トーナチン

2009年05月19日

[第117話 農] トーナチンが実をつけた

 モロコシという穀物がある。トウモロコシではない。トウのつかないモロコシ。沖縄ではトーナチンと呼ぶ。かつては沖縄各地で栽培されていたが、今では離島など一部で作られるだけになってしまった。南城市の奥武島で、実をつけ始めたトーナチンを見た。

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 トーナチンは、イネ科の穀物。トウモロコシを細くしたような茎と葉で、穂は初めは葉に包まれているが、やがてそこから飛び出し、ススキのように一番上のところで赤茶色の丸い実を膨らませる。英語名はソルガム、中国ではコウリャン、日本ではタカキビと呼ばれることも。

 トーナチンは世界中で作られている。例えば、南部アフリカ各地では、脱穀した後に製粉し、固練りにして食べる。固練りはもち、ごはん、おかゆを足して3で割ったような食感。皮の色が出るので、固練りも茶色と紫色の間のような色になる。穀類特有の味と香りが魅力だ。

 全粒粉で食べるから、栄養豊富。例えば、玄米と比べると、トーナチンのスーパー穀物ぶりがよく分かる。タンパク質は玄米6.8gに対してトーナチンはなんと10.3g、ビタミンB2は玄米0.04mgに対してトーナチン0.1mg。食物繊維も3gに対して9.7gだ。

 南部アフリカの一部では、伝統的主食であるトーナチンの固練りが、トウモロコシの真っ白な固練りにとって代わられた。トウモロコシの固練りはクセがないので、ちょうど白いごはんのように、おかずとよく合う。社会が豊かになり、野菜や肉、卵を食べる機会が増えると、「銀しゃりにおかず」ならぬ「白いトウモロコシ固練りにおかず」の食事が好まれる、ということかもしれない。

 確かに、トーナチンの固練りはそれ自体にしっかりした味がある。トーナチンの味は、タンパク質やビタミンなどの「栄養の味」。ぬか成分がたっぷり残っている玄米の味を思い浮かべればいい。玄米はおいしいが、何にでも合うというわけではないところが、トーナチンと似ている。しかもトーナチンは玄米よりもっと栄養豊富で味が濃い。

 沖縄ではトーナチンを粉にひいて、モチ粉に混ぜ、ムーチーを作って食べる。トーナチンを入れると、ムーチーに独特の味がつく。少しざらざらした食感になるが、それがまたいいという人が多い。旧暦12月のムーチーの季節になると、スーパーにトーナチンの粉が出回る。ただし、沖縄県産ではなく、海外からの輸入ものがほとんど。

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 奥武島で聞いた話では、トーナチンは脱穀した後、水に数時間つけてアクぬきしてから乾燥させる。粉にひくのは、昔は石臼だったが、今は製粉機。

 実は、このトーナチン、必ずしも粉にしなくてよい。「トーナチンを水につけて柔らかくすれば、ミキサーでも大丈夫ですよ」。奥武島のあるおばあが話してくれた。言われてみれば、かつて、石臼で穀類や豆をひく時にも、水につけて柔らかくしたものをひいて、ドロドロの液状にしていた。いわゆるシトギ。

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 ところで、トウモロコシは登熟しても実が覆われているからいいが、トーナチンのように、株のてっぺんにむき出しの実をつけるタイプの穀類は鳥にやられる。さあ、明日にでもいよいよ収穫するか、というその前日に鳥はいずこからかやってきて、食べごろの実をきれいに平らげてしまう。熟していない実は決して食べない。

 いったいどんなセンサーがついているのか知らないが、鳥たちの正確な判断力にはただただ脱帽するしかない。奥武島でも、丸々とした実をつけた穂だけが選ばれ、袋がけされていた。

bansyold at 14:30|PermalinkTrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック