翌日配達
2009年11月22日
[第144話 沖縄] ANAハブ始動(上)夜中に積み替え翌日配達
万鐘本店第48話、49話でお伝えした全日空の沖縄貨物ハブがいよいよ動き出した。上海、香港、ソウル、台北、バンコク、羽田、成田、関西の8空港から毎日未明に貨物専用機が那覇に飛来。那覇で2、3時間で積み替えし、早朝には再び8都市に向かう。アジアの荷をすべて沖縄ハブに集結させることによって、どの都市からも「翌日配達」を可能にする日本初のスピード航空貨物輸送システムがスタートした。
従来は、例えば羽田から上海へ、直接、便を飛ばしていた。しかし、その方式では、荷が少ない時でもガラガラの飛行機を飛ばさざるをえない。コストさえ回収できないこともあった。
ハブ方式は、アジア各地のすべての航空貨物を沖縄ハブ1カ所に集める仕組み。例えば上海向けの貨物は、香港からもソウルからも羽田からも成田からも来るから、ガラガラリスクはかなり減る。
新築された那覇空港貨物ターミナル。全日空が使う貨物上屋は、国際貨物を扱うスペースが2万平米、国内貨物を扱う部分が5000平米ある。国内最大級の航空貨物上屋といっていい。もちろん24時間稼働だ。
午前1時半を過ぎると、貨物専用機ボーイング767貨物フレイターがアジア各地から次々に到着し、貨物上屋前のエプロンに整列する。45年間耐用で設計された真新しい貨物上屋内は、荷物の積み替え作業でにわかに慌ただしさを増す。沖縄貨物ハブ発足にあたって、全日空は、国際貨物のハンドリング経験を持つスタッフ140人を全国各地から那覇に転勤させた。加えて、新たに200人を沖縄で地元採用した。
荷物には、那覇に着いてそのまま外国に運ばれる貨物と、日本国内に輸入される貨物に大きく分かれる。そのまま外国に出て行く荷は、コンテナを開いて中身を積み替えするものと、開けずにコンテナごと飛行機を乗り換えるものとがある。前者は上屋内での作業。後者は上屋内に入れず、飛行機間を移動する。日本国内に輸入される荷は、上屋内で通関や検疫の手続きをする。
積み替え作業が終われば、午前3時半から5時半くらいまでの間に、飛行機は8つの都市に向けて次々に飛び立つ。夜が明ける頃には、貨物ターミナルは再び静けさを取り戻す。
届け先の各都市に向かう飛行機は、午前9時頃までにはアジア各地に到着し、それぞれの国内輸送網に乗って配達される。こうして、日本を含むアジア各地で集荷された荷物の多くが翌日に届けられる。
この仕組みを実現するには、ハブになる都市が、他のどの都市からも4時間以内の位置にあることが条件。それより遠くなると、翌日配達が難しくなるからだ。華南経済圏や東南アジアが主舞台になるアジアの航空貨物輸送の場合、すべての関係都市から4時間圏に位置するのは、日本では沖縄しかない。
アジアの最前線に位置する沖縄のこの地理的メリットをこれまで全面的に活用してきたのは米軍だけだった。しかし、急速な経済発展に伴うアジア経済の浮上によって、それが民間の経済活動でも現実に大きなメリットになってきた。
8都市でスタートしたこの事業だが、全日空は、近い将来、ベトナムやシンガポール、インドなどにもネットワークを広げる計画。「14路線ほどにできればと考えています」と、この事業を担当している全日空貨物本部の宍戸隆部長は話す。配達できる先が増えれば、荷主にとってはさらに魅力が増す。一カ所ですべて必要な買い物ができてしまうワンストップショッピングに近づくからだ。
第48話と重複するが、沖縄を中心に4時間圏を示したグーグルの地図を掲げておく。日本のほぼ全域と華南経済圏、ベトナムくらいまで入る。そこからさらに南は、4時間では厳しくなるが、羽田あたりからと比べればはるかに近い。
後編は11月29日(日)公開予定です。お楽しみに。
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従来は、例えば羽田から上海へ、直接、便を飛ばしていた。しかし、その方式では、荷が少ない時でもガラガラの飛行機を飛ばさざるをえない。コストさえ回収できないこともあった。
