景観
2011年04月24日
50分の1の体が図面の中で動き回る
沖縄を創る人 第17回
建築家、team Dream代表取締役 福村俊治さん(下)
開放的な半戸外空間の魅力は、日陰の涼しい風を感じられる快適さばかりではない。前回、写真でも示したように、福村俊治さんが住宅に仕掛けたパティオやテラスは、親戚や知人が集まって食事をともにする場として使われている。そう、半戸外空間は、家に住む者だけでなく、来訪者にも開かれた空間なのだ。
前回も書いたが、伝統的な沖縄の民家には玄関がないので、家人は、雨端(あまはじ)の軒下から家の中に上がるのが普通だった。来訪者も、開かれた雨端にやってきて、おしゃべりした。
「玄関から入る」のと、どこでも開いている「雨端に立ち寄る」のとでは、気持ちのうえで敷居の高さがいささか違うのではないだろうか。
「民家が気密性の高い構造をしていれば、住んでいる人の意識は家の中にしか向きません。家の前を通る人のことを全く考えなくなってしまいます」と福村さんは沖縄の住宅の現状を懸念する。
家の前を通る人のことが視野に入らなければ、街の中に自分の家があるという意識は生まれない。言うまでもないが、街の景観を形づくっているのは、一軒一軒の民家だから、閉じた住宅ばかりでは、景観づくりもおぼつかないことになる。
福村さんが見たヨーロッパなどの街の中には、通りに向けて人形を置いたり、花を植えたりする家がたくさんあった。すべては、道ゆく人のためになされていた。
福村さんが鉄筋コンクリート造の住宅で、開放性に加えて大切だと考えるのは、塗装などのメンテナンス。
「しっかりした材料を使って造られたコンクリート住宅は、メンテナンスをきちんとやれば100年でも200年でももちますが、メンテナンスしなければ30年くらいしかもちません」
「ペンキ塗装は重要です。コンクリート打ちっぱなしのまま、家に服を着せることをせず、30年でダメにしてボンボン建て替えるケースが多いのが、残念ながら現状です」
スクラップアンドビルドの繰り返しは、エネルギーを無駄にするばかりではない。そもそも建物や街は社会資本。祖先が頑張って築いたものを簡単に壊してしまったら、何の歴史も残らない、と福村さんは考える。
施主が経済的にゆとりがなければ、ぎりぎりの安い予算で家をつくらざるをえない。だが、安普請の家は長持ちしない。その意味でも、福村さんはパティオやテラスに土地面積を割くことを勧めている。というのも、こうした半戸外空間の建設費は、室内空間よりもずっと安くできるからだ。
普通の鉄筋コンクリート造の室内部分が坪50万するとすれば、パティオやテラスなら壁や設備類がないから坪20万もあればできる。そこで浮かせた予算で本体部分をしっかり造り、メンテナンスで手をかければ、家はもっと長持ちさせられる。
福村さんは個人住宅ばかりでなく、規模の大きな建築作品も手がけている。公共建築の代表作は、糸満市の沖縄県平和祈念資料館。
カーブを描く資料館と、中央に集まる「平和の礎(いしじ)」との間には、屋根だけの回廊部分が作られている。まさに住宅設計と同じ考えの半戸外空間。
福村さんは、建築家の仕事を心から楽しんでいるようだ。設計している時は、自分の体が50分の1になって、図面の中で、階段を上がり下りしたり、部屋とパティオを行き来したりしているという。
沖縄では、建築家が所属する設計事務所と、施工業者の工務店とが分かれている。これは全国でも珍しいという。最近は沖縄でも、東京流の設計施工一体住宅が増えているものの、家を建てようとする人は「まずはよさそうな建築事務所を探す」という習慣は根強い。建築士にとっては働きがいのある場所といえそうだ。
[福村俊治さんとつながる] まず福村さん率いるteam Dreamのホームページはこちら。作品の写真ばかりでなく、福村さんが沖縄の住宅新聞などに連載してきた数多くの記事が読める。沖縄の現代建築事情がよく分かる。「建築系ラジオr4」というネットラジオ番組に福村さんが出演した時の放送はこちらで。沖縄県平和祈念資料館は糸満市摩文仁614-1、098-997-3844。
建築家、team Dream代表取締役 福村俊治さん(下)
開放的な半戸外空間の魅力は、日陰の涼しい風を感じられる快適さばかりではない。前回、写真でも示したように、福村俊治さんが住宅に仕掛けたパティオやテラスは、親戚や知人が集まって食事をともにする場として使われている。そう、半戸外空間は、家に住む者だけでなく、来訪者にも開かれた空間なのだ。
前回も書いたが、伝統的な沖縄の民家には玄関がないので、家人は、雨端(あまはじ)の軒下から家の中に上がるのが普通だった。来訪者も、開かれた雨端にやってきて、おしゃべりした。
「玄関から入る」のと、どこでも開いている「雨端に立ち寄る」のとでは、気持ちのうえで敷居の高さがいささか違うのではないだろうか。
「民家が気密性の高い構造をしていれば、住んでいる人の意識は家の中にしか向きません。家の前を通る人のことを全く考えなくなってしまいます」と福村さんは沖縄の住宅の現状を懸念する。
家の前を通る人のことが視野に入らなければ、街の中に自分の家があるという意識は生まれない。言うまでもないが、街の景観を形づくっているのは、一軒一軒の民家だから、閉じた住宅ばかりでは、景観づくりもおぼつかないことになる。
福村さんが見たヨーロッパなどの街の中には、通りに向けて人形を置いたり、花を植えたりする家がたくさんあった。すべては、道ゆく人のためになされていた。
福村さんが鉄筋コンクリート造の住宅で、開放性に加えて大切だと考えるのは、塗装などのメンテナンス。
「しっかりした材料を使って造られたコンクリート住宅は、メンテナンスをきちんとやれば100年でも200年でももちますが、メンテナンスしなければ30年くらいしかもちません」
「ペンキ塗装は重要です。コンクリート打ちっぱなしのまま、家に服を着せることをせず、30年でダメにしてボンボン建て替えるケースが多いのが、残念ながら現状です」
スクラップアンドビルドの繰り返しは、エネルギーを無駄にするばかりではない。そもそも建物や街は社会資本。祖先が頑張って築いたものを簡単に壊してしまったら、何の歴史も残らない、と福村さんは考える。
施主が経済的にゆとりがなければ、ぎりぎりの安い予算で家をつくらざるをえない。だが、安普請の家は長持ちしない。その意味でも、福村さんはパティオやテラスに土地面積を割くことを勧めている。というのも、こうした半戸外空間の建設費は、室内空間よりもずっと安くできるからだ。
普通の鉄筋コンクリート造の室内部分が坪50万するとすれば、パティオやテラスなら壁や設備類がないから坪20万もあればできる。そこで浮かせた予算で本体部分をしっかり造り、メンテナンスで手をかければ、家はもっと長持ちさせられる。
福村さんは個人住宅ばかりでなく、規模の大きな建築作品も手がけている。公共建築の代表作は、糸満市の沖縄県平和祈念資料館。
カーブを描く資料館と、中央に集まる「平和の礎(いしじ)」との間には、屋根だけの回廊部分が作られている。まさに住宅設計と同じ考えの半戸外空間。
福村さんは、建築家の仕事を心から楽しんでいるようだ。設計している時は、自分の体が50分の1になって、図面の中で、階段を上がり下りしたり、部屋とパティオを行き来したりしているという。
沖縄では、建築家が所属する設計事務所と、施工業者の工務店とが分かれている。これは全国でも珍しいという。最近は沖縄でも、東京流の設計施工一体住宅が増えているものの、家を建てようとする人は「まずはよさそうな建築事務所を探す」という習慣は根強い。建築士にとっては働きがいのある場所といえそうだ。
[福村俊治さんとつながる] まず福村さん率いるteam Dreamのホームページはこちら。作品の写真ばかりでなく、福村さんが沖縄の住宅新聞などに連載してきた数多くの記事が読める。沖縄の現代建築事情がよく分かる。「建築系ラジオr4」というネットラジオ番組に福村さんが出演した時の放送はこちらで。沖縄県平和祈念資料館は糸満市摩文仁614-1、098-997-3844。
2010年01月10日
[第151話 沖縄] おしゃれなコンクリ家
沖縄の住宅といえば、時間が経過してくたびれた感じの鉄筋コンクリート造りが圧倒的に多い。特に農村部はそう。そんな中で「おしゃれな家」をうたったフルパッケージのコンクリート住宅が沖縄市の建設会社から売り出された。沖縄の景観づくりの一助にもなりそうな新しい動きをお伝えしよう。
沖縄の民家と言えば、赤瓦の木造家屋をイメージする向きが多いかもしれないが、それは昔の話。いま、実際に住宅地の景観を作り出しているのは、いささかくたびれた感じの鉄筋コンクリート造の「コンクリ家(やー)」群だ。沖縄の民家はほとんどこれ、と言っても過言ではない。
戦後、台風に強く、安価な家として、コンクリ家は沖縄県民の強い支持を得た。ただ、貧しい時代だったこともあり、意匠は二の次のコンクリ家が次々と建てられた。時が経ち、強い日差しと風雨にさらされるコンクリ壁面は、黒いカビやコケ類で汚れがさらに増した。
「みてくれ」という突き放した言い方があるように、外見はオマケのようにとらえられがちだが、まち全体の景観を決めるのは実はその外見。家の外見がくたびれていれば、くたびれた景観にしかならない。その意味で、外見にこだわったパッケージ住宅は、施主が満足するだけでなく、美しい景観づくりに貢献する。
沖縄でいま、美しい景観づくりがクローズアップされていることは、万鐘本店第143話でお伝えした通り。先駆的な例として第55話では色調を統一した分譲住宅のケースを紹介した。
「おしゃれな家」をキャッチフレーズにしたフルパッケージ住宅は、株式会社丸山建設が売り出した「アジアン」。その名の通り、アジアンリゾートのイメージを採用している。
万鐘本店第7話で紹介した万国津梁館や第116話の浜比嘉島ビーチリゾートの意匠はいずれも「控えめのアジアン」だったが、丸山建設のアジアンもそれらと似ている。キャッチフレーズは「シンプルモダン+アジアンテイスト」。
「僕が個人的にシンプルなデザインが好きということもあるかもしれませんが」とプロデューサー役の金城悟・丸山建設社長は笑う。アジアンは、建築家赤嶺しげたか氏と丸山建設とのコラボレーションで生み出された。
壁はうっすらクリーム色や緑色を帯びた白が基調。アクセントに濃い茶色の木材を使う。例えば窓枠や玄関の柱などに濃い茶色で塗装された木材が使われ、控えめのアジアン風味を醸し出す。デッキテラスも同じ色調。これは沖縄で「雨端(あまはじ)」と呼ばれる内外一体になった接客の場の役割を果たしている。
外壁などにもっと木をたくさん使えば、さらにアジアン風味は増すだろうが、強い陽光と海風が注ぐ沖縄では、外にさらされた木部の傷みが激しい。美観を維持しようとすれば、メンテナンスの手間と経費がかさむ。建て主の10年後、15年後の負担を視野に入れて、初めから木部の使用を抑え気味にしているわけだ。
意匠にこだわった住宅は高いというイメージがあるが、このアジアンは、逆に、価格を抑える工夫がなされている。例えばー
一般に、沖縄の住宅設計は、高温多湿の気候をふまえ、床を高くすることで地面からの湿気を防ごうとする。しかし、床が高くなれば、その分、天井が上がり、結果的に、壁も高くなる。例えば、壁が30cm高くなれば、その分の材料費がかさみ、建設コストがよけいにかかることになる。
アジアンは、床を高くしない。床の下には遮水シートを貼って、湿気が上がってくるのを防止する。こうすれば、壁を低くすることができ、その分の原材料費をかけずにすむ。
アジアンは「高くない」というだけでなく、建設費が初めから明示されているのが特徴。「坪45万円」などとうたいながら、実際はあれやこれやの装備や設備名目で追加料金をとる業者がいる中で、アジアンは「明朗会計」で売る。
明朗会計の仕組みはこうだ。まず「標準仕様」が決められている。例えば、装備群は、カウンター付食器棚、洗面化粧台、システムキッチン、レンジフード、照明器具、カーテン、テレビアンテナ、デッキテラス(15.2平米まで)などがつく。給水は厨房、浴室、洗面所、トイレ、洗濯機前、外部2カ所の計7カ所。仕上げについては、ホール・廊下の床は木質フロア材、壁は石膏ボード下地クロス貼、といった具合だ。そして、この標準仕様に基づいた価格が、面積ごとの一覧表の形で明示される。
例えば、30.25坪なら坪58万3018円、35.09坪では坪55万7740円。この金額には、消費税、設計料、防蟻工事費から、標準仕様の装備・設備代まですべて含まれている。施主は、そこから不要なものを引き算して価格を下げていく仕組み。確かにこの方式なら、たし算の果てに価格が膨らんで予算オーバー、というようなことはなさそうだ(金額はいずれも平成21年3月28日現在)。
設計は完全な自由設計。あらかじめ決められたいくつかのプランから選ぶ方式ではなく、施主が好きな間取りを作っていく。
ところで、景観というものはなかなか難しい。現在の沖縄の住宅地のように、まるで統一感がないのも美しくないが、さりとて、色彩や形の規制をやりすぎると、わざとらしくなり、町がまるで映画のセットのようになってしまう。基準は必要だが、それにはある程度の「幅」をもたせないといけない。
沖縄のまち並みの基本的な色調は、第55話で紹介した例に見られるように、あるいは現在、那覇市が首里の景観づくりでやっているように「白かクリーム色の壁面に、屋根は赤がわら色の赤」でいいと思うが、そこには多少の「幅」があった方がいい。
アジアンの「白にこげ茶」の色彩は、赤瓦の赤をアクセントにする沖縄の伝統的な色彩の中に入っても、ちょうどよい「幅」になりそうな気がする。アジアンデザインのふるさと、東南アジア各地では、沖縄と同様の赤土を焼いた赤瓦がしばしば使われている。アジアンデザインと赤瓦色の相性がいいことは、いわば実証ずみなのだ。
丸山建設は、沖縄市登川2671-1、098-938-2458。
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沖縄の民家と言えば、赤瓦の木造家屋をイメージする向きが多いかもしれないが、それは昔の話。いま、実際に住宅地の景観を作り出しているのは、いささかくたびれた感じの鉄筋コンクリート造の「コンクリ家(やー)」群だ。沖縄の民家はほとんどこれ、と言っても過言ではない。
戦後、台風に強く、安価な家として、コンクリ家は沖縄県民の強い支持を得た。ただ、貧しい時代だったこともあり、意匠は二の次のコンクリ家が次々と建てられた。時が経ち、強い日差しと風雨にさらされるコンクリ壁面は、黒いカビやコケ類で汚れがさらに増した。
「みてくれ」という突き放した言い方があるように、外見はオマケのようにとらえられがちだが、まち全体の景観を決めるのは実はその外見。家の外見がくたびれていれば、くたびれた景観にしかならない。その意味で、外見にこだわったパッケージ住宅は、施主が満足するだけでなく、美しい景観づくりに貢献する。
沖縄でいま、美しい景観づくりがクローズアップされていることは、万鐘本店第143話でお伝えした通り。先駆的な例として第55話では色調を統一した分譲住宅のケースを紹介した。
「おしゃれな家」をキャッチフレーズにしたフルパッケージ住宅は、株式会社丸山建設が売り出した「アジアン」。その名の通り、アジアンリゾートのイメージを採用している。
万鐘本店第7話で紹介した万国津梁館や第116話の浜比嘉島ビーチリゾートの意匠はいずれも「控えめのアジアン」だったが、丸山建設のアジアンもそれらと似ている。キャッチフレーズは「シンプルモダン+アジアンテイスト」。
「僕が個人的にシンプルなデザインが好きということもあるかもしれませんが」とプロデューサー役の金城悟・丸山建設社長は笑う。アジアンは、建築家赤嶺しげたか氏と丸山建設とのコラボレーションで生み出された。
壁はうっすらクリーム色や緑色を帯びた白が基調。アクセントに濃い茶色の木材を使う。例えば窓枠や玄関の柱などに濃い茶色で塗装された木材が使われ、控えめのアジアン風味を醸し出す。デッキテラスも同じ色調。これは沖縄で「雨端(あまはじ)」と呼ばれる内外一体になった接客の場の役割を果たしている。
外壁などにもっと木をたくさん使えば、さらにアジアン風味は増すだろうが、強い陽光と海風が注ぐ沖縄では、外にさらされた木部の傷みが激しい。美観を維持しようとすれば、メンテナンスの手間と経費がかさむ。建て主の10年後、15年後の負担を視野に入れて、初めから木部の使用を抑え気味にしているわけだ。
意匠にこだわった住宅は高いというイメージがあるが、このアジアンは、逆に、価格を抑える工夫がなされている。例えばー
一般に、沖縄の住宅設計は、高温多湿の気候をふまえ、床を高くすることで地面からの湿気を防ごうとする。しかし、床が高くなれば、その分、天井が上がり、結果的に、壁も高くなる。例えば、壁が30cm高くなれば、その分の材料費がかさみ、建設コストがよけいにかかることになる。
アジアンは、床を高くしない。床の下には遮水シートを貼って、湿気が上がってくるのを防止する。こうすれば、壁を低くすることができ、その分の原材料費をかけずにすむ。
アジアンは「高くない」というだけでなく、建設費が初めから明示されているのが特徴。「坪45万円」などとうたいながら、実際はあれやこれやの装備や設備名目で追加料金をとる業者がいる中で、アジアンは「明朗会計」で売る。
明朗会計の仕組みはこうだ。まず「標準仕様」が決められている。例えば、装備群は、カウンター付食器棚、洗面化粧台、システムキッチン、レンジフード、照明器具、カーテン、テレビアンテナ、デッキテラス(15.2平米まで)などがつく。給水は厨房、浴室、洗面所、トイレ、洗濯機前、外部2カ所の計7カ所。仕上げについては、ホール・廊下の床は木質フロア材、壁は石膏ボード下地クロス貼、といった具合だ。そして、この標準仕様に基づいた価格が、面積ごとの一覧表の形で明示される。
例えば、30.25坪なら坪58万3018円、35.09坪では坪55万7740円。この金額には、消費税、設計料、防蟻工事費から、標準仕様の装備・設備代まですべて含まれている。施主は、そこから不要なものを引き算して価格を下げていく仕組み。確かにこの方式なら、たし算の果てに価格が膨らんで予算オーバー、というようなことはなさそうだ(金額はいずれも平成21年3月28日現在)。
設計は完全な自由設計。あらかじめ決められたいくつかのプランから選ぶ方式ではなく、施主が好きな間取りを作っていく。
ところで、景観というものはなかなか難しい。現在の沖縄の住宅地のように、まるで統一感がないのも美しくないが、さりとて、色彩や形の規制をやりすぎると、わざとらしくなり、町がまるで映画のセットのようになってしまう。基準は必要だが、それにはある程度の「幅」をもたせないといけない。
沖縄のまち並みの基本的な色調は、第55話で紹介した例に見られるように、あるいは現在、那覇市が首里の景観づくりでやっているように「白かクリーム色の壁面に、屋根は赤がわら色の赤」でいいと思うが、そこには多少の「幅」があった方がいい。
アジアンの「白にこげ茶」の色彩は、赤瓦の赤をアクセントにする沖縄の伝統的な色彩の中に入っても、ちょうどよい「幅」になりそうな気がする。アジアンデザインのふるさと、東南アジア各地では、沖縄と同様の赤土を焼いた赤瓦がしばしば使われている。アジアンデザインと赤瓦色の相性がいいことは、いわば実証ずみなのだ。
丸山建設は、沖縄市登川2671-1、098-938-2458。
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2008年05月12日
[第55話 沖縄] 赤瓦の景観が美しい分譲住宅
赤瓦に真っ白いしっくい。沖縄の伝統家屋は、南国の青い空によく映える。かつてはそんな家並みが作り出す景観がさぞ美しかったに違いない。最近の建物は同系色の素材を使うこともなく、統一感のある景観は見られない。と思っていたら、景観づくりを意識した先駆例があった。
豊見城市渡橋名にある「エコシティとはしな」。沖縄県住宅供給公社が、戸建て分譲住宅として整備・販売したいくつかの地域の一つだ。
エコシティとはしなの住宅総数は140戸。これだけの数がまとまって意匠をそろえると、それなりの統一景観になる。統一されている意匠は外壁の白と屋根の赤瓦。住宅のデザインは17種類あり、多様でバラバラの印象だが、かえってそれが町並みのリアリティを醸し出しているといえそうだ。
むろん、エコシティとはしなは、住民の総意で景観づくりをしたケースではなく、公社のイニシアチブによる分譲で、言ってみれば「上からの景観づくり」。が、とにもかくにも、統一景観を実際に作り出しているので、百聞は一見にしかずの宣伝効果は確実にあるだろう。
各戸の屋根に置かれているのは「重ね瓦」と呼ばれる平らな瓦が多い。伝統的な丸みのある本瓦が、雄雌を交互に組み合わせて排水機能を持たせているのとは違って、重ね瓦はただ貼付けてあるだけで、特に機能性はない。デザインのための瓦、といってよい。重ね瓦の場合、しっくいは使わない。
住宅供給公社はエコシティとはしなを分譲する際に、建築協定を購買者と結び、事実上の規制の網をかけている。購買者は先々、改装などをするにしても、この協定を守らなければならない。例えば、家は2階建まで。後退距離と呼ばれる家の壁から隣りの敷地との境界までの距離は1.5m以上。これらが地域全体のゆったり感や景観を演出する。屋根と外壁の色については「地域全体の調和を図るよう努めるものとする」という一項が協定にある。
エコシティの名の通り、景観づくりだけでなく、植栽を工夫したり、透水性の高い敷石を採用するなど、環境との共生をキーコンセプトにしている。車とどう共存するかも考えられていて、ハンプと呼ばれる地面の盛り上がりをところどころに設けて事実上の速度制限をかけ、子供やお年寄りが安心して歩ける空間を作っている。
エコシティとはしなと似た環境共生型の分譲住宅があるのは、南風原町宮平、西原町池田、北谷町美浜の3カ所。これらは平成元年から徐々に建てられてきた。既に、戸建て住宅の提供事業から住宅供給公社が手を引いたため、公社による同じような分譲住宅はこれ以上増えることはない。これからの沖縄の景観づくりは、民間デベロッパーの動きと、既存の集落での地元民による景観統一の努力に焦点が移る。
とはいえ、地域全体に規制をかけることができるのは行政と、それを支える住民意識だけ。今後、徐々に返還が進んでいく米軍用地の再開発を計画する際にも、こうした規制の仕方がますます重要になってくるだろう。規制効果がほとんど見られず、目を覆いたくなるような乱開発が繰り広げられている那覇新都心の轍を踏まないためにも。
豊見城市渡橋名にある「エコシティとはしな」。沖縄県住宅供給公社が、戸建て分譲住宅として整備・販売したいくつかの地域の一つだ。
エコシティとはしなの住宅総数は140戸。これだけの数がまとまって意匠をそろえると、それなりの統一景観になる。統一されている意匠は外壁の白と屋根の赤瓦。住宅のデザインは17種類あり、多様でバラバラの印象だが、かえってそれが町並みのリアリティを醸し出しているといえそうだ。
むろん、エコシティとはしなは、住民の総意で景観づくりをしたケースではなく、公社のイニシアチブによる分譲で、言ってみれば「上からの景観づくり」。が、とにもかくにも、統一景観を実際に作り出しているので、百聞は一見にしかずの宣伝効果は確実にあるだろう。
各戸の屋根に置かれているのは「重ね瓦」と呼ばれる平らな瓦が多い。伝統的な丸みのある本瓦が、雄雌を交互に組み合わせて排水機能を持たせているのとは違って、重ね瓦はただ貼付けてあるだけで、特に機能性はない。デザインのための瓦、といってよい。重ね瓦の場合、しっくいは使わない。
住宅供給公社はエコシティとはしなを分譲する際に、建築協定を購買者と結び、事実上の規制の網をかけている。購買者は先々、改装などをするにしても、この協定を守らなければならない。例えば、家は2階建まで。後退距離と呼ばれる家の壁から隣りの敷地との境界までの距離は1.5m以上。これらが地域全体のゆったり感や景観を演出する。屋根と外壁の色については「地域全体の調和を図るよう努めるものとする」という一項が協定にある。
エコシティの名の通り、景観づくりだけでなく、植栽を工夫したり、透水性の高い敷石を採用するなど、環境との共生をキーコンセプトにしている。車とどう共存するかも考えられていて、ハンプと呼ばれる地面の盛り上がりをところどころに設けて事実上の速度制限をかけ、子供やお年寄りが安心して歩ける空間を作っている。
エコシティとはしなと似た環境共生型の分譲住宅があるのは、南風原町宮平、西原町池田、北谷町美浜の3カ所。これらは平成元年から徐々に建てられてきた。既に、戸建て住宅の提供事業から住宅供給公社が手を引いたため、公社による同じような分譲住宅はこれ以上増えることはない。これからの沖縄の景観づくりは、民間デベロッパーの動きと、既存の集落での地元民による景観統一の努力に焦点が移る。
とはいえ、地域全体に規制をかけることができるのは行政と、それを支える住民意識だけ。今後、徐々に返還が進んでいく米軍用地の再開発を計画する際にも、こうした規制の仕方がますます重要になってくるだろう。規制効果がほとんど見られず、目を覆いたくなるような乱開発が繰り広げられている那覇新都心の轍を踏まないためにも。