全麹仕込み

2011年01月09日

品質の頂点も、すそ野拡大も

沖縄を創る人 第2回
 崎山酒造廠専務 崎山淳子さん(下)


 泡盛の麹は48時間で作られるのが普通とされる。それをさらに寝かせたらどうなるか―。

 崎山淳子さんが、崎山酒造廠の歴史を義母から聞き取りした際に、昔の泡盛はまったりしたうま味がもっとあったと言われた。そのために、製麹の時間が今よりも長かった、というのだ。かつてはその義母自身が崎山酒造廠の麹づくりを担当していたのだから間違いない。

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 義母から話を聞いた淳子さんは、近く迎える創業100年にぜひそんな泡盛を出したいと考えた。和章社長に提案してみたところ、「データはあるよ」との答が返ってきた。寝かせる期間の長い、昔ながらの麹の実験を、学究肌の和章社長はこつこつと進めていたのだ。

 「三日麹(みっかこうじ)」。従来の1.5倍の期間で作られた麹が醸す泡盛は、うま味成分が確実に増える。

 つまり、粗濾過松藤とは、三日麹によって濃厚な味のもろみを醸すことで、蒸留後に含まれるうま味成分を増やし、さらに、最小限の濾過によってそれらをたっぶり残したコクのある泡盛、ということになる。

 かつての泡盛は、菌の管理技術が今ほどではなく、風味がきつかったため、そのきつさをいかに減らすかばかりが追求された。その結果が48時間麹になり、濾過によるうまみ成分の除去にもなった。

 現在は高度な菌の管理技術があるので、臭みは抑えられる。にもかかわらず、泡盛特有の風味を減らすことが当然視され続けていた。粗濾過松藤は、そんな風潮に対する、小さいけれど核心を突いたレジスタンスだった。

 淳子さんは、コクとうま味の粗濾過松藤とは全く異なるコンセプトの商品も世に問うている。「赤の松藤」。平成18年に発売された。

 「泡盛をもっと多くの女性に飲んでほしいと思いました」


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 かつての泡盛は安酒の代名詞。家では飲んでも、店で飲む酒ではなかった。既に書いたように、風味のきつい酒でもあった。最近、そういう泡盛は減ったとはいえ、まだ女性が気軽に飲むイメージの酒ではないと思われているところがある。

 昔ながらの泡盛らしいコクとうま味が旗印の粗濾過松藤とコントラストをなすように、赤の松藤は、軽さ、甘さ、まろやかさが特徴だ。泡盛を飲み慣れていない人でも気軽に楽しめる。

 マイルドさの追求ということでは、どのメーカーも、水で薄めてアルコール度数を低くした商品を以前から出していた。しかし、赤の松藤は、醸造酵母をそれまでと違う「黒糖酵母」にすることで、酒の味わい自体を、甘くて軽やかな、飲みやすいものに変えた。水で薄めてマイルドにするのではなく、初めからまろやかな風味の酒を作ったのである。

 ラベルは赤。松藤の文字はアルファベット。従来のクラシックな松藤ブランドのラベルとはだいぶ違う斬新なデザインになった。

 赤の松藤は、価格の手頃な普通酒。コストをかけて品質の頂点を極めようとするばかりでなく、こうした商品の開発を通じて、淳子さんは泡盛市場のすそ野拡大にも情熱を燃やす。経営者として決定的に重要なスタンスだろう。

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 淳子さんは、泡盛以外も視野に入れている。昨年12月に発売された薬膳味噌。玄米やはと麦、黒ごまなどを使ってじっくり熟成させる食育研究家知念美智子さんの薬膳味噌に関心を持った淳子さんは、特許を持つ知念さんのもとに通い、教えを受けるとともに、崎山酒造廠での製造を認めてもらった。

 旧石川市(現うるま市)で育った淳子さんが子供の頃、母は味噌を手作りしていた。味噌は体にいいー。そんな感覚が自然と培われた。味噌についていろいろ勉強していくと、健康を高める優れた機能が味噌に含まれていることが分かってきた。

 「麹つながり、ですね」

 泡盛も味噌も、麹がなければ作れない。麹のありがたみは、泡盛を作る者としてよく知っている。「酒屋さんが作るなんていいね」と知念さんが言ってくれたのが嬉しかった、と淳子さんは言う。

 淳子さんの豊かな発想と行動力が、しっかりした理論や実験を重視する慎重派の和章社長の背中をそっと押す。こうして生み出されてきた新しいうねりの数々。次はどんな扉が開かれるのだろうか。


[崎山淳子さんとつながる]
 崎山酒造廠は国頭郡金武町字伊芸751、098-968-2417。公式HPで崎山淳子さんの女将さんブログが読める。同社の各商品も買える。HPには、松藤が飲める全国のお店一覧が載っているので、手っ取り早く試してみたい方はそのお店へ。

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2009年08月30日

[第132話 食] 泡盛の全麹仕込みを見た

 泡盛は麹と水と酵母だけでもろみを仕込む全麹仕込み。イモや米などの副原料を一切入れない。名護の名酒「國華」を作っている津嘉山酒造所で、もろみを仕込む「造り」の作業を見せてもらった。

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 津嘉山酒造所は、沖縄戦の戦火を奇跡的に逃れた築80年を超す昔の建物で、今も泡盛を醸造している。この建物はことし、国の重要文化財に指定された。居住用の建物と泡盛製造用の建物とが一体になった昔の酒造所の造りをそのまま残している。

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 仕込みは月に数回。沖縄県産の黒麹菌を、蒸したタイ米にふりかけ、麹室(こうじむろ)で米に菌が回るのを待つ。3日目には黒麹菌の菌糸が米に充分に入り込むので、まずは、大きなしゃもじで、それをよくほぐす。もうもうと上がる湯気。それに乗って飛散する菌糸。

 湯気からはかなりの高温を想像するが、聞けば中の温度は30度台後半という。40度以上になると菌が死滅してしまうらしい。麹菌は自分で温度を上げるのにもかかわらず、その温度で自分が死んでしまうという一見矛盾した働きをするところがおもしろい。温度が上がりすぎるのを防ぐため、麹室は冷却用の送風装置を備えている。

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 麹をよく見ると、黒っぽい菌糸が表面にたくさんついているのが分かる。この黒いかびがでんぷん分解酵素を出して、米のでんぷんを糖に変えていく。

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 ほぐしが終わったら、麹を仕込みタンクに投入する。タンクの中にはあらかじめ、水と酵母が入れてある。「2、3日すると、盛んに泡を出して元気に発酵しますよ」と大城宜実さん。麹がでんぷんから作った糖分を、今度は酵母がアルコールに変える番。いよいよアルコール発酵である。

 タンクは、夏場で2週間、冬場なら4週間をかけてアルコール発酵させ、もろみが出来上がる。これを蒸留すれば泡盛の完成だ。

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 日本酒の場合は、もろみの前に麹と酵母と米を混ぜて酒母(もと)をつくり、さらにそれにまた米を加えてもろみを作る。いずれにしても、米麹以外に米が2段階にわたって加えられる。焼酎の場合も、酒母こそ全麹仕込みだが、その後でイモやムギや米を加えてもろみを作る。

 これに対して泡盛は、麹になった米以外の米は全く加えない。もちろん、イモやムギも入れない。麹と水と酵母だけで、一発でもろみを作る。これを全麹仕込みという。麹の酵素たっぷりの、まことにぜいたくな仕込みと言えるだろう。

 泡盛の麹は黒麹菌。その名の通り、かなり黒い。だから、もろみも真っ黒だ。

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 もろみのタンクも温度が上がる。そのままにしておくと酵母がやられてしまうので、タンクに沈めてある冷却装置で温度を下げる。

 昔はカメ仕込みだった。当然ながら冷却装置などない。「カメくらいの量だと温度はそれほど上がらないんです」と大城さんが解説してくれた。タンクで大量に仕込むから温度が上がるということらしい。

 タンクの周囲の建物の梁には、黒麹菌の菌糸がたくさんついている。いわゆる「蔵付きの菌」。麹室で麹をかきまわすのを見ていたら「鼻の中が真っ黒になりますよ」と言われた。黒麹菌は麹室内で爆発的に増えており、それをかき回すたびにかなりの量が飛散するから、長い間に醸造所全体が黒麹菌だらけになる。

 津嘉山酒造所の歴史は80年を超す。この蔵付きの菌、沖縄戦もアメリカ世も本土復帰も、すべて経験していることになる。激動の沖縄現代史を経た味と香り。なんだが妙に想像力がかきたてられる。

 津嘉山酒造所は名護市大中1-14-6、0980-52-2070。HPはこちら

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