2009年03月02日

[第104話 食、南] 窯焼きのものすごい遠赤パワー

 タンドールで焼いたナンのおいしさはひとしお。表面はカリッと、中はしっとり仕上がるからだ。タンドールの内側に貼付けたナン生地はみるみるうちに火が通る。写真は沖縄市のプラザハウスにあるインド料理店クリシュナ。

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 タンドールの中で鶏を焼いたのがタンドリーチキン。これも中がジューシーに仕上がるのでおいしい。その秘密は、熾きで加熱されたタンドールの分厚い壁が放つ遠赤外線にある。タンドールの素材は、粘土にワラを混ぜたものなど。

 窯の形はタンドールとは違うが、ピザを焼く窯も同じ原理だ。インターネットで調べてみると、窯焼きのおいしさが忘れられずに、自分で窯を作ってしまう人もいるらしい。石を組んで作る窯のキットなども売られている。

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 写真の窯を作ったのは、第86話で紹介した竪琴「あやはべる」の製作者、高良輝幸さん。内部に熾きを入れ窯をよく加熱してから、ピザなどを焼く。生のピザを入れて10秒もすると、表面のチーズが溶けてふつふつ言い出す。1分ほどできつね色に。

 高良さんの窯の素材は、沖縄の赤瓦などを作るのと同じ赤土の粘土。これにワラを混ぜて耐火性を高めている。土が2層になっていて、間に空気の断熱層がある。内側の層を作ってから、空き缶を立て、その上に外側の層を乗せるのだ。表面は、防水のために漆喰を塗った。

 窯では、「余熱」もさることながら、高温に熱せられた窯自体が放つ遠赤外線が食材を加熱する。遠赤外線の周波数はピザなど食材の分子の振動とほぼ同じ。このため、遠赤外線は食材に吸収されやすく、食材の分子の振動を活発にして発熱させる。こうした遠赤加熱の方が、熱風などによる加熱よりも加熱効率が圧倒的に高いのだそうだ。その違いは、ゼロがいくつも違うほど違うらしい。

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 だから、ナンやピザのように薄い材料のみならず、焼きリンゴやバゲットパンなども短時間で焼ける。むろんピザに比べれば時間はかかるが、それでも高良さんの窯では10ー15分といったところ。もしオーブンのような加熱だったら、こんな短時間で焼き上がることはないし、急いで火を強くしようものならたちまちこげてしまうだろう。

 こうした土や石の窯は世界各地に見られる。例えば、下の写真は南アフリカ共和国の農村で見かけた伝統的な窯。彼女たちは、この中にパン生地を入れてパンを焼く。

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 作り方はこうだ。まず、後に空洞部分になる真ん中のところに草や小枝で小さな山を作る。その上に土と牛糞を混ぜたものを塗っていく。いったん塗ってから、よく乾かし、さらにその上にまた塗る。こうして層を3つ、4つ作ったら、最初の草と小枝の部分を燃やして空洞を空け、出来上がり。使い方は高良さんの窯と同じ。薪を入れて燃やし、窯をよく熱した後、パン生地を入れて焼き上がりを待つ。

 牛糞は、日本のそれとは全く違う。今の日本の牛は濃厚飼料を与えられているので、牛糞には高栄養の成分がたくさん含まれているし、臭いもきつい。南アフリカの牛は放牧100%。こうした牛糞を割ってみると、緑色の残る草の繊維がびっしり詰まっているのが分かる。ほとんど無臭。タンドールや高良さんの窯の「粘土+ワラ」と似た効果が得られそうだ。

 クリシュナは沖縄県沖縄市久保田3-1-12 プラザハウス3階、098-931-0885。

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2008年08月16日

[第71話 沖縄] 沖縄の土に惚れ込むロリマーさんの器

 沖縄の土に惚れ込み、焼締め一筋で作品を作り続けている陶芸作家がいる。南城市佐敷のポール・ロリマーさん。1300度を超す高温で焼き締めた器は、なんとも言えない渋い輝きを放つ。

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 上の2つは、いずれも泡盛を入れる小ぶりのカラカラ。焼締めだから釉薬は使わないが、下のカラカラは、高温で溶ける土を上部にかけてあるので、釉薬が溶けたような味わいになっている。

 ロリマーさんの作品は、和音を感じさせる整った形の上に、野性味あふれる焼締めの渋いタッチが乗っている。

 ロリマーさんは、沖縄じゅうの粘土を自分で掘ってきては使っている。中でも、高温に強い北部の土をよく使う。マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガンがそれぞれどれくらい含まれているかで、焼き締めた時の風合いが大きく変わってくる。写真は小さなちょこ(猪口)。金属的で華麗な輝きを放ちつつも、土の温かみを感じさせる作品だ。

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 風合いだけではない。そうした土の成分によって、焼き上げた器の機能までも違ってくるらしい。ロリマーさんは、酒器や花瓶などのほかに、泡盛古酒を仕込む酒甕を数多く作っている。「成分が違う土で焼いた酒甕に、全く同じ泡盛を入れても、味がまるで違ってくるんです。半年ではっきり違いが分かるようになりますよ」

 ロリマーさんは土の成分を沖縄県工業試験場に委託して分析してきた。味わい深い数々の焼締めが作られる舞台裏には、長年の経験や卓越した職人技と同時に、緻密な科学的データの積み重ねがあったのだ。

 ロリマーさんはニュージーランド出身。備前で3年ほど修業した後、旅行で訪れた石垣島が気に入ってそこに16年、沖縄本島に移ってからは13年が過ぎた。石垣島時代に、八重山焼の古い器と出会うことがあり、その時の記憶をたどって作ったのが次の作品。酒器なのか花器なのか分からないというが、独特のひょうたん形が面白い。

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 今は沖縄本島南部、佐敷の古民家に住む。南蛮焼のルーツをたどって訪れた東南アジアでも大きな刺激を受けた。自身も泡盛が好き。仲間が集って一杯やる時は、ちょこが無造作に入れられた箱が登場し、各自が自分の好きなちょこを選んで飲むという。

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 ロリマーさんの工房は南城市佐敷字冨祖崎320、098-947-1630。作品を常時売っている店はないので、事前に電話を入れてから、工房を直接訪ねるとよい。佐敷のシュガーホールから車で数分のところ。

bansyold at 00:00|PermalinkTrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック