金物
2007年07月30日
[第2話 沖縄] ぶれない安売り、丸中商会
沖縄本島中部の人で知らない人はモグリ、といわれる金物屋がある。うるま市の丸中商会。たんなる金物屋ながら、何から何まで取りそろえ、徹底的に安く売る。それ以外の顧客サービスはほとんど何もないが、品ぞろえと安さで顧客を引きつけて離さない。
この店、まずは中に入るのに苦労する。県道に面していて交通量もかなりある中で、同店に入ろうとする車がいつも数台は路上に止まっているからだ。構内の駐車場がまたごちゃごちゃしている。運が悪いと、一番遠い駐車場に行くはめに。そこに止めたら、車を降りてから、猛暑の中で、だらだら坂を登って店まで戻らねばならない。
店内はほとんど迷路。商品配置が分からない。一応の分類はされているが、独自の分類を頭に入れるまでが大変だ。
よくある日曜大工の郊外店なら、ある程度の売場面積を確保して、縦横に分かりやすくレイアウトするのだが、丸中商会は、小さな店から徐々に広げていったのか、売場は不定形だ。その店内の狭い通路を、作業服のおじさん、日曜大工のお父さん、家庭用品目当てのお母さんと、ラベラー片手の納入業者が、体を斜めにしながら行き交う。
レジの行列も、どこに並んだらいいのかよく分からないが、沖縄流の「てーげー」(大概)で、みな適当に自己主張したり、譲り合ったりしている。レシートには品名が印刷されないので、手書きの領収書を頼むと、手慣れたレジの女性は、目にも止まらぬ早さで電卓を叩いて、検算してくれる。システムではなく、個人芸の世界だ。
店員は担当商品のことを実によく知っているが、その多くはぶっきらぼうな感じだ。例えば、これこれのボルトが欲しいんだが、と言うと、黙って該当の商品を棚から出してくる。
「もう少し短いのはないですか…」
「これが一番短いね」
以上終わり。無愛想だが、言っている内容は確かで、回答がぶれることはないから信頼できる。彼らが「ない」と言うなら店のどこを探してもない。
安いだけではない。ネジでも溶接棒でも1本から買える。店員に言えば、その数だけ袋に入れて値段をつけてくれる。1つ買いすれば単価は当然高くなるが、不要なものを買って無駄にするよりは安くすむ。
沖縄県民の平均所得は全国平均の75%。商売をするうえで、本土以上に「安さ」は重要だ。たとえ駐車場が不便でも、商品の配置が分かりにくくても、店員が多少無愛想でも、安くて品ぞろえが豊富なら、それが最大のサービスになる。丸中商会の経営方針にぶれはない。
丸中商会は、実は、毎年発表される沖縄県の企業売上高ランキングの常連で、200位前後にしばしば顔を出す。既に「たんなる金物屋」ではないのである。
かくして、丸中商会には、きょうも開店から閉店まで人が押し寄せ、混沌の世界を作り出す。だが、その混沌の中に、自然な人のふれあいがある。店員と客、客と客。実際、ごぶさた気味の知り合いに一番よく会う場所は丸中商会だ。
「万鐘」名の領収書をもらおうとして、顔なじみのレジ女性に「鐘」の字を説明した時のこと。「読み方はバンショウだよ、バンショウ。覚えてね」と言ったら、後ろに並んでやりとりを聞いていた小柄なおばあがニコニコしながら言った。
「バンソウコウね?」
この店、まずは中に入るのに苦労する。県道に面していて交通量もかなりある中で、同店に入ろうとする車がいつも数台は路上に止まっているからだ。構内の駐車場がまたごちゃごちゃしている。運が悪いと、一番遠い駐車場に行くはめに。そこに止めたら、車を降りてから、猛暑の中で、だらだら坂を登って店まで戻らねばならない。
店内はほとんど迷路。商品配置が分からない。一応の分類はされているが、独自の分類を頭に入れるまでが大変だ。
よくある日曜大工の郊外店なら、ある程度の売場面積を確保して、縦横に分かりやすくレイアウトするのだが、丸中商会は、小さな店から徐々に広げていったのか、売場は不定形だ。その店内の狭い通路を、作業服のおじさん、日曜大工のお父さん、家庭用品目当てのお母さんと、ラベラー片手の納入業者が、体を斜めにしながら行き交う。
レジの行列も、どこに並んだらいいのかよく分からないが、沖縄流の「てーげー」(大概)で、みな適当に自己主張したり、譲り合ったりしている。レシートには品名が印刷されないので、手書きの領収書を頼むと、手慣れたレジの女性は、目にも止まらぬ早さで電卓を叩いて、検算してくれる。システムではなく、個人芸の世界だ。
店員は担当商品のことを実によく知っているが、その多くはぶっきらぼうな感じだ。例えば、これこれのボルトが欲しいんだが、と言うと、黙って該当の商品を棚から出してくる。
「もう少し短いのはないですか…」
「これが一番短いね」
以上終わり。無愛想だが、言っている内容は確かで、回答がぶれることはないから信頼できる。彼らが「ない」と言うなら店のどこを探してもない。
安いだけではない。ネジでも溶接棒でも1本から買える。店員に言えば、その数だけ袋に入れて値段をつけてくれる。1つ買いすれば単価は当然高くなるが、不要なものを買って無駄にするよりは安くすむ。
沖縄県民の平均所得は全国平均の75%。商売をするうえで、本土以上に「安さ」は重要だ。たとえ駐車場が不便でも、商品の配置が分かりにくくても、店員が多少無愛想でも、安くて品ぞろえが豊富なら、それが最大のサービスになる。丸中商会の経営方針にぶれはない。
丸中商会は、実は、毎年発表される沖縄県の企業売上高ランキングの常連で、200位前後にしばしば顔を出す。既に「たんなる金物屋」ではないのである。
かくして、丸中商会には、きょうも開店から閉店まで人が押し寄せ、混沌の世界を作り出す。だが、その混沌の中に、自然な人のふれあいがある。店員と客、客と客。実際、ごぶさた気味の知り合いに一番よく会う場所は丸中商会だ。
「万鐘」名の領収書をもらおうとして、顔なじみのレジ女性に「鐘」の字を説明した時のこと。「読み方はバンショウだよ、バンショウ。覚えてね」と言ったら、後ろに並んでやりとりを聞いていた小柄なおばあがニコニコしながら言った。
「バンソウコウね?」