2010年02月

2010年02月28日

[第158話 農、食] 豆腐を光らせる沖縄在来大豆

 小粒のきれいな大豆が今回の主役。写真上が青ヒグ(オーヒグ)、下が高アンダー(タカアンダー)。いずれも沖縄在来の大豆だ。ほとんど絶えそうになっていたこの在来大豆を復活させる取り組みが、那覇市繁多川(はんたがわ)で進んでいる。

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 豆は、穀類と並んで、人類が一番お世話になっている作物。中でも、大豆は、東アジアに住むわれわれが最も頼りにしている豆だ。豆腐、納豆、味噌、醤油。もし大豆がなかったら、琉球料理はもちろん、日本料理も中華料理もアジア各国の料理も、今のそれとは違うものになっていたことだろう。

 どんな豆でも、だいたい20%台のタンパク質が含まれているが、大豆の場合は35%と飛び抜けて高い。さらに、体内で合成されず、外部から取り入れなければならない必須アミノ酸が豊富に含まれているのも大豆の強み。人間の話はもちろんだが、例えば養豚の世界でも、この必須アミノ酸の多い少ないによって肥育成績に大きな差が出るため、油を絞った後の大豆かすは決定的に重要な飼料とされる。

 大豆は、沖縄でも、長い間栽培されてきた。戦前はもちろん戦後も、稲の後作などにはしばしば大豆が植えられていた。収穫した大豆は、自家製の豆腐や味噌に加工された。その時の品種が、オーヒグであり、タカアンダーだったらしい。

 サトウキビへの転作が進んだこともあって、稲の輪作体系が崩れ、大豆栽培も徐々に廃れていった。今、沖縄で本格的に大豆を作っている畑はめったに見られない。

 在来大豆の復活プロジェクトを進めているのは、那覇市の繁多川公民館。在来大豆の復活に取り組む公民館スタッフ南信乃介さんの話では、繁多川の地域特性を調べる活動の中で、繁多川がかつて、豆腐の産地だったことが浮かび上がってきた。その背景には、きれいな水が豊富なことと、在来大豆がよくできる土地だったことがあった。

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 まず豊富な水の話だが、繁多川という地名は、わき水を意味する「カー」という言葉に「川」という字を当てたという説があるほど。現に、字の中には今も湧き水のあふれている場所がある(上の写真)。水道がなかった頃、カーの水は庶民のくらしに不可欠のものだった。

 次に、在来大豆の生産については、繁多川は今でこそすっかり宅地化しているが、かつては農村。繁多川には今も豆腐メーカーが4、5軒あって、操業している。農産加工品の生産は、原料になる農産物の産地で盛んになるのが普通だから、数多くの豆腐メーカーの存在は、この界隈がかつて大豆の産地だったことをうかがわせるに十分だ。

 「切り口が光っていたという話が出てきたんですよ」。南さんらは、繁多川のお年寄りからの聞き取りの中で、オーヒグを混ぜた豆腐の切り口が光るくらいきめ細かくておいしかった、との話を聞いた。繁多川産の豆腐は人気が高く、那覇の市場でもすぐ売れたという。

 そんなにおいしいものなら、なんとかして復活させたい―。しかし、在来大豆の種は繁多川では見つからず、既に絶えていたようだった。4年前、県の農業研究センターがオーヒグとタカアンダーの種を保存していることが分かった。早速、10粒ずつ分けてもらい、これを増やすことから始めた。こうして「あたいぐゎープロジェクト」が動き出した。「あたいぐゎー」は自給用作物を栽培する家庭菜園のこと。

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 2年目の2作目に、実ったオーヒグと、豆腐づくりによく使われる国産大豆とを混ぜて豆腐を試作した。黄色い大豆にオーヒグを2割ほど混ぜるとおいしい、という話をお年寄りから聞いていたからだ。

 出来上がりは? 「光っている、光っている、と。ただ、豆腐の味は、配合やにがりの打ち方などで大きく変わってきます」と南さん。オーヒグ入りの豆腐のきめ細かさは間違いなさそうだったが、味は、すばらしくおいしくできたこともあるし、そうでもなかったこともあった。豆腐のとしてのおいしさを極めるには少し試行錯誤が必要だったようだ。「最近はだいぶ分かってきました」。将来は、1丁1万円の繁多川ブランド豆腐を商品化したい、とプロジェクト関係者は夢を抱く。

