琉球菓子

2011年02月06日

ちんすこう着てトライアスロン

沖縄を創る人 第6回
 新垣カミ菓子店 伊波元丸さん


 新垣カミ菓子店の琉球伝統菓子の味と香りは昔も今も変わらない。その一方で、同店の仕事には、時代の変遷とともに変わってきた部分もある。例えば、ちんすこうの形と大きさ。

 「これを見て下さい」。伊波元丸さんが、作業場の奥の方から、使い込まれた感じの木型を取り出してきた。

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 現在のちんすこうは、長さ6cmほどの細長いものが2本、1袋に入っているタイプがほとんど。伊波さんが作るちんすこうもこのタイプだが、かつてのちんすこうは1個がもっと大きかった。

 一番右の菊の型が普通のちんすこう用で、直径4cmほど。焼くと1.5倍に膨らむというから、出来上がりは6cmくらいになるのだろうか。厚さも1cm強になりそうだ。戦後間もなくまではこの型が使われていたという。

 左側と真ん中の2つは、特別注文で作られる祝儀用ちんすこうの木型だ。真ん中の型は「祝」の文字がくり抜かれている。食紅を混ぜた生地をこの「祝」の型に詰め、次いで、左の穴のあいた木型を乗せて、そこに普通の生地を詰める。2種類の生地を1つにして型から抜くと、上部に赤い「祝」の字が乗ったスペシャルちんすこうができる。

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 今ではこの木型が使われることはないという。「今の細長いのでも大きすぎるという人がいるくらいだからね」。伊波さんの母で7代目の恵子さんが言った。

 包装についても、伊波さんはさまざまな工夫を凝らしている。前回の冒頭で書いたように、同じ新垣名のちんすこうメーカーは3社あるので、うっかりすれば埋没しかねない。伊波さんはちんすこうの包装を、食品業界ではあまり使われない黒と金にしてみた。カラフルなおみやげ品が並ぶ中に置かれると、黒の包装は確かによく目立つ。

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 27袋入りと15袋入りの2種類の黒いパッケージに加え、10袋入りのシルバグレーの小さな箱も作った。「ちょっとしたお返しに使いたい」というお客さんの声を形にした。

 シルバーグレーの小さな箱には表の左下の部分に切れ込みが入れられるようになっていて、そこにあいさつ状などを差し込める。この色なら、祝儀、不祝儀いずれのお返しにも使えるだろう。

 「ちょっと待って下さいね」と言って席を立った伊波さんが、なにやら手に持って戻ってきた。

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 伊波さんが広げてみせたのは、新垣カミ菓子店のトレードマークの竜をあしらったスポーツウエア。

 伊波さんは体を動かすのが好きで、長くマラソンをやってきた。しばらく前から泳ぎを始め、それなら、と自転車にも乗るようになって、ついにトライアスロンを始めた。宮古島で開かれる大会などに毎年のように出場している。

 竜の絵に加えて「ちんすこう」と大書きされている。スポーツ用品メーカー名が入ったウエアに飽きた人たちにとって、「ちんすこう」は新鮮だったのかもしれない。スポーツウエアと伝統菓子のちんすこう。これほどコントラストの強い組み合わせは珍しいかもしれない。

 ホームページでこれの製作を知らせたら、あちこちから注文が舞い込んできて、これまでに60着も売れたという。特別注文なので原価で1着1万2000円もするのに、である。

 「これを着て走っていると、『ちんすこう、頑張れ!』って声援が飛ぶんです」。伊波さんが楽しそうに話す。

 この竜、よく見ると、ちんすこうを食べている。遊び心も十分だ。

[伊波元丸さんとつながる] 新垣カミ菓子店の首里製造所は那覇市首里赤平町1-3-2、886-3081。伊波元丸さんは「琉歌百景」のブログを書いている。商品が買えるのは、国営首里城公園のショップ、那覇空港の沖縄美々(ちゅらぢゅら)、沖縄市にある東京第一ホテルなど。新垣カミ菓子店のホームページからも取り寄せられるが、受注生産が原則。ちんすこうは置いていることが多いが、ちいるんこうはないことも多いので問い合わせを。

