麹
2011年01月02日
泡盛伝統世界の間口を広げる
沖縄を創る人 第1回
崎山酒造廠専務 崎山淳子さん(上)
名酒「松藤(まつふじ)」を醸す明治38年創業の老舗、金武町の崎山酒造廠。琉球泡盛の伝統世界に新しいうねりを創り出すのが専務取締役の崎山淳子さんだ。東京農大醸造学科卒の理論家である夫の崎山和章社長と二人三脚で新商品の開発に取り組む。
香り高い黒糖にこだわった梅酒、粗濾過でうま味たっぷりの泡盛、黒糖酵母による華やかな香りの泡盛、玄米やはと麦で作る薬膳味噌ー。崎山酒造廠がこの5、6年の間に世に出してきた新製品群をながめてみると、伝統の世界にしっかりと基礎を置きながらも、その間口を大きく広げていく豊かな発想が感じられる。
梅酒のきっかけは、リキュールを作ってほしいというお客さんの声だった。泡盛は、ストレートや水割りだけでなく、最近、さまざまなカクテルが考案され、甘さや高い香りの多様な材料との相性のよさが広く認められるようになっている。
「体にいいものを作りたい」。淳子さんの発想の根底に流れる最大のコンセプトのひとつがこれだ。
うま味成分の豊富な泡盛に、作りたての黒糖を入れ、南高梅を漬ける。いろいろ試したが、44度の泡盛で漬けたものが一番おいしく仕上がった。
「黒糖は、釜で炊きたてのものをメーカーに持ってきていただくんです。(時間が経ったものとは)風味が全然違います」。力を込めて、淳子さんが話す。平成19年、こうして沖縄黒糖梅酒は誕生した。
炊きたての黒糖、となれば、どうしてもコストが心配になるが、かけるべき手間、経費はかける。その分は売価にはね返るが、作り手としての揺るぎない自信と確信がお客さんへの説明を熱いものにし、マーケットを切り開く。
品質の追求という意味では、平成17年に誕生したうま味成分の多い泡盛「粗濾過松藤」について語らないわけにはいかない。これは沖縄黒糖梅酒のベースにもなっている泡盛だ。
粗濾過は「あらろか」と読む。もろみを蒸留した後に行う濾過工程で、「粗く」濾過することにより、うま味成分をたっぷり残す製造法を指す。
そもそも泡盛の濾過は、ザルのようなもので物理的に濾すわけではない。低温に置くことによって、アルコールに溶け込んでいる高級脂肪酸などを析出させ、それを除去する技術を用いる。
この高級脂肪酸が泡盛の味を複雑なものにするため、ある程度の除去は必要になるのだが、実はこれらが同時にうま味成分を含んでいる。濾過が過ぎると、あっさりした軽い泡盛にはなるが、うま味も薄れていく。
「粗濾過松藤を冷蔵庫に入れておくと、そのうま味成分がたくさん出てくるんですよ」
松藤に限らないが、泡盛のもろみは、米麹以外には、イモや麦はおろか、米すら加えない。黒麹菌を繁殖させた米麹と水のみで仕込む。この「全麹仕込み」こそが泡盛の大きな特徴、と淳子さんは考えている。その結果、うま味成分がたっぷり含まれる。
古酒の深い味、高い香りを生み出すのも、このうま味成分の経年変化にほかならない。副原料ゼロで麹のみで仕込む、というのは、考えてみれば、ものすごくぜいたくな仕込みといえるだろう。
まだある。粗濾過松藤がたっぷりとうま味成分を含んでいるのは、たんに濾過しすぎないからだけではない。実は、麹そのものにも大きな違いがあるのだ。
続きは次回1/9(日)に。
崎山酒造廠専務 崎山淳子さん(上)
名酒「松藤(まつふじ)」を醸す明治38年創業の老舗、金武町の崎山酒造廠。琉球泡盛の伝統世界に新しいうねりを創り出すのが専務取締役の崎山淳子さんだ。東京農大醸造学科卒の理論家である夫の崎山和章社長と二人三脚で新商品の開発に取り組む。
香り高い黒糖にこだわった梅酒、粗濾過でうま味たっぷりの泡盛、黒糖酵母による華やかな香りの泡盛、玄米やはと麦で作る薬膳味噌ー。崎山酒造廠がこの5、6年の間に世に出してきた新製品群をながめてみると、伝統の世界にしっかりと基礎を置きながらも、その間口を大きく広げていく豊かな発想が感じられる。
梅酒のきっかけは、リキュールを作ってほしいというお客さんの声だった。泡盛は、ストレートや水割りだけでなく、最近、さまざまなカクテルが考案され、甘さや高い香りの多様な材料との相性のよさが広く認められるようになっている。
「体にいいものを作りたい」。淳子さんの発想の根底に流れる最大のコンセプトのひとつがこれだ。
うま味成分の豊富な泡盛に、作りたての黒糖を入れ、南高梅を漬ける。いろいろ試したが、44度の泡盛で漬けたものが一番おいしく仕上がった。