 オーヒグもタカアンダーも小粒で、短い径は4mmほど。小粒納豆の名で売られている納豆があるが、あれくらいのサイズ。オーヒグは青ヒグ。その名の通り、熟しても青い色が残る。

 タカアンダーは、名前から想像するに、アンダー=油分が多いのかもしれない。言うまでもないが、大豆は植物タンパク食品のチャンピオンであると同時に、油糧作物の王様でもある。サラダ油として親しまれている植物油の多くは大豆油と菜種油だ。

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 在来大豆復活の試みは、地道な取り組み。繁多川の参加者は家庭菜園で種を増やしながら、関心を示す外部の人々にも種を分けている。最近では、沖縄本島北部、大宜味村字塩屋の人々が繁多川公民館から種を分けてもらい、植え付けした。

 沖縄在来大豆は11月から4月くらいまでの間が播き時で、3ヶ月ほどで実る。沖縄の気象条件なら、少なくとも年2作は可能で、うまくいけば3作できることもある。

 切り口が光る沖縄在来大豆入りの島豆腐。ぜひ、味わってみたい。

 繁多川公民館は那覇市繁多川4-1-38、098-891-3448。HPはこちら。在来大豆復活プロジェクトについては「あたいぐゎープロジェクト」のコーナーに詳しい。

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2010年02月21日

[第157話 食] おいしいスクガラス、はあるのか

 この可愛らしい3尾の魚はスクガラス。島豆腐の上に乗って登場する塩辛の一種だ。ただ、スクガラスを食べて心から感動した、という話はあまり聞かない。本当においしいスクガラス、というのはあるのだろうか。

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 スクガラスは、スクと呼ばれる魚を塩漬けにした塩辛。スクはアミアイゴという和名を持つ魚の幼魚。体調は2、3cm。ちなみに親戚のシモフリアイゴはエーグヮーと呼ばれ、第37話で紹介したように、マース煮にしたら最高においしい。

 さて、このスクガラス。居酒屋では、ハンで押したように島豆腐の上に乗って出てくる。ただ、かなりしょっぱくて、そのためもあってか、うまみはそれほど感じられないものが多い。

 スクの体にある小さな突起が固くて口に障るため、頭の方から尾に向かう形で口に入れるといいのだが、どう食べるにしてもそれで味が変わるわけではない。

 豊見城市にある大城海産物加工所の大城久子社長に話を聞いた。大城海産物加工所は、スクガラスを販売している。

 「おいしいものは、とてもおいしいんですよ」と、大城社長がひと瓶のスクガラスを差し出した。液が濁っていて、白いぶつぶつが出ている。おみやげ屋で見かけるスクガラスのように、透明な汁の中に魚がきれいに並べられているのとはだいぶ違う。

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 だが、一尾をとって口に含んでみて、すぐに分かった。とてもうまい。深ーいうまみがある。

 大城社長の話では、沖縄県内で出回っているスクガラスの多くが、実は海外産。沖縄県内で漁獲量が少ないのと、県産は価格がかなり高くなってしまうためらしい。だが、やはり県産のスクガラスが断然おいしいという。

 この県産スクガラス、食べてみて、確かにうまい。酒盗と呼ばれるかつおの腹ワタの塩辛があるが、それに似た強いうまみ。居酒屋で食べていたスクは一体何だったのだろう、というくらいの大きな違いがある。何がこの違いをもたらすのだろうか。

 スクは本当に小さな幼魚なので、獲れたらすぐに塩をしないと悪くなってしまう。したがって、海外産ならば、そこのウミンチューが塩をすることになる。

 だが、塩をするにはかなりの技術がいる。例えば塩の量。入れ過ぎれば発酵が進まないし、味も塩辛くなりすぎる。混ぜ方も重要。混ぜ方が足りないと塩が均等に行き渡らず、一部が腐敗してしまう。混ぜすぎも、身が傷むからよくない。

 やはり伝統的にスクガラスを仕込み続けてきた沖縄のウミンチューに一日の長があるのかもしれない。

 県産のスクガラスは、漬け汁が濁っているが、これがうまみの元と言ってもいいくらいの存在で、しょっつるやナンプラーのような魚醤にも似た深くて複雑な味わい。確かに、おみやげ店に並ぶスクガラスは、汁がもっと透明だ。一見、きれいなのだが、だから味がない、ということなのかもしれない。「白いつぶは自然のアミノ酸なんですよ」と大城社長。うまいわけだ。