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2011年01月30日

ちんすこう支える「何も変えない勇気」

沖縄を創る人 第5回
 新垣カミ菓子店 伊波元丸さん


 ちんすこうをはじめとする昔ながらの琉球伝統菓子を作り続ける新垣カミ菓子店。8代目にあたる伊波元丸さんに首里の製造所で話を聞いた。

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 新垣カミ菓子店の歴史は200年前にさかのぼる。琉球王府の包丁方を拝命した新垣親雲上淑規(あらかきぺーちんしゅくき)が開祖。店名になっている新垣カミは、淑規から4代後の淑正の妻で、早くに夫を亡くし、女手ひとつで戦前、戦中、戦後の激動の時代に、伝統の味を守り続けた。

 同じ「新垣(あらかき)」の名でちんすこうを製造しているメーカーは3軒ある。いずれも開祖は同じ淑規で、長い歴史の途中で分かれた。

 新垣カミ菓子店の製品は、ちんすこう、ちいるんこう、はなぼうる、くんぺんなど。伊波さんは現在、ちんすこうとちいるんこうを主に作っている。

 伝統的なちんすこうは、小麦粉、ラード、砂糖、ふくらし粉で作る。新垣カミ菓子店は国産の小麦粉とラードを使う。

 「ちんすこうの食感には小麦粉が大きな影響を与えます」と伊波さん。

 鶏卵が入らないため、結着効果は小麦粉と砂糖だけが担うことになる。いろいろな国産小麦粉を使ってみたが、同じ国産小麦粉といっても、ちんすこうを作ってみると、固すぎる出来上がりになるものもあるし、逆に柔らかすぎてすぐ崩れてしまうものもある。

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 ちんすこうは、生地を焼くと、少し膨らんで上部が盛り上がるとともに、中に3ミリくらいの小さな空洞がいくつかできる。これが口の中で噛むうちにほろほろ崩れる感じの食感の一翼を担っているが、膨らみすぎてもいけない。むしろ生地はしっかり押さえて空気を抜くようにして整える。このような微妙で繊細な感覚が、昔から変わらぬおいしさを支えているといえそうだ。

 新垣カミは「昔からの味は絶対に変えてはならない。お客に対しては、常に立派な菓子をお出しするのがあたりまえ」と常々言っていたという。

 昔の味とは違う新しいものに挑戦したくなりませんか、と伊波さんに尋ねたら、こんな答が返ってきた。

「あえて何も変えない勇気っていうのもあるのかな、と思うんです」

 素材の確かさ、味や香りは昔のまま。看板やパッケージに「伝承200年」とうたっている。

 ちんすこうのほかに、伊波さんが担当しているのが、ちいるんこう。これは万鐘本店1期の第155話で紹介した。卵黄がたっぷり入る栄養豊富なお菓子だ。カステラよりもしっかりした食感。

 琉球国王の王冠の宝石を模したピーナツときっぱんが表面にあしらわれている。生地をじっくりと蒸し上げて作る。

 生地の材料を混ぜ合わせてから時間が経つと生地から気泡が出てきて、仕上がりが悪くなるので、生地づくりから蒸しまでの作業はスピーディーにやる必要がある。これも、代々伝承され、伊波さんの母で7代目の恵子さんから伊波さんに伝えられてきた作り方の一つだ。

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 首里城の中で王子の控え所だった「鎖之間(さすのま)」では、現在、見学者がさんぴん茶と琉球伝統菓子を楽しめる。どの琉球菓子店のお菓子を採用するか、首里城のスタッフが各社の製品を食べ比べた結果、新垣カミ菓子店のものが採用された。

 続きは次回2/6(日)に。

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