コシ
2016年08月22日
2011年10月16日
ヒラヒラ感がたまらない
沖縄とアジアの食 第5回 フォー
前回はフォーの写真を出しておきながら、肉の話に終始してしまった。今回から麺の話に移る。そのフォーからいこう。
ハノイの旧ハンザ市場の近く。旧市街は、いかにもごちゃごちゃした下町ふぜいが魅力だ。各店舗は間口が狭いからか、通りにまで品を出して売っているので、どことなく屋台店舗風の趣きになる。米粉の菓子、果物、麺類、豆腐、鶏。何でもある。その合間を天秤棒や自転車に野菜などを載せた商人が行き交う。
食品関係の店に混じって、飲食店もいろいろある。店舗内だけでは狭いので、歩道上にもどんどん展開して、プラスチックのイスを並べる。子供用にしか見えない低くて小さなイス。人々はそこに腰掛けて、麺類やベトナム風の濃いコーヒーをゆっくりと楽しむ。
食料品店、飲食店、天秤棒。一つひとつが小さなピースで、街全体がジグソーパズルのように見えてくる。街路樹がどこも適度に張り出して木陰を作っているから、常夏の国ではあっても、意外に涼しい。
その中に、ひときわ、人の出入りが激しいフォー屋があった。間口1.2mほど。見ていると、次々に客が声をかけ、注文が入る。かなりの人気店らしい。「限定××食、売り切れじまい」といった趣きだ。
女性3人で切り盛りしている。1人が外でトッピング用の牛肉をせっせと薄切りにしている。前回書いたように、切った後はあまり間を置かずに使うのが衛生管理上のノウハウ。別の1人が奥で麺をどんぶりに入れ、もう1人が具や調味料を入れて熱いスープを注ぎ、客に出す。見事な連携プレー。
生牛肉のフォーを注文した。念のため、化学調味料は少しにしてね、と言ったら、分かってるわよぉ、と言わんばかりのはじけるような笑顔で応じてくれた。若いベトナム人に聞いたが、ひと頃は化学調味料全盛で、何にでも大量に入れていたが、最近は敬遠する人もいるらしい。
麺。ひたすら薄く仕上げてられていて、スープと一体になったヒラヒラした感触がたまらない。スルスル、スルスル、いくらでも入ってしまう。コシめいたものは全くない。コシが欲しいとも思わない。
麺のコシは、スルスルとすすり上げて口に入れた後、噛んだ時に得られる食感。フォーを食べていて思うのは、薄さとヒラヒラした独特の食感が口いっぱいに広がり、そのボリュームでそれなりの噛み応えがあれば十分、ということ。スープと完全に一体化した麺に、歯を押し戻すようなコシがあったら、かえって邪魔になる。
日本では、麺といえば小麦の麺が中心なので、グルテンの生成によるコシが命ということになっている。沖縄でも、沖縄そばは独特のコシで、その話は以前、万鐘本店で書いたが、ともかくコシがなくては話にならない。パスタもそう。芯が残るくらいのゆで加減がいい、とされる。
フォーの食感は、そうしたコシとは対極にある。が、噛み応えがないわけではない。
フォーの原材料になるベトナムの長粒種のコメは、粘りのないアミロースでんぷんの含有量が日本米より多い。
日本の短粒米の品種改良は、粘りの強いアミロペクチンでんぷんの含有量を上げ、粘りを高めることに力が注がれてきた。電気炊飯器も、コンピューター制御で複雑な火加減を実現しているが、その目指すところは、粘りのあるごはんを炊き上げることに尽きる。かくして、いまの日本の食卓に出てくるごはんは、ものすごく粘りが強い。昭和の時代のアミロースが多い米の食感がどんなものだったか、大方の日本人は忘れているのではないか。
フォーのソフトな歯ごたえは、まさにアミロース中心の食感。粘りはほとんどなく、歯にまとわりつくことがない。実にさらり、としている。透明なスープとの相性抜群の「さらり麺」だ。
この場合、薄さが命だろう。アミロース中心の麺が太かったり、厚かったりしたら、歯を押し戻す力がない中に歯がだらしなく埋没していくような中途半端な感じになり、もたつくに違いない。薄ければ、歯がスっと入ったとたんに切れて、心地よい。
この店、これまで食べたどのフォー屋よりうまかった。
ラッキーなことに1時間後、再び近くを通った。よし、失礼してもう1杯食べようか、と思ってのぞいたら、店はもう閉まっていた。
前回はフォーの写真を出しておきながら、肉の話に終始してしまった。今回から麺の話に移る。そのフォーからいこう。
ハノイの旧ハンザ市場の近く。旧市街は、いかにもごちゃごちゃした下町ふぜいが魅力だ。各店舗は間口が狭いからか、通りにまで品を出して売っているので、どことなく屋台店舗風の趣きになる。米粉の菓子、果物、麺類、豆腐、鶏。何でもある。その合間を天秤棒や自転車に野菜などを載せた商人が行き交う。
食品関係の店に混じって、飲食店もいろいろある。店舗内だけでは狭いので、歩道上にもどんどん展開して、プラスチックのイスを並べる。子供用にしか見えない低くて小さなイス。人々はそこに腰掛けて、麺類やベトナム風の濃いコーヒーをゆっくりと楽しむ。
食料品店、飲食店、天秤棒。一つひとつが小さなピースで、街全体がジグソーパズルのように見えてくる。街路樹がどこも適度に張り出して木陰を作っているから、常夏の国ではあっても、意外に涼しい。
その中に、ひときわ、人の出入りが激しいフォー屋があった。間口1.2mほど。見ていると、次々に客が声をかけ、注文が入る。かなりの人気店らしい。「限定××食、売り切れじまい」といった趣きだ。
女性3人で切り盛りしている。1人が外でトッピング用の牛肉をせっせと薄切りにしている。前回書いたように、切った後はあまり間を置かずに使うのが衛生管理上のノウハウ。別の1人が奥で麺をどんぶりに入れ、もう1人が具や調味料を入れて熱いスープを注ぎ、客に出す。見事な連携プレー。
生牛肉のフォーを注文した。念のため、化学調味料は少しにしてね、と言ったら、分かってるわよぉ、と言わんばかりのはじけるような笑顔で応じてくれた。若いベトナム人に聞いたが、ひと頃は化学調味料全盛で、何にでも大量に入れていたが、最近は敬遠する人もいるらしい。
麺。ひたすら薄く仕上げてられていて、スープと一体になったヒラヒラした感触がたまらない。スルスル、スルスル、いくらでも入ってしまう。コシめいたものは全くない。コシが欲しいとも思わない。
麺のコシは、スルスルとすすり上げて口に入れた後、噛んだ時に得られる食感。フォーを食べていて思うのは、薄さとヒラヒラした独特の食感が口いっぱいに広がり、そのボリュームでそれなりの噛み応えがあれば十分、ということ。スープと完全に一体化した麺に、歯を押し戻すようなコシがあったら、かえって邪魔になる。
日本では、麺といえば小麦の麺が中心なので、グルテンの生成によるコシが命ということになっている。沖縄でも、沖縄そばは独特のコシで、その話は以前、万鐘本店で書いたが、ともかくコシがなくては話にならない。パスタもそう。芯が残るくらいのゆで加減がいい、とされる。
フォーの食感は、そうしたコシとは対極にある。が、噛み応えがないわけではない。
フォーの原材料になるベトナムの長粒種のコメは、粘りのないアミロースでんぷんの含有量が日本米より多い。
日本の短粒米の品種改良は、粘りの強いアミロペクチンでんぷんの含有量を上げ、粘りを高めることに力が注がれてきた。電気炊飯器も、コンピューター制御で複雑な火加減を実現しているが、その目指すところは、粘りのあるごはんを炊き上げることに尽きる。かくして、いまの日本の食卓に出てくるごはんは、ものすごく粘りが強い。昭和の時代のアミロースが多い米の食感がどんなものだったか、大方の日本人は忘れているのではないか。
フォーのソフトな歯ごたえは、まさにアミロース中心の食感。粘りはほとんどなく、歯にまとわりつくことがない。実にさらり、としている。透明なスープとの相性抜群の「さらり麺」だ。
この場合、薄さが命だろう。アミロース中心の麺が太かったり、厚かったりしたら、歯を押し戻す力がない中に歯がだらしなく埋没していくような中途半端な感じになり、もたつくに違いない。薄ければ、歯がスっと入ったとたんに切れて、心地よい。
この店、これまで食べたどのフォー屋よりうまかった。
ラッキーなことに1時間後、再び近くを通った。よし、失礼してもう1杯食べようか、と思ってのぞいたら、店はもう閉まっていた。
2010年03月29日
[第162話 食、南] 風で麺を締める
第45話で紹介した沖縄そばづくりについて再び。今回は、製造工程の写真を中心にみてみよう。沖縄そばは生麺のまま流通しているのではなく「ゆで麺」で売られているが、それでもかなりのコシがある。ゆでて時間が経っても「のびない」のは、なぜだろうか。
沖縄県内では、沖縄そばの生麺は売られていない。少なくとも沖縄県民が普通に買い物をする小売店やスーパーにはない。沖縄そばは必ずゆで麺で売られている。名うての沖縄そば専門店も、ほぼ例外なくゆで麺を使う。
東京のスーパーでも、うどんや中華麺のゆで麺が売られているが、コシ、歯ごたえという意味では、やはり生麺のゆでたてには一歩ひけをとる。これと対照的に、ゆでてだいぶ時間が経った沖縄そばのゆで麺には立派なコシがある。どうしたらあの独特のコシが持続するのだろうか。
沖縄そばの製造工程を、豊見城市の亀浜製麺所で見せてもらった。こねた生地をのして細く切る。こね方、のし方も出来上がりのコシの強さに大きな影響を与えるが、今回はそこの話はパスして、ゆでた後、どうするかに焦点を絞ろう。
亀浜製麺所では、鍋から引き上げた麺を作業台にさーっと広げて、扇風機の強風を当てながら、手早く植物油をふりかける。風であら熱をとりながら、同時に、油が全体に均一に回るように、麺をほぐしていく。ひたすら素早く、手早く。まさに職人芸というべき手作業だ。
ほぐされ、あら熱がとれた麺は、機械にかけられた形で、さらに扇風機の風にさらされ、完全に冷やされる。冷却は風で。そうめんを冷やすように水にさらすことはしない。このようにして作られた沖縄そばは、ゆでた後の処理で形成されたコシが4、5日は持続する。
主役は風だ。風で冷やしながら、蒸気をどんどん飛ばしていくことで、水気を切る。この過程で麺が締まっていき、コシが出る。油は、ほぐしている間に麺同士がくっつかないようにするため。一定の水分を飛ばした後は、逆に麺の水分を守って、表面が乾かないようにする。
こうしてゆでた後に脱水冷却処理された沖縄そばは、時間が経過するにつれて熟成が進み、ゆでたてのコシとは微妙に違う独特の噛み応えが出てくる。第45話で「ポクポクした感じ」と説明したが、まさにこれこそが沖縄そばにしかない独特の食感なのだ。
話は変わる。汁麺の麺にはコシが必須と考えている人が日本には多いかもしれないが、コシのない汁麺もいろいろある。その多くは、沖縄そばと同じく、ゆで麺。
例えばベトナム北部でよく食べられるフォー(写真上)は、ひらひらした米の麺で、コシらしきものは全く感じられないが、うまい。同じくベトナムでフォーよりもポピュラーな存在であるブン(写真下)も、米麺のゆで麺で、コシらしいコシはないが、いろいろな汁に入れるとやはりおいしい。
そもそも麺にしてコシが出るのは小麦のグルテンがあるから。米粉にはそういう成分はほとんどないから、コシは初めから期待できない。しかし、フォーやブンを食べていてつくづく思うのは、麺の厚さや幅、舌ざわり、水分の含有量といったコシ以外の要素が全体の食感に大きな影響を与えているということ。米麺では、コシがほとんどなくても、十分おいしく感じられる。
日本では米の消費拡大のために米粉の活用が叫ばれているが、米麺でコシを出そうとするのはあまり意味がなさそうだ。それよりも、コシ以外の要素を研究し尽くして、汁によく合う米粉の麺を作り出そうとする方が前向きというもの。先輩格のおいしい米粉の汁麺は、インドシナ各国やタイに山ほどある。
沖縄県内では、沖縄そばの生麺は売られていない。少なくとも沖縄県民が普通に買い物をする小売店やスーパーにはない。沖縄そばは必ずゆで麺で売られている。名うての沖縄そば専門店も、ほぼ例外なくゆで麺を使う。
東京のスーパーでも、うどんや中華麺のゆで麺が売られているが、コシ、歯ごたえという意味では、やはり生麺のゆでたてには一歩ひけをとる。これと対照的に、ゆでてだいぶ時間が経った沖縄そばのゆで麺には立派なコシがある。どうしたらあの独特のコシが持続するのだろうか。
沖縄そばの製造工程を、豊見城市の亀浜製麺所で見せてもらった。こねた生地をのして細く切る。こね方、のし方も出来上がりのコシの強さに大きな影響を与えるが、今回はそこの話はパスして、ゆでた後、どうするかに焦点を絞ろう。
亀浜製麺所では、鍋から引き上げた麺を作業台にさーっと広げて、扇風機の強風を当てながら、手早く植物油をふりかける。風であら熱をとりながら、同時に、油が全体に均一に回るように、麺をほぐしていく。ひたすら素早く、手早く。まさに職人芸というべき手作業だ。
ほぐされ、あら熱がとれた麺は、機械にかけられた形で、さらに扇風機の風にさらされ、完全に冷やされる。冷却は風で。そうめんを冷やすように水にさらすことはしない。このようにして作られた沖縄そばは、ゆでた後の処理で形成されたコシが4、5日は持続する。
主役は風だ。風で冷やしながら、蒸気をどんどん飛ばしていくことで、水気を切る。この過程で麺が締まっていき、コシが出る。油は、ほぐしている間に麺同士がくっつかないようにするため。一定の水分を飛ばした後は、逆に麺の水分を守って、表面が乾かないようにする。
こうしてゆでた後に脱水冷却処理された沖縄そばは、時間が経過するにつれて熟成が進み、ゆでたてのコシとは微妙に違う独特の噛み応えが出てくる。第45話で「ポクポクした感じ」と説明したが、まさにこれこそが沖縄そばにしかない独特の食感なのだ。
話は変わる。汁麺の麺にはコシが必須と考えている人が日本には多いかもしれないが、コシのない汁麺もいろいろある。その多くは、沖縄そばと同じく、ゆで麺。
例えばベトナム北部でよく食べられるフォー(写真上)は、ひらひらした米の麺で、コシらしきものは全く感じられないが、うまい。同じくベトナムでフォーよりもポピュラーな存在であるブン(写真下)も、米麺のゆで麺で、コシらしいコシはないが、いろいろな汁に入れるとやはりおいしい。
そもそも麺にしてコシが出るのは小麦のグルテンがあるから。米粉にはそういう成分はほとんどないから、コシは初めから期待できない。しかし、フォーやブンを食べていてつくづく思うのは、麺の厚さや幅、舌ざわり、水分の含有量といったコシ以外の要素が全体の食感に大きな影響を与えているということ。米麺では、コシがほとんどなくても、十分おいしく感じられる。
日本では米の消費拡大のために米粉の活用が叫ばれているが、米麺でコシを出そうとするのはあまり意味がなさそうだ。それよりも、コシ以外の要素を研究し尽くして、汁によく合う米粉の麺を作り出そうとする方が前向きというもの。先輩格のおいしい米粉の汁麺は、インドシナ各国やタイに山ほどある。
2009年03月26日
[第108話 食] てだこそばの噛みごたえある麺
浦添にはおいしい沖縄そば店が多いような気がする。万鐘本店でも第82話で高江洲そばを紹介した。今回は、同じ浦添市のてだこそば。個性的な自家製麺が魅力の店だ。
人気のある沖縄そばの麺にはいくつかのタイプがある。一つは、のどごしのよい細めん。亀浜製麺所が作る麺がその代表だろう。細くて薄いがコシがあり、汁によくからむ。なめらかで、スルスルと口に入っていく。「宮古そば」と呼ばれる麺がこのタイプ。こうした麺の作り方と亀浜製麺所の話は第45話で紹介した。
これと正反対なのが「やんばるそば」と呼ばれる太い麺。手打ち風で凸凹しており、ちょっとごつごつした食感で、噛みごたえがある。確かに北部のそばの有名店はこのタイプの麺を出す店が多い。大東そばも同系統。
てだこそばの麺は、なめらか細めんでないことは確か。噛みごたえ十分という意味で、やんばる手打ちそばの系統といえそうだ。しかし―。
よくあるやんばる手打ちそばの場合は、太いうえに太さにかなりの凸凹があるので、細めんのようにスルスルと吸い上げるのは難しい。というより、やんばる手打ちそばは太くてボリュームがあるので、ひと箸で持ち上げた全量を1回では口に納めきれない。短い長さで噛み切ってはモグモグして飲み下し、またすぐに噛み切ってはモグモグして飲み下し、といった具合に、断続的に食べ進むことになる。
てだこそばの麺は、やんばる手打ちそば風の凸凹のある固めの麺ではありながら、太さをその半分くらいに抑えているので、スルスルと食べることができるのだ。何気なく食べ始めると、細めんなのかなと思うほどの口あたり。しかし麺が舌に触れ、奥歯で噛む段になると、それが細めんでないことはすぐに分かる。
てだこそばの麺は、あまりスルスルと一気にたくさん口に入れてしまわない方がいい。適量入れては、モグモグとよく噛んで、その歯ごたえをじっくり楽しむのが正解だろう。
細めんの沖縄そばは、熱い汁に入れて時間が経つとどうしてもコシが弱くなってしまうが、てだこそばの麺は、相当に熱い汁に浸っていても長時間にわたって噛みごたえが持続する。
汁や具も、この麺が生きるように工夫されている。代表メニューの、三枚肉がのった沖縄そば。汁は白濁した豚骨スープで、麺によくからむ。強い麺なので、それに負けないだけの強さをもった汁にしてある。三枚肉の煮方も同様。とろけるまで柔らかくしてしまうと麺と釣り合わなくなるからだろう、柔らかいけれどもある程度の歯ごたえを残していて、うまい。
てだこそばのソーキそばには軟骨ソーキがのっている。軟骨ソーキは、普通のあばら肉のソーキとは違うが、要は、普通のソーキの骨の部分を軟骨に置き換えたものを思い浮かべればいい。軟骨にとろり感が出るまでじっくり煮たものは、軟骨の部分も含めてすべて食べられる。てだこそばの軟骨もとろりとしていておいしい。とろり軟骨と白濁スープとの相性のよさは、高江洲そばの巻でも指摘した。
タコス風の豆腐そばといった変わりそばメニューもいろいろあるが、まずは、三枚肉のせ沖縄そばとソーキそばをお試しあれ。麺の噛みごたえを求める向きには最高のそば。好みに合わせて、麺を柔らかめにゆでてもらうこともできる。
てだこそばは浦添市仲間1-2-2 コーポ西原101、098-875-5952、月曜休。
人気のある沖縄そばの麺にはいくつかのタイプがある。一つは、のどごしのよい細めん。亀浜製麺所が作る麺がその代表だろう。細くて薄いがコシがあり、汁によくからむ。なめらかで、スルスルと口に入っていく。「宮古そば」と呼ばれる麺がこのタイプ。こうした麺の作り方と亀浜製麺所の話は第45話で紹介した。
これと正反対なのが「やんばるそば」と呼ばれる太い麺。手打ち風で凸凹しており、ちょっとごつごつした食感で、噛みごたえがある。確かに北部のそばの有名店はこのタイプの麺を出す店が多い。大東そばも同系統。
てだこそばの麺は、なめらか細めんでないことは確か。噛みごたえ十分という意味で、やんばる手打ちそばの系統といえそうだ。しかし―。
よくあるやんばる手打ちそばの場合は、太いうえに太さにかなりの凸凹があるので、細めんのようにスルスルと吸い上げるのは難しい。というより、やんばる手打ちそばは太くてボリュームがあるので、ひと箸で持ち上げた全量を1回では口に納めきれない。短い長さで噛み切ってはモグモグして飲み下し、またすぐに噛み切ってはモグモグして飲み下し、といった具合に、断続的に食べ進むことになる。
てだこそばの麺は、やんばる手打ちそば風の凸凹のある固めの麺ではありながら、太さをその半分くらいに抑えているので、スルスルと食べることができるのだ。何気なく食べ始めると、細めんなのかなと思うほどの口あたり。しかし麺が舌に触れ、奥歯で噛む段になると、それが細めんでないことはすぐに分かる。