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 このスクガラスなら、島豆腐に限らず、どんなものもおいしくしてくれる。まず試してみたのは、熱いごはん。塩辛が熱いごはんに合うように、スクガラスも熱いごはんに乗せたら、ごはんがすすむこと、すすむこと。こんなにおいしければ、突起もさして気にならない。

 大城社長が教えてくれた一品を、万鐘の厨房で作ってみた。題して、スクガラス入りソーミンチャンプルー。

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 いため油をフライパンの片隅に寄せるようにして、そこにスクガラスを入れ、弱火でゆっくりと揚げるようにいためる。1人分で4、5尾か。きつね色になったら、固めにゆでたそうめんを入れて混ぜる。味をみて、ちょうどよい塩気になるように、スクガラスの漬け汁を少し加えていく。仕上げに、ニラやネギ、シソなどの青味を散らして出来上がり。

 タイ料理で、エビの塩辛を油でいためて香りを立て、かつカドをとる方法があるが、あれと似ている。油の高温で加熱されたスクガラスは実にいい香り。

 そうめんを入れて混ぜると、パリパリになったスクは割れていくので、かわいい姿は消えてしまうが、そうめん全体に最高の味と香りをつけてくれる。油で揚げられることで、問題の突起もパリパリに変化し、口に障ることがなくなる。ソーミンチャンブルーの作り方はこちらを。

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 大城海産物加工所の県産スクガラスは、元の濃さのものと少し薄めたタイプの2種類ある。当然ながら、味が濃い前者が断然お勧め。価格は前者が120g入りびんで700円。味の濃いタイプは同社のHPには掲載されていないので、電話で直接注文を。豊見城市字豊見城130、098-850-1036。

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2010年02月14日

[第156話 農] ずんぐりむっくり島ダイコン

 島ダイコン。しまーは、ご覧のように、ずんぐりむっくり。横にスパっと切るのに苦労する。よほど大きい包丁でないと一発では切れない。横に切った面に対して側面は角度がついているので、皮をむくのもなかなかたいへんだ。

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 でも、この島ダイコンを作り続けている人がいるということは、買う人がいるから。そう、この島ダイコン、実がつんでいて、煮込むと、きめ細かく柔らかくなる。煮付けやおでんに最適なのだ。

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 島ダイコンの皮は分厚い。品種によっては、煮込んだら皮に埋まっている固い繊維が残って、その部分は食べられないほど。

 その内側にあれほどおいしい部分があるというのは、何かとても大切なものを固い皮がしっかり守っているようにも見える。この固い皮、実は大きな役割を果たしているのかもしれない。

 島ダイコンの産地として知られる中城村の北浜集落を訪ねた。北浜と隣の南浜、和宇慶は、いずれもジャーガルと呼ばれる粘土で、昔から島ダイコンがよく生育したという。

 冒頭の写真の島ダイコンは糸満のJAうまんちゅ市場で撮ったもので、南部産。北浜の島ダイコンは、さらにずんぐりむっくりしている。もう一歩で桜島ダイコン、といったふぜいだ。

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 北浜で島ダイコンを作っているある農家は「昔は旧盆すぎから植え始めて最後は旧正月まで穫れたけど、最近は気温が高くて、すぐトウ立ちしてしまう。温暖化かね」と首をかしげた。

 そのトウ立ち。よくある青首ダイコンは茎が上に伸びていくが、島ダイコンのそれはむしろ横に広がっていく感じで、こんもりとした形を作る。かれんな白い花が咲く。花が終わればサヤの中には来年の種がみっちりと。

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 スーパーで売られている野菜のほとんどは、雑種第一代(F1)だけに現われる優良な成績を期待する「F1品種」になっているため、農家は種を自家採取できない。子世代は成績がガクンと落ちる。結局、農家は、親株を維持している種会社から永遠に種を買い続ける必要がある。

 島ダイコンはそういうF1ではないから、昔ながらの種の自家採取ができる。島ダイコン畑に残されてトウ立ちしている株は、来年の種を採るための繁殖用。白い花を楽しめるのは、繁殖用を残す必要があるからなのだ。