ハブ方式は、アジア各地のすべての航空貨物を沖縄ハブ1カ所に集める仕組み。例えば上海向けの貨物は、香港からもソウルからも羽田からも成田からも来るから、ガラガラリスクはかなり減る。
新築された那覇空港貨物ターミナル。全日空が使う貨物上屋は、国際貨物を扱うスペースが2万平米、国内貨物を扱う部分が5000平米ある。国内最大級の航空貨物上屋といっていい。もちろん24時間稼働だ。
午前1時半を過ぎると、貨物専用機ボーイング767貨物フレイターがアジア各地から次々に到着し、貨物上屋前のエプロンに整列する。45年間耐用で設計された真新しい貨物上屋内は、荷物の積み替え作業でにわかに慌ただしさを増す。沖縄貨物ハブ発足にあたって、全日空は、国際貨物のハンドリング経験を持つスタッフ140人を全国各地から那覇に転勤させた。加えて、新たに200人を沖縄で地元採用した。
荷物には、那覇に着いてそのまま外国に運ばれる貨物と、日本国内に輸入される貨物に大きく分かれる。そのまま外国に出て行く荷は、コンテナを開いて中身を積み替えするものと、開けずにコンテナごと飛行機を乗り換えるものとがある。前者は上屋内での作業。後者は上屋内に入れず、飛行機間を移動する。日本国内に輸入される荷は、上屋内で通関や検疫の手続きをする。
積み替え作業が終われば、午前3時半から5時半くらいまでの間に、飛行機は8つの都市に向けて次々に飛び立つ。夜が明ける頃には、貨物ターミナルは再び静けさを取り戻す。
届け先の各都市に向かう飛行機は、午前9時頃までにはアジア各地に到着し、それぞれの国内輸送網に乗って配達される。こうして、日本を含むアジア各地で集荷された荷物の多くが翌日に届けられる。
この仕組みを実現するには、ハブになる都市が、他のどの都市からも4時間以内の位置にあることが条件。それより遠くなると、翌日配達が難しくなるからだ。華南経済圏や東南アジアが主舞台になるアジアの航空貨物輸送の場合、すべての関係都市から4時間圏に位置するのは、日本では沖縄しかない。
アジアの最前線に位置する沖縄のこの地理的メリットをこれまで全面的に活用してきたのは米軍だけだった。しかし、急速な経済発展に伴うアジア経済の浮上によって、それが民間の経済活動でも現実に大きなメリットになってきた。
8都市でスタートしたこの事業だが、全日空は、近い将来、ベトナムやシンガポール、インドなどにもネットワークを広げる計画。「14路線ほどにできればと考えています」と、この事業を担当している全日空貨物本部の宍戸隆部長は話す。配達できる先が増えれば、荷主にとってはさらに魅力が増す。一カ所ですべて必要な買い物ができてしまうワンストップショッピングに近づくからだ。
第48話と重複するが、沖縄を中心に4時間圏を示したグーグルの地図を掲げておく。日本のほぼ全域と華南経済圏、ベトナムくらいまで入る。そこからさらに南は、4時間では厳しくなるが、羽田あたりからと比べればはるかに近い。
後編は11月29日(日)公開予定です。お楽しみに。
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2008年04月06日
[第49話 沖縄、南] ANA那覇ハブ(下) 沖縄に何が起きるか
前回、説明したように、那覇空港が貨物ハブになれば、ANA全日空が東京や関西を含むアジア各地で集荷したすべての荷物は那覇に集まってきて、那覇空港で積み替えられ、那覇からアジア各地に出て行くことになる。
全日空がアジア各地とハブとの時間距離を「4時間」としたのは、前回説明した通りだが、それには理由がある。アジア各地から那覇行きの貨物便が出るのは、その日の集荷が終わった夜9時頃。4時間圏なら午前1時頃には那覇に着く。そこで2時間で積み替え作業をすれば、午前3時に那覇を出発でき、4時間飛んで午前7時には目的地に到着する。つまり4時間圏内ならば、前日に集荷したものが、人々が寝ている間に那覇経由で運ばれて、翌朝には目的地に着くから「差し出し日の翌日配達」が可能になる。それより遠いと、こうしたスピード輸送は難しい。
この仕組みで最も有利な立場を享受できるのが沖縄になることは言うまでもない。沖縄以外のアジア各地発着の荷は、「沖縄まで」と「沖縄から」の2区間を動かす必要があるが、沖縄だけは発も着も1区間で済むからだ。料金体系は未定だが、1区間分なら安くなる可能性は十分あるし、少なくとも運ぶのにかかる時間は、沖縄だけが半分になる。アジア各地に商品を販売する場合はもちろんのこと、原材料などの買い付けをアジア各地からする場合も、沖縄にいれば、どの地域との間でもいち早く荷をやり取りすることが可能だ。
例えば、沖縄のメーカーが現在は東京市場にしか出していなくても、このハブができたら香港市場や上海市場も、少なくとも物流の観点からは同じ位置づけのターゲットになりうる。あるいは、同じメリットを享受しようと、現在、羽田から荷を出している関東の業者が、那覇に製造拠点を移したり、新設することも十分考えられる。
こんなケースもあるかもしれない。現在は日本国内3カ所の工場で同じ品を製造し、それぞれ近くの空港からアジアの3地域に輸出しているとする。単線方式の輸送システムしかなければそれでいいかもしれないが、那覇貨物ハブが使えるようになったら、製造拠点を沖縄1カ所に統合してコストを削減すれば競争力が高まる。写真は、各種優遇制度が用意されている沖縄特別自由貿易地域(うるま市州崎)。
「ワンストップショッピング、ということですね」。全日空でこの事業を担当する貨物本部の清水良浩さんは、那覇1カ所からアジアの数多くの地域に荷を出せるメリットをそう表現する。ワンストップショッピングとは、多種類の欲しいものが1カ所で買えること。相手が広州だろうが、ソウルだろうが、大阪だろうが、沖縄1カ所でアジアのどこととも取り引きできるというわけだ。
となれば、アジア各地への航空貨物輸出を前提とする企業は、沖縄に拠点を置くことを真剣に検討する必要があるのではないか。
日本国内各地とのネットワークについては、全日空の場合、貨物専用便以外に、那覇発着の旅客便を併用できるのが強み。4月現在で東京、大阪が毎日片道9便ずつあるのをはじめとして、13の本土各都市との間に旅客の直行便を飛ばしている。写真は那覇空港でポケモンジェットに積み込まれる荷物。
航空貨物輸送向けの商品だから、重厚長大よりも、小さくて付加価値の高いものが向く。例えば、機械類ならその全体ではなく、中核部品だけといったように。それだけで勝負するとなれば、おのずとより高度な技術やずば抜けた品質が求められることになるが、逆にそういう世界なら、一点突破のベンチャーが沖縄に進出できる可能性もありそうだ。
いま、航空貨物で実際にどんな品物が運ばれているのだろうか。交通関連が専門の米国コンサルティング会社マージグローバルの資料によると、2005年にアジア発アジア行きで運ばれた380万トンの航空貨物の内訳は、コンピューター関連18%、資本財17%、中間材料16%、冷蔵食品10%、一般消費材6%、衣料品4%などとなっている。
清水さんは「うちは航空貨物輸送のインフラをご提供するわけです。そこに何を載せるかは荷主さん次第。可能性はまさに無限にあると思います」と話す。
そう、今はもっぱら全日空の動きに注目が集まっているが、那覇貨物ハブが始まってからは、むしろ荷主としてこのインフラを利用することを視野に入れた各企業の企画力や営業力こそが問われる。それは、まずは地元沖縄の企業だろうし、沖縄進出の可能性を検討する日本本土やアジアの企業でもあるだろう。
ANA那覇空港貨物ハブの開始予定は2009年度下半期。今回の記事を読まれた方の中にも、この1年半、忙しくなる人が出てくるのではないだろうか。
