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2008年04月24日

[第52話 沖縄] 歴史の荒波に翻弄された王女

 世界遺産に登録された勝連城跡を訪れる人は年々増えている。だが、この勝連城を舞台に何が起きたのか、知る人は少ない。古琉球の世界は、沖縄の学校でもさほど詳しく教えないし、ましてや本土では全く扱わないからだ。これでは、あまりに背景知識がなさすぎて、せっかくの世界遺産も歴史のロマンを感じるところまではなかなかいかない。

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 勝連城跡のふもとには資料室がある。そこにはパネルなどで解説が用意されているが、やや教科書的。もっと楽しく歴史のロマンを感じる方法はないものかー。と探してみたら、格好の本があった。

 与並岳生作「琉球王女 百十踏揚(ももと・ふみあがり)」。勝連城最後の城主阿摩和利(あまわり)の妻となった首里王朝の王女百十踏揚を主人公に、怒濤の時代を描いた長編歴史小説。上下2段組、761ページのズシリと重い大作だ。

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 阿摩和利と首里王朝との確執は、歴史ファンにはたまらないエピソードに満ちているが、何しろ15世紀のこと。残された史料が限られており、それも伝承が中心のため、論証は困難な部分が多い。が、逆に、史料の隙き間を想像力で補っていくという別の楽しみがあるともいえる。この作品も、史実と想像とのバランスの上に大河ドラマが展開され、読み手は古琉球の世界へグイグイと引き込まれていく。

 あらすじはこうだ。首里城の国王、尚泰久(しょう・たいきゅう)は、琉球を統一した尚巴志以来の不安定な王権を安定させることを目指していた。当時、勝連は首里の支配下に入っているとはまだいえなかった。

 流れ者から身を起こし、持ち前の才覚で、ついには勝連城の主となった阿摩和利は地元民から大いに慕われていた。その阿摩和利ににらみを効かせるため、尚泰久は、首里と勝連の中間にある中城に護佐丸(ごさまる)を配した。護佐丸は、尚巴志に仕え、統一の戦闘で天下にその名をとどろかせた武将で、尚泰久の岳父でもあった。

 首里に対峙して天下をうかがう勝連の阿摩和利を懐柔するため、尚泰久は臣下の金丸の進言を受け入れ、「国の花」と言われた愛娘の百十踏揚を阿摩和利に嫁がせる。尚泰久は明からの使節による冊封を控えており、何としてもいくさを回避したかった。冊封は、中国皇帝が周辺諸国の君主と形式上の君臣関係を結ぶこと。

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 百十踏揚が阿摩和利に嫁いでからは、首里と勝連との緊張は解け、しばしの平和が訪れた。やがて護佐丸の娘の王妃が病死し、護佐丸の首里王家との縁がやや薄らぐ中で、金丸は、自分を排除しようとする護佐丸に危険を感じる。護佐丸をなきものにしようと企んだ金丸は、「護佐丸謀反」を尚泰久王を含む周囲に信じさせることに成功する。

 金丸は、護佐丸征討軍の総大将に、王婿である阿摩和利を据える。百十踏揚は、自分の祖父である護佐丸を夫の阿摩和利が討とうとするのを必死で止めようとしたが、護佐丸謀反を信じ込んだ阿摩和利は聞き入れない。

 しかし、護佐丸討伐の闘いの最中に、護佐丸の軍使から届けられた手紙には、驚くべき事実が記されていた。なんと、阿摩和利は護佐丸の落とし胤だったというのだ。阿摩和利は戦闘を中止しようとしたが、護佐丸は南から攻める首里軍にやられてしまう。

 阿摩和利は金丸の陰謀にようやく気づき、「父」の滅亡に自ら手を貸した罪にさいなまれる。その苦悩する姿を見た百十踏揚は、阿摩和利を許す。しかし金丸は、謀略に気づいたであろう阿摩和利をすかさず次の標的にして「謀反人」に仕立て上げる。挙兵直前に首里軍の武将鬼大城が百十踏揚を勝連城から強引に脱出させ、夫阿摩和利に添い遂げる決意だった彼女の心は再び切り裂かれる。

 首里城に戻らされた百十踏揚は、父の尚泰久に金丸の陰謀と護佐丸、阿摩和利の無実を必死で訴えるが、聞き入れられず、首里軍はついに阿摩和利を討つ―。

 こうして、身も心もボロボロにされた百十踏揚は、今度は、こともあろうに、最愛の夫阿摩和利討伐の総大将を務めた鬼大城に嫁がされる。時が過ぎ、尚泰久亡き後、後継の王の専横ぶりに危機感を覚えた金丸は、ついに王を廃し、自ら玉座に上る。その結果、前王統の血をひく百十踏揚は再び追われる立場に―。

 歴史の荒波に翻弄され続けた王女百十踏揚の真情を横糸、金丸を軸とする権力の思惑・陰謀とそれをめぐる男たちの動きを縦糸に、この歴史物語は展開していく。

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 「護佐丸は忠臣、阿摩和利は逆臣」というのが従来の琉球史の単純な解釈だった。しかし、護佐丸の家系が後の琉球王朝の高官を数多く輩出するなど、青史を編む立場だったのに対し、阿摩和利には子供がいなかったため、後代に阿摩和利が正当化される機会がなかった、と作者の与並さんは言う。

 護佐丸、阿摩和利親子説などの新解釈も交えながら、与並さんの筆は、状況の変化とともに移ろいゆく登場人物の心の機微と、思惑、思い込み、さらには、それら登場人物同士の生死をかけたギリギリのやりとりをたんねんに描く。

 与並さんがしばしば口にする「つじつまが合う」とは、史実と史実が符合するというだけの意味ではない。利害、思惑、愛憎まで含めて、登場人物の考えと行動が「必然」と思えるだけの物語が構築されて初めて「つじつま」が合い、読み手の胸に落ちるのだ。「琉球王女 百十踏揚」には、そうした物語としての説得力がある。

 「琉球王女 百十踏揚」はかつて地元紙「琉球新報」に連載されて大きな反響を呼んだ。それに加筆した単行本は、新星出版刊、3200円。沖縄県内は置いている書店が多い。本土でも書店で取り寄せできる。新星出版ではインターネット直販を近く始める予定。新星出版は、那覇市港町2-16-1、電話098-866-0741。

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