「黒糖は、釜で炊きたてのものをメーカーに持ってきていただくんです。(時間が経ったものとは)風味が全然違います」。力を込めて、淳子さんが話す。平成19年、こうして沖縄黒糖梅酒は誕生した。
炊きたての黒糖、となれば、どうしてもコストが心配になるが、かけるべき手間、経費はかける。その分は売価にはね返るが、作り手としての揺るぎない自信と確信がお客さんへの説明を熱いものにし、マーケットを切り開く。
品質の追求という意味では、平成17年に誕生したうま味成分の多い泡盛「粗濾過松藤」について語らないわけにはいかない。これは沖縄黒糖梅酒のベースにもなっている泡盛だ。
粗濾過は「あらろか」と読む。もろみを蒸留した後に行う濾過工程で、「粗く」濾過することにより、うま味成分をたっぷり残す製造法を指す。
そもそも泡盛の濾過は、ザルのようなもので物理的に濾すわけではない。低温に置くことによって、アルコールに溶け込んでいる高級脂肪酸などを析出させ、それを除去する技術を用いる。
この高級脂肪酸が泡盛の味を複雑なものにするため、ある程度の除去は必要になるのだが、実はこれらが同時にうま味成分を含んでいる。濾過が過ぎると、あっさりした軽い泡盛にはなるが、うま味も薄れていく。
「粗濾過松藤を冷蔵庫に入れておくと、そのうま味成分がたくさん出てくるんですよ」
松藤に限らないが、泡盛のもろみは、米麹以外には、イモや麦はおろか、米すら加えない。黒麹菌を繁殖させた米麹と水のみで仕込む。この「全麹仕込み」こそが泡盛の大きな特徴、と淳子さんは考えている。その結果、うま味成分がたっぷり含まれる。
古酒の深い味、高い香りを生み出すのも、このうま味成分の経年変化にほかならない。副原料ゼロで麹のみで仕込む、というのは、考えてみれば、ものすごくぜいたくな仕込みといえるだろう。
まだある。粗濾過松藤がたっぷりとうま味成分を含んでいるのは、たんに濾過しすぎないからだけではない。実は、麹そのものにも大きな違いがあるのだ。
続きは次回1/9(日)に。
2009年07月12日
[第125話 食] そらまめ麹で作る味くーたー味噌
沖縄の伝統的な味噌は、米麹または麦麹を大豆と混ぜて仕込んだ米味噌、麦味噌が多いが、今回は、そらまめ麹で作るそらまめ味噌を紹介しよう。読谷村農漁村生活研究会が作って販売している。1kg750円。
日本全国の味噌は、麹に何を使うかで米味噌、麦味噌、豆味噌の3つに大別される。米味噌、麦味噌は、蒸した米や麦に麹かびを生えさせて麹を作り、これと主原料の大豆、塩を混ぜて仕込む。
これに対して、豆味噌の場合は、大豆自体に麹かびを生えさせる。八丁味噌に代表される東海地方の豆味噌は、豆麹と塩水だけで仕込む。いわば「全麹仕込み」であるところが、米味噌や麦味噌と大きく違う。
製造技術としては、米や麦の麹で作る味噌より、豆だけで作る豆味噌の方が歴史が古いとされる。豆の形がはっきり残っている大徳寺納豆や中国の豆鼓(ドウチ)が豆味噌の源流。
そらまめ味噌に話を戻せば、そらまめ麹の味噌は、かつては沖縄各地で作られていたらしい。味噌を家庭で作ること自体がほとんどなくなった今、そらまめ麹味噌を作っているのは、おそらく読谷だけだろう。
読谷のそらまめ味噌は、麹をそらまめで作り、大豆と塩で仕込む。つまり、麹がタンパク質の多いそらまめで作られる豆麹であるところは豆味噌と同じだが、全麹仕込みではなく、蒸した大豆と塩にそらまめ麹を混ぜて仕込むので、製法としては、米味噌や麦味噌に近い。
読谷村農漁村生活研究会の与儀常子副会長の話では、仕込みは、そらまめ麹8に麦2、大豆20の比率。そらまめは蒸して種麹菌をまき、麹室に入れる。温かい季節で30時間、寒い時だと40時間ほどでそらまめ麹が出来上がる。真夏はうまくいかないのでやらない、という。写真は麹室。
仕込んだ味噌の熟成期間は7カ月から8カ月。もちろんさらに熟成させることもできる。
できた味噌は、濃い赤みそ色。八丁味噌のように、渋みがあって甘さの少ない味わいだ。うまみはたっぷり。「味くーたー(味がある、味が濃い)よ」と与儀さん。
塩分より豆のうまみが前面に出ているので、ごはんやキュウリにそのまま乗せて食べるもよし、そのままつまみながら、泡盛をチビリチビリやるもよし。もちろん料理の味付けには最高だ。
沖縄で伝統的に使われてきた調味料の中では、味噌が最もよく使われていたらしい。農山漁村文化協会が出した都道府県別の伝統食シリーズ「沖縄の食事」には、沖縄各地の伝統食の聞き取りデータがたくさん載っているが、「調味料で一番よく使うのは味噌」という記述があちこちに出てくる。
例えば、今でも、煮物であるンブシーにはみそ味のものが多い。ナーベラーンブシーは当本店の第123話で紹介したばかり。刺身のみそあえもよく食べられる。
ところで、なぜ、そらまめで麹を作ったのか。与儀さんは「昔からそらまめで味噌を作ってきたので、理由はよく分かりません。読谷では、そらまめ以外にも、大豆やえんどうなど、たくさんの種類の豆が作れます。土地が豆づくりに向いているんじゃないでしょうか」と話す。
名もなき先人のだれかが、土地で豊富に穫れるそらまめでたまたま麹を作ってみたらうまくいった、ということかもしれない。
そらまめで作る味噌と言えば、中国の激辛味噌、豆板醤(トウバンジャン)がそう。こちらは大豆は使わず、文字通り、そらまめと塩と唐辛子だけで辛い味噌を作る。中国は広いから、ほかにも、そらまめを利用した味噌があるかもしれない。
読谷のそらまめ味噌は、毎週金曜午後3時から6時に開かれている読谷ゆいゆう市で販売されている。読谷村農漁村生活研究会は、読谷村都屋 167-2、098-956-9074。
日本全国の味噌は、麹に何を使うかで米味噌、麦味噌、豆味噌の3つに大別される。米味噌、麦味噌は、蒸した米や麦に麹かびを生えさせて麹を作り、これと主原料の大豆、塩を混ぜて仕込む。
これに対して、豆味噌の場合は、大豆自体に麹かびを生えさせる。八丁味噌に代表される東海地方の豆味噌は、豆麹と塩水だけで仕込む。いわば「全麹仕込み」であるところが、米味噌や麦味噌と大きく違う。
製造技術としては、米や麦の麹で作る味噌より、豆だけで作る豆味噌の方が歴史が古いとされる。豆の形がはっきり残っている大徳寺納豆や中国の豆鼓(ドウチ)が豆味噌の源流。
そらまめ味噌に話を戻せば、そらまめ麹の味噌は、かつては沖縄各地で作られていたらしい。味噌を家庭で作ること自体がほとんどなくなった今、そらまめ麹味噌を作っているのは、おそらく読谷だけだろう。
読谷のそらまめ味噌は、麹をそらまめで作り、大豆と塩で仕込む。つまり、麹がタンパク質の多いそらまめで作られる豆麹であるところは豆味噌と同じだが、全麹仕込みではなく、蒸した大豆と塩にそらまめ麹を混ぜて仕込むので、製法としては、米味噌や麦味噌に近い。
読谷村農漁村生活研究会の与儀常子副会長の話では、仕込みは、そらまめ麹8に麦2、大豆20の比率。そらまめは蒸して種麹菌をまき、麹室に入れる。温かい季節で30時間、寒い時だと40時間ほどでそらまめ麹が出来上がる。真夏はうまくいかないのでやらない、という。写真は麹室。
仕込んだ味噌の熟成期間は7カ月から8カ月。もちろんさらに熟成させることもできる。
できた味噌は、濃い赤みそ色。八丁味噌のように、渋みがあって甘さの少ない味わいだ。うまみはたっぷり。「味くーたー(味がある、味が濃い)よ」と与儀さん。
塩分より豆のうまみが前面に出ているので、ごはんやキュウリにそのまま乗せて食べるもよし、そのままつまみながら、泡盛をチビリチビリやるもよし。もちろん料理の味付けには最高だ。
沖縄で伝統的に使われてきた調味料の中では、味噌が最もよく使われていたらしい。農山漁村文化協会が出した都道府県別の伝統食シリーズ「沖縄の食事」には、沖縄各地の伝統食の聞き取りデータがたくさん載っているが、「調味料で一番よく使うのは味噌」という記述があちこちに出てくる。
例えば、今でも、煮物であるンブシーにはみそ味のものが多い。ナーベラーンブシーは当本店の第123話で紹介したばかり。刺身のみそあえもよく食べられる。
ところで、なぜ、そらまめで麹を作ったのか。与儀さんは「昔からそらまめで味噌を作ってきたので、理由はよく分かりません。読谷では、そらまめ以外にも、大豆やえんどうなど、たくさんの種類の豆が作れます。土地が豆づくりに向いているんじゃないでしょうか」と話す。
名もなき先人のだれかが、土地で豊富に穫れるそらまめでたまたま麹を作ってみたらうまくいった、ということかもしれない。
そらまめで作る味噌と言えば、中国の激辛味噌、豆板醤(トウバンジャン)がそう。こちらは大豆は使わず、文字通り、そらまめと塩と唐辛子だけで辛い味噌を作る。中国は広いから、ほかにも、そらまめを利用した味噌があるかもしれない。
読谷のそらまめ味噌は、毎週金曜午後3時から6時に開かれている読谷ゆいゆう市で販売されている。読谷村農漁村生活研究会は、読谷村都屋 167-2、098-956-9074。