 ところでこの島ダイコン、例によって沖縄県内のスーパーには売っていない。流通業者やお店が扱いにくい形だからだろう。島ダイコンに限らず、野菜の品種は流通や販売の都合で決められている部分がかなりある。しかし、世界各地の青果の売られ方を見ると、ここまで細かく規格を揃えたがるのは日本くらいのものではないだろうか。

 島ダイコンを買うなら、ファーマーズマーケットや道の駅で。糸満市のJAうまんちゅ市場、沖縄市のJAちゃんぷるー市場、南城市の軽便駅かりゆし市、名護市許田の道の駅などでゲットできる可能性が高い。それぞれの住所は第142話の島バナナの記事の末尾をごらん下さい。

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2010年02月07日

[第155話 食、沖縄] 上品な王朝菓子チールンコウ

 第153話で庶民的な伝統菓子タンナファクルーを取り上げたが、今回は、琉球王朝の宮廷文化の中で食された伝統菓子チールンコウのお話。卵の香り豊かな品格あふれる蒸し菓子だ。

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 チールンコウを漢字で書くと「鶏卵糕」。「糕」はケーキの類の意味。同じく中国文化の影響を受けた伝統菓子のチンスコウが、既に全国区になっているのに対して、チールンコウは、沖縄県内でも知らない人がいる。チンスコウほど日持ちがしないことや、製造の手間がかかるために生産量が限られていることがこうした違いを生んでいるのかもしれない。

 今回は首里の新垣カミ菓子店のチールンコウを紹介したい。新垣カミ菓子店のチールンコウの原材料は、砂糖、小麦粉、卵の順。

 153話では、丸玉製菓のタンナファクルーが、小麦粉より黒糖をたくさん入れていることを取り上げたが、またしても小麦粉より砂糖が多いお菓子が登場した。さぞ甘いだろうと思われるかもしれないが、食べてみれば、甘さは意外なくらい「ほんのり」だ。

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 同菓子店の伊波元丸さんの話では、卵は全卵と卵黄を使うという。生地を型に流し込み、食紅で赤く染めたピーナツの薄切りと、柑橘で作られる伝統菓子きっぱんをきれいに並べ、じっくりと蒸す。このピーナツときっぱんは、たっぷり使われている卵の卵臭さを緩和する働きがあるらしい。

 もともとのチールンコウは、現在のサイズの2倍くらいの幅があり、切り口がちょうど王様がかぶる冠の形をしていた。赤く染めたピーナツとオレンジ色のきっぱんは、王冠に散りばめられた宝石を模している。昔は貴重品だった卵や砂糖をぜいたくにたっぷり使うことから考えても、チールンコウはやはり「王様の食べ物」だったに違いない。

 チールンコウは、カステラよりもしっかりした口当たり。油脂類は全く入らないが、蒸しているだけあって、適度な水分が中に保たれており、パサパサした感じは全くない。上品な味わいだが、卵の存在はしっかりと感じられる。「昔の作り方のままです」。伊波さんが言う。

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 約200年前に琉球王家の包丁役だった新垣親雲上(ぺーちん)淑規(しゅくき)が、琉球を訪問した中国の使節団からチールンコウの製造技術を伝えられたという。その曾孫に嫁いだのが、現在の店名になっている新垣カミ。夫が35歳の若さで亡った後、女手ひとつで伝統の味を守った。

 現在、首里城の鎖之間(さすのま)では、さんぴん茶とともにお茶菓子が出されているが、この菓子はすべてこの新垣カミ菓子店のもの。琉球伝統菓子を作る各菓子店の中から特に同店が選ばれた。今も昔も「琉球王朝御用達」というわけだ。

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 チールンコウは沖縄県民でも知らない人がいると初めに書いたが、首里の人々はちゃんと知っている。新垣カミ菓子店のお客さんの多くも、王朝文化を受け継いできた地元首里の人々。製造所と一体の小さな店だが、同店の味を知る人々が次々と買い求めにやってくる。

 県外にもファンがいて、予約しておいて空港から直行する人もいるらしい。チールンコウのほかに、チンスコウ、花ぼうる、薫餅(クンペン)など、いずれも宮廷で食された伝統菓子をていねいに手作りしている。

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 新垣カミ菓子店は、那覇市首里赤平町1-3-2、098-886-3081。チールンコウは、在庫があれば同店で買えるほか、首里城公園にも置いている。ただし、常にあるとは限らないから、電話で確認した方が無難。HPでも買うことができる。1本400g、1050円(送料別)。

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