有機砂糖
2010年03月07日
[第159話 農、食] 岐路に立つ沖縄のサトウキビ
製糖期である。製糖工場の近くに住んでいると、朝から晩まで、サトウキビの絞り汁を煮詰める香りが漂う。のんびりした風情だが、沖縄の製糖の舞台裏は、牧歌的な状態とは正反対の厳しい状況に追いつめられている(写真は、製糖工場ではなく、伝統的な釜炊きによる黒砂糖づくり)。
ざわわ、ざわわ。サトウキビの揺れる穂は、沖縄を象徴する農村風景。収穫は年末から3月にかけてで、刈り取りが始まると、道端に束ねて置かれたサトウキビを、専用のクレーン車が、かさ上げされた10トンダンプに積み込む風景が農村部のあちこちで見られる。
写真はサトウキビを収穫するハーベスター。ただ、大東島などを除き、これが活躍している場所はあまりなく、昔ながらの手刈りが多い。沖縄のサトウキビの栽培面積は小さいので、ハーベスターをレンタルで入れると利益が得られないことが多いからだ。
このご時世に、ほとんど付加価値のつかない作物を手刈りして引き合うのだろうか。そもそも、鮮度が全く問題にならない砂糖のようなもので、労賃が何分の一のアジアやアフリカの発展途上国と競争して、勝てるのだろうか。
実は、沖縄の製糖は、政府による二重の保護制度の中で成り立っている。一つはサトウキビの農家からの買い上げ価格補填。市場価格の約2倍の値で買い上げ、差額を政府が出す。いま一つは、沖縄の製糖工場の最終製品である原料糖の販売価格補填。原料糖には、市場価格の約3倍が支払われる。サトウキビの買い上げと同様に、市場価格より高い分は政府が出している。
政府はこれまで、輸入砂糖の輸入関税を財源とし、いわばゲタをはかせる形で、沖縄の製糖業を支えてきた。しかし今後の世界貿易機関(WTO)の協議で砂糖が保護対象からもしはずされれば、こうした輸入関税をかけられなくなり、沖縄の製糖を支えてきた制度は財源を失う。もし制度支援なしで現実の経済競争のただ中に放り込まれたら、沖縄の精糖業はただちに崩壊しかねない。
しかし、サトウキビという作物は、農業生産の立場から見たら、とても魅力的。イネ科で直根が深く土に入っていき、土の通気性を大いに高めてくれる。葉や茎の表面には酵母などの有益な微生物がたくさんついていて、土の生物性改善にも大きく貢献する。要するに土づくりに非常に役立つ作物なのだ。だから、サトウキビと他の作物の輪作など、応用がいろいろできる。台風に強いのも魅力。
とはいえ、現実の経済競争の中で勝ち目がなければ、いくら土づくりに役立つなどといっても、どうにもならない。本当に勝ち目はないのだろうか。
うるま市で製糖工場に長年勤務し、サトウキビ農家を相手に技術指導を続けてきた金城静光さんは、保護制度に依存するだけでなく、農家の自助努力で収量を上げることも重要、と説く。10アールあたり約6トンが現在の平均収量だが、これを2倍にすることは技術的に十分できる。同じ面積の畑から穫れるサトウキビが2倍になれば、畑を2倍にしたのと同じこと。投入資材や労力から考えて、畑の面積を広げるよりは、収量を上げる方がはるかに効率がいい。
最終製品である砂糖をもっと付加価値の高いものにするというのも一つの方向だろう。例えば、精製を重ねた真っ白な砂糖より、サトウキビの絞り汁を煮詰めただけのミネラルたっぷりの純黒糖の方が栄養価が高く、ヘルシー志向の時代には需要の高まりが期待される。
沖縄では黒糖をおやつ代わりによく食べる(下の写真)が、このようにして直接消費される砂糖の量はそれほど多くはないし、県内の純黒糖生産は既にだぶつき気味。やはり菓子製造などに使ってもらわないと、量がはけない。
有機砂糖はどうだろうか。これは一般市場、業務用市場の両方が期待できる。業務用について言えば、有機食品市場全体で見たら、砂糖を使う食品は山ほどあるはずだ。世界市場を見回してみると、ヨーロッパなどで有機砂糖の需要が伸びている。写真は南米で見かけた有機砂糖。ヨーロッパに輸出しているという。
もちろん、沖縄の今の製糖工場は有機砂糖を製造する目的で作られているわけではないので、有機砂糖を作ろうとすれば、プラントの改造は避けて通れない。しかし、中国南部や東南アジアなど、経済成長著しい地域の有機砂糖市場がこれから徐々に拡大していく可能性を考えると、有機砂糖は、沖縄の製糖生き残り戦略の一つの中核になるようにも思える。
さらに、有機砂糖で終わらせずに、有機砂糖を使った多様な有機食品を作るところまで産業が展開できたら、沖縄の農業、食品製造業は「山椒は小粒でピリリと」の存在になれるかもしれない。
ざわわ、ざわわ。サトウキビの揺れる穂は、沖縄を象徴する農村風景。収穫は年末から3月にかけてで、刈り取りが始まると、道端に束ねて置かれたサトウキビを、専用のクレーン車が、かさ上げされた10トンダンプに積み込む風景が農村部のあちこちで見られる。
写真はサトウキビを収穫するハーベスター。ただ、大東島などを除き、これが活躍している場所はあまりなく、昔ながらの手刈りが多い。沖縄のサトウキビの栽培面積は小さいので、ハーベスターをレンタルで入れると利益が得られないことが多いからだ。
このご時世に、ほとんど付加価値のつかない作物を手刈りして引き合うのだろうか。そもそも、鮮度が全く問題にならない砂糖のようなもので、労賃が何分の一のアジアやアフリカの発展途上国と競争して、勝てるのだろうか。
実は、沖縄の製糖は、政府による二重の保護制度の中で成り立っている。一つはサトウキビの農家からの買い上げ価格補填。市場価格の約2倍の値で買い上げ、差額を政府が出す。いま一つは、沖縄の製糖工場の最終製品である原料糖の販売価格補填。原料糖には、市場価格の約3倍が支払われる。サトウキビの買い上げと同様に、市場価格より高い分は政府が出している。
政府はこれまで、輸入砂糖の輸入関税を財源とし、いわばゲタをはかせる形で、沖縄の製糖業を支えてきた。しかし今後の世界貿易機関(WTO)の協議で砂糖が保護対象からもしはずされれば、こうした輸入関税をかけられなくなり、沖縄の製糖を支えてきた制度は財源を失う。もし制度支援なしで現実の経済競争のただ中に放り込まれたら、沖縄の精糖業はただちに崩壊しかねない。
しかし、サトウキビという作物は、農業生産の立場から見たら、とても魅力的。イネ科で直根が深く土に入っていき、土の通気性を大いに高めてくれる。葉や茎の表面には酵母などの有益な微生物がたくさんついていて、土の生物性改善にも大きく貢献する。要するに土づくりに非常に役立つ作物なのだ。だから、サトウキビと他の作物の輪作など、応用がいろいろできる。台風に強いのも魅力。
とはいえ、現実の経済競争の中で勝ち目がなければ、いくら土づくりに役立つなどといっても、どうにもならない。本当に勝ち目はないのだろうか。
うるま市で製糖工場に長年勤務し、サトウキビ農家を相手に技術指導を続けてきた金城静光さんは、保護制度に依存するだけでなく、農家の自助努力で収量を上げることも重要、と説く。10アールあたり約6トンが現在の平均収量だが、これを2倍にすることは技術的に十分できる。同じ面積の畑から穫れるサトウキビが2倍になれば、畑を2倍にしたのと同じこと。投入資材や労力から考えて、畑の面積を広げるよりは、収量を上げる方がはるかに効率がいい。
最終製品である砂糖をもっと付加価値の高いものにするというのも一つの方向だろう。例えば、精製を重ねた真っ白な砂糖より、サトウキビの絞り汁を煮詰めただけのミネラルたっぷりの純黒糖の方が栄養価が高く、ヘルシー志向の時代には需要の高まりが期待される。
沖縄では黒糖をおやつ代わりによく食べる(下の写真)が、このようにして直接消費される砂糖の量はそれほど多くはないし、県内の純黒糖生産は既にだぶつき気味。やはり菓子製造などに使ってもらわないと、量がはけない。
有機砂糖はどうだろうか。これは一般市場、業務用市場の両方が期待できる。業務用について言えば、有機食品市場全体で見たら、砂糖を使う食品は山ほどあるはずだ。世界市場を見回してみると、ヨーロッパなどで有機砂糖の需要が伸びている。写真は南米で見かけた有機砂糖。ヨーロッパに輸出しているという。
もちろん、沖縄の今の製糖工場は有機砂糖を製造する目的で作られているわけではないので、有機砂糖を作ろうとすれば、プラントの改造は避けて通れない。しかし、中国南部や東南アジアなど、経済成長著しい地域の有機砂糖市場がこれから徐々に拡大していく可能性を考えると、有機砂糖は、沖縄の製糖生き残り戦略の一つの中核になるようにも思える。
さらに、有機砂糖で終わらせずに、有機砂糖を使った多様な有機食品を作るところまで産業が展開できたら、沖縄の農業、食品製造業は「山椒は小粒でピリリと」の存在になれるかもしれない。