てだこそばの麺は、あまりスルスルと一気にたくさん口に入れてしまわない方がいい。適量入れては、モグモグとよく噛んで、その歯ごたえをじっくり楽しむのが正解だろう。
細めんの沖縄そばは、熱い汁に入れて時間が経つとどうしてもコシが弱くなってしまうが、てだこそばの麺は、相当に熱い汁に浸っていても長時間にわたって噛みごたえが持続する。
汁や具も、この麺が生きるように工夫されている。代表メニューの、三枚肉がのった沖縄そば。汁は白濁した豚骨スープで、麺によくからむ。強い麺なので、それに負けないだけの強さをもった汁にしてある。三枚肉の煮方も同様。とろけるまで柔らかくしてしまうと麺と釣り合わなくなるからだろう、柔らかいけれどもある程度の歯ごたえを残していて、うまい。
てだこそばのソーキそばには軟骨ソーキがのっている。軟骨ソーキは、普通のあばら肉のソーキとは違うが、要は、普通のソーキの骨の部分を軟骨に置き換えたものを思い浮かべればいい。軟骨にとろり感が出るまでじっくり煮たものは、軟骨の部分も含めてすべて食べられる。てだこそばの軟骨もとろりとしていておいしい。とろり軟骨と白濁スープとの相性のよさは、高江洲そばの巻でも指摘した。
タコス風の豆腐そばといった変わりそばメニューもいろいろあるが、まずは、三枚肉のせ沖縄そばとソーキそばをお試しあれ。麺の噛みごたえを求める向きには最高のそば。好みに合わせて、麺を柔らかめにゆでてもらうこともできる。
てだこそばは浦添市仲間1-2-2 コーポ西原101、098-875-5952、月曜休。
2008年03月13日
[第45話 食] 沖縄そば 麺のひみつ
沖縄そばの麺とは、いったい何者なのだろうか。小麦粉に塩と灰汁やかんすいを入れて練り上げた麺で、その多くは平麺。中華麺のようでもあるが、口当たりが微妙に違う。太めの沖縄そばの場合は、うどんやきしめんに似ていなくもないが、やはり食感が違う。パスタっぽい沖縄そばもあるが、パスタのような素直な歯ごたえではない。
原材料からすれば、中華麺に近い。アルカリである灰汁やかんすいが入って独特のコシが出るあたりはそっくり。だが、沖縄そばは中華麺とは練り方やのし方が違うので、同じコシでもソフトな感じになる。
もう一つ、大きな違いがある。沖縄そばは、中華麺のように茹でたてを食べないこと。沖縄そば専門店のほとんどは、冷たくなった茹で麺を湯で温めてから使う。
「麺というのは、茹でたてよりも、時間が経ってからの方が味が出るんですね」と話すのは、亀浜製麺所代表の亀浜貞夫さん。確かに味はそうなのかもしれないが、時間が経ったら麺はのびてしまうのでは、という声が聞こえてきそう。だが、心配御無用。
沖縄そばは、茹で上げためんに植物油をまぶしてから、風を当てて冷ます。水にさらすことはない。亀浜さんは、冷ます工程で余分な水分を飛ばすことが大切だと語る。これで麺が締まり、めんのコシが保たれる。
こうして得られるコシは、茹でたてのコシとは微妙に違う。「歯が食い込もうとするのを必死で押し戻そうとする麺の弾力」が、茹でたてのコシ。沖縄そばにもそうしたコシはあるが、それに加えて、独特のポクポクした食感が伴う。このポクポク感は、不思議なことに茹でたてでは得られない。
原材料はほとんど中華麺と同じながら、食べて明らかに違いを感じるのは、このポクポク感の有無だ。これぞ沖縄そば、と言ってもいいくらいの個性がそこにある。生麺の沖縄そばをおみやげに買って帰った観光客が、自宅で茹でたての沖縄そばを食べる時に「沖縄で食べたのと、なんか違うなあ」と感じる違和感の正体は、恐らくこれだろう。
だから、自宅で沖縄そばを作る時は、生麺ではなく、ゆで麺を買ってきて、湧かしたお湯に4、5秒つけて油落としと加温をし、どんぶりに入れてつゆをはれば、沖縄そばらしい食感の沖縄そばになる。沖縄そば専門店と同じやり方だ。現に沖縄のスーパーでは、沖縄そばの茹で麺は何種類もあるが、生麺はまず見かけない。
亀浜製麺所の沖縄そばは、細めの平麺。繊細な口当たりで、ポクポク感としっかりしたコシがあり、のどごしもいい。亀浜さんは、大手の麺メーカーがやっていない手作りの工程を大事にしているという。沖縄県内の名だたる沖縄そば専門店が、亀浜麺を採用している。
亀浜麺はスーパーには置かれていないので、県民の多くは亀浜麺を沖縄そば店でしか味わうことができない。亀浜麺を使って自分で沖縄そばを作りたい人は、亀浜さんが先代からのつき合いを大事にしながら商品を卸している小売店が3カ所だけあるので、そこで買える。
・那覇市松山2丁目22−1−1F 若松公設市場内の与那嶺商店 098-868-9132
・那覇市若狭2丁目12−11−1F ストアー上原 098-868-3747
・宜野湾市普天間2丁目13−5 中央ミート普天間店 098-892-5634
亀浜製麺所は豊見城市保栄茂1163-1、電話098-856-7103。
原材料からすれば、中華麺に近い。アルカリである灰汁やかんすいが入って独特のコシが出るあたりはそっくり。だが、沖縄そばは中華麺とは練り方やのし方が違うので、同じコシでもソフトな感じになる。
もう一つ、大きな違いがある。沖縄そばは、中華麺のように茹でたてを食べないこと。沖縄そば専門店のほとんどは、冷たくなった茹で麺を湯で温めてから使う。
「麺というのは、茹でたてよりも、時間が経ってからの方が味が出るんですね」と話すのは、亀浜製麺所代表の亀浜貞夫さん。確かに味はそうなのかもしれないが、時間が経ったら麺はのびてしまうのでは、という声が聞こえてきそう。だが、心配御無用。
沖縄そばは、茹で上げためんに植物油をまぶしてから、風を当てて冷ます。水にさらすことはない。亀浜さんは、冷ます工程で余分な水分を飛ばすことが大切だと語る。これで麺が締まり、めんのコシが保たれる。
こうして得られるコシは、茹でたてのコシとは微妙に違う。「歯が食い込もうとするのを必死で押し戻そうとする麺の弾力」が、茹でたてのコシ。沖縄そばにもそうしたコシはあるが、それに加えて、独特のポクポクした食感が伴う。このポクポク感は、不思議なことに茹でたてでは得られない。
原材料はほとんど中華麺と同じながら、食べて明らかに違いを感じるのは、このポクポク感の有無だ。これぞ沖縄そば、と言ってもいいくらいの個性がそこにある。生麺の沖縄そばをおみやげに買って帰った観光客が、自宅で茹でたての沖縄そばを食べる時に「沖縄で食べたのと、なんか違うなあ」と感じる違和感の正体は、恐らくこれだろう。
だから、自宅で沖縄そばを作る時は、生麺ではなく、ゆで麺を買ってきて、湧かしたお湯に4、5秒つけて油落としと加温をし、どんぶりに入れてつゆをはれば、沖縄そばらしい食感の沖縄そばになる。沖縄そば専門店と同じやり方だ。現に沖縄のスーパーでは、沖縄そばの茹で麺は何種類もあるが、生麺はまず見かけない。
亀浜製麺所の沖縄そばは、細めの平麺。繊細な口当たりで、ポクポク感としっかりしたコシがあり、のどごしもいい。亀浜さんは、大手の麺メーカーがやっていない手作りの工程を大事にしているという。沖縄県内の名だたる沖縄そば専門店が、亀浜麺を採用している。
亀浜麺はスーパーには置かれていないので、県民の多くは亀浜麺を沖縄そば店でしか味わうことができない。亀浜麺を使って自分で沖縄そばを作りたい人は、亀浜さんが先代からのつき合いを大事にしながら商品を卸している小売店が3カ所だけあるので、そこで買える。
・那覇市松山2丁目22−1−1F 若松公設市場内の与那嶺商店 098-868-9132
・那覇市若狭2丁目12−11−1F ストアー上原 098-868-3747
・宜野湾市普天間2丁目13−5 中央ミート普天間店 098-892-5634
亀浜製麺所は豊見城市保栄茂1163-1、電話098-856-7103。