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2011年05月15日

予防で負け、ラグも大きい

沖縄を創る人第18回
 浦添総合病院循環器内科医長 宮城直人さん(上)


 健康長寿の沖縄といわれるが、その実態は厳しいものになりつつある。心筋梗塞や狭心症と毎日向き合っている浦添総合病院循環器内科医長の宮城直人さんに話を聞いた。

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 宮城さんは沖縄出身、琉球大医学部卒ながら、本土各地での勤務が長かった。熊本、福岡、横浜で10年余り、循環器専門医として治療経験を積み、新設の循環器センター立ち上げに伴う人材育成などもこなしてきた。

 沖縄に戻ってからはまだ2年ほど。しかし、だからこそ、沖縄の置かれている状態がはっきりと認識されるのかもしれない。

 「全国平均は0.5くらいのはずですが、それが沖縄は0.2ー0.3くらいしかないんですよ」

 この数字、「EPA/AA比」と呼ばれる値。EPAはエイコサペンタエン酸で、魚類、海藻類などに多く含まれるn-3系不飽和脂肪酸。血栓ができるのを防ぐ作用がある。これに対して、AAはアラキドン酸で、過剰摂取は動脈硬化を促進すると考えられている。簡単に言えば、EPA/AA比の数字が低ければ動脈硬化になりやすい、ということだ。宮城さんによると、沖縄のこの値はだいぶ低い。

 九州や神奈川の病院で数多くの心筋梗塞や狭心症の症例を診てきた宮城さんは、10年ぶりに沖縄に戻って、コトの深刻さを突きつけられた。

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 EPA/AA比だけではない。OCTという高い画像分解能を持つ機械で血管の断面をじっくり分析してみると、病変が既に起きていて血管が狭くなっている部分でなくても、一見健康な血管の中に、数年後に問題を起こすことが明らかな細胞がみられる患者がかなりいるという。

 「動脈硬化の予備軍がたくさんいるということです」

 なぜ、そんなことになっているのだろうか。宮城さんが言う。

 「米軍支配時代の影響で、欧米化した油の多い食生活を本土よりも早く始めたことが大きな要因ではないでしょうか」

 確かに、沖縄の伝統料理は、例えば豚肉を使うにしても、脂分をゆでこぼすといった下処理がきちんとなされる。中身汁のように、本来脂の多い臓物を脂分ゼロに近いところまで洗うような技法もあるほど。それに、伝統的な日常食は野菜中心で、今のように毎日肉をたくさん食べていたわけではない。

 アメリカンのファーストフードは、揚げ物類が多く、サラダなども油類をたっぷり含んだドレッシングでこってり味付けされている。そうした影響で、県民の日常食にも油脂類の多いメニューが多くなったのではないか、というわけだ。

 発症した患者が救急車で運び込まれてくれば、医師は全力で救命のために治療する。宮城さんも20代の頃は、本土の各病院で、そのような治療で何人もの命を救い、やりがいを感じていた。だが、沖縄に戻った今は、考え方が少し変わった。

 「もちろん、患者さんを治療することが医師の仕事なんですが、沖縄の実情は非常に厳しい。予防の段階で完全に負けてるんです」

 モグラたたきのように、ひとつをつぶしても、別のモグラが次々に飛び出してくるような状態。予防の重要性は痛感するが、医師としてできることには限界もあるという。

 今ひとつ、宮城さんがいらだちを覚えるのは、ドラッグラグ、デバイスラグの大きさだ。最新治療薬や最新機器の活用がなかなかできない。これは二重構造になっている。まず、厚生労働省の認可が下りるのに長い時間がかかること。

 「これが世界で130国目に認可された医療器具です、というような話はよくあります。この薬が最後に許可されたのは日本と北朝鮮、という笑えないような話も」

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 ラグの2つ目は、沖縄の置かれた位置が、最新の薬や器具が広まっていく経路から遠いこと。首都圏や本土の地方大都市では比較的早く新しい薬や器具が使えるようになるが、その波が沖縄に届くまでにまた時間がかかる。横浜や福岡のような大都市で長く勤務してきた宮城さんには、こうした「ラグ」の大きさがひしひしと感じられる。

 こういう事態をなんとかできないものかー。中核病院の循環器センターで激務をこなしながら、宮城さんは、ある体験をきっかけに一つの構想を温め始めた。「先端医療特区構想」がそれ。詳しくは次回5/22(日)に。


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