2011年12月

2011年12月14日

年内は終了、新年から再開

 「沖縄・食・農・南の万鐘本店」をいつもご愛読いただき、ありがとうございます。

 年内の更新は、12/11(日)の記事をもちまして終了とさせていただきます。

 新年は1/1(日)から。しばらくお休みしていました「沖縄を創る人」シリーズでスタートいたします。

 万鐘ネットショップは12/28(水)まで営業しております。年末で若干混み合っておりますので、年内お届けをご希望のお客様は、早めのご注文をお願い申し上げます。

 どうぞよいお年をお迎え下さい。



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2011年12月11日

バナナの葉に守られて発酵

沖縄とアジアの食 第13回 発酵ソーセージ

 前回までは魚の発酵食品についてつづってきた。今回は豚肉の発酵食品を取り上げよう。

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 直径5cm、長さ8cmくらいの俵状の包み。バナナの葉で包まれている。これを開いていくとー

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 幾重もの厳重なバナナの葉の中から、鮮やかなピンク色の、小さな肉の固まりが出てきた。華奢な印象。幅2cm、長さ4cm、厚さ1cmほど。ベトナムではネムチュア、ラオスではソムムーと呼ばれるこの発酵ソーセージが今回の主役だ。

 上の一連の写真とすぐ下の写真がラオスで見たもの。その下はベトナム。ベトナムの方がうまそうに見えるかもしれないが、味はほとんど同じ。ラオスでこの時食べたものは豚皮の配合が多かったように思う。

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 あるHPのレシピによると、発酵ソーセージの材料は次のようになっている。

豚肉赤身 1 ポンド、薄切り
塩 小さじ1
砂糖 小さじ2
魚醤 1/4 カップ
豚皮 4 オンス
ニンニク 3片(つぶしたもの)
サラダ油 大さじ2
焼いた米の粉 1/2 カップ
バナナの葉
ニンニク 2片(スライス)
赤唐辛子 1本(スライス)

 ポイントは、米粉を入れていること。前々回の魚の発酵食品を思い出していただきたい。米粉は、乳酸菌が増えるのに必要なエネルギーを提供する。乳酸によってこの発酵ソーセージがどのくらいの酸度になっているのか、実際に測ったわけではないが、だれが食べても酸味を感じる程度にはすっぱい。

 米粉以外には、豚皮、ニンニク、唐辛子が入る。唐辛子やニンニクは、まるで魔除けのように、ひとかけらが丸ごと入っていたりする。魔除けと書いたのは、ニンニクも唐辛子も、味だけでなく、その殺菌力に期待しているから。

 それにしても、厳重な包装だ。たんに中身を物理的に保護するためだけなら、もう少し省略してもいいだろう。厚ごろもの安い天ぷらみたい、なんていう悪口さえ聞こえてきそう。

 だが、実は、必要があって幾重にもバナナの葉を重ねているのだ。表面を外気に少しでもさらしたら、外からの微生物の攻撃で豚肉はすぐ腐敗してしまう。考えてみてほしい。熱帯の30度近い常温に生肉を置くのだ。よほど厳重に守らなければ、肉は腐敗菌にたちまちやられてしまう。そこで、バナナを何枚も重ねてまるで「ふとん蒸し」のようにする。

 バナナの葉の役割は、外気を物理的に遮断することだけではない。バナナの葉の表面には、天然のクモノスカビがたくさんついている。バナナの歯で幾重にも包むのは、腐敗菌との戦いで負けないようにするためにクモノスカビ歩兵師団を大量に送り込む意味がありそうだ。

 カビ、と聞いて「肉の敵じゃないのか」と思われるかもしれないが、クモノスカビの一部は、コウジカビと同様、人に利益をもたらす。バナナの葉のクモノスカビをスターターにする発酵食品はアジアにいろいろある。

 例えば、日本でもすっかりおなじみになったインドネシアの大豆発酵食品テンペがまさにそれ。納豆では、煮た大豆を稲ワラに包んで発酵させるが、テンペは、煮た大豆をバナナの葉に包む。バナナの葉のクモノスカビが発酵を進め、大豆をテンペに変えてくれる。

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 発酵食品までいかずとも、バナナが豊富な地域では、バナナの葉をさまざまな形で腐敗防止に使う。バナナの葉は、鮮魚を売る時の下敷きにしたり、ちまきのようなお菓子を巻いて保存を図ったりもする。バナナの葉は、いってみれば「抗菌」包装資材として広く流通している。

 発酵ソーセージでは、バナナの葉の内側にも、また別の葉が巻かれている。芳香をつけるとともに、発酵促進に役立つ、とラオスの知人が教えてくれた。ベトナムではこの葉の情報を得られなかったが、ラオスではナンヨウユカン、別名アメダマノキと呼ばれる木の葉を使う。

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 発酵ソーセージは生で食べることもあれば、焼いて食べることもある。おやつとしてもおかずとしても食べるが、焼いたものはさらに味が際立って、モチ米やビールが欲しくなる。前々回の発酵した魚パーソムと同じく、少量口に入れれば十分おいしい。

 バナナにしっかり保護されて発酵した深い味。機会があればぜひお試しを。

 発酵ソーセージのさらに科学的な情報に興味がある方は、大妻女子大の大森正司教授アジアの発酵ソーセージに関する研究論文をいくつか出しているので、そちらをどうぞ。

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2011年12月04日

消えた日本のクサうま

沖縄とアジアの食 第12回 発酵の複雑な香り


 前々回、ラオスの魚の塩辛調味料「パーデーク」を中心に、アジアのクサうま調味料を紹介した。写真はタイのローカル市場で量り売りされているえびみそ「ガピ」。これもアジアのクサうまの代表選手だ。そういえば、昭和の頃は、日本でもこんな風にみそを山盛りにし、量り売りしていた。

