストランなどで働いた。

 独立のチャンスを求めていた際に、沖縄出身の友人から「一緒に店をやらないか」と声がかかり、沖縄に。間もなく、生パスタの専門店Paoを始めた。沖縄で生パスタを出す店の第一号だった。6年前のこと。姉妹店のPanaは昨年、オープンした。

 川口さんが作る生パスタは、幅2、3mmのタリオリーニ、幅4、5mmのタリエリーニ、幅6、7mmのタリアテッレ、幅25-30mmのパッパルデッレの4種類(冒頭の写真はそのうちの3種類)。

 パスタは、温度や湿度で出来具合が違ってくるという。こねた後、冷蔵庫で生地をじっくり寝かせて、グルテンの形成と生地の熟成をゆっくり進めるのがポイント。

 細い麺はあっさりしたソースが合う。麺が太くなるほど、こってりしたソースとの相性がよくなる。ソースがこってりしてくれば、それに負けないボリュームのパスタが必要になるからだ。

 あっさり系のソースといえば、魚介系の軽めのソースなど。トマトベース、クリームベースと徐々にこってりしてきて、最もこってりは、例えば仔羊の赤ワインソース。まるで京都名菓の八つ橋のようなパッパルデッレが登場するのは、こうした濃厚なソースの時。

 「パスタは、ソースをおいしく食べるためにあるんですね」と川口さん。パスタは家庭料理。うまみをたっぷり含んだソースをムダにすることなく、効率よく食べるのに、パスタは必須のアイテムと言えるのだ。

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 生パスタは、ソースがからむだけではなく、ソースをしっかり吸い込む力がある。食べてみると、もっちりした麺にソースのうまみが染み込んでいるのが分かる。だからうまいのだ。

 上の写真のトマトベースのパスタはタリエリーニ。パスタとソースが完全に一体になっている。沖縄地野菜のナーベラーが独特の食感をもたらす。麺に吸われて一番おいしくなるように、ソースの塩気や酸味がピタリと決まっている。

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 このクリームベースのソースには、タリエリーニよりひと回り太いタリアテッレを。こちらは小エビや小柱といった魚介のうまみが基調で、キャベツの甘味と食感がアクセントになっている。もちろん、ソースと麺の相性はバッチリ。

 ランチにはパスタのほか、前菜と自家製のパン、デザートがつく。どれもおいしいが、この日のデザートに出て来たぶどうのソルベは、その上品な甘さといい、心地よい酸っぱさといい、ふわーっと口溶けする食感といい、出色の出来。

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 Panaは、イタリア語でオステーリア、つまり居酒屋のイメージ。生パスタ料理だけでなく、一品料理にも力を入れている。写真はPanaの店内。

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 Paoは宜野湾市新城2-39-20、098-892-9003。Panaは宜野湾市野嵩1-2-15、098-892-8736。HPはこちら

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2009年10月11日

[第138話 食、農] 砂糖を入れないパイン缶

 パイン缶といえば、おいしいが、それほどありがたいものでもないーといったところか。そんなイメージを打ち破るパイン缶が人気を呼んでいる。砂糖を全く使わないパイン缶「ロイヤルスウィート」がそれ。

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 砂糖を使わないパイン缶を作っているのは、名護パイン園グループの株式会社名護パイナップルワイナリー。

 同社常務取締役の上江洲朝則さんによると、ロイヤルスウィートは、7月下旬から8月下旬にかけて出荷される糖度の高いパインだけで作る。パインは9月下旬から11月上旬にも出荷されるが、この時期のパインは糖度が低いので、砂糖なしでは作れない。

 盛夏の時期のパインならすべていいかというと、そうはいかない。パインは底の部分から上に向けて糖度が上がっていく。つまり葉に近い上の部分は甘味が弱い。だから砂糖なしのパイン缶を作る時には、上の部分は入れられない。本当に甘くておいしい部分だけを使ったぜいたくなパイン缶なのだ。砂糖なしで作るのに必要な糖度は最低14度。

 価格は1缶598円。スーパーの砂糖入りパイン缶と比べると、かなりの価格ではある。

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 そのロイヤルスウィートを食べてみた。非常にすっきりしている。砂糖のしつこさが全くなく、砂糖入りのパイン缶とは確かに違う。よく冷やして食べると、おいしさはひとしお。

 砂糖入りパイン缶のシロップは強いので、そのまま飲むのは抵抗があるが、ロイヤルスウィートの汁ならいくらでも飲める。

 名護パイナップルワイナリーが砂糖なしのパイン缶を作り始めて7年目になる。「おかげさまで、ことしはよく売れています」と上江洲さん。例年は、盛夏に作ったパイン缶を半年ほどかけて売っていくのだが、ことしは3カ月ほどで完売の見込みという。

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 ロイヤルスウィートを作った背景には、深刻なパインの減産傾向があった。沖縄のパイン生産は年々減っている。理由は簡単。もうからないから、やめる農家が多いのだ。やめないまでも、後継者はいないという農家が多い。

 名護パイン園グループの基幹施設ナゴパイナップルパークはパイン農家があってこそのテーマパーク。「農家がちゃんとうるおう買い入れ価格を実現できる付加価値商品をなんとか作れないかと思ったんです」と上江洲さん。
 
 人気ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」のやまけんこと山本謙治さんは「日本の農産物は安すぎる」と主張しているが、パインもその例に漏れない。実際、パインに限らず、農業は、天候や病虫害のリスクがむやみと大きいのに、利益はあきれるほど小さいから、総じてもうからない。下手をすればすぐ赤字。これでは、やる人が減っていくのは当然の結末だろう。
 
 前回取り上げたやんばるの農家直販市も、今回のロイヤルスウィートも、農家を実質的に支える取り組み。農家が衰退してしまったら成り立たない仕事をしている人々が、ある意味では農家以上に危機感をもって、新しい仕組みづくりを模索しているといえそうだ。

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 ロイヤルスウィートはパイナップルパークで買えるほか、通販でも取り寄せられる。詳しくはパイナップルパークのHPで。パイナップルワイナリーは名護市為又1196-7、0980-53-0017。

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2009年10月04日

[第137話 農] ホテルが買い付ける山田金曜朝市

 一般の農協出荷でも、ファーマーズマーケットでもない、新しいタイプの農産物直販市が本島北部で産声を上げた。売り手は農家。買い手はホテルと飲食店。新しい農産物流通のモデルになりそうな、B-to-Bの直販市を訪れた。

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 名護市の中心部から少し入った山あいにある山田公民館。毎週金曜日の朝、農家が自慢の農産物を次々と運び込む。ほどなくして、買い付けるホテルや飲食店の人々がバンなどに乗ってやってくる。山田金曜朝市の始まりだ。

 毎回、近くの農家20軒ほどが出品する。ホテル側はそうそうたる顔ぶれ。沖縄のホテルで売上ナンバーワンのかりゆしホテルズ、高級ホテルの代表格ブセナテラスビーチリゾート、長期滞在用の居室が充実しているカヌチャベイホテル&ヴィラズなど、北部の大手ホテルや飲食店がずらり。

 北部のホテルや飲食店のシェフたちが集まる「やんばる料理研究会」がこの朝市を実現したホテル側の母体。地元食材にこだわり、地元食材の活用方法を研究してきた。農家側は、万鐘本店第18話で紹介した土づくりを実践し、総理大臣賞を受賞したゴーヤー農家金城美代子さんを中心とする腕っこきの生産者たち。

 この日は小松菜、トウガン、白いゴーヤー、ショウガ、オクラ、ナスなどが、所狭しと並べられていた。

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 この朝市、農家にとって魅力なのは、自ら値をつけたうえで、まとまった量が売れること。

 従来の農協出荷の場合、量は出せるが、サイズや形などの規格が非常に厳しいうえに、黙ってセリ値を受け入れるしかない。この朝市では、相場を基準にしつつも、原則として農家は自分で値をつけられる。セリではなく、個別の相対取引。この違いは大きい。農家が農産物の作り手としてだけでなく、売り手として一人前になれるのだ。

 ファーマーズマーケットはB品も出せるし、値も自分でつけられる。だが、ファーマーズマーケーットは一般消費者が相手だから、ビニル袋1つが単位。まとまった量を売るのはなかなか難しい。山田金曜朝市では、ホテルが相手だから、箱単位で量がはける。

 この朝市に自ら足を運ぶ沖縄かりゆしビーチリゾート・オーシャンスパの常務取締役総支配人玉城智司さんは「うちは1日1000人のお客様が泊ります。そのうち9割が朝食を、6割が夕食を召し上がります」と説明する。このように買い手の胃袋が大きいからこそ、農家は実のある商売ができる。

 朝市での買い付けでまだ量が足りないホテルは、出品農家と個別に話をつけてさらに農家の畑で追加で買い付けすることも珍しくない。

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 ホテル側にもメリットは大いにある。やはり自らこの市を訪れるブセナテラスの総料理長新垣敏光さんは「ここで仕入れた野菜は日もちが違いますね」と言いながら、買い付けた野菜をせっせとバンに載せていた。ここで販売される農産物の品質のよさはもちろんだが、間に流通業者が入れば、1日、2日はよけいにかかるということだろう。

 価格面でも間の業者の取り分がなくなるから有利。厳しい経済状況の中で、ホテルも、食材調達を業者任せにしてのほほんとしてはいられない。責任者自らこの朝市に足を運び、品定めをして、いいものを少しでも安く仕入れようとしている。

 「農家も、ここでは、お客さんの要望を直接聞くことができます」と金城美代子さん。農協出荷の場合は、お客さんの声が農家に直接届くことはめったにない。

 朝市の事務処理は簡素そのもの。農家は納品書兼請求書を自分で切り、ホテルはその金額を翌週現金で支払う。ホテルは支払い金額が明確になるから、よけいな現金を持ち歩く必要がない。専従の事務スタッフは必要ないし、場所は公民館で無料だから、売り手と買い手の「間」の部分には全くコストがかからない。

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 「そのうち、ホテルのお客様をここに連れて来ようと思っているんですよ」と楽しそうに話すのはかりゆしの玉城智司さん。ここで農家から直接買い入れたとびきり新鮮な地元食材で今夜のあなたのディナーをお作りします、というわけだ。確かに、どんなうたい文句よりもこの朝市を見せる方が説得力があるだろう。

 場所は山あいの公民館の前庭。立派な建物や派手な看板があるわけではないが、売り手と買い手が互いの必要から向き合い、コミュニケーションしながら作り上げる「市」の原点がここにはある。いわゆる観光施設にあきたベテラン観光客には恰好の見学先になるかもしれない。

 山田金曜朝市は、毎週金曜日朝8時半に始まり、約1時間で終了する。場所は、名護市字田井等909、山田公民館。

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