背脂
2011年10月02日
アグーはラードをとる豚だった
沖縄とアジアの食 第3回 M字のアジア地豚
ラードといえば、アグーと呼ばれる沖縄在来種の豚は、ラードをとるための豚だった。沖縄の昔の暮らしでラードがいかに大切な食品だったかは、前回、述べた通り。その大切なラードを供給してくれたのがアグーだった。
アグーは、体重80kgくらいの小さな体に、厚さ4、5cmもの背脂肪が載っている。西洋種の豚が、体重が110kgにもなるのに背脂は2cmに届かなかったりするのと全く対照的だ。
西洋種は、肉を少しでもたくさんとるために脂肪が薄くなるよう、長い時間をかけて改良されてきた。これに対してアグーはもともと脂がたっぷりあるからこそ重宝された。
戦後、アグーは西洋種と交配が進み、純系種が消えかけていたのを、さまざまな人々の努力で、ようやく純系種に近いとされる状態にまで「戻し交配」したところ。産肉を目指すとしたら、そのための改良はこれから、というのが実態だ。アグーに限ったことではないが、安定した系統の造成には、少なくとも20-30年かかる。
そもそもアグーはラードをとるための豚なので、肉は少ない。脂が多くて肉が少ないこと、にもかかわらず生育期間が、つまり餌代をはじめとする生産コストが2倍以上になること、さらに時間をかけても体はあまり大きくならないことを考え併せると、アグーの価格は、すぐ大きくなって肉が大量にとれる西洋種の豚肉の3、4倍になってしまう。いくら希少価値といっても、100gで400円もするような高い豚肉が売れるはずもない。
現実的な解決策として、経済性の高い西洋種とかけ合わせた豚を「アグー」の名前で売ることになる。出回っている「アグー」のほとんどは、アグーの血が一部入った西洋種との交配豚だ。
アグーは500-600年前に中国から入ってきたらしい。小型で毛が黒い。ラオスでもベトナムでも、アグーに似た地豚を見た。
2枚の写真はラオスで見た地の豚。2頭の豚とも雌で、いずれも乳がよく張っている。1枚目は毛が黒だが、下腹部は少し白い毛が混じっている。2枚目は、赤土の泥水を浴びたばかりなので、すっかりそんな色になっているが、毛は黒に少し白が混じっている。こちらは体が少し大きかった。体つきから見て、中国系の改良種の血が混じっているかもしれない。
2頭の豚とも、背中がくぼんで、横から見るとアルファベットの「M」のように見える。冒頭のアグーも、心なしかM字っぽい。昔のアグーの写真を見ると、もっとはっきりM字の形をしているものもある。下の写真はベトナムで見た地豚。やはり背中がくぼんでM字に見える。
アジアにはM字の豚があちこちにいるようだ。ラオスの豚もベトナムの豚も、アグーと同じく、ラードタイプの豚とみられる。途上国の田舎では、舎飼いではなく、放し飼い。そこらじゅうを歩き回ってはエサを探している。
アグーは、本来の役割、つまりラード作りに生かした方がいいように思う。アグーの脂の質は非常に優れている。融点が低く、口どけがよい。イベリコ豚と同じように、夏場は常温で脂が溶け出すほど。大げさに言えば、ラード観が変わってしまうくらいの、すっきりした脂だ。
一般の人が最もラードを身近に食べているのは、トンカツ専門店のトンカツだろう。トンカツ専門店のトンカツが香ばしく、サクサクした食感で、うまみが感じられる最大の理由は、揚げ油にラードを使うから。
でも、アグーの高級ラードを、揚げ油として大量に使うのはあまりにもったいない。そのまま食べる料理に使いたい。
例えば、サラミソーセージの白い脂は豚のラードだが、そこにアグーのラードを使ったら、さぞおいしいサラミができるだろう。あるいは、シンプルなキャベツいため。フライパンにアグーのラードをひとさじ入れて加熱し、キャベツをよくいためて塩をふるだけ。加熱されたラードとそれで焼かれたキャベツの香り高さ。あきれるほどうまいはずだ。火を止める前にジャッと醤油をたらせば、ごはんに最高のおかずになる。
万鐘島ぶたのラードも、融点の低さとすっきりした感じはアグーに負けていない。商品化してはいないが、万鐘島ぶたのラードついてはこちらの過去記事をどうぞ。
ラードといえば、アグーと呼ばれる沖縄在来種の豚は、ラードをとるための豚だった。沖縄の昔の暮らしでラードがいかに大切な食品だったかは、前回、述べた通り。その大切なラードを供給してくれたのがアグーだった。
アグーは、体重80kgくらいの小さな体に、厚さ4、5cmもの背脂肪が載っている。西洋種の豚が、体重が110kgにもなるのに背脂は2cmに届かなかったりするのと全く対照的だ。
西洋種は、肉を少しでもたくさんとるために脂肪が薄くなるよう、長い時間をかけて改良されてきた。これに対してアグーはもともと脂がたっぷりあるからこそ重宝された。
戦後、アグーは西洋種と交配が進み、純系種が消えかけていたのを、さまざまな人々の努力で、ようやく純系種に近いとされる状態にまで「戻し交配」したところ。産肉を目指すとしたら、そのための改良はこれから、というのが実態だ。アグーに限ったことではないが、安定した系統の造成には、少なくとも20-30年かかる。
そもそもアグーはラードをとるための豚なので、肉は少ない。脂が多くて肉が少ないこと、にもかかわらず生育期間が、つまり餌代をはじめとする生産コストが2倍以上になること、さらに時間をかけても体はあまり大きくならないことを考え併せると、アグーの価格は、すぐ大きくなって肉が大量にとれる西洋種の豚肉の3、4倍になってしまう。いくら希少価値といっても、100gで400円もするような高い豚肉が売れるはずもない。
現実的な解決策として、経済性の高い西洋種とかけ合わせた豚を「アグー」の名前で売ることになる。出回っている「アグー」のほとんどは、アグーの血が一部入った西洋種との交配豚だ。
アグーは500-600年前に中国から入ってきたらしい。小型で毛が黒い。ラオスでもベトナムでも、アグーに似た地豚を見た。
2枚の写真はラオスで見た地の豚。2頭の豚とも雌で、いずれも乳がよく張っている。1枚目は毛が黒だが、下腹部は少し白い毛が混じっている。2枚目は、赤土の泥水を浴びたばかりなので、すっかりそんな色になっているが、毛は黒に少し白が混じっている。こちらは体が少し大きかった。体つきから見て、中国系の改良種の血が混じっているかもしれない。
2頭の豚とも、背中がくぼんで、横から見るとアルファベットの「M」のように見える。冒頭のアグーも、心なしかM字っぽい。昔のアグーの写真を見ると、もっとはっきりM字の形をしているものもある。下の写真はベトナムで見た地豚。やはり背中がくぼんでM字に見える。
アジアにはM字の豚があちこちにいるようだ。ラオスの豚もベトナムの豚も、アグーと同じく、ラードタイプの豚とみられる。途上国の田舎では、舎飼いではなく、放し飼い。そこらじゅうを歩き回ってはエサを探している。
アグーは、本来の役割、つまりラード作りに生かした方がいいように思う。アグーの脂の質は非常に優れている。融点が低く、口どけがよい。イベリコ豚と同じように、夏場は常温で脂が溶け出すほど。大げさに言えば、ラード観が変わってしまうくらいの、すっきりした脂だ。
一般の人が最もラードを身近に食べているのは、トンカツ専門店のトンカツだろう。トンカツ専門店のトンカツが香ばしく、サクサクした食感で、うまみが感じられる最大の理由は、揚げ油にラードを使うから。
でも、アグーの高級ラードを、揚げ油として大量に使うのはあまりにもったいない。そのまま食べる料理に使いたい。
例えば、サラミソーセージの白い脂は豚のラードだが、そこにアグーのラードを使ったら、さぞおいしいサラミができるだろう。あるいは、シンプルなキャベツいため。フライパンにアグーのラードをひとさじ入れて加熱し、キャベツをよくいためて塩をふるだけ。加熱されたラードとそれで焼かれたキャベツの香り高さ。あきれるほどうまいはずだ。火を止める前にジャッと醤油をたらせば、ごはんに最高のおかずになる。
万鐘島ぶたのラードも、融点の低さとすっきりした感じはアグーに負けていない。商品化してはいないが、万鐘島ぶたのラードついてはこちらの過去記事をどうぞ。