沖縄市
2011年06月12日
人が必要な本をそろえるプロを目指して
沖縄を創る人 第22回
あやかりの杜図書館司書 玉城留美さん(上)
北中城村の丘に「あやかりの杜」図書館がある。東シナ海と太平洋の両方が見渡せる最高のロケーション。こんな所に図書館があったなんてー。驚いていると、司書の玉城留美さんが笑顔で迎えてくれた。
あやかりの杜は北中城村立の複合施設で、図書館がその中核。ことし8月で開館3年になるというまだ若い図書館だ。絶景を眺められる読書席を設け、聞こえるか聞こえないか程度の微かなBGMを流し、沖縄の「城(グスク)」関連書籍を充実させる、といったオリジナリティあふれる図書館づくりを進めている。
玉城さんは若い頃から図書館司書になる夢を持ち、学生時代に資格を取得した。
「本の虫だった父の影響で、家には本がたくさんありました」
家に本がたくさんあるのは当たり前、と思っていたから、子供の頃、本のない友達の家に行くと違和感があった。玉城さん自身も本が大好き。高校生の頃は、自分がいいと思った本のシリーズを学校に持っていって「だれでも読んで」と出窓にドンと置いて「私設図書館」を作ったりした。
図書館司書、と言っても、貸し出し窓口に座っている人、というくらいのイメージしか持っていない人もいるのではないだろうか。
「欧米では図書館司書と言えば完全な専門職。私、司書になったよ、とアメリカの友人たちにメールしたら、それはすごいって返事が来ました」
玉城さんは、情報の一大集積である図書館をもっとダイナミックに使ってほしいと思っている。
「あのう、バラを栽培したいんだけどー、という人が来たとします。ミニバラなんだけどね、って。沖縄で育てていて、肥料はいつやるのかなあ、と。少しお待ち下さい、と司書の私は、本を探します」
「はいどうぞ、と書架から集めてきたたくさんの関連書籍を差し出します。そうしたらこの人が本を手にとりながら、『ペーハーってなんね』『アルカリぃ? 分からん』。私が用意した本が相手にフィットしていないんです。詳しすぎる本を持ってきてしまったみたい、ということですね。やりすぎ。ああ、この方が欲しかったのは趣味の園芸テキストみたいな感じだったのかなあ、って」
逆に、自分のみつくろった本がパッと相手のニーズにマッチした時は司書冥利に尽きる、と玉城さんは言う。
今はインターネット全盛時代。とはいえ、調べ方や調べる内容をみんながよく分かっているとは限らない。
「知りたいことが漠然としていることも多いと思うんです。考えを整理していくのを司書に手助けしてもらいながら、ああ、私が探しているのはこれだねえ、って自分でだんだん分かってくることもあります。そういう対人コミュニケーションがとれるのが図書館の素晴らしさです」
利用者によっては司書に尋ねるのにも勇気がいるはず、と玉城さんは気を配る。だから10人来たら10人ともおろそかにできない、と言う。
自分と先輩司書の違いを感じる時に、司書はやはり専門職だな、と改めて思う。
「こういう小説がありましたよね、表紙のこの辺が赤だったかな、と先輩に尋ねると、ああ、あなたの言っているのはそれの初版ですね、と。カーッコいい。全部アタマに入ってるんです」
「アメリカの友達に、司書になったよってメールしちゃったから、もう中途半端な司書にはなれないですね」と玉城さんは笑う。
あやかりの杜図書館で司書として働く前、玉城さんは14年間、沖縄市にあったアメリカの会社に勤務していた。その話は次回6/19(日)に。
あやかりの杜図書館司書 玉城留美さん(上)
北中城村の丘に「あやかりの杜」図書館がある。東シナ海と太平洋の両方が見渡せる最高のロケーション。こんな所に図書館があったなんてー。驚いていると、司書の玉城留美さんが笑顔で迎えてくれた。
あやかりの杜は北中城村立の複合施設で、図書館がその中核。ことし8月で開館3年になるというまだ若い図書館だ。絶景を眺められる読書席を設け、聞こえるか聞こえないか程度の微かなBGMを流し、沖縄の「城(グスク)」関連書籍を充実させる、といったオリジナリティあふれる図書館づくりを進めている。
玉城さんは若い頃から図書館司書になる夢を持ち、学生時代に資格を取得した。
「本の虫だった父の影響で、家には本がたくさんありました」
