マーガリン

2007年11月24日

[第26話 食] 来るか、ラード復権の時

 ラード=豚の脂といえば、「ダイエットの敵」「体に悪い」と思われがち。だが、良質のラードが持つ香りとコクは本当にすばらしい。写真は万鐘島ぶたからとったラード(非売品)。28度くらいの室温ではトロリとした半液状だ。

Lard1

Lard2

 良質のラードがいかにおいしいか。とんかつ専門店の多くが豚肉をラードで揚げていることはよく知られている。加熱したラードの香ばしさとコクは、植物油の比ではない。

 世界にいる豚総頭数の1/3を擁する豚の国、中国。今でこそ、発育が速く経済性の高い大型の西洋種が主流になっているが、かつては中型のラードタイプが中心だった。ラードタイプとは、脂肪が厚く、ラードがたくさんとれる品種のこと。これは、肉以上にラードが重要な生産物だったからだ。

 沖縄の在来種アグーも、典型的な中型のラードタイプの豚。下の写真はアグーの純系種をカットしているところだが、肉の周囲に脂がたっぷりついているのが分かる。脂の厚みは西洋種の3、4倍はあるだろう。昨今はアグーの肉がもてはやされているが、もともとは、ラードの生産が重要だったのだ。

Lard3

 なぜそれほどラードが大切だったのか。答は、ラードの方が肉よりも「使いで」があったから。貧しい時代のふだんのおかずは野菜ばかりだが、その中にラードをひとさじ加えると、味も香りも栄養価もグンと高まった。ラードはわずか20gで家族全員に栄養と満足を与えることができた。豚肉もタンパク質というすばらしい栄養を含んでいるが、さすがに20gでは、そこまでの芸当はできない。

 ラードは薬としても使われていた。昔の沖縄では、熱が出ると、ラードと塩を混ぜて背中に塗った。地球を半周した南アフリカ共和国北部のある農村でも、発熱した子供の背中にはラードを塗る、と現地の人が話すのを聞いたことがある。面白いことに、その際には塩を混ぜるという点まで沖縄と同じだった。

 さて、そんなラードを現代の私たちはどう食べればいいか。どれほど良質なラードでも、脂である以上、カロリーは高いし、一定量のコレステロールを含むから、食べすぎはいけない。だが、どのみち油脂類の摂取は必要なのだから、他の油脂を控え、ここぞ、という時には良質のラードを使ったらどうだろう。

 欧米諸国やFAO、WHOなどの国際機関で「アレルギー疾患を悪化させる」「胎児、乳児に悪影響」「ボケを引き起こす」など、その悪影響が次々に明るみに出ているトランス脂肪酸。これは、マーガリン、ショートニングに代表される硬化植物油や、高温で抽出された植物油などに多く含まれる。米国政府は、既に、マーガリンなどのパッケージにトランス脂肪酸の含有量を表示することを義務づけている。

Lard4

 ファーストフードのカリカリフライドポテトを揚げる油も同様の植物油。売れ残ったフライドポテトにはハエも近づかないし、菌がつかないから何日も腐らない、という話があるらしい。トランス脂肪酸は自然界にはほとんどないもので、言う人に言わせれば「油のプラスチック」。こうした表現がどこまで当たっているかはともかく、「植物性だから体にいい」というような単純な話でないことだけは確かなようだ。

 人間の、動物としての感覚をもう少し信じてもいいんじゃないか、と万鐘は考える。例えば、かつてのマーガリンは非常に臭かったし、何とも気持ちの悪い味がした。最近はさまざまな技術でその異様さを懸命に抑えようとしているが、それでも本物のバターのようなすっきりした透明感は望めない。

 この「臭い」「気持ち悪い」は、体になじまないものとして体自身が拒絶反応を示している証拠、と考えれば分かりやすい。逆に、体にいいものは「すっきりしている」。その結果、豊かな時代にはついつい食べ過ぎるから体に悪い働きをする結果になりがち、ということなのではないだろうか。

 もちろんラードにもピンからキリまである。豚の飼い方や餌にもいろいろあるから、それは当然だ。胸が悪くなるようなラードは、体に悪いものを含んでいるのだろう。しかし、芳香を漂わせる良質のラードは、もっと食べられていい。チャンプルーの類だけでも、こうしたラードで作れば、うまさ3倍増間違いなし、だ。

 ラードの機能に関する研究が今後さらに進めば、体によいの成分の存在が分かるなどして、本格的な復権の時がやって来るかもしれない―。豚屋の万鐘はそう夢見ている。

bansyold at 00:00|PermalinkTrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック