2009年11月08日

[第142話 農、食] 島バナナはどこで買うか

 バナナはバショウ科。芭蕉布の原料になるバショウはバナナの親戚だ。でも「バナナ布」では、あの枯れた布の感じが全く出ない。俳人松尾芭蕉も「松尾バナナ」では、ちょっと。

 バナナの3文字には、どこか茫洋としたイメージがつきまとう。だが、沖縄在来の島バナナは、そんなイメージを見事にくつがえす。小さくて、酸っぱくて、鋭利な熱帯果樹の香りー。その島バナナがどこで買えるか、が今回のテーマだ。

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 島バナナを食べて、その香り高さと心地よい酸味に、打ちのめされる人が多い。これほどおいしいのだから、生産量と流通量がもっと増えてもよさそうなものだが、なかなか増えない。なぜだろうか。

 まず、島バナナは、収量が低い。フィリピンや台湾の普通のバナナに比べると、島バナナは小さく、収量は半分ほど。普通に考えれば2倍の価格になる。普通のバナナとは比べものにならない味と香りなのだから、2倍でもいいと思うが、市場にはまだそこまでの思い入れはないのかもしれない。

 もう一つは、食べごろが短いこと。緑色のうちに収穫して、1週間ほどで追熟が進み、黄色くなって黒いシュガースポットが出たら食べごろなのだが、きれいなのはせいぜい2、3日。それを過ぎたら、真っ黒になっておよそ売り物にならない。かなり黒くなっても十分食べられるが、商品としては厳しいだろう。流通業者としては取り扱いが難しい果物といえる。

 さらに言えば、沖縄は台風が多く、そもそもバナナ類を栽培するのは簡単ではない。バナナは「木」とは言うが、実際は、大型の草。強風が吹けば簡単に倒れてしまうし、葉も櫛のように切れ目が入ってダメージを受ける。風よけハウスに入れる方法をとっている生産者もいるが、それをやれば当然ながらコストがかかる。

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 というわけで、島バナナは、あまり生産されていない。その結果、沖縄県外はもちろん、県内ですら、通常の農産物流通のルートには乗っていない。例えば、県民がよく買い物をするサンエー、かねひで、ユニオン、りうぼうなどのスーパーにはほとんど置かれていない。

 だが、こんなにうまいものなら、なんとしても食べたい。島バナナ、いったどこに行けば買えるのだろうか。それも、なるべく安く。というのも、東京あたりでは1本500円みたいな、べらぼうな値段がつくらしいし、沖縄県内でも、観光客が出入りする那覇の公設市場周辺などではかなり高い。

 万鐘の地元うるま市で島バナナを生産している名嘉真勉さんを訪ねた。名嘉真さんの畑には、島バナナを中心にバナナが200本ほど植えられ、木の足元にはカンダバーがたくさん生えていて、雑草の発生を抑えながら、土にうるおいを与えていた。

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 名嘉真さんは、収穫した島バナナを、JAおきなわが運営している沖縄市のファーマーズマーケット「ちゃんぷるー市場」に自分で持ち込んでいる。言われてみれば、確かに、こうした農家直販市には島バナナが置かれていることが多い。価格は1kg700円ほど。

 同じくJAおきなわがやっている糸満のファーマーズマーケット「うまんちゅ市場」にも置かれていることが多い。南城市大里の「軽便駅かりゆし市」など、JA以外の農家直販市でもしばしば見かける。これら農家直販市が、まずはお勧めの島バナナ購入場所だ。

 もう一つ、島バナナが手頃な価格で手に入るのは那覇の農連市場。市場内には、島バナナを扱っている店がある。値段は農家直販市とほぼ同じ水準だ。

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 那覇・国際通りから入る市場周辺でも、いろいろな店が島バナナを店先にぶら下げている。ただ、ここは観光客向けなので、総じて高い。安く買いたいなら、牧志からぐーっと奥に進んで、開南の農連市場まで行ってしまった方がいい。

 島バナナの選び方のコツを少々。名嘉真さんの話では、あの鮮烈な酸味と香りは、木であまり熟させると弱くなる。実が太り始め、皮の角がとれて丸みをおびたかな、という頃に収穫するのが理想。もちろん色はまだ完全に緑色だ。

 そのまま木にならせておくと、実はパンパンに膨らんでくるが、ここまでいくと、酸味と香りが弱まってしまう。つまり、パンパンに膨らんだ感じの島バナナは避けた方がいい、ということ。下の写真は、膨らみすぎて、皮が割れてしまった島バナナ。

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 バナナは、さまざまな品種が世界中の熱帯地域で栽培されている。野生のバナナには小豆大の種がたくさんあったが、5000年以上前に熱帯アジアで品種改良されて種がなくなった、というエピソードが、中尾佐助の古典的名著『栽培植物と農耕の起源』(岩波新書)で紹介されている。沖縄の島バナナは小笠原種という品種で、その昔、小笠原諸島から入ってきたらしい。

 島バナナを置いていることが多い場所の情報は次の通り。

・JAちゃんぷるー市場 沖縄市登川2699 098-894-2215
・JAうまんちゅ市場 糸満市西崎町4-20 098-992-6510
・軽便駅かりゆし市 南城市大里字高平877-1 098-882-0078
・農連市場 那覇市樋川2-2-4 098-832-2747(市場事務所)

 最後になったが、沖縄県外在住の方に。島バナナは通販でも販売されている。「島バナナ」で検索すると、いくつか出てくるので、沖縄に来る予定がない方はこれでお試しを。

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2009年10月11日

[第138話 食、農] 砂糖を入れないパイン缶

 パイン缶といえば、おいしいが、それほどありがたいものでもないーといったところか。そんなイメージを打ち破るパイン缶が人気を呼んでいる。砂糖を全く使わないパイン缶「ロイヤルスウィート」がそれ。

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 砂糖を使わないパイン缶を作っているのは、名護パイン園グループの株式会社名護パイナップルワイナリー。

 同社常務取締役の上江洲朝則さんによると、ロイヤルスウィートは、7月下旬から8月下旬にかけて出荷される糖度の高いパインだけで作る。パインは9月下旬から11月上旬にも出荷されるが、この時期のパインは糖度が低いので、砂糖なしでは作れない。

 盛夏の時期のパインならすべていいかというと、そうはいかない。パインは底の部分から上に向けて糖度が上がっていく。つまり葉に近い上の部分は甘味が弱い。だから砂糖なしのパイン缶を作る時には、上の部分は入れられない。本当に甘くておいしい部分だけを使ったぜいたくなパイン缶なのだ。砂糖なしで作るのに必要な糖度は最低14度。

 価格は1缶598円。スーパーの砂糖入りパイン缶と比べると、かなりの価格ではある。

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 そのロイヤルスウィートを食べてみた。非常にすっきりしている。砂糖のしつこさが全くなく、砂糖入りのパイン缶とは確かに違う。よく冷やして食べると、おいしさはひとしお。

 砂糖入りパイン缶のシロップは強いので、そのまま飲むのは抵抗があるが、ロイヤルスウィートの汁ならいくらでも飲める。

 名護パイナップルワイナリーが砂糖なしのパイン缶を作り始めて7年目になる。「おかげさまで、ことしはよく売れています」と上江洲さん。例年は、盛夏に作ったパイン缶を半年ほどかけて売っていくのだが、ことしは3カ月ほどで完売の見込みという。

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 ロイヤルスウィートを作った背景には、深刻なパインの減産傾向があった。沖縄のパイン生産は年々減っている。理由は簡単。もうからないから、やめる農家が多いのだ。やめないまでも、後継者はいないという農家が多い。

 名護パイン園グループの基幹施設ナゴパイナップルパークはパイン農家があってこそのテーマパーク。「農家がちゃんとうるおう買い入れ価格を実現できる付加価値商品をなんとか作れないかと思ったんです」と上江洲さん。
 
 人気ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」のやまけんこと山本謙治さんは「日本の農産物は安すぎる」と主張しているが、パインもその例に漏れない。実際、パインに限らず、農業は、天候や病虫害のリスクがむやみと大きいのに、利益はあきれるほど小さいから、総じてもうからない。下手をすればすぐ赤字。これでは、やる人が減っていくのは当然の結末だろう。
 
 前回取り上げたやんばるの農家直販市も、今回のロイヤルスウィートも、農家を実質的に支える取り組み。農家が衰退してしまったら成り立たない仕事をしている人々が、ある意味では農家以上に危機感をもって、新しい仕組みづくりを模索しているといえそうだ。

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 ロイヤルスウィートはパイナップルパークで買えるほか、通販でも取り寄せられる。詳しくはパイナップルパークのHPで。パイナップルワイナリーは名護市為又1196-7、0980-53-0017。

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2009年10月04日

[第137話 農] ホテルが買い付ける山田金曜朝市

 一般の農協出荷でも、ファーマーズマーケットでもない、新しいタイプの農産物直販市が本島北部で産声を上げた。売り手は農家。買い手はホテルと飲食店。新しい農産物流通のモデルになりそうな、B-to-Bの直販市を訪れた。

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 名護市の中心部から少し入った山あいにある山田公民館。毎週金曜日の朝、農家が自慢の農産物を次々と運び込む。ほどなくして、買い付けるホテルや飲食店の人々がバンなどに乗ってやってくる。山田金曜朝市の始まりだ。

 毎回、近くの農家20軒ほどが出品する。ホテル側はそうそうたる顔ぶれ。沖縄のホテルで売上ナンバーワンのかりゆしホテルズ、高級ホテルの代表格ブセナテラスビーチリゾート、長期滞在用の居室が充実しているカヌチャベイホテル&ヴィラズなど、北部の大手ホテルや飲食店がずらり。

 北部のホテルや飲食店のシェフたちが集まる「やんばる料理研究会」がこの朝市を実現したホテル側の母体。地元食材にこだわり、地元食材の活用方法を研究してきた。農家側は、万鐘本店第18話で紹介した土づくりを実践し、総理大臣賞を受賞したゴーヤー農家金城美代子さんを中心とする腕っこきの生産者たち。

 この日は小松菜、トウガン、白いゴーヤー、ショウガ、オクラ、ナスなどが、所狭しと並べられていた。

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 この朝市、農家にとって魅力なのは、自ら値をつけたうえで、まとまった量が売れること。

 従来の農協出荷の場合、量は出せるが、サイズや形などの規格が非常に厳しいうえに、黙ってセリ値を受け入れるしかない。この朝市では、相場を基準にしつつも、原則として農家は自分で値をつけられる。セリではなく、個別の相対取引。この違いは大きい。農家が農産物の作り手としてだけでなく、売り手として一人前になれるのだ。

 ファーマーズマーケットはB品も出せるし、値も自分でつけられる。だが、ファーマーズマーケーットは一般消費者が相手だから、ビニル袋1つが単位。まとまった量を売るのはなかなか難しい。山田金曜朝市では、ホテルが相手だから、箱単位で量がはける。

 この朝市に自ら足を運ぶ沖縄かりゆしビーチリゾート・オーシャンスパの常務取締役総支配人玉城智司さんは「うちは1日1000人のお客様が泊ります。そのうち9割が朝食を、6割が夕食を召し上がります」と説明する。このように買い手の胃袋が大きいからこそ、農家は実のある商売ができる。

 朝市での買い付けでまだ量が足りないホテルは、出品農家と個別に話をつけてさらに農家の畑で追加で買い付けすることも珍しくない。

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 ホテル側にもメリットは大いにある。やはり自らこの市を訪れるブセナテラスの総料理長新垣敏光さんは「ここで仕入れた野菜は日もちが違いますね」と言いながら、買い付けた野菜をせっせとバンに載せていた。ここで販売される農産物の品質のよさはもちろんだが、間に流通業者が入れば、1日、2日はよけいにかかるということだろう。

