アナログ
2008年07月23日
[第67話 沖縄] 同窓会の告知は横断幕で
あなたが同窓会の幹事だとしたら、いつどこで同窓会が開かれるかを、どのようにして知らせるだろうか。ハガキ? 住所が分かる人には出せるが、引っ越してしまった同窓生には出せない。
沖縄では同窓会の告知に横断幕をよく使う。3mくらいの長さの布に「●●高校昭和55年卒同窓会」と大書きした横断幕だ。
同窓会だけではない。コンサートからスポーツ大会、選挙候補者の演説会まで、あらゆる行事、催しがこの横断幕で告知される。通行量の多い交差点には必ずといっていいほど何かの横断幕がかかっていて、そこをしばしば通っていれば、何が行われるかが自然に分かる仕組み。短い信号待ちの間に読むのに頃合いの情報量だ。
街かどの横断幕は、不特定多数を相手にする看板と同じ働きをしているが、実際には特定少数の人々をターゲットにしている横断幕も多い。
冒頭の同窓会がその好例。「●●中学校野球部九州大会派遣資金造成ボウリング大会」などのケースもそうだ。不特定多数の関係ない人々にとっては、文字通り関係ない情報。だが、こんなこともある。例えば、現在は野球部と没交渉になっているOBが、たまたま横断幕を見かけて「へえー、九州大会まで行くようになったのか。アイツも誘って、ちょっと参加するか」ー。
同窓生や野球部OB一人ひとりの住所や電話番号を追いかけるような面倒なことはしないけど、こういう集まりがあるからぜひ来てね、と広く知らせる。実際、それによって、野球部OBの話のように、主催者が予想していなかった人がひょっこり来たりもする。
そう、呼ばれたから行くのではなく、行きたいから行く。集まりは「呼ぶ側が集める場」ではなく、「行く人が作り上げる場」というのが沖縄式。宴席でも、ちょっとした集まりでも、特に呼ばれなかったけど参加している人が必ずいる。参加してしまえば、後は同じ。イチャリバ、チョーデー(行き逢えばみな兄弟)なのである。
横断幕なら、広告塔や固定の看板類よりはるかに安く済むのも魅力だ。3mほどの横断幕1つが5000円ほどでできる。同じ大きさの看板を作ったら、何万円もの経費がかかる。しかも掲示先の場所の多くは公共空間。タダで張り出せるから、まことに具合がよい。
横断幕のプロに話を聞いてみた。横断幕を数多く製作している読谷村の丸吉工芸、与古田松吉さんによると、横断幕は、沖縄が日本に復帰する前の米軍統治時代に、コカコーラやペプシコーラが自社マーク付きの横断幕を無料で提供したのが始まりらしい。タダとあって、人々は横断幕を広く利用するようになった。下の写真のように、このスポンサーつき横断幕は今でもあるが、今はさすがに無料ではないという。
かつての横断幕は看板職人が手で書いていたが、大型プリンターの登場で次第に職人芸の出番がなくなっていった。「看板が書ける技術があれば一生食うに困らないと言われた時代もあったけどね。その神話は今や完全に崩壊しました」と与古田さん。与古田さんも現在はパソコンとプリンターで横断幕を印刷している。
数多くの看板職人が仕事を失う中で、与古田さんは、横断幕を発注する人の身になって仕事をすることで受注を伸ばしてきたという。例えば、選挙事務所の集まりを知らせる横断幕に「会費」の項目がないことに気づいた与古田さんは「これだと公選法違反になりますよ」と助言するなど、内容にも踏み込んだアドバイスを心がけている。
横断幕は、お金をかけずに、だれでも気軽に催しを告知できる。横断幕を見た人々も、気軽に集い、交流する。人が集う機会がひんぱんにあることが、沖縄力の基盤になっているのは確か。横断幕はアナログだが、決してアナクロ(時代錯誤)ではないのだ。
沖縄では同窓会の告知に横断幕をよく使う。3mくらいの長さの布に「●●高校昭和55年卒同窓会」と大書きした横断幕だ。
同窓会だけではない。コンサートからスポーツ大会、選挙候補者の演説会まで、あらゆる行事、催しがこの横断幕で告知される。通行量の多い交差点には必ずといっていいほど何かの横断幕がかかっていて、そこをしばしば通っていれば、何が行われるかが自然に分かる仕組み。短い信号待ちの間に読むのに頃合いの情報量だ。
街かどの横断幕は、不特定多数を相手にする看板と同じ働きをしているが、実際には特定少数の人々をターゲットにしている横断幕も多い。
冒頭の同窓会がその好例。「●●中学校野球部九州大会派遣資金造成ボウリング大会」などのケースもそうだ。不特定多数の関係ない人々にとっては、文字通り関係ない情報。だが、こんなこともある。例えば、現在は野球部と没交渉になっているOBが、たまたま横断幕を見かけて「へえー、九州大会まで行くようになったのか。アイツも誘って、ちょっと参加するか」ー。
同窓生や野球部OB一人ひとりの住所や電話番号を追いかけるような面倒なことはしないけど、こういう集まりがあるからぜひ来てね、と広く知らせる。実際、それによって、野球部OBの話のように、主催者が予想していなかった人がひょっこり来たりもする。
そう、呼ばれたから行くのではなく、行きたいから行く。集まりは「呼ぶ側が集める場」ではなく、「行く人が作り上げる場」というのが沖縄式。宴席でも、ちょっとした集まりでも、特に呼ばれなかったけど参加している人が必ずいる。参加してしまえば、後は同じ。イチャリバ、チョーデー(行き逢えばみな兄弟)なのである。
横断幕なら、広告塔や固定の看板類よりはるかに安く済むのも魅力だ。3mほどの横断幕1つが5000円ほどでできる。同じ大きさの看板を作ったら、何万円もの経費がかかる。しかも掲示先の場所の多くは公共空間。タダで張り出せるから、まことに具合がよい。
横断幕のプロに話を聞いてみた。横断幕を数多く製作している読谷村の丸吉工芸、与古田松吉さんによると、横断幕は、沖縄が日本に復帰する前の米軍統治時代に、コカコーラやペプシコーラが自社マーク付きの横断幕を無料で提供したのが始まりらしい。タダとあって、人々は横断幕を広く利用するようになった。下の写真のように、このスポンサーつき横断幕は今でもあるが、今はさすがに無料ではないという。
かつての横断幕は看板職人が手で書いていたが、大型プリンターの登場で次第に職人芸の出番がなくなっていった。「看板が書ける技術があれば一生食うに困らないと言われた時代もあったけどね。その神話は今や完全に崩壊しました」と与古田さん。与古田さんも現在はパソコンとプリンターで横断幕を印刷している。
数多くの看板職人が仕事を失う中で、与古田さんは、横断幕を発注する人の身になって仕事をすることで受注を伸ばしてきたという。例えば、選挙事務所の集まりを知らせる横断幕に「会費」の項目がないことに気づいた与古田さんは「これだと公選法違反になりますよ」と助言するなど、内容にも踏み込んだアドバイスを心がけている。
横断幕は、お金をかけずに、だれでも気軽に催しを告知できる。横断幕を見た人々も、気軽に集い、交流する。人が集う機会がひんぱんにあることが、沖縄力の基盤になっているのは確か。横断幕はアナログだが、決してアナクロ(時代錯誤)ではないのだ。