熟成

2012年08月25日

微塩熟成の魔術

 冷しゃぶ話の続きを。ももと膳の冷しゃぶは、微塩熟成させた豚三枚肉を使っています。万鐘の人気商品「豚しゃぶスーチカー」です。

 スーチカーというのは、沖縄の言葉で「しおづけ」のこと。「スー・チカー」と「シオ・ヅケ」。音が似ていませんか。

 微塩熟成後の肉のかたまりは、こんな感じです。

1 Suchka niku B


 昔は冷蔵庫がなかったので、めったに食べられないごちそうの肉を腐らせないようにするのに、大量の塩に漬け込んでいました。今はもちろん冷蔵庫があるので、大量の塩に漬ける必要はないのですが、実は、肉は塩漬けにすると、ものすごく味もよくなるんですね。

 昔みたいに保存目的で大量の塩を使うのではなく、純粋においしくするために、微量の塩で冷蔵庫でしばらく熟成させます。これを極く薄く切って、しゃぶしゃぶにして食べると、はあ、もう、うまいのなんの。おススメです。

 肉の写真ですが、普通の豚肉より、色がやや濃いめで、透明度が高いのが特徴です。下は万鐘の豚しゃぶ写真ですが、豚肉がこんなに透明な感じになるの?とよく質問されます。結論から言えば、なるんです。

2 Butasyabu


 魚屋さんで「生」のタラコやスジコが売られていることがあります。それらと、塩蔵されて食べられるようになったタラコやスジコ(イクラ)を思い浮かべて下さい。塩蔵タラコや塩蔵スジコの方が色が深くなり、同時に透明感も増していますよね。

 それと全く同じことが、肉の中で、塩蔵熟成中に起きているんです。肉の色が深くなり、透明度が高まり、ねっとりとした粘りが出てきます。肉の細胞の保水力も高まり、冷凍から解凍してもドリップが出にくくなります。

 タラコ、イクラのような、ねっとりと透明な豚肉。これが微塩熟成の結果です。


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2008年08月22日

[第72話 食、農] ヤギ乳チーズの濃厚なうまみ

 万鐘本店第14話で、おいしいヤギの刺身を紹介したように、沖縄にはヤギ食の文化がある。日本のヤギの半数以上は沖縄にいるという。今回は、沖縄ヤギ文化の、いわば応用編。ヤギ乳で作った味わい深いチーズのお話である。

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 このチーズの名は「ピンザブラン」。作っているのは、中城村の株式会社はごろも牧場。創業者の新城将秀さんが、数少ない文献を頼りに何年もの試行錯誤の末、ようやく作り上げた逸品だ。1個100gのピンザブランが、ヤギ1頭の乳から2個しか作れない。

 新城さんの出身地、宮古島ではヤギのことをピンザと呼ぶ。ブランはフランス語で「白」。ピンザブランとは「白カビタイプのヤギ乳チーズ」を意味する新城さんの造語だ。

 世界的にはフランスがヤギ乳チーズの一大産地。フランスではヤギ乳チーズはシェーブルと総称される。スペイン、ポルトガル、イギリス、ギリシャ、ノルウェーなど、欧州各地でヤギ乳チーズが作られている。

 はごろも牧場には、ザーネン、ヌビアン、トッケンブルグ、アルバインの4種類のヤギがいる。いずれも乳用種で、ニュージーランドから導入した。特にヌビアンとトッケンブルグは珍しく、「日本でこれを持っている牧場はここだけではないかと思います」と新城さんは話す。沖縄の在来のヤギは肉用なので、恒常的に乳を搾ることはできない。

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 牧場は海のすぐそば。間伐材を組んで作られた畜舎は清潔感にあふれ、ミネラル豊富な島風を浴びながら、ヤギが静かに草を食べていた。全体で120―130頭ほど。

 新城さんの話では、ヤギ乳は牛乳に比べて脂肪球が小さいため、チーズにする際の乳を固める凝乳工程が難しいという。その一方で、脂肪球が小さいことによって、消化がよくなったり、呈味性が高まったりするというよさがある。

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 さて、その白カビタイプのヤギチーズ。口に含むと、心地よい熟成香が鼻に抜け、噛むにつれて深くて鋭いうまみが口じゅうに広がっていく。これだけの深い味ながら、化学調味料のような嫌味は全くない。まさに乳質のよさと発酵菌の力のなせるわざだ。

 このチーズに近いのは、同じく白カビタイプのカマンベールチーズだろうが、カマンベールは牛乳チーズ。ピンザブランがカマンベールよりもやや鋭利な味がするのは、酸味のあるヤギ乳チーズならではと言えるだろう。

 ただし、ピンザブランの酸味を酸味として意識するのは前半まで。酸味は、やがて広がり出て来る強いうまみに巻き込まれ、後半は濃厚なうまみの世界一色になる。

 ヤギ乳には独特の香りがあるが、これも意識されるのは主に前半。後半になると、やはり強い旨味の力がヤギ香を飲み込んでしまうようだ。口じゅうに豊潤なうまみが広がると、ワインがほしくなる。

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 このピンザブラン、仕込みから2、3週間の熟成で出荷されるが、1週間ほど追加熟成させるとさらに濃厚な味わいになる。中がとろりとクリーミーになり、歯ごたえのある外側の白カビ部分とのコントラストが楽しめる。

 「ただし、熟成が過度に進むとアンモニア臭が出てきますので、追熟は冷蔵庫でプラス2週間ほどにとどめて下さい」と新城さん。

 はごろも牧場は中城村北上原985-1、098-895-5119。商品はインターネットで買える。「はごろも牧場」で検索を。ピンザブラン1つ100gが1500円(送料別)。ただし、少量生産なので、品切れになることもある。ヤギ乳やヤギ乳ヨーグルトも販売している。

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2008年05月18日

[第56話 食] 古酒づくりのための51度原酒泡盛

 泡盛は、イモや麦などを混ぜず、米こうじ100%で仕込む。だから、寝かせれば寝かせるほど熟成していく。これが古酒。その古酒を仕込むために作られたのが神村酒造の「守禮 原酒51度」だ。

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 普通の泡盛は、モロミを蒸留して得られた原酒に水を加えてアルコール度数を調整する。現在、沖縄で生産されている泡盛は30度や25度がほとんど。その結果、多くの古酒もこうした泡盛で仕込まれることになる。

 30度や25度の泡盛が作られる背景には、飲みやすさに対する配慮があるが、酒税法も影を落としている。酒税法が定める泡盛の定義はアルコール度数が45度まで。それ以上の度数の泡盛は「泡盛」と表示できないことになっている。

 「でも、昔は、酒税法はもちろんなかったですし、アルコール度数を測る機器もなかったわけです。ということは、琉球王朝時代の古酒は、蒸留された原酒をそのまま仕込んでいたのではないか、と考えたわけです」と話すのは、常務の神村盛行さん。明確な記録はないが、あえて水で薄める理由は見当たらない、というわけだ。

 発端は、泡盛を百年寝かせて古酒をを作ろうという話だった。百年古酒を仕込むにあたって、それにふさわしい良質の原料泡盛とは何かを考える中から、原酒を薄めずにそのまま仕込むというアイデアが出てきたのである。写真は、神村酒造の構内にさりげなく置かれている往年の酒仕込み用のカメ。

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 神村さんによると、蒸留工程の前半ではアルコール分の高い原酒がとれ、後半では油分を多く含んだ原酒がとれる。熟成の過程では、後半の油分が大きな働きをする。熟成を経て、これらがバニリンなどの香気成分に変わっていくからだ。

 こうして、モロミを蒸留する全工程から得られた原酒100%の泡盛「守禮 原酒51度」が、昨年初めて誕生した。

 「100年後においしくなる酒」だから、違いが明らかになるのは孫の代。ずいぶん気の長い話だが、100年かけて泡盛を育てるという発想は、スケールの大きなロマンを感じさせる。

 これに応えるロマンチストがたくさんいたということだろうか。昨年「守禮 原酒51度」を発売したところ、3000本限定で出したものが3ヶ月で売り切れたという。時間をかけて泡盛を育てていくという沖縄の酒文化は健在だ。好評に応えて、ことしも2月から、泡盛原酒の発売を始めた。

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 「守禮 原酒51度」は1升入りで税込み6300円。100年後に思いをはせつつ、自分でも試しに飲んでみたいという人には、360ml入りの小びんがある。これは神村酒造内にあるショップのみの限定販売。ただし、寝かせていない原酒は口にふくんだ時にやや固い感じを受けた。

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 那覇で明治15年に創業した神村酒造は、いま、うるま市石川の緑豊かな敷地にある。工場見学もできるので、泡盛に関心のある向きにはピッタリの訪問先だろう。

 神村酒造はうるま市石川嘉手苅570、電話098-964-7628。

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