ウニ

2011年12月04日

消えた日本のクサうま

沖縄とアジアの食 第12回 発酵の複雑な香り


 前々回、ラオスの魚の塩辛調味料「パーデーク」を中心に、アジアのクサうま調味料を紹介した。写真はタイのローカル市場で量り売りされているえびみそ「ガピ」。これもアジアのクサうまの代表選手だ。そういえば、昭和の頃は、日本でもこんな風にみそを山盛りにし、量り売りしていた。

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 沖縄を含む日本には、今や「クサうま」と呼べるような発酵調味料、発酵食品はほとんどない。みそでも醤油でも泡盛でも、明らかにクサいと感じるものは、くさやなどごく一部を除いてめったに見かけない。

 日本でも1960年代くらいまでは、味噌を手造りしている家が農村部にたくさんあった。そんなみそでみそ汁を作ると、今のみそにはない複雑な香りが家じゅうに漂った。この香りは大いに食欲をそそる芳香だったと記憶している。

 複雑な香りは、雑菌と総称される菌が作る化学物質の香り。家庭でみそを作っていた頃は、こうじこそ買ってきた麹菌で作るにしても、仕込みの過程でさまざまな雑菌が混入し、そこに独自の香りが生まれた。

 みそでも醤油でも酒でも、メーカーは共同であるいは独自に、優良菌の開発を進めた。マーケットリサーチの結果、消費者の多くが複雑な強い香りを好まない、という結果が出たためか、純粋培養された優良菌は、香りの面では「控えめな」菌が中心になった。

 製造設備の菌管理技術も向上したため、純粋培養した菌以外の菌が入り込む余地があまりなくなった。こうして、日本の発酵食品から複雑な香りがなくなり、「クサうま」は姿を消した。

 1970年代までは、沖縄の泡盛も、まだ香りが相当強かった。味噌や日本酒と同様に、泡盛でも、その後、菌の開発と製造現場の菌管理技術が進み、その結果、複雑な香りは弱まっていった。いま製造されている泡盛は、離島の製品など、一部に比較的香りが強い銘柄があるものの、往時の強い香りを放つものはほとんどなくなった。

 写真はラオス北部の農村で作られた米の蒸留酒ラオラオ。酒造所ではなく、家内工業で小規模に作られているため、びんもラベルもない。手近にある空き容器に入れて売られる。写真のラオラオは、独自の方法で、何かの草を最後に入れて色とかすかな香りをつけているそうなので、わずかに緑色を帯びている。

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 ラオラオは、麹菌の種類が泡盛とは違うから味わいはおのずと異なるが、米麹の全麹で作られる蒸留酒という意味では、泡盛とよく似ている。同様の酒はベトナムの農村でも手造りされているのをあちこちで見た。

 香りはー。強い香りではないが、やはり、今、日本で作られている焼酎や泡盛に比べると、複雑な風味がある。

 話は変わって、漬け物。これも日本では香りを減らす方向で技術が進んだ。漬け物の場合は、酒やみそと違い、菌を添加して製造するわけではない。自然の乳酸菌で発酵させるのが普通なので、菌を純粋培養して香りを弱めるというわけにはいかない。

 では、どうするかというと、2つの方法があるらしい。一つは、発酵それ自体をさせない短時間仕上げの「浅漬けタイプ」を作ること。味は発酵ではなく、調味液が担う。いま一つは、いったん発酵させるものの、その発酵液を抜き取り、さらに、別に作った調味液を改めて吸収させるという「味ぬき味つけタイプ」にすること。

 いずれにしても、うまみと香りを作り出す発酵の機能をほとんど否定してしまう結果になっている。もちろん、昔ながらの手作り品は、そうではないが。

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 漬け物はアジアでも盛ん。写真はベトナムの食堂で出てきた漬け物。高菜のような葉野菜をさっとゆがいてから塩水に入れ、そのまま常温で数日漬けておくと、漬け物になる。色がやや黄色味を帯びてきたら食べられる。それほど強い香りがあるとも思えないが、日本では、この香りは通らないのかな、と思いながら、白いごはんと一緒にかっ込んだ。乳酸発酵で酸味が出ていて、うまい。

 みそでも泡盛でも漬け物でも、香りが弱くなれば、「マイルドな」風味になり、万人受けするようになる。ただ、それも度が過ぎると、そもそもの個性が消えてしまう。

 ウニの独特の味は、強い苦みを持ったアミノ酸「メチオニン」が含まれていることによって実現している。メチオニンがもし入ってなかったら、ウニは、イクラのような味になってしまうという。イクラの味はウニよりクセがないが、もしウニがイクラの味と同じだったら、面白くないだろう。

 クサうま発酵食品の複雑な香りを除去しすぎたら、ウニをイクラに近づけてしまうようなことになるのではないか。

 確かに、かつての複雑な香りが強い泡盛のままでは、今日のように、ニューヨークのバーで珍重される酒にはならなかったかもしれない。味噌も、昔の香りのままでは、例えばオーストラリアの料理本に当たり前のように登場する調味料にはならなかっただろう。しかしー。

 自社話で恐縮だが、万鐘の黒糖肉みそは、親しみやすい味の追求と同時に、味噌や泡盛といった発酵食品の中にある渋み、苦み、あるいは味噌や黒糖が少し焦げた時に初めて生まれる独特の香りなどを前面に出すようにしている。

 その黒糖肉みそが、フジTVの「とくダネ!」で取り上げられた際に、スタジオで試食した高木美保さんがこうコメントした。

 「甘いだけじゃなく. . . 大人の味に仕上がっていますねー」

 作り手の日頃の工夫を正面から評価していただいた気がして、ありがたかった。その「大人の味」こそ、発酵の深い味や、渋み、苦み、焦げた香りなのだ。

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2008年08月10日

[第70話 食、農] ピュアな甘味を堪能 古宇利島のウニ

 沖縄本島北部、今帰仁村の古宇利島ではウニ漁が真っ盛り。カラからはずしたばかりの新鮮な生ウニを口に含むと、磯の香りの中から濃厚な甘味が立ち上ってくる。

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 沖縄で獲れるウニはシラヒゲウニ。亜熱帯の海に生息するウニで、日本では沖縄、奄美の海で獲れる。姿を見れば名前の由来はイメージできるだろう。7月、8月が収穫期。だたし、資源保護のため、漁獲が禁止される年もある。

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 古宇利島では、今帰仁漁協のウニ加工のための共同利用施設で、獲られたばかりのウニの処理作業が進んでいた。

 作業は海水をかけながら行う。まずナイフでウニを2つに割る。食べられる黄色い部分は生殖巣で、これが内部に5筋ある。割る人はこれが2筋と3筋にうまく分かれるように割り、食べられない部分をかき出す。

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 次の人が、殻の内側にはりついている生殖巣をスプーンではがしとる。もろい生殖巣を傷つけないよう慎重にやらねばならない。殻からはずされた生殖巣は、水気をとって容器に並べられる。

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 こうした作業は家族総出で行われる。金城正行さんの一家も、正行さんが獲ってきたウニを女性陣がきれいに処理して、出荷する容器にていねいに並べていた。

 話を聞いていたら、作業中の女性の一人が「はい、味見して下さい」と言って、貴重なウニをてのひらにたくさん乗せてくれた。大感激。ひたすら甘い。

 生のウニはそのままにしておくと、2、3日で溶けてしまうのだそうだ。このため、ウニの形を長く保持するには、ミョウバン液に漬けなければならない。ただ、ミョウバン液につけると、若干の苦みが生じる。もちろん獲れたてのウニは、全くの生だから、苦みは一切ない。

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 苦みのないウニのピュアな甘味を堪能したい向きは、古宇利島にウニを買いに行くことをお勧めする。古宇利大橋を渡って島に入ると左手に港とウニ加工施設が見えてくる。そこでも売ってくれるし、ほかにもウニを買える場所は島内にいくつかある。価格はどこでも100gで1500円。持ち帰り用に小さなクーラーボックスと氷を持参すること。

 島の中には、獲れたてのウニをのせたウニどんぶりを出す食堂やパーラーもいくつかあるから、最高の味をその場で楽しむこともできる。

 もう一つ、古宇利島の魅力は、その海の色の美しさだ。古宇利大橋の両側に広がる海の色は、ちょっと言葉では表せないほど、すごい。離島を除いて、これだけの色の海はまず見られないのではないか。天気がよくなければ色は冴えないから、ぜひ晴天の日を選んで出かけたい。ウニの甘味と海の圧倒的な美しさで、最高の夏休みになるはずだ。

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 古宇利島は、屋我地島をはさんで、沖縄本島と橋でつながっているので、車で行ける。国道58号線で名護市中心部を抜けてしばらく行くと、屋我地島に入る道があるから、そこを左折し、あとは案内板にしたがって行けばよい。

 ウニに関する問い合わせは、今帰仁漁協0980-56-2226まで。

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