生地

2009年02月12日

[第101話 食] 無垢の粉もん カタハランブー

 第81話で紹介した「沖縄の天ぷら=粉もん」説を裏書きする話題を今回はお届けしよう。カタハランブーのお話。

Kataharambu3


 那覇や南部を中心に、正月や結納など、さまざまなお祝いの席で食べられるお菓子の一つがカタハランブー。名前を分解すると、カタハラ+ンブーで「片方」が「重い」。写真で見ての通り、片方だけが膨らんでいて重たい。

 小麦粉を水またはダシ汁で溶き、塩味をつけただけのものなので、甘味はない。生地以外は何も入らない無垢の粉もん。薄い部分はパリパリしていて揚げせんべいのよう、厚い部分は、固めのパンのような味わいだ。もぐもぐ噛んでいると口の中でうまみがじわっと立ち上がってくる。油で揚げられた小麦粉生地は、それだけで素朴なおいしさがある。

 このカタハランブー、どうやって作るのか。那覇・牧志の公設市場近くに店を構えて40年以上になる呉屋天ぷら屋で作るところを見た。この店は、幅1mほどの狭い路地に小さな店を構えているが、この世界では有名店。NHKドラマ「ちゅらさん」の結納シーンで使われたカタハランブーもここが納品した。

Kataharambu2


 柔らかい生地を、フライヤーの手前の斜面部分の鍋肌から静かに流していく。生地は水分が多くて柔らかいので、そのままタラーっと流れ落ちていき、先頭部分が油の中に入る。そこが油の高温で揚げられ、重い方になる。鍋肌に残った薄い生地には、すくった油を上からかけて火を通す。形が定まったら、鍋肌からはずし、仕上げに全体を油に入れてよく揚げる。

 生地が流れて油の中に入ったとたん、油の圧力と熱で流下のスピードが鈍り、そこでたまった生地が固まる。その結果、「カタハラ」が「ンブー」になる。生地の濃さや油の温度、流す鍋肌の角度によって、出来具合いがずいぶん違ってきそうだ。

Kataharambu1


 「これは誰彼でもできるものではないよ」と早口で話すのは、店主の呉屋カヅ子さん。きれいに作るには技術がいる。生地を寝かす時間なども粘りに影響しそうだ。「今は上等のフライヤーがあるから楽になったけど、昔はシンメー鍋でやってたから」と呉屋さん。シンメー鍋は、大量のものを煮炊きするのに使う大鍋。その鍋肌で生地を流したということだろう。シンメー鍋は、第32話「巨大ヤマイモはこうして食べる」の5枚目の写真がそれ。

 呉屋天ぷら屋は、カタハランブー以外にもサーターアンダギーや、同様にお祝いに使う濃いピンク色のマチカジを作る。おやつの定番、魚天ぷらやイモ天ぷらも。とても小さな店だが、実績は堂々たるもので、県内のホテルからも結婚式用に注文が来る。サーターアンダーギーは本土出荷も多いという。

 中年の女性2人連れが呉屋てんぷら屋でイモ天ぷらを買い求め、そのまま店先で食べ始めた。「お昼を食べなかったから。おいしい」と笑顔。寒気の中で、2つに割った揚げたてのイモ天ぷらから湯気がすーっと立ち上る。「カタハランブーは家でもよく作りますよ。お祝いの席に出して、食べる時にはいくつかに切り分けて食べるんです」と解説しながら、「はい」とイモ天を分けてくれた。

Kataharambu4


 既にお気づきの読者もいるだろうが、第81話で紹介した奥武島のテルちゃん鮮魚店が作る「海ぶどうと干しえびの天ぷら」の原型は、カタハランブーではないか。あの天ぷらから、海ぶどうと干しえびを取り除けば、まさにカタハランブー。ただし、あちらのは厚い部分がもっと多く、ンブーなのが必ずしもカタハラではないが。

 呉屋天ぷら屋は、那覇市松尾2-11-8、098-868-8782、ほとんど無休。カタハランブーは1つ130円。1つを1人で食べたら、1食分になるボリュームだ。サーターアンダギーは、普通サイズが50円、直径10cm近い特大は150円。

Kataharambu5


 場所は、牧志の公設市場の南側にある「松尾二丁目中央市場」の路地の中だが、数ヶ月後に移転する。現在借りている建物の取り壊しに伴う移転で、今の場所の近くだそうだが、呉屋さん自身もまだ正確な移転先がよく分からないらしい。今の場所もかなり分かりにくいが、移転後は、近くで聞きながら探すしかなさそうだ。

bansyold at 00:00|PermalinkComments(1)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック