学力テスト

2011年04月10日

一つの頂点を極め、ものごとを見る

沖縄を創る人第15回
 宮城珠算学校校長 宮城忍人さん(下)


 沖縄でも有数のそろばん塾、宮城珠算学校の校長宮城忍人さんは、そろばん選手から指導者になったわけではなかった。宮城さんは、中学高校と器械体操に打ち込んだ。大学も日体大に進んだほど。

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 卒業後は沖縄に戻り、保育園などで体操指導をしながら、父の営むそろばん塾の手伝いを始めた。生徒を指導する面白さから次第に珠算教育にのめり込み、今に至る。

 前回書いたように、沖縄のそろばん教室は、平成になった頃から、それまでの努力が実り、日本一などの好成績がポツポツ出始めた。

 「いい成績を残す子どもが現われ始めると、自分たちもやればできるという自信が生徒の間に生まれます。同時に、そろばん塾の教師たちの間にも、優秀な生徒を自分たちも育てられるという自信が広がっていったと思います」と宮城さん。

 教師の目標水準が高くなければ、生徒は決してそのレベルまで伸びない、と宮城さんは強調する。

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 そろばんは、四則演算が基本。代数や幾何の難題を解くような難しさはない。

 「基礎的な計算を、いかに早く、いかに正確にやるかが問われます」と宮城さん。

 だが珠算の世界で言う「早く、正確に」は、素人には驚きのレベルだ。宮城さんが、その一端を紹介してくれた。

 読み上げ算では、7ケタから16ケタまでのさまざまな数字が読み上げられ、目の前に置いたそろばんの珠をはじきながら、足したり引いたりしていく。この7ケタから16ケタの数字が全部で15本読み上げられるのだが、その時間はわずか40秒間前後。1つ平均2.7秒の計算だ。

 「40秒に15本の数字を読み上げるのを一般の方が聞いても、何を言っているかほとんど分からないと思います」(宮城さん)というスピード。

 しかも、例えば「3589・・・(さんぜんごひゃくはちじゅうきゅう」と読み上げる段階では、それが「兆」なのか「億」なのか分からないから、まだ珠を動かせない。その後に例えば「億」という声を聞いた瞬間、頭に叩き込んでおいた4つの数字を入れなければならない。

 暗算は、頭の中にそろばんをイメージして、読み上げられる数字を入れていく。集中力と意識の高さの勝負になる。

 フラッシュ暗算という部門は、3ケタの数字を15本、猛烈なスピードで連続して画面に出し、それを瞬時に頭の中で足していく。15本の数字が画面に現われる時間は全部でわずか1.8秒。1つ平均0.12秒だ。普通の人は、数字を読み取ることすらできないだろう。「またたく間に」という言葉があるが、まばたきしていたら終わってしまう。

 基礎的な計算を正確に早く、という意味では、陰山英男氏の実践で脚光を浴びた百ます計算と似ているところがある。百ます計算の成績が上がると、どの教科の成績も総じて上がるとされる。

 「珠算のできる子は、総じて学校の成績がいいです。医者や弁護士といった将来の夢を持っている子もいます」
 「オールラウンドより、たとえ1つのことでも一番頂点まで行って、自信をもってものごとを見られるようになることが大切なのかな、と」

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 文部科学省が実施している全国学力テストの初回で、沖縄県の小中学生は都道府県別で全国最下位だった。県教育庁はじめ沖縄社会の落胆は大きかった。「沖縄の子供は勉強ができない」と単純に受け止める向きが多かったようだ。

 しかし、そろばんのこれだけの実績を見ていると、学力テストの成績が芳しくないのは、子供の問題ではなく、教え方、導き方の問題なのでは、と思えてくる。

 最下位ショックの後、沖縄県教育庁は、学力テスト1位だった秋田県から教師を招聘したり、沖縄の教師を秋田に派遣するといった、地道な対策をとり始めた。野球や珠算のように、公教育でも、こうした努力が花を咲かせる日がやがて来るのかもしれない。

 今春、それを先取りするかのような出来事があった。大学受験で全国最難関の東大理III(医学部)に3人が同時に合格(現役1、浪人2)、沖縄の教育界を驚かせた。

[宮城忍人さんとつながる] 宮城珠算学校は浦添市屋富祖2-26-12、098-877-1234。HPはこちら。宮城珠算学校内には、珍しいそろばん、古いそろばんなどを集めた「そろばん展示館」が併設されている。

bansyold at 00:00|PermalinkTrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック