名護

2009年10月11日

[第138話 食、農] 砂糖を入れないパイン缶

 パイン缶といえば、おいしいが、それほどありがたいものでもないーといったところか。そんなイメージを打ち破るパイン缶が人気を呼んでいる。砂糖を全く使わないパイン缶「ロイヤルスウィート」がそれ。

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 砂糖を使わないパイン缶を作っているのは、名護パイン園グループの株式会社名護パイナップルワイナリー。

 同社常務取締役の上江洲朝則さんによると、ロイヤルスウィートは、7月下旬から8月下旬にかけて出荷される糖度の高いパインだけで作る。パインは9月下旬から11月上旬にも出荷されるが、この時期のパインは糖度が低いので、砂糖なしでは作れない。

 盛夏の時期のパインならすべていいかというと、そうはいかない。パインは底の部分から上に向けて糖度が上がっていく。つまり葉に近い上の部分は甘味が弱い。だから砂糖なしのパイン缶を作る時には、上の部分は入れられない。本当に甘くておいしい部分だけを使ったぜいたくなパイン缶なのだ。砂糖なしで作るのに必要な糖度は最低14度。

 価格は1缶598円。スーパーの砂糖入りパイン缶と比べると、かなりの価格ではある。

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 そのロイヤルスウィートを食べてみた。非常にすっきりしている。砂糖のしつこさが全くなく、砂糖入りのパイン缶とは確かに違う。よく冷やして食べると、おいしさはひとしお。

 砂糖入りパイン缶のシロップは強いので、そのまま飲むのは抵抗があるが、ロイヤルスウィートの汁ならいくらでも飲める。

 名護パイナップルワイナリーが砂糖なしのパイン缶を作り始めて7年目になる。「おかげさまで、ことしはよく売れています」と上江洲さん。例年は、盛夏に作ったパイン缶を半年ほどかけて売っていくのだが、ことしは3カ月ほどで完売の見込みという。

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 ロイヤルスウィートを作った背景には、深刻なパインの減産傾向があった。沖縄のパイン生産は年々減っている。理由は簡単。もうからないから、やめる農家が多いのだ。やめないまでも、後継者はいないという農家が多い。

 名護パイン園グループの基幹施設ナゴパイナップルパークはパイン農家があってこそのテーマパーク。「農家がちゃんとうるおう買い入れ価格を実現できる付加価値商品をなんとか作れないかと思ったんです」と上江洲さん。
 
 人気ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」のやまけんこと山本謙治さんは「日本の農産物は安すぎる」と主張しているが、パインもその例に漏れない。実際、パインに限らず、農業は、天候や病虫害のリスクがむやみと大きいのに、利益はあきれるほど小さいから、総じてもうからない。下手をすればすぐ赤字。これでは、やる人が減っていくのは当然の結末だろう。
 
 前回取り上げたやんばるの農家直販市も、今回のロイヤルスウィートも、農家を実質的に支える取り組み。農家が衰退してしまったら成り立たない仕事をしている人々が、ある意味では農家以上に危機感をもって、新しい仕組みづくりを模索しているといえそうだ。

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 ロイヤルスウィートはパイナップルパークで買えるほか、通販でも取り寄せられる。詳しくはパイナップルパークのHPで。パイナップルワイナリーは名護市為又1196-7、0980-53-0017。

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2009年09月06日

[第133話 食] 汁の味を変えられる八重そば

 名護の沖縄そば店で。左の男性は「いただきます」と箸を入れたところ。ゆっくりと箸を動かし、麺と汁をなじませる。穏やかな笑みの中に、おいしいものをいただく喜びがにじむ。

 さて、右の人は? 食後のお茶か。いやいや、この人もこれから沖縄そばを食べるところ。そのために、沖縄そばのどんぶりに自分で汁を注いでいるのだ―。

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 名護市の旧市街の飲食店街にある八重そばは、いつも地元のファンでいっぱい。ソーキそばでも三枚肉そばでも、注文すると、麺、肉、ネギだけが入ったどんぶりと、やかんに入ったアチコーコーの汁とが出される。右の男性が持っているやかんがそれ。八重そばでは、めんと汁が別々に出てくるのだ。

 まず、やかんの汁をおもむろにどんぶりの中に自分で注ぐ。汁は驚くほどにごりがなく、透明感にあふれている。これほど透明な沖縄そばの汁も珍しい。豚骨ベースだが、静かにていねいに煮出してあるから、豚臭さは一切なし。

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 肉とめんを食べていくうちに、肉の煮汁が全体の汁に溶けていき、汁の味がだんだん丸みを帯びてくる。その変化を楽しみながら、めんを7割方食べ、汁も少し飲んだ状態が下の写真。最初の汁に比べて色がだいぶ変わっているのが分かる。その甘味を増した汁に、やかんの新しい汁を注ぎ足す。

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 新しい汁を注ぎ足すと、汁全体が最初の塩の効いたやや厳しい感じの味に戻る。特に、最後をそれで終わると、いくぶんダレ気味の舌が引き締まる感じで心地よい。やかんに新しい汁が用意されていると、このような味の「戻し」ができる。

 第122話で紹介した恩納村の「なかどまい」の汁も八重そばの汁によく似ているが、八重そばの汁はなかどまいよりもさらに一段と透明で、あっさりしている。

 もの足りないと感じる向きもあるかもしれないが、いったん甘味を帯びた汁に注ぎ足して元の緊張感を蘇らせるには、この透明感、あっさり感が重要そうだ。あまりコテコテの汁だと、こういう戻しの効果は鈍くなるのではないか。

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 八重そばのめんは、名護らしい平麺。幅は1cm弱でそれほど厚くない。強いコシは感じられないが、昔ながらの沖縄そばの麺は、それほどコシが強くない。むしろ、やや柔らかめの麺の方がトラディショナル。八重そばのめんもまさにそれだ。

 平麺でも厚ぼったくないので、ヒラヒラと曲がり、汁がよくからむ。平麺を食べる時にはいつも思うが、すすり上げて口に含み、もぐもぐと噛み始めた時、平麺は口の中で独特のボリューム感を感じさせてくれる。

 八重そば創業者の八重子おばあは、息子に店を任せ、ふだんはデイケアに行っているが、デイケアが休みの時には店にすわってお客さんとゆんたく(おしゃべり)している。

 八重そばは名護市城1-9-3、0980-52-3286。11時〜(売り切れ次第終了)、火曜定休。

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2009年08月30日

[第132話 食] 泡盛の全麹仕込みを見た

 泡盛は麹と水と酵母だけでもろみを仕込む全麹仕込み。イモや米などの副原料を一切入れない。名護の名酒「國華」を作っている津嘉山酒造所で、もろみを仕込む「造り」の作業を見せてもらった。

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 津嘉山酒造所は、沖縄戦の戦火を奇跡的に逃れた築80年を超す昔の建物で、今も泡盛を醸造している。この建物はことし、国の重要文化財に指定された。居住用の建物と泡盛製造用の建物とが一体になった昔の酒造所の造りをそのまま残している。

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 仕込みは月に数回。沖縄県産の黒麹菌を、蒸したタイ米にふりかけ、麹室(こうじむろ)で米に菌が回るのを待つ。3日目には黒麹菌の菌糸が米に充分に入り込むので、まずは、大きなしゃもじで、それをよくほぐす。もうもうと上がる湯気。それに乗って飛散する菌糸。

 湯気からはかなりの高温を想像するが、聞けば中の温度は30度台後半という。40度以上になると菌が死滅してしまうらしい。麹菌は自分で温度を上げるのにもかかわらず、その温度で自分が死んでしまうという一見矛盾した働きをするところがおもしろい。温度が上がりすぎるのを防ぐため、麹室は冷却用の送風装置を備えている。

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 麹をよく見ると、黒っぽい菌糸が表面にたくさんついているのが分かる。この黒いかびがでんぷん分解酵素を出して、米のでんぷんを糖に変えていく。

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 ほぐしが終わったら、麹を仕込みタンクに投入する。タンクの中にはあらかじめ、水と酵母が入れてある。「2、3日すると、盛んに泡を出して元気に発酵しますよ」と大城宜実さん。麹がでんぷんから作った糖分を、今度は酵母がアルコールに変える番。いよいよアルコール発酵である。

 タンクは、夏場で2週間、冬場なら4週間をかけてアルコール発酵させ、もろみが出来上がる。これを蒸留すれば泡盛の完成だ。

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 日本酒の場合は、もろみの前に麹と酵母と米を混ぜて酒母(もと)をつくり、さらにそれにまた米を加えてもろみを作る。いずれにしても、米麹以外に米が2段階にわたって加えられる。焼酎の場合も、酒母こそ全麹仕込みだが、その後でイモやムギや米を加えてもろみを作る。

 これに対して泡盛は、麹になった米以外の米は全く加えない。もちろん、イモやムギも入れない。麹と水と酵母だけで、一発でもろみを作る。これを全麹仕込みという。麹の酵素たっぷりの、まことにぜいたくな仕込みと言えるだろう。

 泡盛の麹は黒麹菌。その名の通り、かなり黒い。だから、もろみも真っ黒だ。

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 もろみのタンクも温度が上がる。そのままにしておくと酵母がやられてしまうので、タンクに沈めてある冷却装置で温度を下げる。

 昔はカメ仕込みだった。当然ながら冷却装置などない。「カメくらいの量だと温度はそれほど上がらないんです」と大城さんが解説してくれた。タンクで大量に仕込むから温度が上がるということらしい。

 タンクの周囲の建物の梁には、黒麹菌の菌糸がたくさんついている。いわゆる「蔵付きの菌」。麹室で麹をかきまわすのを見ていたら「鼻の中が真っ黒になりますよ」と言われた。黒麹菌は麹室内で爆発的に増えており、それをかき回すたびにかなりの量が飛散するから、長い間に醸造所全体が黒麹菌だらけになる。

 津嘉山酒造所の歴史は80年を超す。この蔵付きの菌、沖縄戦もアメリカ世も本土復帰も、すべて経験していることになる。激動の沖縄現代史を経た味と香り。なんだが妙に想像力がかきたてられる。

 津嘉山酒造所は名護市大中1-14-6、0980-52-2070。HPはこちら

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