もち

2009年04月13日

[第111話 食、沖縄] ナントゥーの味を支える味噌のコク 

 今回の話題は、第36話で紹介したムーチーの「親戚筋」にあたるナントゥー。ナントゥーは、味噌のコクをベースに、しょうがやコショウの香りを効かせた個性豊かなもち菓子。一度食べたらやみつきになる。

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 ナントゥーは、ムーチーと同様、ついたモチではなく、モチ米粉を蒸したもの。表面には白ごまやピーナツがあしらわれ、裏にはサンニンの葉が貼り付いていて、ほんのりとサンニンの香りがする。適当な大きさに切り分けて、サンニンの葉をはがして食べる。

 ナントゥーは、もともと旧正月に各家庭で作られていたが、今は旧正月以外でも店で売られている。だいたいどのスーパーでも、第60話で取り上げたこんぺんなどとともに伝統菓子コーナーに置かれている。原材料は、もち米、砂糖、みそが基本。これにしょうがやヒハツまたはコショウが加わる。

 ヒハツは八重山で作られる香辛料で、ヒハーツ、ピパーチ、フィファーチなど、地域によって発音はさまざま。和名はナガコショウ、英語はロングペッパー。普通のコショウの持つスーッとした香りにナツメグのような甘味を加えた香り、とでも言おうか。ただ、売られているナントゥーの多くはショウガが使われ、ヒハツ入りはあまり見かけない。

 みその深い味が、ナントゥーのうまさを作り出しているのは明らか。みそはうまみ成分のアミノ酸が豊富で、甘味と合わせると独特の味になる。そこに香辛料としてヒハツやコショウ、しょうがの爽快な香りがのり、穏やかな辛みが全体を引き締める。

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 ナントゥーのもう一つの魅力は、その柔らかさ。べったりとして扱いかねるくらい柔らかくのびるのが身上だ。「適当な大きさに切り分けて」と初めの方で簡単に書いたが、実際にやってみると、粘りが強くて簡単には切れない。食べる時もそう。皿やフォークにベッタリくっついてしまうので、格好よく上品に食べようとすると往生する。でも、それくらい柔らかくないとナントゥーらしくない。

 ところが、ところが―。宜野湾市でナントゥーなどのもち類を製造しているオナガ食品の翁長謙さんによれば、昔のナントゥーはもっと固かったらしい。固くするには水分を減らし、こね方も強くする。「もし今、昔風の固いのを出したら、古くなっていると思われてしまうでしょうね」と翁長さんは笑う。時代とともに、人々の好みも変わっていくのだろう。

 もちろん、今風にいくら柔らかく作ったナントゥーでも、時間が経てば自然に固くなる。ナントゥー好きの中には、少し固くなったのを焼いて食べるのが最高、とおっしゃる向きも。

 ある業界関係者によると、柔らかナントゥー全盛の昨今は、なんと、もちを固くしないための専用の添加剤があるのだそうだ。これを使うと柔らかさを保つだけでなく、賞味期限も大幅に延びるらしい。大量生産・長期流通のもち類にはだいたい使われているという。この添加剤、手につくと皮がむけてしまうとのこと。濃度の問題もあるのだろうが、そういう話を聞くと、やはり口に入れるものだからちょっとなあ、と腰がひける。

 ナントゥーを買う時は、原材料欄をしっかり読んだ方がよさそうだ。「もち粉、みそ、砂糖、しょうが、コショウ、ごま」などの知った顔ぶれなら大丈夫。ヒハツやピーナツももちろん問題ない。こういう無添加品は日持ちが悪いので、買ったらあまり日を置かずに食べてしまおう。「固くなったやつを焼いて―」をどうしてもやりたい人は、冷蔵庫に入れればすぐ固くなる(逆に、柔らか好きの人は冷蔵は厳禁)。

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 ところで、みそ味のお菓子は、沖縄以外にもいろいろある。みそ仕立てのナス餡が入ったおやきとか、ゆずの香り豊かなゆべしとか。みそパンという、水分の少ないパンのようなものもあった。みそはコクがあるだけではなく、発酵香やわずかな渋みが全体を複雑で奥行きのある「大人の味」にする効果も期待できる。

 しょうゆはもはや世界中どこに行っても手に入る調味料になったが、アメリカなどで日本料理を教える機会が多い東京・日本橋の日本料理店「ゆかり」三代目、野永喜三夫さんに聞いた話では、感度の高い欧米のシェフの中には既にみそを使いこなす人がいるという。

 フレンチのデザートにみそが使われるようになる日も、そう遠くないかもしれない。コショウやしょうがという彼らにおなじみの素材と「みそ+砂糖」が抜群の組み合わせであることは、ナントゥーが既に証明している。

 ナントゥーは沖縄県内のスーパーならだいたいどこでも置いている。毎日大量に出るものではないので、1軒のぞいて品切れなら別の店をトライすべし。那覇・国際通りから南方向にのびる各市場街や、さらにその奥の農連市場周辺にはもち菓子店がいくつかある。

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2008年01月19日

[第36話 食、南] シトギ文化の一翼担うムーチー 

 旧暦12月8日はムーチー。ことしの新暦では1月15日にあたる。この日は、家庭でサンニン(月桃)の葉に包んで蒸したムーチーを作って食べるならわしだ。

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 サンニンの葉には殺菌成分が豊富に含まれている。ムーチー作りの時は、家の消毒を兼ねているんじゃないかと思うくらい、サンニンの強い香りが部屋じゅうに漂う。

 ムーチーに漢字をあてる時は「鬼餅」と書く。鬼餅の由来として、鬼になった兄を妹が退治するというすごい民話があるが、そのお話は他のサイトに詳しいので、そちらに譲る。「鬼餅」「ムーチー」で検索すると、たくさん出てくる。

 ムーチーは和語の「モチ」に当たるが、本土のモチと沖縄のムーチーには決定的な違いがある。それは本土のモチが、蒸したモチ米を臼と杵でつき上げるのに対し、沖縄のムーチーは、生のモチ米粉に水や砂糖を加えて形を整え、最後に蒸して加熱するという点だ。

 ムーチーのように、米粉に水を加えて練ったものをシトギと呼ぶ。もともとは水に浸して柔らかくした生のモチ米を臼でひき、ペースト状にしたものを指した。シトギを加熱すれば、出来上がりはモチのようになるが、歯ごたえは、ついたモチの方が強い。

 シトギは、米粉加工品なので、いろいろと姿を変えて展開していく。名著『栽培植物と農耕の起源』『料理の起源』で知られる中尾佐助は、シトギの展開を一つの文化圏と読み解いている。例えば、中国・台湾で米粉から作られる「ビーフン」、フィリピンの米粉蒸しパン「プト」、スリランカの米粉薄焼き「アッパ(ホッパー)」などは、すべてシトギから作られ、一つの文化圏を形成している、というわけだ。

 シトギにほかならないムーチーも、こうしたアジアのシトギ文化の一翼を担っているといえそうだ。沖縄にはムーチーをはじめ、小豆を乗せたフチャギや味噌入りのナントゥーといったモチ類があるが、いずれもシトギ。ついたモチは見られない。

 日本本土でも加熱しない生シトギが各地で神事に使われてきており、中国南部に発するとみられるシトギ文化の、いわば北限に位置づけられるらしい。

 さて、ムーチーの作り方はいたってシンプル。用意するものは、モチ米粉(白玉粉)、水、サンニンの葉。味付け用に、砂糖、黒砂糖、紅芋粉など、好きなものを適宜用意する。

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 粉と水に砂糖類をよく混ぜ、耳たぶくらいの固さにする。生シトギの状態だ。ピンポン玉2つくらいの分量をとり、楕円形にして、サンニンの葉の中央に乗せる。サンニンの葉を三つ折りにして、真ん中をワラかヒモでゆわえ、葉が開かないようにして、20分ほど蒸せば出来上がり。

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 子供たちは自分の歳の数だけムーチーをぶら下げておいて、毎日少しずつ食べていく。初めにも書いたように、サンニンの葉には殺菌作用があるので、冬でも15度を切ることが珍しい沖縄でさえ、そのまま置いておいても、1週間くらいはカビが生えない。

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