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 沖縄を含む日本には、今や「クサうま」と呼べるような発酵調味料、発酵食品はほとんどない。みそでも醤油でも泡盛でも、明らかにクサいと感じるものは、くさやなどごく一部を除いてめったに見かけない。

 日本でも1960年代くらいまでは、味噌を手造りしている家が農村部にたくさんあった。そんなみそでみそ汁を作ると、今のみそにはない複雑な香りが家じゅうに漂った。この香りは大いに食欲をそそる芳香だったと記憶している。

 複雑な香りは、雑菌と総称される菌が作る化学物質の香り。家庭でみそを作っていた頃は、こうじこそ買ってきた麹菌で作るにしても、仕込みの過程でさまざまな雑菌が混入し、そこに独自の香りが生まれた。

 みそでも醤油でも酒でも、メーカーは共同であるいは独自に、優良菌の開発を進めた。マーケットリサーチの結果、消費者の多くが複雑な強い香りを好まない、という結果が出たためか、純粋培養された優良菌は、香りの面では「控えめな」菌が中心になった。

 製造設備の菌管理技術も向上したため、純粋培養した菌以外の菌が入り込む余地があまりなくなった。こうして、日本の発酵食品から複雑な香りがなくなり、「クサうま」は姿を消した。

 1970年代までは、沖縄の泡盛も、まだ香りが相当強かった。味噌や日本酒と同様に、泡盛でも、その後、菌の開発と製造現場の菌管理技術が進み、その結果、複雑な香りは弱まっていった。いま製造されている泡盛は、離島の製品など、一部に比較的香りが強い銘柄があるものの、往時の強い香りを放つものはほとんどなくなった。

 写真はラオス北部の農村で作られた米の蒸留酒ラオラオ。酒造所ではなく、家内工業で小規模に作られているため、びんもラベルもない。手近にある空き容器に入れて売られる。写真のラオラオは、独自の方法で、何かの草を最後に入れて色とかすかな香りをつけているそうなので、わずかに緑色を帯びている。

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 ラオラオは、麹菌の種類が泡盛とは違うから味わいはおのずと異なるが、米麹の全麹で作られる蒸留酒という意味では、泡盛とよく似ている。同様の酒はベトナムの農村でも手造りされているのをあちこちで見た。

 香りはー。強い香りではないが、やはり、今、日本で作られている焼酎や泡盛に比べると、複雑な風味がある。

 話は変わって、漬け物。これも日本では香りを減らす方向で技術が進んだ。漬け物の場合は、酒やみそと違い、菌を添加して製造するわけではない。自然の乳酸菌で発酵させるのが普通なので、菌を純粋培養して香りを弱めるというわけにはいかない。

 では、どうするかというと、2つの方法があるらしい。一つは、発酵それ自体をさせない短時間仕上げの「浅漬けタイプ」を作ること。味は発酵ではなく、調味液が担う。いま一つは、いったん発酵させるものの、その発酵液を抜き取り、さらに、別に作った調味液を改めて吸収させるという「味ぬき味つけタイプ」にすること。

 いずれにしても、うまみと香りを作り出す発酵の機能をほとんど否定してしまう結果になっている。もちろん、昔ながらの手作り品は、そうではないが。

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 漬け物はアジアでも盛ん。写真はベトナムの食堂で出てきた漬け物。高菜のような葉野菜をさっとゆがいてから塩水に入れ、そのまま常温で数日漬けておくと、漬け物になる。色がやや黄色味を帯びてきたら食べられる。それほど強い香りがあるとも思えないが、日本では、この香りは通らないのかな、と思いながら、白いごはんと一緒にかっ込んだ。乳酸発酵で酸味が出ていて、うまい。

 みそでも泡盛でも漬け物でも、香りが弱くなれば、「マイルドな」風味になり、万人受けするようになる。ただ、それも度が過ぎると、そもそもの個性が消えてしまう。

 ウニの独特の味は、強い苦みを持ったアミノ酸「メチオニン」が含まれていることによって実現している。メチオニンがもし入ってなかったら、ウニは、イクラのような味になってしまうという。イクラの味はウニよりクセがないが、もしウニがイクラの味と同じだったら、面白くないだろう。

 クサうま発酵食品の複雑な香りを除去しすぎたら、ウニをイクラに近づけてしまうようなことになるのではないか。

 確かに、かつての複雑な香りが強い泡盛のままでは、今日のように、ニューヨークのバーで珍重される酒にはならなかったかもしれない。味噌も、昔の香りのままでは、例えばオーストラリアの料理本に当たり前のように登場する調味料にはならなかっただろう。しかしー。

 自社話で恐縮だが、万鐘の黒糖肉みそは、親しみやすい味の追求と同時に、味噌や泡盛といった発酵食品の中にある渋み、苦み、あるいは味噌や黒糖が少し焦げた時に初めて生まれる独特の香りなどを前面に出すようにしている。

 その黒糖肉みそが、フジTVの「とくダネ!」で取り上げられた際に、スタジオで試食した高木美保さんがこうコメントした。

 「甘いだけじゃなく. . . 大人の味に仕上がっていますねー」

 作り手の日頃の工夫を正面から評価していただいた気がして、ありがたかった。その「大人の味」こそ、発酵の深い味や、渋み、苦み、焦げた香りなのだ。

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