粉もん

2008年10月15日

[第81話 食、沖縄] 沖縄の天ぷらは粉もんだった

 粉もん、という言葉が関西にある。発音はコナモン。タコ焼きやお好み焼きのような、小麦粉で作る食べ物全般を指す。

 沖縄の粉もんの代表選手は何だろう。万鐘の答は、天ぷら。湯ぶねから出た時に思いついた新説なので、異論も出そうだが、新説が世間で評価されるには35年くらいかかるもの。まずは、天ぷら粉もん説の決定的証拠をごらんにいれよう。

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 この特大天ぷらは、沖縄本島南部の奥武島(おうじま)にあるテルちゃん鮮魚店の「海ぶとう天ぷら」。プチプチした海藻の海ぶどうと干しえびが入っている。すっかりおなじみになったモズク天ぷらの兄弟分といえそうだ。

 海ぶどう天ぷらにしても、モズク天ぷらにしても、材料とコロモが渾然一体となっているかき揚げタイプ。そこで深刻な問題になるのは、材料とコロモ、いったいどちらがメインなのか、ということだ。

 東京の人は言うだろう。天ぷらのコロモがメインでどうする、コロモがメインのかき揚げがあったら、それは「ケチでまずいかき揚げ」に決まっとる、と。

 沖縄は違う。沖縄の天ぷらにおけるコロモのおいしさは、材料のおいしさと同等か、ヘタをするとそれ以上なのだ。

 現にテルちゃん鮮魚店の海ぶどう天ぷらにしても、材料の海ぶどうや干しえびはオマケみたいなもので、圧倒的な存在感を見せるのはコロモ。というより、これはもはやコロモではなく「小麦粉で作られた生地本体」と言うべきだろう。

 揚げたてを食べると、外側はサクサク、カリカリしていて、中もべたついていない。ほんのり海ぶどうと干しえびの香りがするいわば「揚げお好み焼き」。これを粉もんと言わずして何と言う、ということなのである。

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 かき揚げタイプではなく、中心に確固たる材料が置かれている天ぷらにしても、沖縄の天ぷらは、コロモの存在が非常に大きい。魚天ぷらしかり、イカ天ぷらしかり。沖縄の天ぷらはコロモがあまり薄かったらそれらしくない。

 沖縄の天ぷらは、ごはんのおかずではない。したがって、普通の食堂に行っても、天ぷら定食は存在しない。ではいったい何者かと言うと、本来、天ぷらは行事食の定番のごちそうである。豊かな現代では、それが一皮むけて、日常のおやつになっている。厚いコロモにはしっかり味がついているので、そのまま食べておいしい。

 町には、あちこちに持ち帰り用の天ぷら屋があって、魚天ぷら、イカ天ぷらを両巨頭とし、野菜天ぷらやイモ天ぷらなどが脇をしっかり固めて、おやつシーンの中心的位置を占めている。

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 天ぷら屋は、申し合わせたように黄色っぽい店が多い。つまり、天ぷらは、理屈とか、色気とか、風情とか、体面とか、そういうものをすべて取り払った、身もふたもない世界にデンと存在しているのだ。そのためには、コロモの薄い上品っぽい天ぷらではかえっておかしい。やはり沖縄の天ぷらは、粉もんでないといけない。

 ある日、職場で。だれかが「はーい、天ぷら買ってきたよー。アチコーコー」なんて言いながら、油がちょっとしみた紙袋をポンと置いたら―。メタボが気になる中高年も、ウエストを気にする若い女性も、思わずサッと腰を浮かせて、いい香りのする紙袋の前に踊りながら集まってしまう。おやつの中心には粉もんの天ぷらあり、なのである。

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 テルちゃん鮮魚店は南城市玉城奥武島41、098-948-7920。橋を渡って奥武島に入ったらすぐ左折して100mほど行くと右手にある。天ぷらもおいしいが、店名の通り、鮮魚が本業。小さな店構えながら、刺身が最高のアカジンミーバイからタマン、マクブまで、近海で獲れる新鮮な魚を取り揃えている。夏の間は、奥武島名物、トビイカの一夜干しも人気。

  

bansyold at 00:00|PermalinkTrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック