コメ

2013年09月14日

泡盛独特の風味のヒミツ

 1回飛んでしまいましたが、泡盛とアジア米酒のお話の後編です。原料が長粒種のコメであること、イモなどの副原料を一切入れずに米麹100%の全麹で醸すこと。こうしたアジア米酒と泡盛の共通点を、前編では書きました。今回は、違いの方を書いてみます。

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 この写真、ひょっとすると本邦初公開、かも。ラオス南部の市場に置かれていたものです。これがアジア米酒を作る時に使う種菌なんだそうです。

 菌の種類は分かりませんが、文献には、アジア米酒はクモノスカビなどの菌で発酵させるとありましたので、その仲間かなと想像しています。おそらく、米粉のダンゴに菌を繁殖させてから乾かしたものではないでしょうか。

 一方、泡盛の場合は、黒麹(くろこうじ)菌という、その名の通り、黒い菌糸を出すコウジカビを使います。泡盛の仕込みの様子はしばらく前のこのブログ記事で書きましたので、そちらをどうぞ。

 こうしたカビを使うのは、カビがいろいろな酵素を出して、原材料のデンプンやタンパク質を分解してくれるから。

 コウジカビはすぐれもので、相手がデンプンならデンプン分解酵素を出し、相手がタンパク質ならタンパク質分解酵素を出すんです。相手を選ぶとは、ずいぶん高度な能力ですね。

 クモノスカビはコウジカビとは違いますので、正確に言えばアジア米酒を「全麹(ぜんこうじ)仕込み」と呼ぶのはおかしいのですが、この記事では、イモなどの副原料なしで、麹のような、菌を米に繁殖させたものだけで醸す、という意味で使っています。

 さてさて、泡盛とアジア酒に話を戻せば、原材料や製造方法がよく似ていても、使う菌が違うので、生成される香気成分・旨味成分が異なり、その結果、でき上がる酒の風味が違ってきます。

 クモノスカビで醸されるアジア米酒は、もちろん特有の風味はありますが、総じてあまりクセのないすんなりした味わい。泡盛の黒麹菌が作り出す風味に比べると、おとなしい感じがします。

 これに対して、泡盛の味と香りは個性的。好き嫌いが分かれるかもしれません。

 が、例えば、ももと庵メニューでも、泡盛をアイスクリームと合わせた時の複雑玄妙な味わいやハンバーグソースの陰影を感じさせる深み、豚重タレの甘くないのに深い旨味などは、やはり泡盛でないと出せないように思います。

 というわけで、ももと庵の厨房では、沖縄特産の泡盛、大活躍しております。

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2013年09月06日

泡盛とアジア酒は "全麹" 兄弟

 先日、泡盛アイスの話をしました。泡盛つながりで、東南アジアにいる泡盛の兄弟たちのことを2回に分けて書いてみます。

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 沖縄の泡盛は、昔からタイの長粒米で作られます。今もそう。

 かつて琉球王国のアジア貿易が盛んだったころー。行き来がひんぱんだったシャム、つまり現在のタイとの交易の中で、泡盛の原型といえるタイの酒がもたらされたり、その製法が伝えられたりしたのではないか、と想像されています。

 というのも、現在も、タイをはじめ、東南アジア各地では、泡盛によく似た酒が作られているからです。

 いずれも原料は、泡盛と同じ長粒種のコメ。タイ、ベトナムを筆頭に、東南アジア各国は世界有数の米どころです。ことしの1月にアジア米について6回シリーズでお伝えしましたね

 東南アジアでは、そのコメに菌を繁殖させて麹状のものにし、それに水を加えて発酵させ、液状のもろみを作ります。冒頭の写真がそれ。ベトナムの農村で見たものです。

 これを蒸留すると、無色透明の酒ができます。下の写真はもろみを蒸留しているところです。

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 手前と向こうに同じ大きさの鍋が置かれていますね。そこにもろみを入れ、火にかけ、蒸発してくるアルコールを含んだ蒸気をパイプで、真ん中のドラム缶に送り込みます。

 ドラム缶には水が張ってあり、パイプはその中を通るうちに冷やされ、気体が液体に変わります。パイプの出口に容器を置いて、ポタポタとしたたり落ちてくる酒を集める、という仕組み。

 ごらんになって分かるように、まさに家内工業。もっぱら奥さんの仕事です。

 現地の人によると、作る人によって味がだいぶ違ってくるので、どこの地域でも腕自慢の女性が何人かはいて、その人が作る米酒は人気なんだとのこと。

 これはおいしいよ、と言って勧められた米酒は、よい風味があって、確かにおいしかったです。

 ラベルもパッケージもなしで、空いたペットボトルなどの空き容器に入れられ、ローカルに売られています。

 こうしたアジアの米酒も沖縄の泡盛も、九州などで作られる焼酎とは大きな違いがあります。

 焼酎は、米麹に、麦を入れたり、サツマイモを入れたりしますが、アジアの米酒も沖縄の泡盛も、米麹と水のみ。これ以外に、副原料を一切入れない「全麹(ぜんこうじ)」仕込みなんです。

 全麹というのは、とてもぜいたく。発酵のもとである米麹を大量に入れれば、酒のうまみや香りの成分がたっぷり生成されるからです。

 だから泡盛は、時間が経過すると、発酵によって潤沢に作られた成分の熟成が進み、古酒になって風味が増します。麹以外の副原料をたくさん入れて作った焼酎の場合、そうはならないようです。

bansyold at 15:25|PermalinkTrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック