最後一夜

2013年08月25日

蔡琴‬は、声がバラード

 アジア実力派ボーカリストの6回目は、台湾の初登場。ベテラン女性歌手、蔡琴(ツァイ・チン)にスポットをあてます。

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 1970年代末から活躍し、数々のヒットを飛ばしてきた蔡琴。代表曲の一つ「最後一夜」のライブ映像をYouTubeで見ていただきましょう。

 歌詞は、着飾った男女が踊る夜の情景と人生の哀歓が入り混じりながら進んでいき、サビのところで、主人公の愛と別れの思いがほとばしるという構成です。

 ヘッドフォンで聞いて下さい。声域が特に広いわけではないですし、声量も普通くらいですが、なんとも言えない歌ヂカラを感じます。これって、いったい何なのでしょう。



 これまでこのブログで取り上げてきたのは、豊かな声量で朗々と歌い上げる東南アジアの歌手でした。

 「朗々と」が魅力なのは、声の押し出しが強いほど、聞く者の生理的な感覚に訴えるから。生き物はみな他の生き物の声に反応するセンサーを内蔵している、というわけです。

 外国語の歌を聞いて、歌詞は十分に分からないけどなぜか感動して泣けてきたー。そんな経験、ないでしょうか。

 東南アジアの歌手に比べると、北東アジアの歌手は、声量より、歌い回しの巧みさで勝負する歌手が多いようです。日本の本土もそう、沖縄もそう。

 蔡琴も、「朗々と」とは明らかに違うタイプですが、聞いていると、なにやらセンサーが反応します。声の押し出しでないとすると、何に反応しているのか。


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 冒頭の、最後一夜のビデオ。温かみがありながらも一本芯の通った蔡琴の声は、歌い出しのところからもうバラード、バラードしています。

 そう、曲がバラードというよりも、声がバラード。

 情感の込め方が並じゃない、と言ったらいいでしょうか。それも、「込めて」いるんじゃなくて、声が情感そのものになってしまっているような。

 歌い終わった後、少しして、蔡琴が思わず嗚咽(おえつ)してしまう様子がビデオの最後に短く収められているのに気づかれましたか。

 生き物にとっては、相手の生き物が発する強い情感も、言葉を超えたインパクトをもたらすのかもしれませんね。


Taiwan

 (万鐘の南向き地図から台湾関連部分)

 蔡琴は台湾南部、高雄生まれの55歳。これまでに実に40枚以上のアルバムを出してきました。

 最後一夜は1980年代のヒット曲ですが、当時と今とでは、彼女の歌ヂカラがだいぶ違うように思います。冒頭の映像は2010年のステージのものですが、約20年前の発売時の彼女の声は、さすがにここまでバラードしてはいませんでした。

 数えきれないほどたくさんの歌を歌って芸を磨きながら、いくつかの出会いと別れの人生航路を経てこの境地に達したということなのかもしれません。

 1985年に映画監督の故楊昌と結婚しましたが、1995年に離婚しています。

 もう1曲、「吻別(口づけ)」を。別れの口づけ、です。

 カバー曲なのですが、蔡琴はパーフェクトなまでに自分のものにしています。こちらも、のっけから声がバラードしていて、迫力です。



 日本語の翻訳歌詞が、こちらのBitEx中国語にありましたので、ごらん下さい。たいへん助かります。

bansyold at 00:00|PermalinkTrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Clip to Evernote