家に本がたくさんあるのは当たり前、と思っていたから、子供の頃、本のない友達の家に行くと違和感があった。玉城さん自身も本が大好き。高校生の頃は、自分がいいと思った本のシリーズを学校に持っていって「だれでも読んで」と出窓にドンと置いて「私設図書館」を作ったりした。
図書館司書、と言っても、貸し出し窓口に座っている人、というくらいのイメージしか持っていない人もいるのではないだろうか。
「欧米では図書館司書と言えば完全な専門職。私、司書になったよ、とアメリカの友人たちにメールしたら、それはすごいって返事が来ました」
玉城さんは、情報の一大集積である図書館をもっとダイナミックに使ってほしいと思っている。
「あのう、バラを栽培したいんだけどー、という人が来たとします。ミニバラなんだけどね、って。沖縄で育てていて、肥料はいつやるのかなあ、と。少しお待ち下さい、と司書の私は、本を探します」
「はいどうぞ、と書架から集めてきたたくさんの関連書籍を差し出します。そうしたらこの人が本を手にとりながら、『ペーハーってなんね』『アルカリぃ? 分からん』。私が用意した本が相手にフィットしていないんです。詳しすぎる本を持ってきてしまったみたい、ということですね。やりすぎ。ああ、この方が欲しかったのは趣味の園芸テキストみたいな感じだったのかなあ、って」
逆に、自分のみつくろった本がパッと相手のニーズにマッチした時は司書冥利に尽きる、と玉城さんは言う。
今はインターネット全盛時代。とはいえ、調べ方や調べる内容をみんながよく分かっているとは限らない。
「知りたいことが漠然としていることも多いと思うんです。考えを整理していくのを司書に手助けしてもらいながら、ああ、私が探しているのはこれだねえ、って自分でだんだん分かってくることもあります。そういう対人コミュニケーションがとれるのが図書館の素晴らしさです」
利用者によっては司書に尋ねるのにも勇気がいるはず、と玉城さんは気を配る。だから10人来たら10人ともおろそかにできない、と言う。
自分と先輩司書の違いを感じる時に、司書はやはり専門職だな、と改めて思う。
「こういう小説がありましたよね、表紙のこの辺が赤だったかな、と先輩に尋ねると、ああ、あなたの言っているのはそれの初版ですね、と。カーッコいい。全部アタマに入ってるんです」
「アメリカの友達に、司書になったよってメールしちゃったから、もう中途半端な司書にはなれないですね」と玉城さんは笑う。
あやかりの杜図書館で司書として働く前、玉城さんは14年間、沖縄市にあったアメリカの会社に勤務していた。その話は次回6/19(日)に。
2009年05月07日
[第115話 食] 1100円のお値打ちステーキ
沖縄はステーキが有名。米軍統治時代のなごりと言われるが、沖縄県民の肉好きがそれをガッチリ下支えしているとの説もある。そんな地元民御用達洋食店の代表格が沖縄市の「ハイウェイドライブイン」。いつも地元客でごった返している。中でも、1100円のスペシャルステーキはお値打ちだ。
「沖縄 ステーキ」でネット検索すると、那覇を中心にいろいろなステーキ専門店が出てくる。かつて米軍Aサインレストランだった店、ステーキだけでなく伊勢エビなどの高級海鮮グリルを出す店など、さまざまだ。
古くからあるステーキ専門店でも、1980年代の前半くらいまでは、1000円前後でステーキが食べられた。当時、本土から沖縄旅行に来た人の中にはそれをお目当てにする人もかなりいた。だが、現在、1000円でステーキを出す店はさすがにほとんどない。「安い」ということにそれほど重きを置かなくなってきたのだろう。例えば、1953年創業の有名店、那覇市のジャッキーステーキハウスでも、一番割安のニューヨークステーキSが1400円。
ハイウェイドライブインは、本土復帰の前後にオープンしたというから既に創業30年以上。コザという場所柄、かつては米軍人のお客も多かっただろうが、今や地元民が圧倒的だ。
この店は、昼となく夜となく、常にお客がたくさんいる。家族連れ、若いカップル、作業服姿のおじさんたち。カウンターごしのオープンキッチンの中には料理人やアシスタントの女性が4、5人いて、ハンバーグを焼いたり、とんかつを揚げたりして、忙しそうに動き回っている。それほど広くもないキッチンにあんなにたくさんスタッフがいるのかな、と思うかもしれないが、客の回転がいいから、2人やそこいらでは追いつかないのだ。
ステーキ専門店ではない。メニューの中心はランチ。ランチとは言っても、「洋定食」くらいの意味で、昼時だけでなく、夜でも食べられる。オムレツ、とんかつ、ハンバーグ、スパゲティといった懐かしの洋おかずとごはん、スープがセットになっている。
ランチでも先にスープが出てきたり、アイスティーがおかわり自由だったり、ハンバーグがハンバーガーにする肉っぽいタイプだったりする。このあたりがアメリカン。八宝菜風の中華メニューを「チャプスイ」と呼ぶところもアメリカンの趣きが漂う。チャンプルーなどのオキナワンメニューも豊富。
さて、本題のスペシャルステーキにいこう。初めてオーダーした時は「1100円はちょっと安すぎないか」「靴底のような、味がなくて固いだけの肉かも」と、待っている間に一抹の不安がよぎった。いくぶん緊張気味でテーブルに座っていたが、やや粉っぽいスープとサラダに続いて登場したのは、まさに血のしたたるおいしそうなステーキだった。鉄板の上で肉汁がジュワジュワといい音を奏でている(冒頭の写真)。
「とろけるような」という形容は当たらないが、バサバサ肉では全くない。適度な噛み応えと柔らかさがともにあり、しかもジューシー。これで1100円なら文句を言う人はいないだろう。味はほとんどついていないので、好みで塩、コショウ、しょうゆ、ソース類をかけて食べる。
ふと周囲を見回してみると、ランチを食べている人が多い中で、ナイフでステーキを一口大に切りながら、せっせと口に運ぶ向きもバラバラと見えた。ランチが500-800円ほどなのに比べれば1100円は割高かもしれないが、ちょっと奮発すれば手の届くところに、このスペシャルステーキはある。
名前の「ハイウェイドライブイン」も70年代風のレトロな響き。ただ、実際は、ハイウェイ沿いではなく、一般県道75号線沿い。ドライブインと言えば、駐車場が広々していて、というイメージだが、これもそうではなく、県道沿いのやや古びた普通の建物なので、想像をたくましくして初めて訪れた人は戸惑うかも。車は裏手の小さな駐車場にとめられる。
ハイウェイドライブインは、沖縄市美里1266、098-937-8448。営業時間は11:00-26:00。年末年始と旧盆を除いて無休。
「沖縄 ステーキ」でネット検索すると、那覇を中心にいろいろなステーキ専門店が出てくる。かつて米軍Aサインレストランだった店、ステーキだけでなく伊勢エビなどの高級海鮮グリルを出す店など、さまざまだ。
古くからあるステーキ専門店でも、1980年代の前半くらいまでは、1000円前後でステーキが食べられた。当時、本土から沖縄旅行に来た人の中にはそれをお目当てにする人もかなりいた。だが、現在、1000円でステーキを出す店はさすがにほとんどない。「安い」ということにそれほど重きを置かなくなってきたのだろう。例えば、1953年創業の有名店、那覇市のジャッキーステーキハウスでも、一番割安のニューヨークステーキSが1400円。
ハイウェイドライブインは、本土復帰の前後にオープンしたというから既に創業30年以上。コザという場所柄、かつては米軍人のお客も多かっただろうが、今や地元民が圧倒的だ。
この店は、昼となく夜となく、常にお客がたくさんいる。家族連れ、若いカップル、作業服姿のおじさんたち。カウンターごしのオープンキッチンの中には料理人やアシスタントの女性が4、5人いて、ハンバーグを焼いたり、とんかつを揚げたりして、忙しそうに動き回っている。それほど広くもないキッチンにあんなにたくさんスタッフがいるのかな、と思うかもしれないが、客の回転がいいから、2人やそこいらでは追いつかないのだ。
ステーキ専門店ではない。メニューの中心はランチ。ランチとは言っても、「洋定食」くらいの意味で、昼時だけでなく、夜でも食べられる。オムレツ、とんかつ、ハンバーグ、スパゲティといった懐かしの洋おかずとごはん、スープがセットになっている。
ランチでも先にスープが出てきたり、アイスティーがおかわり自由だったり、ハンバーグがハンバーガーにする肉っぽいタイプだったりする。このあたりがアメリカン。八宝菜風の中華メニューを「チャプスイ」と呼ぶところもアメリカンの趣きが漂う。チャンプルーなどのオキナワンメニューも豊富。
さて、本題のスペシャルステーキにいこう。初めてオーダーした時は「1100円はちょっと安すぎないか」「靴底のような、味がなくて固いだけの肉かも」と、待っている間に一抹の不安がよぎった。いくぶん緊張気味でテーブルに座っていたが、やや粉っぽいスープとサラダに続いて登場したのは、まさに血のしたたるおいしそうなステーキだった。鉄板の上で肉汁がジュワジュワといい音を奏でている(冒頭の写真)。
「とろけるような」という形容は当たらないが、バサバサ肉では全くない。適度な噛み応えと柔らかさがともにあり、しかもジューシー。これで1100円なら文句を言う人はいないだろう。味はほとんどついていないので、好みで塩、コショウ、しょうゆ、ソース類をかけて食べる。
ふと周囲を見回してみると、ランチを食べている人が多い中で、ナイフでステーキを一口大に切りながら、せっせと口に運ぶ向きもバラバラと見えた。ランチが500-800円ほどなのに比べれば1100円は割高かもしれないが、ちょっと奮発すれば手の届くところに、このスペシャルステーキはある。
名前の「ハイウェイドライブイン」も70年代風のレトロな響き。ただ、実際は、ハイウェイ沿いではなく、一般県道75号線沿い。ドライブインと言えば、駐車場が広々していて、というイメージだが、これもそうではなく、県道沿いのやや古びた普通の建物なので、想像をたくましくして初めて訪れた人は戸惑うかも。車は裏手の小さな駐車場にとめられる。
ハイウェイドライブインは、沖縄市美里1266、098-937-8448。営業時間は11:00-26:00。年末年始と旧盆を除いて無休。
2009年02月24日
[第103話 食] リッチなコーンブレッドはいかが
コーンブレッドがメインという珍しいカフェが沖縄市泡瀬にある。石原和典さん、恵美さん夫妻の店カフェ・カーザ。コーンブレッドだけでなく、恵美さんが手作りする「ちょっと珍しいパンたち」が人気を集めている。
コーンブレッドといえば、アメリカ。粗く挽いたトウモロコシの粉をたっぷり使ったほんのり甘い素朴なパンだ。アメリカでは、おやつやピクニック、パーティなどに手作りのコーンブレッドがよく登場する。パンといっても、小麦粉のグルテンの粘りが少ないのと、イーストではなく膨らし粉で作るので、ややボソボソしたケーキのような食感。トウモロコシのつぶつぶ感と香りを楽しむ。
恵美さんは、アメリカ人と結婚しているおばさんの家で、コーンブレッドを初めて食べ、そのおいしさに惹かれたという。
パン作りが得意な恵美さんは、和典さんと今の店を始めるにあたって、自分なりのコーンブレッドづくりに取り組んだ。自分がおいしいと思えるコーンブレッドを追求して、何度も試作。その結果、アメリカの平均的なそれよりもリッチな味わいのコーンブレッドが出来上がった。お客さんに出す際には軽く温めるので、トウモロコシの香りがいっそう膨らみ、鼻をくすぐる。
コーンブレッドのほかに、スコーン、ワッフル、ベーグルは定番で置いているが、それ以外のパンはすべて週に2回替わるので、どんなパンが出てくるかはお店に行ってのお楽しみ。この週2回替わりのパン、つまり冒頭で書いた「ちょっと珍しいパンたち」がまた面白い。
恵美さんの作るパンは、形容がなかなか難しい。いわゆる菓子パンでもないし、コロッケパンのようなおかずパンでもない。どれもパン生地そのものを味わうパンなのだ。例えば「白パン」と呼ばれる丸い小さなパン。まさに、パン生地そのものがおいしいパンで、具材やトッピングは何もないから、他に呼びようがない。しかし、この白パン、しっとりとした実にきめの細かなパン生地が何とも言えない繊細な食感をもたらす。
「普通のパン屋さんにないようなパンをお出しして、お客様に喜んでいただけたらうれしいですね」と和典さん。ソバ粉パン、イカスミパンなど、60種類ほどのさまざまなパンのレパートリーを持つ恵美さんが、その中から週の前半と後半に1種類ずつ焼く。これが「本日のパン」になる。
ランチタイムはパスタも充実。180種類ほどあるレシピの中から、今週はこれとこれ、といった具合に、毎週違うものを3種類出す。だから「またあれが食べたい」と思っても、それが再びランチメニューに載るのは1年後というようなことに。裏返して言えば、パンもパスタも、行くたびに新しいものに出会えるという趣向だ。
ランチセットは、パスタを中心に、コーンブレッドまたは「本日のパン」、サラダ、デザート、ドリンクがついて1050円。パスタの代わりにドリアも選べる。
カフェ・カーザは、沖縄市海邦2-7-12、098-939-2457。毎週水曜と第1、第3木曜が定休。ランチタイムは11:30から14:30まで(日祝は15:00まで)。その後は18:00までティータイム。場所は、那覇方面からなら、泡瀬の海沿いの県道を北上し、左手に「金城歯科医院」「マンモス釣り具」の見える路地を左折。1つ目の信号を右折して少し行くと右手に見える洋風の一軒家がそれ。
コーンブレッドといえば、アメリカ。粗く挽いたトウモロコシの粉をたっぷり使ったほんのり甘い素朴なパンだ。アメリカでは、おやつやピクニック、パーティなどに手作りのコーンブレッドがよく登場する。パンといっても、小麦粉のグルテンの粘りが少ないのと、イーストではなく膨らし粉で作るので、ややボソボソしたケーキのような食感。トウモロコシのつぶつぶ感と香りを楽しむ。
恵美さんは、アメリカ人と結婚しているおばさんの家で、コーンブレッドを初めて食べ、そのおいしさに惹かれたという。
パン作りが得意な恵美さんは、和典さんと今の店を始めるにあたって、自分なりのコーンブレッドづくりに取り組んだ。自分がおいしいと思えるコーンブレッドを追求して、何度も試作。その結果、アメリカの平均的なそれよりもリッチな味わいのコーンブレッドが出来上がった。お客さんに出す際には軽く温めるので、トウモロコシの香りがいっそう膨らみ、鼻をくすぐる。
コーンブレッドのほかに、スコーン、ワッフル、ベーグルは定番で置いているが、それ以外のパンはすべて週に2回替わるので、どんなパンが出てくるかはお店に行ってのお楽しみ。この週2回替わりのパン、つまり冒頭で書いた「ちょっと珍しいパンたち」がまた面白い。
恵美さんの作るパンは、形容がなかなか難しい。いわゆる菓子パンでもないし、コロッケパンのようなおかずパンでもない。どれもパン生地そのものを味わうパンなのだ。例えば「白パン」と呼ばれる丸い小さなパン。まさに、パン生地そのものがおいしいパンで、具材やトッピングは何もないから、他に呼びようがない。しかし、この白パン、しっとりとした実にきめの細かなパン生地が何とも言えない繊細な食感をもたらす。
「普通のパン屋さんにないようなパンをお出しして、お客様に喜んでいただけたらうれしいですね」と和典さん。ソバ粉パン、イカスミパンなど、60種類ほどのさまざまなパンのレパートリーを持つ恵美さんが、その中から週の前半と後半に1種類ずつ焼く。これが「本日のパン」になる。
ランチタイムはパスタも充実。180種類ほどあるレシピの中から、今週はこれとこれ、といった具合に、毎週違うものを3種類出す。だから「またあれが食べたい」と思っても、それが再びランチメニューに載るのは1年後というようなことに。裏返して言えば、パンもパスタも、行くたびに新しいものに出会えるという趣向だ。
ランチセットは、パスタを中心に、コーンブレッドまたは「本日のパン」、サラダ、デザート、ドリンクがついて1050円。パスタの代わりにドリアも選べる。
カフェ・カーザは、沖縄市海邦2-7-12、098-939-2457。毎週水曜と第1、第3木曜が定休。ランチタイムは11:30から14:30まで(日祝は15:00まで)。その後は18:00までティータイム。場所は、那覇方面からなら、泡瀬の海沿いの県道を北上し、左手に「金城歯科医院」「マンモス釣り具」の見える路地を左折。1つ目の信号を右折して少し行くと右手に見える洋風の一軒家がそれ。
2008年09月03日
[第74話 食] ゆるぎない原点の極上コーヒー
実にすっきりとして深い味のコーヒーである。沖縄市のくすのき通りにある「原点」。沖縄のコーヒー専門店の最高峰といっていいだろう。
「原点」は既に有名な店なので、万鐘本店では、当初、コーヒー以外の切り口で原点を紹介するつもりだった。実際、興味深い別の話題もある。だが、このコーヒーの味と香りをさしおいて、別の話から入るのは無理がある。やはり本筋のコーヒーの話からいくことにしよう。
マスターは外間也蔵さん。外間さんがいれるコーヒーは、強いが、なぜか全く抵抗なく入ってくる。「苦み」や「しびれ」をほとんど感じることなく、たっぷりとした旨味を堪能できる。酸味もさほど強くない。抜群のバランスの上に豊潤さが大きく開花している、そんなコーヒーだ。
コーヒーをおいしく作るには、いれ方ももちろんあるが、豆の焙煎が重要だと外間さんは言う。「酸味なども、焼き方で決まります」。焙煎してから3日くらいまでは大丈夫だが、その後からは劣化が始まるらしい。もちろん、粉にひくのは飲む直前。
昔に比べて豆の質が落ちた、と外間さんは嘆く。農薬のかかったコーヒー豆はそういう味がするという。かつてはモカを使うことがしばしばあったが、最近はインドネシア産の豆が比較的いい、と話す。
原点には、細やかな神経が隅々にまで行き届いた空気が漂っている。もちろん、それはピリピリしたものではなく、あくまでも心地よい穏やかな緊張感だ。
作りつけの棚には、水出しコーヒーの器具が整然と並び、真ん中に柱時計が。机などは濃い茶色で統一され、落ち着いた空間を形づくる。BGMはクラシック。もの静かな外間さん自身も、コーヒーについて尋ねれば、気さくにうんちくを傾けてくれる。
空気、店の造り、色合い、音楽、人。それらすべてが、極上のコーヒーをさらにおいしくするバックグラウンドになっている。
その原点が、創業30年目の来春、移転する。くすのき通りが拡張されるため、通り沿いの店舗は立ち退きを余儀なくされるのだ。見事だったくすのきも既に無惨に切られてしまった。
「店は続けます」と外間さん。移転先はまだ決まっていないが、立ち退き後、間を置かずに移転先で開店できるようにするつもり、と言う。よかった。外間さんのいれる極上のコーヒーは、まだしばらく飲めるらしい。
原点は、沖縄市仲宗根町1-10、098-938-4832。営業は8時から21時。日曜休。
「原点」は既に有名な店なので、万鐘本店では、当初、コーヒー以外の切り口で原点を紹介するつもりだった。実際、興味深い別の話題もある。だが、このコーヒーの味と香りをさしおいて、別の話から入るのは無理がある。やはり本筋のコーヒーの話からいくことにしよう。
マスターは外間也蔵さん。外間さんがいれるコーヒーは、強いが、なぜか全く抵抗なく入ってくる。「苦み」や「しびれ」をほとんど感じることなく、たっぷりとした旨味を堪能できる。酸味もさほど強くない。抜群のバランスの上に豊潤さが大きく開花している、そんなコーヒーだ。
コーヒーをおいしく作るには、いれ方ももちろんあるが、豆の焙煎が重要だと外間さんは言う。「酸味なども、焼き方で決まります」。焙煎してから3日くらいまでは大丈夫だが、その後からは劣化が始まるらしい。もちろん、粉にひくのは飲む直前。
昔に比べて豆の質が落ちた、と外間さんは嘆く。農薬のかかったコーヒー豆はそういう味がするという。かつてはモカを使うことがしばしばあったが、最近はインドネシア産の豆が比較的いい、と話す。
原点には、細やかな神経が隅々にまで行き届いた空気が漂っている。もちろん、それはピリピリしたものではなく、あくまでも心地よい穏やかな緊張感だ。
作りつけの棚には、水出しコーヒーの器具が整然と並び、真ん中に柱時計が。机などは濃い茶色で統一され、落ち着いた空間を形づくる。BGMはクラシック。もの静かな外間さん自身も、コーヒーについて尋ねれば、気さくにうんちくを傾けてくれる。
空気、店の造り、色合い、音楽、人。それらすべてが、極上のコーヒーをさらにおいしくするバックグラウンドになっている。
その原点が、創業30年目の来春、移転する。くすのき通りが拡張されるため、通り沿いの店舗は立ち退きを余儀なくされるのだ。見事だったくすのきも既に無惨に切られてしまった。
「店は続けます」と外間さん。移転先はまだ決まっていないが、立ち退き後、間を置かずに移転先で開店できるようにするつもり、と言う。よかった。外間さんのいれる極上のコーヒーは、まだしばらく飲めるらしい。
原点は、沖縄市仲宗根町1-10、098-938-4832。営業は8時から21時。日曜休。