海軍病院
2011年05月22日
沖縄を先端医療特区に
沖縄を創る人 第19回
浦添総合病院循環器内科医長 宮城直人さん(下)
循環器専門医の宮城直人さんは、1年ほど前、強烈な体験をした。欧米で既に安全性や有効性が立証されたある心疾患治療器具をヨーロッパ心臓病学会の発表などで知った。早速、開発元の米国企業のCEOにメールを書いて問い合わせたら、こんな問いが返ってきた。
「あなたの病院はフェンスの内か外か」
沖縄には「フェンスの内側」、つまり米軍基地内に、在沖米海軍病院がある。CEOいわく、そこでならば米食品衛生局に認可されたこの器具を使うことは問題ないが、フェンスの外側、つまり日本の厚生労働省の管轄区域では無理、と。
米海軍病院の医療設備や治療能力は決して高いものとはいえず、実際、海軍病院から宮城さんの病院に搬送されてくる患者も少なくない。そんな海軍病院でしか最新器具を使えないという理不尽さ。
そこに、日頃向き合っている循環器疾患の遠因を作った米軍支配の時代が、どうしてもオーバ―ラップする。あの時代さえなければ、県民の食生活が今のように油脂類を大量に摂取することにはなっていなかったのではないか。
そんな理不尽さに打ちのめされながら、宮城さんの頭に「先端医療特区」というアイデアが浮かんできた。フェンスの向こうとこちら、とはまさに一国二制度。ならば、それを逆手にとって、沖縄を先端医療特区とし、時間がかかる厚生労働省の認可を待たずに新薬や最新医療器具を使える一国二制度を実現したらどうか。
これが実現すれば、ドラッグラグ、デバイスラグから解放されるだけではない。同じラグに悩む本土の医療機関からも「学び」のために専門医が集まってくる。そして、そのような治療の1日も早い認可を心から待ち望んでいる患者たちも、全国からやってくるはずだ。沖縄の病院なら使ってくれるとなれば、世界の製薬会社や医療器具メーカーも最新情報を携えて沖縄を訪れることだろう。
「今でも医学部卒業後の研修医の研修場所として、沖縄は全国で5本の指に入るほど高い人気があります。その理由の一つは症例が豊富だから。ところが、せっかく沖縄で研修しても、その後に定着しない。やはりラグの大きさが最大の理由でしょう」
医療特区は、先端医療そのものを沖縄にもたらすだけでなく、さまざまな人と情報の動きを作り出し、沖縄の経済振興に確実に結びつく。
政府は「一国二制度」になることを理由として、さまざまな特区構想について、限定的なものしか認めようとしない傾向がある。しかし「フェンスの向こうとこちら」という明らかな一国二制度が沖縄には既に存在している。基地負担では一国二制度が現にあるのだから、メリットをもたらす一国二制度も政府は認めるべきではないかー。宮城さんはそう考える。
ものごとにはステップがあるから、一気に沖縄全域を医療特区にするのは難しいかもしれない。米海軍病院との提携から始めてもよい。海軍病院でなら最新器具や治療薬が既に使えるのだから、そこと全面的に提携して「フェンスの外の医師」が海軍病院に勤務して「フェンスの外の患者」を治療できるようにする。よい成果が出てきたら、その範囲やステージを「フェンスの外側」に拡大していく。
保険制度が適用されなければ特区を設ける意味は半減するから、この点は最初から必須だ。ただし、日本の厚生労働省未認可である以上、治療の結果については原則として患者の自己責任とする。マイナスの結果が生じても、日本政府が責任を問われることはない。
「それでも最新治療を受けたいと考える患者さんは、県内外を問わず、たくさんいるはずです」
沖縄県民は、日常的にフェンスと向き合って半世紀以上生活してきた。そんなフェンスを逆利用して、開かれた世界への扉に変えることができたらー。宮城さんは先端医療特区構想を県知事にぜひ伝えたいと思っている。
[宮城直人さんとつながる] 宮城さんが勤務する浦添総合病院のホームページに、循環器センターのページがある。狭心症、心筋梗塞などの症状や、検査方法、治療方法の解説が詳しい。
浦添総合病院循環器内科医長 宮城直人さん(下)
循環器専門医の宮城直人さんは、1年ほど前、強烈な体験をした。欧米で既に安全性や有効性が立証されたある心疾患治療器具をヨーロッパ心臓病学会の発表などで知った。早速、開発元の米国企業のCEOにメールを書いて問い合わせたら、こんな問いが返ってきた。
「あなたの病院はフェンスの内か外か」
沖縄には「フェンスの内側」、つまり米軍基地内に、在沖米海軍病院がある。CEOいわく、そこでならば米食品衛生局に認可されたこの器具を使うことは問題ないが、フェンスの外側、つまり日本の厚生労働省の管轄区域では無理、と。
米海軍病院の医療設備や治療能力は決して高いものとはいえず、実際、海軍病院から宮城さんの病院に搬送されてくる患者も少なくない。そんな海軍病院でしか最新器具を使えないという理不尽さ。
そこに、日頃向き合っている循環器疾患の遠因を作った米軍支配の時代が、どうしてもオーバ―ラップする。あの時代さえなければ、県民の食生活が今のように油脂類を大量に摂取することにはなっていなかったのではないか。
そんな理不尽さに打ちのめされながら、宮城さんの頭に「先端医療特区」というアイデアが浮かんできた。フェンスの向こうとこちら、とはまさに一国二制度。ならば、それを逆手にとって、沖縄を先端医療特区とし、時間がかかる厚生労働省の認可を待たずに新薬や最新医療器具を使える一国二制度を実現したらどうか。
これが実現すれば、ドラッグラグ、デバイスラグから解放されるだけではない。同じラグに悩む本土の医療機関からも「学び」のために専門医が集まってくる。そして、そのような治療の1日も早い認可を心から待ち望んでいる患者たちも、全国からやってくるはずだ。沖縄の病院なら使ってくれるとなれば、世界の製薬会社や医療器具メーカーも最新情報を携えて沖縄を訪れることだろう。
「今でも医学部卒業後の研修医の研修場所として、沖縄は全国で5本の指に入るほど高い人気があります。その理由の一つは症例が豊富だから。ところが、せっかく沖縄で研修しても、その後に定着しない。やはりラグの大きさが最大の理由でしょう」
医療特区は、先端医療そのものを沖縄にもたらすだけでなく、さまざまな人と情報の動きを作り出し、沖縄の経済振興に確実に結びつく。
政府は「一国二制度」になることを理由として、さまざまな特区構想について、限定的なものしか認めようとしない傾向がある。しかし「フェンスの向こうとこちら」という明らかな一国二制度が沖縄には既に存在している。基地負担では一国二制度が現にあるのだから、メリットをもたらす一国二制度も政府は認めるべきではないかー。宮城さんはそう考える。
ものごとにはステップがあるから、一気に沖縄全域を医療特区にするのは難しいかもしれない。米海軍病院との提携から始めてもよい。海軍病院でなら最新器具や治療薬が既に使えるのだから、そこと全面的に提携して「フェンスの外の医師」が海軍病院に勤務して「フェンスの外の患者」を治療できるようにする。よい成果が出てきたら、その範囲やステージを「フェンスの外側」に拡大していく。
保険制度が適用されなければ特区を設ける意味は半減するから、この点は最初から必須だ。ただし、日本の厚生労働省未認可である以上、治療の結果については原則として患者の自己責任とする。マイナスの結果が生じても、日本政府が責任を問われることはない。
「それでも最新治療を受けたいと考える患者さんは、県内外を問わず、たくさんいるはずです」
沖縄県民は、日常的にフェンスと向き合って半世紀以上生活してきた。そんなフェンスを逆利用して、開かれた世界への扉に変えることができたらー。宮城さんは先端医療特区構想を県知事にぜひ伝えたいと思っている。
[宮城直人さんとつながる] 宮城さんが勤務する浦添総合病院のホームページに、循環器センターのページがある。狭心症、心筋梗塞などの症状や、検査方法、治療方法の解説が詳しい。