全日空がアジア各地とハブとの時間距離を「4時間」としたのは、前回説明した通りだが、それには理由がある。アジア各地から那覇行きの貨物便が出るのは、その日の集荷が終わった夜9時頃。4時間圏なら午前1時頃には那覇に着く。そこで2時間で積み替え作業をすれば、午前3時に那覇を出発でき、4時間飛んで午前7時には目的地に到着する。つまり4時間圏内ならば、前日に集荷したものが、人々が寝ている間に那覇経由で運ばれて、翌朝には目的地に着くから「差し出し日の翌日配達」が可能になる。それより遠いと、こうしたスピード輸送は難しい。
この仕組みで最も有利な立場を享受できるのが沖縄になることは言うまでもない。沖縄以外のアジア各地発着の荷は、「沖縄まで」と「沖縄から」の2区間を動かす必要があるが、沖縄だけは発も着も1区間で済むからだ。料金体系は未定だが、1区間分なら安くなる可能性は十分あるし、少なくとも運ぶのにかかる時間は、沖縄だけが半分になる。アジア各地に商品を販売する場合はもちろんのこと、原材料などの買い付けをアジア各地からする場合も、沖縄にいれば、どの地域との間でもいち早く荷をやり取りすることが可能だ。
例えば、沖縄のメーカーが現在は東京市場にしか出していなくても、このハブができたら香港市場や上海市場も、少なくとも物流の観点からは同じ位置づけのターゲットになりうる。あるいは、同じメリットを享受しようと、現在、羽田から荷を出している関東の業者が、那覇に製造拠点を移したり、新設することも十分考えられる。
こんなケースもあるかもしれない。現在は日本国内3カ所の工場で同じ品を製造し、それぞれ近くの空港からアジアの3地域に輸出しているとする。単線方式の輸送システムしかなければそれでいいかもしれないが、那覇貨物ハブが使えるようになったら、製造拠点を沖縄1カ所に統合してコストを削減すれば競争力が高まる。写真は、各種優遇制度が用意されている沖縄特別自由貿易地域(うるま市州崎)。
「ワンストップショッピング、ということですね」。全日空でこの事業を担当する貨物本部の清水良浩さんは、那覇1カ所からアジアの数多くの地域に荷を出せるメリットをそう表現する。ワンストップショッピングとは、多種類の欲しいものが1カ所で買えること。相手が広州だろうが、ソウルだろうが、大阪だろうが、沖縄1カ所でアジアのどこととも取り引きできるというわけだ。
となれば、アジア各地への航空貨物輸出を前提とする企業は、沖縄に拠点を置くことを真剣に検討する必要があるのではないか。
日本国内各地とのネットワークについては、全日空の場合、貨物専用便以外に、那覇発着の旅客便を併用できるのが強み。4月現在で東京、大阪が毎日片道9便ずつあるのをはじめとして、13の本土各都市との間に旅客の直行便を飛ばしている。写真は那覇空港でポケモンジェットに積み込まれる荷物。
航空貨物輸送向けの商品だから、重厚長大よりも、小さくて付加価値の高いものが向く。例えば、機械類ならその全体ではなく、中核部品だけといったように。それだけで勝負するとなれば、おのずとより高度な技術やずば抜けた品質が求められることになるが、逆にそういう世界なら、一点突破のベンチャーが沖縄に進出できる可能性もありそうだ。
いま、航空貨物で実際にどんな品物が運ばれているのだろうか。交通関連が専門の米国コンサルティング会社マージグローバルの資料によると、2005年にアジア発アジア行きで運ばれた380万トンの航空貨物の内訳は、コンピューター関連18%、資本財17%、中間材料16%、冷蔵食品10%、一般消費材6%、衣料品4%などとなっている。
清水さんは「うちは航空貨物輸送のインフラをご提供するわけです。そこに何を載せるかは荷主さん次第。可能性はまさに無限にあると思います」と話す。
そう、今はもっぱら全日空の動きに注目が集まっているが、那覇貨物ハブが始まってからは、むしろ荷主としてこのインフラを利用することを視野に入れた各企業の企画力や営業力こそが問われる。それは、まずは地元沖縄の企業だろうし、沖縄進出の可能性を検討する日本本土やアジアの企業でもあるだろう。
ANA那覇空港貨物ハブの開始予定は2009年度下半期。今回の記事を読まれた方の中にも、この1年半、忙しくなる人が出てくるのではないだろうか。