 価格面でも間の業者の取り分がなくなるから有利。厳しい経済状況の中で、ホテルも、食材調達を業者任せにしてのほほんとしてはいられない。責任者自らこの朝市に足を運び、品定めをして、いいものを少しでも安く仕入れようとしている。

 「農家も、ここでは、お客さんの要望を直接聞くことができます」と金城美代子さん。農協出荷の場合は、お客さんの声が農家に直接届くことはめったにない。

 朝市の事務処理は簡素そのもの。農家は納品書兼請求書を自分で切り、ホテルはその金額を翌週現金で支払う。ホテルは支払い金額が明確になるから、よけいな現金を持ち歩く必要がない。専従の事務スタッフは必要ないし、場所は公民館で無料だから、売り手と買い手の「間」の部分には全くコストがかからない。

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 「そのうち、ホテルのお客様をここに連れて来ようと思っているんですよ」と楽しそうに話すのはかりゆしの玉城智司さん。ここで農家から直接買い入れたとびきり新鮮な地元食材で今夜のあなたのディナーをお作りします、というわけだ。確かに、どんなうたい文句よりもこの朝市を見せる方が説得力があるだろう。

 場所は山あいの公民館の前庭。立派な建物や派手な看板があるわけではないが、売り手と買い手が互いの必要から向き合い、コミュニケーションしながら作り上げる「市」の原点がここにはある。いわゆる観光施設にあきたベテラン観光客には恰好の見学先になるかもしれない。

 山田金曜朝市は、毎週金曜日朝8時半に始まり、約1時間で終了する。場所は、名護市字田井等909、山田公民館。

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2009年09月13日

[第134話 農、食] 地野菜を楽しむ農家民宿

 「農家民宿」は、読んで字のごとし、農家が経営する民宿。農家だから、畑で穫れたての新鮮野菜が食卓に並ぶ。沖縄本島北部の宜野座村で季節の地野菜を作っている仲間澄子さんの農家民宿「田元」をのぞいてみた。

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 田元は「タムトゥー」と読む。これは仲間家の屋号。沖縄の農村部では、今でも屋号で家を呼ぶことが多い。仲間家では、古い瓦家の隣りに鉄筋コンクリート造の自宅を建て、家人はそちらで生活することになったので、空いた古い瓦家を民宿として使うことにした。これが「田元」の始まり。

 その瓦家は、昔ながらの一番座、二番座のある間取り。一番座には床の間、二番座には仏壇がそれぞれある。

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 仲間さんはカンダバーやンスナバー、イーチョバーといった沖縄の地野菜を作っている。夏場ならモウイのあえもの、秋口にはシークワサーのジュース(下の写真)、冬にはダイコンの地漬けやイーチョバーの天ぷらが献立に加わる。パパイヤイリチャーやカンダバーのみそあえは年中できる。

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 カンダバーは万鐘本店第54話モウイは第1話野菜パパイヤは第92話でそれぞれ紹介した。イーチョバーはウイキョウ。さわやかな香りが特徴で、天ぷらにしたり、ボロボロジューシーにしたりする。

 「地野菜は、何にもしなくても、ほとんど放ったらかしでできるんですよ。農薬もいらないし」と仲間さん。

 話を聞けば簡単そうだが、仲間さんは、例えばカンダバーなら葉が柔らかく、えぐみの少ない品種を選んで植えている。カンダバーなど、沖縄ではそれこそどこでも生えている葉野菜だが、ちゃんとこだわりの品種を栽培しているところはやはり農家。

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 地野菜は、たとえばカンダバーでもハンダマでもイーチョバーでもゴーヤーでも、独特の香りや苦み、渋みがあって、それがおいしい。とはいえ、その香りや苦み、渋みが、度を過ぎたものでは、とても食べられない。適度ならば、「大人の味」として、おいしくいただける。

 だから農家は、品種について、長い間、研究を重ねてきた。この研究は、もちろん研究所みたいなところで行なわれるわけではなく、各農家が自分の畑で経験的に続けてきたもの。「いい種を残す」「いい種を人に分ける」という形で、その成果は細く長く受け継がれてきた。

 地球上で農業というものが始まって2万年。その99%以上にあたる1万9900年くらいの間、品種改良などの研究開発はすべて農家が担ってきた。例えば、バナナが今のような種なしの形になったのは、何千年も前にインドネシアで品種改良が行なわれたかららしい。そんな時代に研究所があったはずもない。

 話が急に大きくなってしまったが、仲間さんのカンダバーも、そんなふうにして農家の手で残されてきた「いい種」の一つなのだ。

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 田元の宿泊客は、畑で土いじりをしたり、それぞれの味わいを持つ地野菜に舌つづみを打つことができる。おやつのサーターアンダアギーを仲間さんと一緒に作ったりするチャンスもあるらしい。

 ホテルにあきた沖縄リピーターの間で田元は人気が高く、夏休みなどは予約で一杯になる。1回に1組しか泊れないから、予約は必須。1組5、6人までは泊れる。

 農家民宿はほかにもいくつかある。北部の農家民宿情報は、このHPが便利。田元も載っている。田元は宜野座村宜野座村字漢那112、 098-968-3992。

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2009年07月05日

[第124話 農、南] 気持ちよい緑陰つくる大木マンゴー

 沖縄産マンゴーといえば、夏ギフトの定番。濃厚な味と鮮烈な香りは、他の追随を許さない。ところで沖縄では、マンゴーはハウスの中で作られているので、普通の樹木の形をしたマンゴーを見かけることはあまりない。と思っていたら、万鐘の地元うるま市で、マンゴーの大木を発見した。

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 うるま市豊原の喜納兼俊さんがこのマンゴーの主。喜納さんは自宅の庭に緑陰を作ろうと、25年ほど前にマンゴーを植えた。マンゴーはすくすくと枝を広げ、庭に見事な緑陰をもたらした。もちろん、実もつく。

 果樹としてのマンゴーは、花が雨で落ちると実がならないので、沖縄では、雨よけハウスに入れるのが普通。ハウスの中で自然のままに伸ばしたらハウスの屋根を突き破ってしまうから、そうならないように剪定する。

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 剪定して、高くしないように、横へ横へと枝を広げていく。その結果、マンゴーの木は、ずんぐりむっくり、というよりも、ほとんどT字の上のバーを長くしたように、横に平べったく枝を広げることになる。これには、高い木にしてしまうと収穫が大変、という事情もある。

 だから、沖縄県民の中には、マンゴーとは、横に広がる形の木だと思っている人もいる。現に沖縄にはそんな形のマンゴーしかないのだから無理もない。

 だが、マンゴーは本来、剪定しないで放っておけば、上にすくすくと伸びて大木になる。喜納さんの庭のマンゴーの木がまさにそれ。

 雨をよけないと花が落ちるという理由で農家はマンゴーをハウスに入れているのだが、大木になった喜納さんのマンゴーは、雨よけしなくともたくさん実をつける。ウチナーグチで言う「ちゃーなり」(鈴なり)の状態だ。その理由は、品種が違うから。

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 喜納さんの庭のマンゴーは、ペリカンマンゴー。一方、沖縄で果実として生産されているのはアーウィン種がメインだ。喜納さんの話では、アーウィンの方が味や香りは優れていて、商品価値が高い。一方、ペリカンマンゴーは多少の雨に打たれてもちゃんと実がつく。

 果実マンゴーとしてはアーウィンに軍配が上がるが、緑陰づくりなど、樹木としてマンゴーをとらえる時には、ペリカンマンゴーなど、アーウィン以外の品種も捨てたものではない。

 世界中にはたくさんの種類のマンゴーがあり、それぞれの特性を生かして多彩に活用されている。フルーツとして食べるのはもちろんだが、例えばインドのマンゴーアチャーのように、青くて歯ごたえのあるマンゴーを塩漬けにした漬物などもあったりする。

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 写真は、アフリカのアンゴラ内陸部で見かけたマンゴー並木。ポルトガル植民地時代に植えられたものらしいが、見事な緑陰を作り出している。季節になればちゃんと実をつけ、地域の人々の貴重な食糧源になるが、何よりも、炎天下を歩く人々に緑陰の涼しさと美しい景観を周年提供するのが第一の役割だ。

 沖縄でも、果実マンゴーだけでなく、もっと多彩なマンゴーの可能性に目を向けたら面白いことになる。例えば、の話だが、都市公園に500mくらいのマンゴー並木道をドーンと作り、地域の人々や観光客に緑陰を提供する。

 沖縄は陽光が強いから、質のよい緑陰づくりが生命線。いい木かげさえあれば、気持ちのよい島風に体が癒される。沖縄では気温が33度を超すことはまずないから、夏に36、37度になる本土各地から、人々が避暑に訪れるかもしれない。マンゴー並木はその象徴的場所になる。

 実りの季節になったら収穫イベントで大盤振る舞い。下の方は子どもたちに虫取り網のようなもので好きに穫らせて、上の方は高所作業車で収穫する。人が集まる新名所になれば、作業車の借り賃や落果の清掃経費くらいの予算は地元自治体がカバーすればいいー。

 緑陰マンゴーの先駆者である喜納さんと、気持ちのよい木かげで緑陰談義をしながら、そんなことを考えた。

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2009年05月19日

[第117話 農] トーナチンが実をつけた

 モロコシという穀物がある。トウモロコシではない。トウのつかないモロコシ。沖縄ではトーナチンと呼ぶ。かつては沖縄各地で栽培されていたが、今では離島など一部で作られるだけになってしまった。南城市の奥武島で、実をつけ始めたトーナチンを見た。

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 トーナチンは、イネ科の穀物。トウモロコシを細くしたような茎と葉で、穂は初めは葉に包まれているが、やがてそこから飛び出し、ススキのように一番上のところで赤茶色の丸い実を膨らませる。英語名はソルガム、中国ではコウリャン、日本ではタカキビと呼ばれることも。

 トーナチンは世界中で作られている。例えば、南部アフリカ各地では、脱穀した後に製粉し、固練りにして食べる。固練りはもち、ごはん、おかゆを足して3で割ったような食感。皮の色が出るので、固練りも茶色と紫色の間のような色になる。穀類特有の味と香りが魅力だ。

 全粒粉で食べるから、栄養豊富。例えば、玄米と比べると、トーナチンのスーパー穀物ぶりがよく分かる。タンパク質は玄米6.8gに対してトーナチンはなんと10.3g、ビタミンB2は玄米0.04mgに対してトーナチン0.1mg。食物繊維も3gに対して9.7gだ。

 南部アフリカの一部では、伝統的主食であるトーナチンの固練りが、トウモロコシの真っ白な固練りにとって代わられた。トウモロコシの固練りはクセがないので、ちょうど白いごはんのように、おかずとよく合う。社会が豊かになり、野菜や肉、卵を食べる機会が増えると、「銀しゃりにおかず」ならぬ「白いトウモロコシ固練りにおかず」の食事が好まれる、ということかもしれない。

 確かに、トーナチンの固練りはそれ自体にしっかりした味がある。トーナチンの味は、タンパク質やビタミンなどの「栄養の味」。ぬか成分がたっぷり残っている玄米の味を思い浮かべればいい。玄米はおいしいが、何にでも合うというわけではないところが、トーナチンと似ている。しかもトーナチンは玄米よりもっと栄養豊富で味が濃い。

 沖縄ではトーナチンを粉にひいて、モチ粉に混ぜ、ムーチーを作って食べる。トーナチンを入れると、ムーチーに独特の味がつく。少しざらざらした食感になるが、それがまたいいという人が多い。旧暦12月のムーチーの季節になると、スーパーにトーナチンの粉が出回る。ただし、沖縄県産ではなく、海外からの輸入ものがほとんど。

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 奥武島で聞いた話では、トーナチンは脱穀した後、水に数時間つけてアクぬきしてから乾燥させる。粉にひくのは、昔は石臼だったが、今は製粉機。

 実は、このトーナチン、必ずしも粉にしなくてよい。「トーナチンを水につけて柔らかくすれば、ミキサーでも大丈夫ですよ」。奥武島のあるおばあが話してくれた。言われてみれば、かつて、石臼で穀類や豆をひく時にも、水につけて柔らかくしたものをひいて、ドロドロの液状にしていた。いわゆるシトギ。

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 ところで、トウモロコシは登熟しても実が覆われているからいいが、トーナチンのように、株のてっぺんにむき出しの実をつけるタイプの穀類は鳥にやられる。さあ、明日にでもいよいよ収穫するか、というその前日に鳥はいずこからかやってきて、食べごろの実をきれいに平らげてしまう。熟していない実は決して食べない。

 いったいどんなセンサーがついているのか知らないが、鳥たちの正確な判断力にはただただ脱帽するしかない。奥武島でも、丸々とした実をつけた穂だけが選ばれ、袋がけされていた。

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2009年02月18日

[第102話 食、農] 鮮烈な香りを楽しむ島ラッキョウ

 沖縄の居酒屋でも家庭でも、あるいは本土の沖縄料理店でも大人気の島ラッキョウ。その島ラッキョウが、やがて旬の季節を迎える。

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 島ラッキョウは夏の終わりに植え付けする。株が分かれてゆっくりゆっくり粒がふくらんでいく。順調にいけば、1粒植えると10粒くらいは収穫できる。ネギの仲間はどれもそうだが、生育に時間がかかることはあまり知られていない。島ラッキョウの場合も7、8カ月を要する。葉の面積が小さいからだろう。

 3月頃が収穫の最盛期。出始めの時季はかなり高い島ラッキョウだが、旬になると30本前後の1束が250―300円まで下がる。

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 島ラッキョウは、沖縄の食の代表選手の一つになりつつあるようだ。東京の沖縄料理店では、つき出しや一品料理として春から初夏までのレギュラーメニューになっていることが多い。沖縄でも、観光客の多い国際通りや那覇空港にはほぼ定番で置かれている。生の束もあれば、真空パックされた塩漬けも見かける。むろん、県民は飲食店でも食べるし、スーパーで生の島ラッキョウを買っては自分で塩漬けにしてよく食べる。

 島ラッキョウの最大の魅力はあの鮮烈な香り。ネギ、ニラ、ニンニク系の香りであることは間違いないのだが、そのいずれとも微妙に違う。味はネギやニンニクほどきつくない。泡盛に実によく合う。島ラッキョウをつまみながら泡盛を飲み始めたら、本当にいくらでも入ってしまう。

 浅漬けで食べるのが最もポピュラー。塩をして1日置けばおいしくなり、3、4日はそのおいしさが持続する。居酒屋で出てくる島ラッキョウの大半はこれ。かつおぶしがかかっていることが多い。

 この、塩だけのシンプルな浅漬け。試みに島ネギでやってみたが、ヘナヘナと柔らかくなりすぎてしまい、食感が今ひとつだった。島ラッキョウなら、塩で柔らかくなっても、シャリシャリした感じが十分に残る。

 沖縄では、たくさん穫れた時には天ぷらも楽しむ。天ぷらにすると、加熱されて香りは弱まるが、その代わりに甘味が引き出される。実際、ラッキョウ天ぷら好きはかなりいる。

 塩漬けよりも、さらに鮮烈な香りをストレートに感じるには、生かじりするのが一番。ネギやニンニクほどきつくはないから、生でも食べられる。生の島ラッキョウには味噌をつけるとよい。味噌の強い味が島ラッキョウの香りを包み込み、食べやすくしてくれる。ネギ味噌を引き合いに出すまでもなく、ネギ・ラッキョウ系の味と味噌は極めて相性がいい。塩漬けよりも生の方が強いシャリシャリ感を楽しむことができる。

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 島ラッキョウを薬味として食べるのもお勧め。例えば、薄く切った島ラッキョウをよく熟したトマトに乗せて、ドレッシングをかけて食す。トマトのうまみとラッキョウの鮮烈な香りがよく合う。

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 塩こしょうして焼いた豚肉に、薄切り島ラッキョウをたっぷりと乗せ、かんきつ果汁を絞って食べるのもうまい。あるいは、ゆでたジャガイモにドレッシングをふって、薄切り島ラッキョウを散らす。好みでマヨネーズを少しかけてもいい。ジャガイモの淡白な香りはベースになり、ラッキョウの刺激的な香りがハイライトとしてくっきり浮かび上がる。

 薬味で使う場合、島ラッキョウは生なので、あの鮮烈な香りがそのまま迫ってくるのが魅力。とりわけ、豚やジャガイモは熱いので、そこに乗った島ラッキョウの香りがふくらみを増し、鼻から食欲を大いに刺激すること請け合い。

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2009年01月13日

[第96話 食、農] セーイカ漁、ピークへ

 前回に続き、海の幸の話題を。ことしのセーイカの水揚げがいよいよ増えてきた。あの、ねっとりしたうま味の固まりは、数ある沖縄の冬の味覚の中でもかなり上位にランクされるだろう。

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 セーイカは沖縄の言い方で、標準語はソデイカ。体長は1メートル前後、10kgほどになる巨大なイカだ。沖縄で水揚げされる水産物のトップはマグロ類だが、その次がこのセーイカ。その9割は本土に出荷され、料亭などに回るという。既に沖縄の特産品といってよい。写真は糸満市のキンシロ鮮魚。

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 「セーイカは昔から獲ってはいたんですが、今のように本格的な漁が始まったのは10年ほど前のことなんですよ」と話すのは沖縄市漁協の池田博組合長。

 池田さんの話では、セーイカはそれまでも獲られていたが、北陸地方の漁法が沖縄に伝えられ、漁が本格化し、漁獲量が急速に増えていった。セーイカはその北陸など本土各地でも上がるが、サイズが沖縄の海で上がるものよりだいぶ小さいという。セーイカがどこで育ってどこに移動していくのか、そうした生態はまだナゾの部分が多いとのこと。

 セーイカは水深450m前後の海に生息している。釣る際には疑似餌でおびきよせる。いったん食いついたら自動リールで上げればいい。格闘したり、餌だけもっていかれるようなことはあまりなく、比較的手堅い漁だという。ただ、沖縄本島から70―80km離れた海での漁になるので、一度漁に出たら1週間くらいは出っぱなし。その間に海が荒れると大変だ。12月、1月は大東島近海で釣っている船が多い。

 釣り上げたセーイカは船上で頭と足、いわゆるゲソの部分をはずして氷詰めにして鮮度を保つ。ゲソはゲソで商品になるが、本体ほどの価格にはならないので、本体とは別の袋に分けて保存する。

 その本体部分は仲卸業者の手で解体される。糸満市のキンシロ鮮魚で、解体作業を見た。厚い身を手際よく切り、皮をていねいにむいて、いわゆるサクの状態にしていく。身の厚さは3cm前後だが、中には4cm近いものも。「水揚げは1月末から2月頃がピークです」と作業していた比嘉靖さんが解説してくれた。

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 セーイカの食べ方は、やはり刺身で。生姜醤油をつけて食す。あまり厚く切るよりは、3mmほどの厚さに切った方が口当たりがよい。口の中をイカ味でいっぱいにしたい向きは、2、3枚まとめて口に入れるとよい。歯にまとわりつくようなねっとり感の中からうまみが立ち上がり、それが口いっぱいに広がっていく。加熱する料理もあるが、加熱すればねっとり感はどうしても失われる。

Seika4


 冷凍してもほとんど味は落ちないので、サクのまま冷凍保存しておくと重宝する。冬場はどこの鮮魚店やスーパーでも置いているが、那覇漁港の泊いゆまちや、沖縄市漁協隣の直営店パヤオなどに行けば、サク状にカットされたものが冷凍でストックされている。1本が4、5人分で600―700円といったところ。

 泊いゆまちは那覇市港1-1、098-868-1096。パヤオは沖縄市泡瀬1-11-34、098-938-5811。

bansyold at 00:00|PermalinkTrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック